暖をとる。

山の端さっど

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-16℃ 真っ新の机

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 中年の刑事の部署は少し涼しくなった。物理的に人が減ったせいで。

『君、これを見なよ。……犯人は寒いのが好きなのかもしれない』

 嫌味なほどに明朗な声で刑事にときおり絡んできた痩せぎす眼鏡のエリート女はもう居ない。当然、新しい上司が来ることになる。
 前の上司は奇跡的にも女だったが、女ばかりを狙う殺人鬼にまさか殺害されたとなっては後任に再び女が来る事はないだろう。それに元よりここは男社会だ。男女なんちゃら三角社会がどうだか知らないが、この刑事だって男上司の方が楽だ。ずっとあの女上司の前でそう思ってきた。

『それだから出世できないんだよ、君。もっと臨機応変になりたまえ』
「うるせえ」

 女上司とこの中年刑事は二人で捜査に当たった事がある。最新鋭の機器とやらをオモチャのように振り回す上司とすり減らした靴の薄さを自慢してきた刑事では全く足並みが揃わず、よく分からないままなんとか情報をかき集めた。結局事件は解決したが、その時もパソコンだのはろくに役に立ちはしなかった。
 ただ、多少強引な捜査をしても文句を言われなかっただけで。学のない奴に話す事はないとか息巻いた容疑者ホシを黙らせられるのが女上司だけだったからある程度取調べを任せただけで。その後、うざったい嫌味と自慢と講釈つきの飲みに連れて行かれただけで、ろくに、刑事の思う通りに事は運ばなかった。あの時から用もなくあれこれ話しかけてくるようになったエリート眼鏡がいなくなったところで、刑事が何を思うわけもない。

『それで、君、靴底をすり減らして何を得たんだい?』
「うるせえんだよ……いつも澄ました顔しやがって!」

 女上司の机を刑事は思わず叩いた。幸いにして、今ここには幻聴に吠える彼しかいない。

「……あ……?」

 刑事は一瞬で我を取り戻す。机の天板の裏から新しめの付箋が落ちたのが見えたのだ。机を片付けた者が見落とすような所に隠すように貼られていたらしい。
 刑事は震える手で付箋を拾い、裏返す。



『明日の夜会おう』



 女上司のものではないが丸っこい字で書かれた短文の次には、見覚えのある場所と時間が書かれていた。

「こいつは……なんでこんなモンが……」

 女上司が遺体で発見された、まさにその現場、まさに死亡推定時刻の少し前の時間だった。
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