暖をとる。

山の端さっど

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-47℃ 眩しい羽虫

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 ついていない時というのはとことんついていないものみたいだ。

「私、ナンパをするような方とはお近づきにならないよう親から言われているので」
「ナンパじゃないよ。少しだけ話を聞かせてほしいんだ。さっき聞こえちゃったんだけど、その男の人……僕が会いたい人なんだ」
「紹介する人は選びたいので……」
「お願いします。その人がどうしているか、話だけでも」

 ……うう、真剣そうに言われると気が引ける。それに、目が見えないからと男の人に舐められることが多いから、初対面でとても丁寧に話してくれるというだけで心がぐらついてしまう。
 でもこの人、なんとなく爽やかな声して粘着質な人のような気がするのは私の声偏見だろうか。

「だ、大丈夫かなー? ちょいとそこのお兄さん、あんまり美少女にしつこく迫るもんじゃあないですよ。ポリスの点Pが動きますよー?」

 一緒にいた友達が肩に手を置いてくれる。ふふ、友達。嬉しいし心強いな。

「あの方、とても傷ついてらっしゃるんです。無責任に人と会わせたりできません」
「っ……そう、だよな……」

 あっ、ちょっと、その言い方はずるい。同情してしまいそうになる。
 でも、彼は私のはとこ。変な人に会わせるわけにはいかない。

「……何か、体壊してないか、とかだけでもいいよ。もし教えてくれる気になったら、お願いします」

 何か書く音がして、メモを手渡される。指が少し触れて、不快感がどっとこみ上げてきた。



 電話番号?
 私が字を読めないと知っていて?
 隣に目が見える友達がいるから読んでもらえるとでも思って?



「ふざけないで」

 怒りが口をついて出たとき、紙の表面に小さな膨らみを感じた。

 0…8…0…電話番号だ。点字の。

「……強引にごめん」

 驚きから立ち直る前に、男の人の声と足音が遠ざかっていった。



「……どうしよう」
「ゴミ箱いる? コンビニ寄る?」
「ううん、大丈夫……」

 多分、罪悪感のせいだ。私はペン先ででも作られたらしい不安定な凹凸を潰さないよう、そっとバッグに紙切れを入れた。
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