暖をとる。

山の端さっど

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-14℃ 雪落つだけ

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 痩せぎすの眼鏡は何時間も前からパソコンをカチャカチャと叩いていた。

 別にそれは悪いことじゃないのだろう。だが、中年男の刑事にはその有用性とやらがよく分からなかった。
 事件を分析するんだかなんだか知らないが、そんなパソコンに入っているものがいったいどんな役に立つというのか、犯人の住所でも見つけてくれるというのか。できるわけがない。DNAでも出てくるのか? いや、それは鑑識の仕事だろう。ならば何のためにそんなことをしているのか、馬鹿馬鹿しい。もし部下がやっていることなら、中年男は確実に怒鳴りつけやめさせていただろう。もし部下ならば。
 この痩せぎす眼鏡は、中年男の最も嫌うキャリアとかいう奴で、中年男より若く経験も浅いのにもう上司なのだった。何も言えるわけがない。

「お疲れ様です」

 中年男は精一杯の嫌味――伝わるかどうかは重要でない――を言いながら痩せぎすの後ろを通った。こっそりと画面を見てみるがちんぷんかんぷんだ。おまけに気づかれてしまう。

「君、ちょっとこれを見なよ。この前私が分析した犯行の傾向。例の『スターラー』のデータだ。最近の数件は外れるものもあるが、事件が起きているのはおおむね気温が零度を下回ったときだけだ! 犯人は寒いのが好きなのかもしれない」

 中年男はため息をついた。そりゃあ初耳だが、そんなこと聞いて何の役に立つというのか。寒い日にはパトロールを強化しろってか?

「ははは、今のところ被害者は女性だけだが、君だって狙われるかもしれない。気をつけなよ」

 ご自慢のカチャカチャでこんなことしか分からないとは。中年男は得意げな上司に失望して背を向けた。







 殴れるものなら、中年男はその日の自分を殴っただろう。

 この日の現場は酷いものだった。死体や血溜まりのせいでも、裂けた腹や引きずり出された腸のせいでもない。酷くないとはいえないが、そんなものなら見慣れている。

 ひどく寒い日だったというのに。

 女のバッグの中から、大量のホッカイロがぶちまけられていた。袋が破れ、空気に直接触れるとカイロの中身は発火しうるほどに温度が上がる。血や内臓の腐敗やら焦げた匂いやらが混ざりあい、ぞっとするような空気が流れていた。

 中年男は溶けた指の爪から目が離せない。

「彼女」が得意げに、やっと自衛の方法を見つけたかもしれない、と喜びに上気した顔で中年男を呼び止めたときの、得意げにパソコンを叩いていたはずの指先は醜く崩れていた。
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