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-24℃ 腐り落つ前の車
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わたしはガラス越しに鳥の糞と指を合わせた。当たり前だけどツルッとした感触しかしない。
「すぐ洗車するつもりだ」
「でしょうね」
わたしは隣で運転する彼の言葉に少し笑う。
「血まみれじゃ何処へも行けませんよ」
腐臭に慣れてからがはじまりの世界もある。今日はちょっとしたドライブだったはずが、結局こうなった。でもお出掛けとは外で楽しい事をする事だから、うん。
二人だけでデートのつもりだったんだけどな。
初めから彼はその気じゃなかったみたいだ。後部座席の動かない2つのヒトの事を思い出して、わたしは少し落ち込む。
「すぐもどる」
彼が自動販売機へ向かい……ほぼ間違いなくブラック無糖の缶コーヒーと栄養ドリンクを買ってくる間、わたしは暇になった。そこで、ふと、後部座席に話しかけてみる。もちろん生きている方に向かって。
「それで、誰?」
「……僕は……何なんでしょうか……」
後部座席にうずくまったままほとんど動かない青年は途方に暮れた顔をさらにくしゃくしゃにする。わたしの人生で初めて見る表情だ。
「少し、中身を見てみたいかも」
「ひっ」
「いきなり刺したりしないよ。で? 誰なの。『スターラーさん』の何?」
「ぼ、僕は……何でここにいるか自分でも分かんないんっすけど、『クライ』って呼ばれてます……」
両目の脇に泣きぼくろがある若者は面白いくらいにオドオドする。「ふふふ」と意味もなく笑ってみたらオドオドがガタガタになった。
「ひっ、ちが、あの、ぼ、ぼくはその、前に、スターラーさんのところに殴りこみに行って、行っちゃって、それで、ひぅっ、いえ、すんません今は、反省してます……」
「へーえ」
思っていたより度胸のある若造だった。ガッツを買われて力仕事要員になったってところだろう。
「すんませんっ! た、助けてください……僕もう逆らわないんで、本当に、い、命だけは……」
「別にそこまで殺したくはないよ。彼も男は好みじゃないだろうし」
飽きてきたところで彼が戻ってきた。手には無糖と栄養ドリンクと、……温かいほうじ茶。ぽん、とわたしの手の中に置いた。
「……ありがとうございます」
車はまた走り出した。
「すぐ洗車するつもりだ」
「でしょうね」
わたしは隣で運転する彼の言葉に少し笑う。
「血まみれじゃ何処へも行けませんよ」
腐臭に慣れてからがはじまりの世界もある。今日はちょっとしたドライブだったはずが、結局こうなった。でもお出掛けとは外で楽しい事をする事だから、うん。
二人だけでデートのつもりだったんだけどな。
初めから彼はその気じゃなかったみたいだ。後部座席の動かない2つのヒトの事を思い出して、わたしは少し落ち込む。
「すぐもどる」
彼が自動販売機へ向かい……ほぼ間違いなくブラック無糖の缶コーヒーと栄養ドリンクを買ってくる間、わたしは暇になった。そこで、ふと、後部座席に話しかけてみる。もちろん生きている方に向かって。
「それで、誰?」
「……僕は……何なんでしょうか……」
後部座席にうずくまったままほとんど動かない青年は途方に暮れた顔をさらにくしゃくしゃにする。わたしの人生で初めて見る表情だ。
「少し、中身を見てみたいかも」
「ひっ」
「いきなり刺したりしないよ。で? 誰なの。『スターラーさん』の何?」
「ぼ、僕は……何でここにいるか自分でも分かんないんっすけど、『クライ』って呼ばれてます……」
両目の脇に泣きぼくろがある若者は面白いくらいにオドオドする。「ふふふ」と意味もなく笑ってみたらオドオドがガタガタになった。
「ひっ、ちが、あの、ぼ、ぼくはその、前に、スターラーさんのところに殴りこみに行って、行っちゃって、それで、ひぅっ、いえ、すんません今は、反省してます……」
「へーえ」
思っていたより度胸のある若造だった。ガッツを買われて力仕事要員になったってところだろう。
「すんませんっ! た、助けてください……僕もう逆らわないんで、本当に、い、命だけは……」
「別にそこまで殺したくはないよ。彼も男は好みじゃないだろうし」
飽きてきたところで彼が戻ってきた。手には無糖と栄養ドリンクと、……温かいほうじ茶。ぽん、とわたしの手の中に置いた。
「……ありがとうございます」
車はまた走り出した。
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