23 / 24
閑話 小川櫻子の場合
2
しおりを挟む
子どもたちの反対は勿論あったが、櫻子は我が家をカフェと自宅に分けて改築してしまった。
スタッフは、ご近所友達の、のりちゃんだけ。
おばあさん二人じゃ心許ないわね…。杏奈は、手伝ってくれなさそうだし。誰かスカウトしに行かないと。
櫻子は特に計画もなしに、外へ出た。
杏奈と一緒に『死ぬまでに、やりたいこと』計画を始めてから、自由気ままに過ごしてきたつもりだ。周りから見たら、無計画、無謀なことだと思うだろう。以前の私だって、そう思う。
けれど、今までずっと、自分のことは後回しでやってきたし、何事も計画的に目的を持って、進めてきた。そして、それは労力も時間もかかることを、櫻子は知っている。
どうせいつかは、死ぬのだ。やりたいことを形あるものとして、残したい。思いついたら、やってみる。それが、櫻子のカフェ計画だった。
そんなことを考えながら歩いていた時、桜の木の下でうずくまる女性を見つけた。
桜の花びらが、舞う。
色白の女性は、黒髪が風に弄ばれていても、気にしない。ただ、そこに座って、どこか別の世界を見つめているような、目をしていた。
ちょっと、不気味ね…。
櫻子は目を合わせないように、早歩きで通り過ぎた。
ご近所の友達や麻雀で知り合った人に、カフェの話をして回ったが、みんな「面白そうだね」と言うだけで、乗り気ではないようだった。
「収穫ゼロね」
諦めて家に帰ろうと、来た道を戻っていた時、櫻子はヒャッと小さな悲鳴をあげた。
「やだ、桜のおばけかしら…」
出がけに見た、桜の木の下にいた女性は、全く同じ格好で、同じ場所にいた。
夕陽が綺麗な日だった。散る桜の花びらが、金色の光に照らされて、その桜の木の周りだけが切り取ったかのように、神秘的な世界だった。
「こんなに美しい日なのだから、成仏してよね」
ナムナム…と櫻子は呟きながら、通り過ぎたが、ふと足を止めた。
女性は、泣いていた。音もないその空間で、生気を失った顔で、涙を流していた。
「あなた…風邪をひくわよ」
近づくと、女性は黒目だけを櫻子の方に向けた。声をかけられて初めて、そこに人がいたことに気がついたようだ。
「私は、小川櫻子。よかったら、話を聞くわ。時間は無限にあるの」
女性の隣に腰をかける。桜がひらひらと落ちてくる。まだ落ちたくない、まだ落ちたくない。そう言っているように聞こえた。
どのくらい沈黙が続いたか、櫻子も覚えていないが、ポツリ、ポツリと女性は話始めた。
スタッフは、ご近所友達の、のりちゃんだけ。
おばあさん二人じゃ心許ないわね…。杏奈は、手伝ってくれなさそうだし。誰かスカウトしに行かないと。
櫻子は特に計画もなしに、外へ出た。
杏奈と一緒に『死ぬまでに、やりたいこと』計画を始めてから、自由気ままに過ごしてきたつもりだ。周りから見たら、無計画、無謀なことだと思うだろう。以前の私だって、そう思う。
けれど、今までずっと、自分のことは後回しでやってきたし、何事も計画的に目的を持って、進めてきた。そして、それは労力も時間もかかることを、櫻子は知っている。
どうせいつかは、死ぬのだ。やりたいことを形あるものとして、残したい。思いついたら、やってみる。それが、櫻子のカフェ計画だった。
そんなことを考えながら歩いていた時、桜の木の下でうずくまる女性を見つけた。
桜の花びらが、舞う。
色白の女性は、黒髪が風に弄ばれていても、気にしない。ただ、そこに座って、どこか別の世界を見つめているような、目をしていた。
ちょっと、不気味ね…。
櫻子は目を合わせないように、早歩きで通り過ぎた。
ご近所の友達や麻雀で知り合った人に、カフェの話をして回ったが、みんな「面白そうだね」と言うだけで、乗り気ではないようだった。
「収穫ゼロね」
諦めて家に帰ろうと、来た道を戻っていた時、櫻子はヒャッと小さな悲鳴をあげた。
「やだ、桜のおばけかしら…」
出がけに見た、桜の木の下にいた女性は、全く同じ格好で、同じ場所にいた。
夕陽が綺麗な日だった。散る桜の花びらが、金色の光に照らされて、その桜の木の周りだけが切り取ったかのように、神秘的な世界だった。
「こんなに美しい日なのだから、成仏してよね」
ナムナム…と櫻子は呟きながら、通り過ぎたが、ふと足を止めた。
女性は、泣いていた。音もないその空間で、生気を失った顔で、涙を流していた。
「あなた…風邪をひくわよ」
近づくと、女性は黒目だけを櫻子の方に向けた。声をかけられて初めて、そこに人がいたことに気がついたようだ。
「私は、小川櫻子。よかったら、話を聞くわ。時間は無限にあるの」
女性の隣に腰をかける。桜がひらひらと落ちてくる。まだ落ちたくない、まだ落ちたくない。そう言っているように聞こえた。
どのくらい沈黙が続いたか、櫻子も覚えていないが、ポツリ、ポツリと女性は話始めた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
僕とメロス
廃墟文藝部
ライト文芸
「昔、僕の友達に、メロスにそっくりの男がいた。本名は、あえて語らないでおこう。この平成の世に生まれた彼は、時代にそぐわない理想論と正義を語り、その言葉に負けない行動力と志を持ち合わせていた。そこからついたあだ名がメロス。しかしその名は、単なるあだ名ではなく、まさしく彼そのものを表す名前であった」
二年前にこの世を去った僕の親友メロス。
死んだはずの彼から手紙が届いたところから物語は始まる。
手紙の差出人をつきとめるために、僕は、二年前……メロスと共にやっていた映像団体の仲間たちと再会する。料理人の麻子。写真家の悠香。作曲家の樹。そして画家で、当時メロスと交際していた少女、絆。
奇数章で現在、偶数章で過去の話が並行して描かれる全九章の長編小説。
さて、どうしてメロスは死んだのか?
【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる