暖をとる。

山の端さっど

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-32℃ 死神と悪魔

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「おじさんこんにちは。僕話があるんですけど」
「あ?」

 下から聞こえた声に中年刑事が振り返ると、帽子をかぶった背の低い少年が立っていた。名札をつけているからこの学校の生徒だろう。刑事はとっさにクラスと名前を記憶する。
 
(5年生か)

 平均よりかなり背が低い。生意気な雰囲気を隠そうともしない少年だ。この年頃の子供のいくらかがこういう態度をしがちな事は、中年刑事も知っている。彼らは、普段自分たちを抑圧してくる大人に対しアドバンテージを取れる機会を逃しはしない。この刑事には、大人の余裕をもって下手に出るとか主導権を取り返すとか、そういう駆け引きは苦手だった。

「悪いが今は忙しいんだ。休校なんだから大人しく家に帰りなさい」
「忙しいんだ。さっきからずっと人気のない場所で他のおじさんと話をしたり校舎の裏をやみくもに掘ったりしてたのに? あれって捜索が行き詰まって何をしていいか分からなくなったように見えましたけど」
「ぐっ……」

 いつから見ていたのだろう。そもそも生徒は全員帰されたはずなのに、また学校に来るなんてどうかしている。刑事はひとまず学校側に連絡を入れようと携帯電話を取り出した。

「連絡は後からでもできるよ」
「あ? 後から?」
「後から。子供たちを見つけた後とかでも遅くないでしょ。見つけたら先生に連絡するんだから」

 言っていることが滅茶苦茶だ。素直に帰ってくれそうもない。

「ぼうず、探すにもお前がいちゃ迷惑なんだよ。それとも何か、行方不明の子らの居場所でも知ってるっていうのか?」
「ううん。でも『旧校舎』の行き方は知ってるよ」
「あの怪談だろ? 笛がどうとか言われてもな」
「そうじゃなくて実在する場所への行き方」
「!」
「これから『旧校舎』に行ってみようと思うんだけどおじさんついてくる?」
「まさか、その為に学校に来たのか?」
「うん。僕を助けてくれるなら連れて行ってあげても良いよ」

 少年は首をかしげて刑事を見上げる。行方不明の子供たちを気遣う優しい少年――には到底見えない。刑事はある程度の歳を取ってから自然と出るようになった重い重いため息をついた。

「……案内しろ!」
「交渉成立だね。……今のところは凡庸と評価する他ないな」
「今なんて言った?」
「何でもないよ。じゃあ学校の裏門からすぐの2号公園にさっき使ってたスコップを持って来てね」
「おい……」

 少年は現れたとき同様、パッと死角に隠れて消えてしまった。
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