暖をとる。

山の端さっど

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-36℃ 氷上の歌姫

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 氷に包まれた人がしずかに息絶えていくのを見ていた。
 ちがう。あれは鹿かなにかだったか。
 そもそもほんとうに在ったのか。
 氷の中に沈むおとぎ話だったかもしれない。
 悲しいなぁ。思うのはそれだけだ。



「これ、鳥の骨ですよね。わたしにも分かります」
「そうか」
「どうしたんです? これ」
「作った」
「えっ、すごい」
「肉と筋を剥いで溶かすだけだ」

 すぐ手に入る薬品では、この程度の骨でもだいぶ時間がかかる。やはり■■■■■■■■を使うのだろう。分かるよ。私でもそうする。

「あの足の骨、こうやって作られたのかな」
「そうだろう」
「じゃあ、追いかけるんですか?」
「まだきめていない」
「でも、もうこれは試作してみたんですよね? わたし、こちらからも人骨を撒いてみるつもりかと思ったんですけど」
「……どうしようか」
「もしやるなら、もちろん手伝いますよ。近くにいるって言いましたし」

 彼女には生気がある。はじめて会ったときから変わらずに。おかしなことに私は、それを心地よく感じるらしい。

「君が温かければ良かったな」
「え?」

 そうすれば、私は君を殺しただろうか。どれだけか温まることができただろうか。目は彼女を見ながら想像へと逸れていく。

 多分、無理だっただろう。



「……こ、こたつの温度、上げましょうか?」

 彼女の声がする。片手をもう片方で包んでいる。頬が青い。冷え性だと前に言っていたか。しかし、温度が足りていないようには見えない。怯え。死の恐怖ではない。私の目のせいなのか。
 分かるよ。分かってしまうものだ。

「いいや。それでいい」

 久しく感じたこともなかった衝動が指先をたたく。そのエネルギーのまま首に腕を回して、私は彼女に口づけた。

「凍えていなければそれでいい」

 腕の中で小声が、「置いていかないで」と鳴く。
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