暖をとる。

山の端さっど

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-29℃ 暗がりと明かり

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「クライ」って言ったっけ。この子はどう見てもただの大学生男子だ。まだ社会に出ていないけど軽いバイトくらいはしていて、人を殺した事がない。

「もう吐き終わった?」
「あ゛ー……はい……」

 多分死体処理もこれが初めて。

「どうして今日、こんなのを連れてきたんだろう」
「いや、そんなの俺が知りたいっすよ……」

 体力的にはわたしより余裕があるはずなのに元気がない。イケメンのくせに脱力系か。

「いやー、こんな重労働の後に外面繕うの無理っていうか、お姉さんも体力ある方っすね」
「大学時代は陸上やってました。そこそこ成績出してたし」
「マジっすか! どこの競技なんすか」
「身バレしたくないから伏せとこうかな」

 少し競技者少なめな奴。

「えー、詮索はしないっすけどニックネームとかは決めませんか?」
「ニックネーム?」
「殺人鬼の通り名みたいな。スターラーみたいな奴」

 クライは妙な事を言い出した。

「必要? それ」
「お姉さんって言うだけだと寂しいじゃないっすか。ナンパする時と同じだし」
「青年みたいなのにナンパされたくはないな」
「俺だってもっと清楚めな顔の方が。てか……良いや。ほら、俺だって『クライ』じゃないっすか。なんなら俺が決めますよ」

 今度はやけにイキイキしてきた。最初は怯えていたくせに、もう馴れ馴れしい。これが若者のノリなんだろうか? わたしと大して歳が違わないのに異星人とコミュニケーションしている気分だ。

「決めなくても今のところ何とかなってるしなあ」
「スターラーには何て呼ばれてるんっすか?」
「え、呼ばれた事ないと思うけど」
「えーマジか……ってかそもそも、お姉さんってスターラーの事何か知ってるんっすか……?」
「何にも知らない」
「マジっすか……恋は盲目にも程があるっていうか……」
「恋とかそういうんじゃないの」

 だって、わたしは彼のお腹の中身が飛び散るのを見たいとは思わないから。初恋の人とは、彼は全然違う。だから……

「すんません、余計な事言いました」
「クライって、人の表情読むの上手いんだね」
「そうっすか? まあ、ここ一年それを趣味にしてたようなもんなんで」

 ぶっきらぼうにクライは言う。それがどことなく面白い。

「『バラン』」
「ん?」
「バランって呼んでよ、わたしのこと。彼にもそれで通じるし」
「……変な名前っすね」
「失礼だなあ、青年」

 洗車を終えた彼が遠くから懐中電灯の光で合図する。わたしはスマホを持った手を振って合図を返した。
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