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-42℃ 温度と状態変化
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彼はわたしやクライのように、時々誰かを気にかける。
「冷たい」とか「温い」と言いながら。
一度、テレビを観ながら聞いてみた事がある。
「このタレントさん、温かいですか、冷たいですか?」
「冷たい。ここに映っているのは誰も、温かくない」
「気になる人はいますか?」
「いいや」
画面の中で薄っぺらい爆笑が起きる。
同じ「冷たい」でも、わたしとは違うのか。それとも、わたしの事も気にならないのかな。
「……あれは温い」
画面が切り替わって出てきた芸能人を彼は指差した。
「ぬるい……」
「気にいらない」
気に入らないって、「気になる」って事だ。
「温かいか冷たいか、どちらかが良いんですね」
「いや……私が醒めるだけだ」
彼は「あしたの昼か夜か」とだけ言って、チャンネルを変えた。
翌日の夜、その芸能人は行方不明になった。
「夜、でしたね……?」
「そうだったか」
関心なさそうに彼はダークラムと温めた砂糖水をマドラーでステアする。バターミルクを落として、ホットカクテルの出来上がり。そこにアイスを添えてくれる。
温かいものと、冷たいもの。相容れないくせに寄り添える。合わさるとすぐに崩れて混ざり合う。
いっそ、彼と同じ温度なら良かった。
「いただきます」
冷え性のわたしよりも冷たい彼の手を、わたしでは温められない。こんな抽象的で曖昧なことが、分かってしまうのがどうにも嫌だ。
いっそ、彼のお腹を割くことができたら諦められるだろうか。
……ううん、無理だと分かってる。
「溶けて冷める」
「あ……」
わたしの事など何でも知っている目で彼は静かに諭す。機嫌も不機嫌もそこにはない。そういえば、いつもはこんな人だった。
彼がわずかに感情を見せる相手が、わたしは羨ましい。そう結論がついてしまった。
「アイスが溶けたら何になるんでしょう」
言葉の意味を分かってくれると知っていて、わたしはずるい言い方をする。
「それを知る必要はないよ」
わたしは頷いて、液体になる前のアイスを掬った。冷たい。悲しくは、ない。
「冷たい」とか「温い」と言いながら。
一度、テレビを観ながら聞いてみた事がある。
「このタレントさん、温かいですか、冷たいですか?」
「冷たい。ここに映っているのは誰も、温かくない」
「気になる人はいますか?」
「いいや」
画面の中で薄っぺらい爆笑が起きる。
同じ「冷たい」でも、わたしとは違うのか。それとも、わたしの事も気にならないのかな。
「……あれは温い」
画面が切り替わって出てきた芸能人を彼は指差した。
「ぬるい……」
「気にいらない」
気に入らないって、「気になる」って事だ。
「温かいか冷たいか、どちらかが良いんですね」
「いや……私が醒めるだけだ」
彼は「あしたの昼か夜か」とだけ言って、チャンネルを変えた。
翌日の夜、その芸能人は行方不明になった。
「夜、でしたね……?」
「そうだったか」
関心なさそうに彼はダークラムと温めた砂糖水をマドラーでステアする。バターミルクを落として、ホットカクテルの出来上がり。そこにアイスを添えてくれる。
温かいものと、冷たいもの。相容れないくせに寄り添える。合わさるとすぐに崩れて混ざり合う。
いっそ、彼と同じ温度なら良かった。
「いただきます」
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いっそ、彼のお腹を割くことができたら諦められるだろうか。
……ううん、無理だと分かってる。
「溶けて冷める」
「あ……」
わたしの事など何でも知っている目で彼は静かに諭す。機嫌も不機嫌もそこにはない。そういえば、いつもはこんな人だった。
彼がわずかに感情を見せる相手が、わたしは羨ましい。そう結論がついてしまった。
「アイスが溶けたら何になるんでしょう」
言葉の意味を分かってくれると知っていて、わたしはずるい言い方をする。
「それを知る必要はないよ」
わたしは頷いて、液体になる前のアイスを掬った。冷たい。悲しくは、ない。
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