暖をとる。

山の端さっど

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-01℃ 暖をとる。

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 冷たい。

 最近はよく冷える。熱を溜め込むというコンクリートだらけの東京でもそれは変わらない。
 テレビからは悲しいニュースばかりが流れている。目を引くのは、近ごろ次々と見つかっている女性のバラバラ死体だ。
 初めは腹が裂かれ、中をかき乱された女が見つかるだけだった。メディアは「スターラー連続殺人事件」とか呼んでいる。しかし最近は奇妙な形に切り落とされたり、「飾られた」ものが次々と見つかっていた。猟奇化する手口のおぞましさを語る者らの表情はみなコピーしたようだ。貼り付けた暗さ。その奥に興奮と好奇心が透けてみえる。
 悲しいなぁ。そして冷たい。
 やはりどうにかしなければならないんだろうか。



 犯人の手口をつかむのは簡単だった。本当にたやすい。そいつの思考回路をトレースしてやればいい。材料となる事件もたくさんある。すぐに、いつどこへ行けばいいかわかった。
 車で数時間、ひと気のない公園の隅に張り込んで一時間。たやすく男が現れた。一晩くらいは覚悟していたが、うまくいきすぎることもある。
 男が無防備にそれを地面に投げ出したところで、声をかけた。

「砂場に立てるのか?」

 男は驚いて振り返る。言葉を発させる余裕を与えずに続ける。

「分かっているよ、何も言わなくとも。腕や足を使って枯山水を作る気だろう? そしていまは、私は誰か、通報しないのはなぜかと考えている」

 男が動揺している間に、ゆっくりと近づく。

「君が思いつく五秒前に言ってあげよう。私は『オリジナル』だ、模倣犯」

 そして。

「そして、君はもう五秒後に何か思う必要は無い」

 ちゃちなシャベルを降り下ろす。

「私はただ『温まりたい』だけ。君の無粋な趣味で邪魔しないでくれ」



 冷たい。
 男に興味はない。あとで仕方ないから片づけてやるだけだ。それよりも男の持ってきたものへと手を伸ばす。
 腹は開いていない。当たりまえだ。ナイフを通して手を差し入れる。未練がましく肌の外側を満たす。
 ああ、悲しい。こんな男に連れまわされなければ。こんなにもぬるくなって。興がさめる。さめて、冷たい。
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