暖をとる。

山の端さっど

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-54℃ 伝わらない本音

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「ねえ、クライ。わたし、表情読むのは得意じゃないけどさ。わたしの事が好きなんて、嘘でしょ」
「っ……本当、ですよ」

 腕を掴まれて、前のめりに体重で押さえつけられて。鼻先がぶつかりそうな距離でわたしはわるーい笑みを浮かべる。

「信じられないなあ。元々好きだったヒト、全然違う顔じゃん」
「なんでそれ知って……」
「彼に聞いたよ」

 嘘。ハッタリかました。でも多分わたしと全然違うヒトだっただろうとは確信してた。だから嘘ってバレてないでしょ。

「ここでわたしを懐柔したら、何か良いことあるんだ?」
「ちが……」
「それとも単に欲求不満? わたし、簡単に許すような安くて軽い女に見えたかなあ」
「そんな、そんな事思ってないっす」

 時間を稼がなきゃ。わたしの凡脳が何か、クライの変な言動の意味を思いつくまで。ああもう、さっき、何か思いつきかけてたのに! 次キスなんてしてきたら舌でも噛んでやろうかな。一丁前にケアしてるっぽい唇まで。
 ……ケア。そういえば夜の街に居たっけ。わたしにたまたま会わなかったら好みの女の子をナンパでもしようとしてたんじゃない?

「誰のためにこんなことしてるの?」

 動揺が表に出すぎ。なるほど、女の子の為か。告白されるの、少しはときめいたんだけどな。
 でも、これ以上は何も思いつかない。

「じゃあ、ごめんね。マウントポジションから逃れる護身術って女子のたしなみだからさ」

 わたしは脚を叩きつけながら全身をひねり、ソファーからクライを転がし落とした。そのまま、みぞおちを踏んで逃げる隙を作る。
 荷物をパッと取ってドアに手をかけたところで、うめくような声がした。

「なんで、そんなに、破滅的、なんだよ……」

 その言葉が後味悪く残って、わたしには上手い捨て台詞が思いつかなかった。





 破滅的。
 破滅的。
 破滅的。
 わたしは破滅的? 殺人者だから? 死体損壊して遺棄したから?

『なんでよりによって、あいつなんっすか』

 ……最初からずっと、クライは彼の話をしていた気がする。じゃあ、彼と過ごしてるから、破滅的。
 好きでもないのになんでわたしを、そんなことで気にするんだろう。

 まだ何か考えなくちゃいけないことが残っているのに、わたしにはたどり着けない。とりあえずビジホに戻って身を清めたい。わたしはコートの下で身震いをした。
 この街もとても寒い。
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