暖をとる。

山の端さっど

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-23℃ ホットスパイシーレモネード

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「てっめぇ覚えてやがれよぉお!」

 手駒は使えずとも使うものだ。例えメモリ以外の機能が不愉快なノイズ生成のみであったとしても。

「僕が印象操作術も持たないスピーカーの存在を忘れるものか。それより叫ぶのに要するエネルギーを脳に回せよ」
「こっのお……スカしやがって……」

 そろそろノイズのバリエーションが尽きたか。38。
 暇潰しに説明しよう。今このカフェの一机に特筆すべきものは4つ。この僕と探偵とノイズの映るスマホと僕の手元のレモネードだ。

「それで僕は撲殺ぼくさつと刺殺と焼殺どれをしてくれる者へ情報を渡せば良いんだ?」
「やめ……わーったぁよ! て前の言うこと聞きゃあいいんだろ聞きゃあ!」

 予想通りに躾けられてくれたか。飼い主の想定を越えない犬は良い犬だ。思ったより使えるかもしれない。犬といえば似合いの案件があった。

「これは嬉しい言葉だね。では友好関係を築くついでに少しサービスしてもらおうか。とある女性の愛犬を殺したストーカーを見つけ出せ」
「あぁん?」
「下らない事は思いつく前に正しておこう。犬殺しは貴様が探偵とお喋りしていたタイミングで起きた。よって貴様は犯人を探せる。その嗅覚を使えば『お仲間』を見つけ出す程度のことならできるだろう駄犬」
「っの俺さぁまを何だと思っ……っああぁっ! ったよ分かったよやるから俺のことは見逃せよお!」
「『見逃す』。みのがす。面白い言葉の響きだ。四つ足で這い助けを乞う以上の自由を保持しているつもりらしい」
「っ……冷てぇ野郎が……」

 おや。意外な39語目が来た。それまでの語と温度感が違うのが気になるがそろそろ語彙稼ぎもタイムアップだ。
 残念ながら賭けは僕の負けだ。探偵が40以下と予想した時には馬鹿なと思ったがその程度の語彙で本当に全ての舌戦をこなしてきたらしい。

「まあサービスの話は冗談だ」
「冗談かよぉお」
「この僕が冗談で言った事であれ命令と見做し従うのが駄犬の役割だ」
「はぁっ?!」
「本題に戻ろう。十年前の初『スターラー猟奇事件』第一発見者。お前は何を見何を聞き何を知って警察に黙っておくことにした?」
「……」

 口を軽くしてやったというのに返答はまさかの沈黙か。

「言え」
「……お、俺が、見たのはぁ……あいつの顔……だったんだよ、なぁ?」

 ……非常に口惜しいことだ。
 どうやら駄犬に僕の与えた恐怖など十年前のスターラーのそれにはまったく及ばなかったらしい。
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