暖をとる。

山の端さっど

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-38℃ レモン水ロック

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「これでひとまずは終わりだ。だが断言してもいいね。『死神』は間違いなく僕に連絡してくる」

 話を終えた僕は不快ながらグラスの水を口にする。

「なぜこの系統の喫茶店は冬でも構わず氷入りの水を出すのか理解に苦しむな」
「貴君のようにランニングがてら喫茶店に立ち寄るホットな文武両道人間を想定してるんじゃないか?」
「探偵。ランニングと喫茶店を嗜む心だけで武と文の両道と成すのは横暴だ」
「そりゃどうも。とりあえずお疲れさん」

 ホットコーヒーを頼んだが届くまでの間に僕はやはりもう一口冷水を飲まねばならない。店内の空調は氷水を出せるほど整っていないと教えてやろうか。

 理解に苦しむといえば一つ。探偵に此度の話をするにあたってあえて語らずにいたが一つ奇妙な点がある。僕が渡した連絡先を見た時の「死神」のあの反応だ。

「なあ脳筋探偵」
「脳筋をつけるんじゃねえ。で、何だ」
「このカードは確か探偵がデザインしたと記憶しているが」

 僕の名刺代わりとも言えるURLを書いたカードをひねって見せる。あの時刑事に渡したものとほぼ同じだ。先だっての「チノフィリア」のように僕への依頼人は皆ここを通して秘密裏に接触してくるシステムになっている。

「ああ、正確には俺が描いたわけじゃないけどな」
「なんだ。脳筋な探偵にもカリグラフィーの才能はあるのかと感心していたんだが」

 これは少し誇張にはなるが嘘ではない。僕は自分の能力の限界を知るが故に逸脱した者の逸脱した能力を尊敬するのだ。これが知者ゆえの特権というもの。

「俺の妹が得意なんだよ、こういうのが」

 ……なるほど。僕は椅子に背を合わせてやる。これは厄介な案件だ。

「早急にカリグラフィーの依頼をしたいんだがどうすれば妹とやらに会える?」
「ん、依頼なら俺を通せばいいだろ?」
「……そうだな」

 そう返されるのは想定内だが口調は平静そのものときたか。
 繰り返してやろう。厄介な案件だ。
 探偵には血縁上も戸籍上も出生前から現在に至る全てのタイミングで「妹」が居たことは無いのだから。
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