暖をとる。

山の端さっど

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-40℃ 冬の第四話「際物賭博」

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「本日は遅刻をお許しいただきありがとうございます。
 さて、幽霊の話を聞いておりますと自己紹介しますと、『危険な目には遭わないのか』そう皆さんよくお尋ねになります。
 ごもっともなご質問で、ついこの前もなかなかのお客霊にお会いしたのですが――



 ――彼を紅葉と呼びましょう。自ら悪霊と名乗りました紅葉によると、業の深い霊にとっては成仏するのも現世に留まるのも死ぬより苦しい事なのだそうです。
 彼らの間には、一つの噂がありました。悪霊のみ訪れる賭博場に、楽になるためにな人間――それを呪い殺せば幸せになれる、という人間を紹介する妖怪がいるというのです。元より『悪人』の紅葉に迷いなどありません。数人の悪霊と連れ立って行きましたところ、案内されたのは、檻に入れられた幼子の妖怪の前でした。

『私が勝ったら皆様には賭場の奴隷になっていただきます』

 その条件があれど、彼らには自信がありました。仲間はいわゆる、手品師とイカサマ師だったのです。
 勝負は淀んだ色の魂を駒として使うゲームでした。悪霊相手の商売とあってかの妖怪はひどくお強く、また目の良い方でした。

『魂そっくりの火の玉を作れる能力ですか。さぞや私共の役に立つでしょう』

 その一目で手品師は古ぼけたランプに詰めこまれて持ち去られました。

『手駒の魂を入れ替えるのはここの賭場では御法度なのです』

 その一言でイカサマ師の幽霊の体は平らに潰され、カードのように葛籠つづらに放り込まれました。残ったのは、彼らが咎められている隙に伏せていた手をすり替えて少しだけ有利になった紅葉だけ。とはいえ、依然不利なままなのです。

『貴方の本性も少しくらいお見せいただけるかと思ったのですが』

 ほぼ圧勝といった盤面で、つまらなさそうに妖怪は言いました。もう勝負はついていました。



 ……勝負の前にディーラーを脅し買収していなければ、紅葉は負けていたでしょう。



『それで見事お勝ちになったのですね』

 話を聞いてそう申し上げますと、紅葉は『ああそうさ』と、にたり、お笑いになりました。

『それで紹介された幸福への一番切符がお前ってわけだ』



 ……かの妖怪はもともと悪霊寄せの『餌』だったのか、それとも紅葉氏のことが気に入らなかったのでしょうか。いずれにしても哀れなことです。自分は同情しながら彼を『供養』いたしまして、急ぎ、こちらに参りました。願わくば皆様、悪霊には成りませぬよう……」
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