16 / 105
-16℃ 真っ新の机
しおりを挟む
中年の刑事の部署は少し涼しくなった。物理的に人が減ったせいで。
『君、これを見なよ。……犯人は寒いのが好きなのかもしれない』
嫌味なほどに明朗な声で刑事にときおり絡んできた痩せぎす眼鏡のエリート女はもう居ない。当然、新しい上司が来ることになる。
前の上司は奇跡的にも女だったが、女ばかりを狙う殺人鬼にまさか殺害されたとなっては後任に再び女が来る事はないだろう。それに元よりここは男社会だ。男女なんちゃら三角社会がどうだか知らないが、この刑事だって男上司の方が楽だ。ずっとあの女上司の前でそう思ってきた。
『それだから出世できないんだよ、君。もっと臨機応変になりたまえ』
「うるせえ」
女上司とこの中年刑事は二人で捜査に当たった事がある。最新鋭の機器とやらをオモチャのように振り回す上司とすり減らした靴の薄さを自慢してきた刑事では全く足並みが揃わず、よく分からないままなんとか情報をかき集めた。結局事件は解決したが、その時もパソコンだのはろくに役に立ちはしなかった。
ただ、多少強引な捜査をしても文句を言われなかっただけで。学のない奴に話す事はないとか息巻いた容疑者を黙らせられるのが女上司だけだったからある程度取調べを任せただけで。その後、うざったい嫌味と自慢と講釈つきの飲みに連れて行かれただけで、ろくに、刑事の思う通りに事は運ばなかった。あの時から用もなくあれこれ話しかけてくるようになったエリート眼鏡がいなくなったところで、刑事が何を思うわけもない。
『それで、君、靴底をすり減らして何を得たんだい?』
「うるせえんだよ……いつも澄ました顔しやがって!」
女上司の机を刑事は思わず叩いた。幸いにして、今ここには幻聴に吠える彼しかいない。
「……あ……?」
刑事は一瞬で我を取り戻す。机の天板の裏から新しめの付箋が落ちたのが見えたのだ。机を片付けた者が見落とすような所に隠すように貼られていたらしい。
刑事は震える手で付箋を拾い、裏返す。
『明日の夜会おう』
女上司のものではないが丸っこい字で書かれた短文の次には、見覚えのある場所と時間が書かれていた。
「こいつは……なんでこんなモンが……」
女上司が遺体で発見された、まさにその現場、まさに死亡推定時刻の少し前の時間だった。
『君、これを見なよ。……犯人は寒いのが好きなのかもしれない』
嫌味なほどに明朗な声で刑事にときおり絡んできた痩せぎす眼鏡のエリート女はもう居ない。当然、新しい上司が来ることになる。
前の上司は奇跡的にも女だったが、女ばかりを狙う殺人鬼にまさか殺害されたとなっては後任に再び女が来る事はないだろう。それに元よりここは男社会だ。男女なんちゃら三角社会がどうだか知らないが、この刑事だって男上司の方が楽だ。ずっとあの女上司の前でそう思ってきた。
『それだから出世できないんだよ、君。もっと臨機応変になりたまえ』
「うるせえ」
女上司とこの中年刑事は二人で捜査に当たった事がある。最新鋭の機器とやらをオモチャのように振り回す上司とすり減らした靴の薄さを自慢してきた刑事では全く足並みが揃わず、よく分からないままなんとか情報をかき集めた。結局事件は解決したが、その時もパソコンだのはろくに役に立ちはしなかった。
ただ、多少強引な捜査をしても文句を言われなかっただけで。学のない奴に話す事はないとか息巻いた容疑者を黙らせられるのが女上司だけだったからある程度取調べを任せただけで。その後、うざったい嫌味と自慢と講釈つきの飲みに連れて行かれただけで、ろくに、刑事の思う通りに事は運ばなかった。あの時から用もなくあれこれ話しかけてくるようになったエリート眼鏡がいなくなったところで、刑事が何を思うわけもない。
『それで、君、靴底をすり減らして何を得たんだい?』
「うるせえんだよ……いつも澄ました顔しやがって!」
女上司の机を刑事は思わず叩いた。幸いにして、今ここには幻聴に吠える彼しかいない。
「……あ……?」
刑事は一瞬で我を取り戻す。机の天板の裏から新しめの付箋が落ちたのが見えたのだ。机を片付けた者が見落とすような所に隠すように貼られていたらしい。
刑事は震える手で付箋を拾い、裏返す。
『明日の夜会おう』
女上司のものではないが丸っこい字で書かれた短文の次には、見覚えのある場所と時間が書かれていた。
「こいつは……なんでこんなモンが……」
女上司が遺体で発見された、まさにその現場、まさに死亡推定時刻の少し前の時間だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
旧校舎のシミ
宮田 歩
ホラー
中学校の旧校舎の2階と3階の間にある踊り場には、不気味な人の顔をした様なシミが浮き出ていた。それは昔いじめを苦に亡くなった生徒の怨念が浮き出たものだとされていた。いじめられている生徒がそのシミに祈りを捧げると——。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる