暖をとる。

山の端さっど

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-25℃ 怪談よびこ笛

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「お前、まだ引きずってんのか?」
「いや……」

 同僚――同期の刑事の言葉に応える中年男の顔色は確かに悪い。元女上司の話題が出れば一層暗くなる。

「無理もねえよな、捜査は行き詰まりだ。スターラーの奴も、なにも美人殺すことないだろうに」
「美人?」
「美人だろ。スタイルも良し、性格は明るい、眼鏡ってのがまた」

 暗い空気を変えようと戯けた事を言う同期刑事は、中年刑事の葛藤を知るよしもない。今度は軽蔑の音を含ませて遠くを見やる。

「それに、あいつが次の課長だろ?」

 他の署からやってきた背の高い男は、たいそうな子供好きらしい。今日はわざわざ現場にやって来て元気にげきを飛ばしている。

「行方不明になったのは、まだ10かそこらの子供たちだ! こんな可愛い子たちが可哀想だろう! 絶対にすぐ見つけ出せ!」
「案外あいつが犯人だったりしてな」

 同期の囁き声に刑事は「勘弁してくれ」と首を振った。……先ほど、捜査資料のクラス写真を舐めているのを、二人で目撃してしまったのだ。



 上司は置いておくとして、奇妙な事件だ。この小学校で、昼休みの間に4年A組の児童30人が消えた。集団誘拐が疑われ、警察も動員して校内も学校周辺も捜索しているが、一人も見つからない。目撃証言もない。実に不気味だった。聞き込むうちに妙な噂だけが立ち上ってくる。

「旧校舎のよびこ笛」。

「子供の間で流行ってる怪談か。笛の音が聞こえる方に行くと旧校舎にたどり着いて、着物を着た子たちが寿命のいくらかと引き換えに欲しいものをくれるとか」

 もちろんこの学校に旧校舎はない。十年ほど前、旧校舎を壊したその場に建て直されたからだ。しかしあろうと無かろうと学校の怪談に「旧校舎」はつきものらしい。

「んで、この現場だ」

 綺麗な教室に落ちていたのはただ一つ。一枚の薄いプラスチック片……バラン。

「弁当の日でもないのになんでこんなモンが?」
「コンビニ弁当持たせるような家庭は無いと信じたいな」

 子のいない二人の刑事には小学生のリアルが分からない。

「誘拐犯バランからの連絡も無いしな」
「変な名前をつけるな」
「いいだろう、別に」

 不意に視線を感じて刑事は振り返る。しかし臨時休校となったため、もう生徒はいない。気のせいかと思ったとき、一羽のカラスがすぐそばに降り立った。
 カラスは人間などには目もくれず、地面を突く。何もないように見えたそこには――

「え?」

 コンビニ弁当が埋まっていた。
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