暖をとる。

山の端さっど

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-51℃ 遅ればせの閃光

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「こんなところで会うなんて意外だね、青年」
「っ! バランさん」

 泣きぼくろの男子を見かけたのは出張先での仕事上がり、ふらふら街を歩いていた時だった。

「……この辺りに住んでるなんて知りませんでしたよ」

 あ、勘違いしてる。面白いから正さないことにしよう。

「わたしも知らなかったな、青年の生息地。あ、せっかくだから遊ばない? 良いとこ連れてってあげ」
「い、いえ」

 ……様子がおかしい。

「そ、そういえば、あの人元気にしてるっすか?」
「あの人って?」
「……分かってるくせに」
「ねえ坊や、わたし疲れてるの。立ち話じゃできないような事も言おうとしてるし、帰ろっかな~」
「あ、ま、待って下さい」
「じゃあどこか連れてってみせて。金まで出せとは言わないからさ」

 わたしがこの街を一ミリも知らない、なんてクライは思いもしないだろう。笑い出さないように堪える。ごめんね、これが大人。



 10分もしないうちにわたしはカラオケの中に居た。

「まあ学生らしい場所ね」
「……いやあの、これは」
「出すって言ったんだから、普段入れない所に来ればよかったのに」
「未成年なんで」
「あはは、何それ」

 若者だなあ。ソフドリをストローで吸うチープさ嫌いじゃない。
 で、なんで、覚悟決めたヒトみたいな顔をするんだろう。

「……バランさんは会ってるんですよね。スターラーに」
「会ってるよ」
「……怖くないんっすか」
「怖くない」
「何で」
「何でって、なに?」
「なんでよりによって、あいつなんっすか」

 痛くもないのに目の前で星が散る。

(え)

 対面じゃなく隣の席に座ったのは軽率だったみたいだ。
 不意打ちでソファーに押し倒されたわたしは、キスまで唇に食らっていた。

「俺じゃダメですか」
「だ、ダメって何が」
「何がって、分かるでしょ」

 遮ろうとした手を取られる。

「好きです。今自覚しました」

 手首をソファーに縫い留められて、血みたいに口紅のついた口が迫ってくる。

「やめて」

 拘束は弱い。わたしは歯を噛み合わせ、肘を支えに上半身を思いっきり起こした。
 数少ない攻撃手段、頭突き。





「いや危ないっすよ」

 が空振った。

「嘘でしょ」
「俺、表情読むの得意なんで」

 じゃあ、わたしの拒絶も読んでよ。

「嫌です」

 ああ、さっき。
 ソファーの柔らかい角で頭を打ったとき、何かを閃いたような気がしたのに。

「君のこと別に殺したくないから、やめてよ」
「ここから僕を殺せるんですか?」
「もちろん」

 わたしは思いきって、悪人みたいな顔をした。
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