暖をとる。

山の端さっど

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-21℃ 白骨にシグナル

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 仕事帰り、ヒールで小さな白い骨につまずく。
 ゴツッとした触感にびっくりするよりも先に、わたしは何かを感じていたらしい。

「良い音……」

 今日のわたしは色々とツイている。仕事でも褒められたし、昼休みに買ったお菓子の当たりは引いたし、手土産もできた。



「人間の中足骨と種子骨だ。ああ」
「ちゅうそくこつ。しゅしこつ」
「親指だ。おとなの」

 男はとてもそっけない。初めて来た男の家のプライベートルームもそっけないし冷蔵庫の中もだ。この調味料と素材からここまで完成度の高い料理を作り出せたわたしは天才。でも、わたしの料理への男の反応もそっけない。

「事件でしょうか」
「どうかな」

 男はペン回しのようにツルツルの骨を回す。
 それもそうだ。わたしにも分かる。足の骨一本から分かる情報は少ない。大きさから成人以上と推測できるけれどそれだけ。年齢も不明。寂しめとはいえ、人や車の通らないわけでもない場所に落ちていた骨だから、傷があっても参考にはならない。骨に溜まる毒もあるらしいけれど、わざわざこの骨で出汁を取ってみる気はない。

「ともかく私にはわからない美学だ」
「え?」
「燃やした骨はもろい。自然にできた死体ならこれほど表面はととのっていない。磨いて保存したんだろう」

 それはわたしに無かった視点だ。

「それを事件、と言うのでは」
「君は骨がむき出しになるまでの過程を気にしていた」
「それはそうですけど」

 死後の骨が「愛好家」に「よしよし」されてるなら、骨になるまでにも何かあったと思うのが普通じゃないだろうか。

「どうにかしなければならないんだろうか」
「どうでしょうね」

 少し考えている様子。この隙にわたしは昼間の当たりで交換したチョコ菓子を出した。わたしはとてもタイミングが良い。少ない付き合いの中でも分かる通り、男は甘いものがけっこう好きだ。差し出しながらそっと聞く。

はいつ?」
「三日まえ」
「そのヒトの足は」
「すべて法医学教室だ」
「……じゃあ、違いますね」

 なら、彼の出る幕ではない気もする。

「他のヒトを邪魔するのって、何を基準に決めてるんですか」
「さあ」
「わたしのことは助けてくれた」

 彼は少し、黙った。骨の背筋をスッと撫でる。

「興ざめになりそうだった」
「興醒め?」

 わたしはその動きに見とれてしまう。



 ……気づけばわたしは、彼の指に指を絡めて引き寄せ、身を寄せ、ゆっくり覆い被さっていた。

「冷たいなぁ」

 彼は、拒まなかった。
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