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11.祝福の歌
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脳裏に響き渡るその歌が。祝福の歌と称されるその賛美歌が。痛みと苦しみと、そして忘れた筈の何かを呼び起こす。その重さに耐えきれず、知らず、こめかみを指で押さえていた。
傍らで、フーアが俺を見ている。どうしたと、視線だけで問いかけてくる少年勇者。何でもないと頭を振るには、あまりにも痛みが勝った。息を吐き、どうにか精神を落ち着かせる。それでも、悔しい事に、この賛美歌の合唱には、敵わない。
「辛いのか?ひょっとして、賛美歌が?」
「……ひょっとせんでも辛いに決まっている。フーア、俺は邪神だぞ?」
「知ってる。力在る邪神でも、賛美歌で辛いのか。」
妙に感心した口調で言うな。こいつは常日頃から、色々な意味で間違っていると思う。本当に勇者なのだろうか。そう思わせるような時もあれば、はっとする程知識に富んだ時もある。そしてまた、幼い子供のような時もあるのだ。
解らない。かれこれ一月程は共に旅をしているが、この少年の事がよく解らないのだ。掴み所がないといえばまだ表現が良い方だろう。何かを知っても、まるでそれが、演技であるような印象を抱かせる。そんな、不可解な一面がフーアにはある。
隣で、フーアが歌を口ずさむ。それは目の前の合唱団達が歌う賛美歌と同じモノ。そうでありながら、途中からその音律が異なる。合唱団のそれを阻むように、追い払うような音律。不思議と、痛みが消えていく。
「楽になったか?」
「…………お前、何を……。」
「賛美歌には力が宿る。それを相殺する音律もまた、あるわけだ。」
「……何故それを知っているのだ、お前が。」
「面白そうだったから、秘蔵本を引っ張り出して読んでみた。」
「…………そうか。」
この勇者にとっては、世の中は面白い事とそうでない事でしかないらしい。ある意味解り易いが、同時に止めて貰いたい。そのうち面白そうで山一つ吹き飛ばしそうだ。いや、それは勇者の所行で収まらないからやらないだろうが。
…………なんだろう。一応助かったはずだというのに、再び頭痛がしてきた。そもそも俺は、邪神なのだ。なのに何故、勇者よりも一般常識に偏っている?………………解らん。
それでもまぁ、嫌いではないのだと、思う。
傍らで、フーアが俺を見ている。どうしたと、視線だけで問いかけてくる少年勇者。何でもないと頭を振るには、あまりにも痛みが勝った。息を吐き、どうにか精神を落ち着かせる。それでも、悔しい事に、この賛美歌の合唱には、敵わない。
「辛いのか?ひょっとして、賛美歌が?」
「……ひょっとせんでも辛いに決まっている。フーア、俺は邪神だぞ?」
「知ってる。力在る邪神でも、賛美歌で辛いのか。」
妙に感心した口調で言うな。こいつは常日頃から、色々な意味で間違っていると思う。本当に勇者なのだろうか。そう思わせるような時もあれば、はっとする程知識に富んだ時もある。そしてまた、幼い子供のような時もあるのだ。
解らない。かれこれ一月程は共に旅をしているが、この少年の事がよく解らないのだ。掴み所がないといえばまだ表現が良い方だろう。何かを知っても、まるでそれが、演技であるような印象を抱かせる。そんな、不可解な一面がフーアにはある。
隣で、フーアが歌を口ずさむ。それは目の前の合唱団達が歌う賛美歌と同じモノ。そうでありながら、途中からその音律が異なる。合唱団のそれを阻むように、追い払うような音律。不思議と、痛みが消えていく。
「楽になったか?」
「…………お前、何を……。」
「賛美歌には力が宿る。それを相殺する音律もまた、あるわけだ。」
「……何故それを知っているのだ、お前が。」
「面白そうだったから、秘蔵本を引っ張り出して読んでみた。」
「…………そうか。」
この勇者にとっては、世の中は面白い事とそうでない事でしかないらしい。ある意味解り易いが、同時に止めて貰いたい。そのうち面白そうで山一つ吹き飛ばしそうだ。いや、それは勇者の所行で収まらないからやらないだろうが。
…………なんだろう。一応助かったはずだというのに、再び頭痛がしてきた。そもそも俺は、邪神なのだ。なのに何故、勇者よりも一般常識に偏っている?………………解らん。
それでもまぁ、嫌いではないのだと、思う。
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