ハナサクカフェ

あまくに みか

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閑話 小川櫻子の場合

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 子どもたちの反対は勿論あったが、櫻子は我が家をカフェと自宅に分けて改築してしまった。
 スタッフは、ご近所友達の、のりちゃんだけ。
 おばあさん二人じゃ心許ないわね…。杏奈は、手伝ってくれなさそうだし。誰かスカウトしに行かないと。

 櫻子は特に計画もなしに、外へ出た。
 杏奈と一緒に『死ぬまでに、やりたいこと』計画を始めてから、自由気ままに過ごしてきたつもりだ。周りから見たら、無計画、無謀なことだと思うだろう。以前の私だって、そう思う。
 けれど、今までずっと、自分のことは後回しでやってきたし、何事も計画的に目的を持って、進めてきた。そして、それは労力も時間もかかることを、櫻子は知っている。
 どうせいつかは、死ぬのだ。やりたいことを形あるものとして、残したい。思いついたら、やってみる。それが、櫻子のカフェ計画だった。
 そんなことを考えながら歩いていた時、桜の木の下でうずくまる女性を見つけた。

 桜の花びらが、舞う。
 色白の女性は、黒髪が風に弄ばれていても、気にしない。ただ、そこに座って、どこか別の世界を見つめているような、目をしていた。
 ちょっと、不気味ね…。
 櫻子は目を合わせないように、早歩きで通り過ぎた。
 ご近所の友達や麻雀で知り合った人に、カフェの話をして回ったが、みんな「面白そうだね」と言うだけで、乗り気ではないようだった。
 「収穫ゼロね」
 諦めて家に帰ろうと、来た道を戻っていた時、櫻子はヒャッと小さな悲鳴をあげた。
 「やだ、桜のおばけかしら…」
 出がけに見た、桜の木の下にいた女性は、全く同じ格好で、同じ場所にいた。
 夕陽が綺麗な日だった。散る桜の花びらが、金色の光に照らされて、その桜の木の周りだけが切り取ったかのように、神秘的な世界だった。
 「こんなに美しい日なのだから、成仏してよね」
 ナムナム…と櫻子は呟きながら、通り過ぎたが、ふと足を止めた。
 女性は、泣いていた。音もないその空間で、生気を失った顔で、涙を流していた。
 「あなた…風邪をひくわよ」
 近づくと、女性は黒目だけを櫻子の方に向けた。声をかけられて初めて、そこに人がいたことに気がついたようだ。
 「私は、小川櫻子。よかったら、話を聞くわ。時間は無限にあるの」
 女性の隣に腰をかける。桜がひらひらと落ちてくる。まだ落ちたくない、まだ落ちたくない。そう言っているように聞こえた。
 どのくらい沈黙が続いたか、櫻子も覚えていないが、ポツリ、ポツリと女性は話始めた。
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