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-09℃ 昆布に穏笑
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「まず殺人だろうな」
男はわたしが場所を言ってもいないのに迷いなく歩く。わたしが先導していたはずが、あっという間に後を追うはめになる。岩だらけの砂浜の、目立たないところ。そこに見つけてすぐに断定した。
「でも首に、海藻が絡まってて」
「からまったすき間から手で絞めた後がのぞいている。海藻でつく形ではない」
「そ、それは」
「海藻の根も自然な切り口ではない。まあ、人の手でちぎったものだろう」
「……」
言い返せない。
「あとは?」
「……いいえ。これは殺人死体みたいです……」
「ここにきみの手とおなじ痕がある」
「お、同じ手の形の人なんていくらでも」
「鑑識をためしてみるのか」
「……いいえ、はい、私が、この人を殺しました……」
わたしは息を詰めそうになる喉を外から押さえた。ぺろっと犯行を自供してしまった喉だ。
「認めてからがはじまりだ」
「っ……」
ああ、どうしてこの男は平然としていられるんだろう。その、お腹ぱかーん血みどろ死体よりは目の前のヒトは綺麗だけど、それでも見るからに生きた人じゃないのに。
「ほら」
ぎらりと光るナイフを手渡されて、わたしはあまりためらわず受け取ってしまう。わたしはバカだ。
「あの、これ、どう……」
「腹をひらけ」
「えっ……」
「私の模倣犯の犯行ということにする」
「もほうはん……」
お腹を開くと模倣犯になる、人。
スターラー。
目の前の男とニュースでよく聞く名前が一瞬でつながった。
不思議と怖くなかった。むしろ、不気味さがかき消えたような気持ち。正体の分からないものが一番怖いから。
「私が喉をやる。きみが腹だ。開いて石でも詰めておくといい」
「ひっ、あの、」
「やるなら最後まで心にしたがえ」
抗う気持ちが失せていく。男の目は、わたしのことを何でも知っている。わたしは、わたしは、
大好きになった人。わたしは、貴方の飛び散る内臓が見たい。
「あはははは……」
気分が高揚しているのに、高笑いは出なかった。多分、大声を出すことに慣れてないから。
「すごーく、気持ちいい……」
首の皮をキレイに剥ぎ取った男が、血まみれのわたしの手を取って立たせてくれた。優しさの延長線上にあるみたいに、刃物を取り上げられて逆に突きつけられる。
「この気持ちのまま死んじゃいたい」
口では言ってみるけれど、なぜか、もう分かっていた。彼はすぐにこの刃を翻してくれる。
どうやらわたしは殺してもらえない。スターラーが殺したい相手じゃない。
男はわたしが場所を言ってもいないのに迷いなく歩く。わたしが先導していたはずが、あっという間に後を追うはめになる。岩だらけの砂浜の、目立たないところ。そこに見つけてすぐに断定した。
「でも首に、海藻が絡まってて」
「からまったすき間から手で絞めた後がのぞいている。海藻でつく形ではない」
「そ、それは」
「海藻の根も自然な切り口ではない。まあ、人の手でちぎったものだろう」
「……」
言い返せない。
「あとは?」
「……いいえ。これは殺人死体みたいです……」
「ここにきみの手とおなじ痕がある」
「お、同じ手の形の人なんていくらでも」
「鑑識をためしてみるのか」
「……いいえ、はい、私が、この人を殺しました……」
わたしは息を詰めそうになる喉を外から押さえた。ぺろっと犯行を自供してしまった喉だ。
「認めてからがはじまりだ」
「っ……」
ああ、どうしてこの男は平然としていられるんだろう。その、お腹ぱかーん血みどろ死体よりは目の前のヒトは綺麗だけど、それでも見るからに生きた人じゃないのに。
「ほら」
ぎらりと光るナイフを手渡されて、わたしはあまりためらわず受け取ってしまう。わたしはバカだ。
「あの、これ、どう……」
「腹をひらけ」
「えっ……」
「私の模倣犯の犯行ということにする」
「もほうはん……」
お腹を開くと模倣犯になる、人。
スターラー。
目の前の男とニュースでよく聞く名前が一瞬でつながった。
不思議と怖くなかった。むしろ、不気味さがかき消えたような気持ち。正体の分からないものが一番怖いから。
「私が喉をやる。きみが腹だ。開いて石でも詰めておくといい」
「ひっ、あの、」
「やるなら最後まで心にしたがえ」
抗う気持ちが失せていく。男の目は、わたしのことを何でも知っている。わたしは、わたしは、
大好きになった人。わたしは、貴方の飛び散る内臓が見たい。
「あはははは……」
気分が高揚しているのに、高笑いは出なかった。多分、大声を出すことに慣れてないから。
「すごーく、気持ちいい……」
首の皮をキレイに剥ぎ取った男が、血まみれのわたしの手を取って立たせてくれた。優しさの延長線上にあるみたいに、刃物を取り上げられて逆に突きつけられる。
「この気持ちのまま死んじゃいたい」
口では言ってみるけれど、なぜか、もう分かっていた。彼はすぐにこの刃を翻してくれる。
どうやらわたしは殺してもらえない。スターラーが殺したい相手じゃない。
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