16 / 24
4章 坂の上のひかるさん
もぬけの殻のヒロイン
しおりを挟む
家に帰ると、もぬけの殻だった。
正しくはややもぬけの殻だった。涼は、いなくなっていた。少しの家電と、自分の荷物を持って、出て行ったようだ。
けれど、昨日着ていた服は干したままだし、やりかけのゲームは置きっ放しだし、詰めが甘いところが、涼らしいなんて頭の片隅で思った。
まあ、夜になったら帰ってくるだろうって思っていたけれど、2日経っても帰ってこない。流石に心配になって、電話をかけてみたけれど、出ない。
送ったままのLINEは、既読がつかないままだ。涼の友達に連絡をとってみたけれど、知っている友達は2人しかいなかった。
涼の両親の連絡先も知らない。ただ、千葉県の出身だという事しか、知らなかった。5年も一緒にいたのに、知っている情報は少なかったことに今更ながら気がつく。
ピコンと電子音が鳴る。
『言いにくいんだけど』
涼の友達のトモからLINEがきた。
『涼と連絡とれた』
続けざまに文章が送られてくる。もう、それだけで続きの文章がわかってしまう自分がいた。
涼の知っている情報は少ないのに、そういうことだけ、すぐにわかってしまう。
『別の女の子と一緒にいるらしい』
やっぱりね。
あたしはスマートフォンをぶん投げる。
壁に激突して、鈍い音が響いた。
少し間をあけてから、スマートフォンを拾ってトモに返信を打つ。
『ありがと』
何がありがとうだ、バカ。
全然、あたし、大丈夫じゃないのに。
冷蔵庫までドンドン足を踏み鳴らして行く。缶ビールを掴むと、冷蔵庫のドアをバシンと閉めた。最大限の音が鳴るように。
あたしは。
あたしは、怒っている。猛烈に。
理由がわからない。
訳がわからない。
「別の女の子」って誰だよ。
缶ビールをグイッと飲み込む。喉がヒリヒリした。
それって。
それって……。
浮気されたってこと?
鼻の奥がビールの香りでツンとした。ゆっくり力を込めると、缶ビールはピシャンという哀しい音をたてて生き絶えた。
違う。
乗り換えたってことか。
涙が出た。やっと、出た。体の中からにじみ出るように、涙が出た。
ついで、嗚咽まで漏れてくる。子どもみたいだ。
「ふざけんな」
呟いて、その場にしゃがみ込む。頭がぐるぐる回転している。呼吸がおかしい。ヒュー、ヒューっという音が聞こえる。体が大きく上下する。
苦しい。苦しい。
そのまま、流れるように床に横になる。
もう、このまま溶けちゃえばいい。それで、床のシミにでもなって、あいつが帰ってきた時に驚かせてやるんだ。後悔させてやるんだ。
「来週。花見に行こうって、言ったのお前じゃん……」
どこかのラブソングみたいなセリフだなと思う。
今あたし、悲劇のヒロインになってる。
「もぬけの殻になったのは、あたしのほうか……」
正しくはややもぬけの殻だった。涼は、いなくなっていた。少しの家電と、自分の荷物を持って、出て行ったようだ。
けれど、昨日着ていた服は干したままだし、やりかけのゲームは置きっ放しだし、詰めが甘いところが、涼らしいなんて頭の片隅で思った。
まあ、夜になったら帰ってくるだろうって思っていたけれど、2日経っても帰ってこない。流石に心配になって、電話をかけてみたけれど、出ない。
送ったままのLINEは、既読がつかないままだ。涼の友達に連絡をとってみたけれど、知っている友達は2人しかいなかった。
涼の両親の連絡先も知らない。ただ、千葉県の出身だという事しか、知らなかった。5年も一緒にいたのに、知っている情報は少なかったことに今更ながら気がつく。
ピコンと電子音が鳴る。
『言いにくいんだけど』
涼の友達のトモからLINEがきた。
『涼と連絡とれた』
続けざまに文章が送られてくる。もう、それだけで続きの文章がわかってしまう自分がいた。
涼の知っている情報は少ないのに、そういうことだけ、すぐにわかってしまう。
『別の女の子と一緒にいるらしい』
やっぱりね。
あたしはスマートフォンをぶん投げる。
壁に激突して、鈍い音が響いた。
少し間をあけてから、スマートフォンを拾ってトモに返信を打つ。
『ありがと』
何がありがとうだ、バカ。
全然、あたし、大丈夫じゃないのに。
冷蔵庫までドンドン足を踏み鳴らして行く。缶ビールを掴むと、冷蔵庫のドアをバシンと閉めた。最大限の音が鳴るように。
あたしは。
あたしは、怒っている。猛烈に。
理由がわからない。
訳がわからない。
「別の女の子」って誰だよ。
缶ビールをグイッと飲み込む。喉がヒリヒリした。
それって。
それって……。
浮気されたってこと?
鼻の奥がビールの香りでツンとした。ゆっくり力を込めると、缶ビールはピシャンという哀しい音をたてて生き絶えた。
違う。
乗り換えたってことか。
涙が出た。やっと、出た。体の中からにじみ出るように、涙が出た。
ついで、嗚咽まで漏れてくる。子どもみたいだ。
「ふざけんな」
呟いて、その場にしゃがみ込む。頭がぐるぐる回転している。呼吸がおかしい。ヒュー、ヒューっという音が聞こえる。体が大きく上下する。
苦しい。苦しい。
そのまま、流れるように床に横になる。
もう、このまま溶けちゃえばいい。それで、床のシミにでもなって、あいつが帰ってきた時に驚かせてやるんだ。後悔させてやるんだ。
「来週。花見に行こうって、言ったのお前じゃん……」
どこかのラブソングみたいなセリフだなと思う。
今あたし、悲劇のヒロインになってる。
「もぬけの殻になったのは、あたしのほうか……」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
好青年で社内1のイケメン夫と子供を作って幸せな私だったが・・・浮気をしていると電話がかかってきて
白崎アイド
大衆娯楽
社内で1番のイケメン夫の心をつかみ、晴れて結婚した私。
そんな夫が浮気しているとの電話がかかってきた。
浮気相手の女性の名前を聞いた私は、失意のどん底に落とされる。
妊娠したのね・・・子供を身篭った私だけど複雑な気持ちに包まれる理由は愛する夫に女の影が見えるから
白崎アイド
大衆娯楽
急に吐き気に包まれた私。
まさかと思い、薬局で妊娠検査薬を買ってきて、自宅のトイレで検査したところ、妊娠していることがわかった。
でも、どこか心から喜べない私・・・ああ、どうしましょう。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる