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イケメン部長に誘われ仮入部! ~吾妻屋くんの企み・和菓子屋で嫉妬?~

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 莉愛は総一郎が部長をつとめる謎の部活『ゲーム代行クリア部』への仮入部が決まった。
「吾妻屋くん、部の名前が憶えづらいよ」
「えー? そう? オレ部長だから早口言葉でも言えちゃうよ」
「やってみせてよ」
「ゲーム代行ぶかちゅぶ」
「思いっきり噛んでるじゃん……」
 吾妻屋くん意外と軽口叩くんだなぁ、と古風な名前と態度のギャップに驚く。
 莉愛にとって、総一郎は『古風な名前の老舗の和菓子屋の息子』というレッテルを張っており、漠然としたイメージができあがっていた。
少しでもそこからずれた行動を本人がしようものなら「なんか思ってたのと違う」と内心首を傾げてしまう。
まあ、変わった人なのは薄々気が付いたけれども。
莉愛の入部騒動のあった翌日、早速総一郎に呼び出された先は何故かパソコン室。
授業用兼パソコン部も使用するデスクトップ型のパソコンがずらりと並ぶ空間の中、端っこ一台の椅子に彼は座っていた。
「ここがオレらの部室だよ。PCラック一台分しかスペースもらえてないから隣座ってね」
 狭いだろー?と苦笑いしながら椅子をひいて座るようすすめられる。
 莉愛は総一郎の隣におずおずと腰を下ろした。だが、先ほどから他の部員――眼鏡をかけた男子ばかりの視線が痛い。
「あ、オレら以外は皆パソコン部のメンツだから。ちょっとシャイだけど皆いい奴だよ」
 パソコン部の面々に向かって莉愛がぺこりと会釈すると、「女子だ……女子が俺らに頭を下げたぞ」と小さな騒ぎとなった。
 やっぱり変な人たちに囲まれているなぁ、と心配になる。
 部長の総一郎いわく、部員が少なすぎて空き教室を貸し出す許可が下りなかったらしい。
「センセーひでーんだよ、『女子と二人っきりでナニするんだぁ~?』って疑いの目で見てくんの」
「うーん、活動実績が無いから余計疑われちゃうのかもね」
「じゃあ今から実績つくるか」総一郎は神妙な顔で頷くと、立ち上がった。
「今まで依頼が無くて活動できてなかったからなぁ~。
ビラ配ってクリアできないゲームありませんかーって募集かけたことがったんだけど、捨てられたビラを道で拾った小学生に冷やかされただけに終わってさ」
 何とも悲しい話だ。パソコンに当時配ったチラシの画像データが残っているというので見せてもらったところ、『あなたのお宅に、伺います 代クリ部』とだけでかでかと書かれていた。これでは活動内容はおろか、部の名前も伝わらない。
「吾妻屋くん……これじゃあ何の部活なのか伝わらないよ」
「えー、そうかなぁ。いいと思ったのに」
 ポスターのレイアウトや語彙のチョイスは絶望的な総一郎だが、本人は気が付いていないらしい。「センスなさすぎ」と正直な感想を述べるには総一郎と関わるようになってから日が浅く、見なかったふりをするにしては重大な欠点のような気がする。
 だがなんにしろ、部活の存在をまずは生徒の皆に認知してもらわねばならない。
「そもそも、どうして私を入部――じゃなくて、仮入部させてくれたの? 見たとおり、私全然ゲーム上手くないよ」
 うっかり入部と言った莉愛にニヤリと笑った総一郎は、「じきに正式な部員になるんだから訂正しなくていいのに」と残念がった後、
「君のゲームプレイを見せてもらってわかった。確かに、お世辞にも操作が上手とはいいがたい。でもね、ゲーム初心者の気持ちに寄り添えるのはやっぱり初心者なんだよ」
「えーっと、つまり?」
「つまり、ゲームのミッションに行き詰った経験が豊富な君は、依頼者の気持ちがよく分かる。君のアドバイスとオレのゲームテクを合わせたら最強なんじゃないかってね」
「なるほど。そう言われると説得力あるかも」
「だろ~?」と総一郎は得意顔になったが、「でも私、人にアドバイスする前に自分のプレイの何がいけないのかもよく分かってないよ」と正直な疑問をぶつける。
「それはまあ追々練習していくってことで、活動のある日は毎日オレが見てあげるよ」
 ともかく『ゲーム代行クリア部』の当面の課題は部の認知度を上げる事だね、と総一郎は神妙な顔で頷いた。
 部長の総一郎と同じクラスの莉愛が部の存在を知らない時点でかなりマイナーなことは察せられる。
「部の知名度が上がれば、おのずと依頼も入ってくることになるってわけか。流石だね、莉愛さん」
「むしろ今までなんで思いつかなかったの……?」
 部長のちゃらんぽらん具合が心配だが、褒められて嫌な気はしない。
(むしろ、嬉しい)
 学校生活で喜びを感じるのは何時ぶりだろうか。見た目だけはアンニュイな美少年な吾妻屋におだてられ、莉愛の地を這うような自尊心が少しだけ回復する。
 今の時期は一年生が入部してくる春はとっくに過ぎている。新入部員を勧誘するには遅すぎる時期だが、総一郎達は現在高校三年生だ。下級生を入れなければ、自分達の代で部が消滅してしまう。
「活動実績のない部に入ってみようなんて類まれな子は莉愛さんくらいかもしれないし……。ここは君が入部してくれた方法と同じ手を使って――」
「ダメだよ」
 珍しく語気を強めた莉愛に、総一郎はきょとんとした。
「私の時と同じ手、ってことは未来の入部候補の人の家に行ってどんなゲームプレイだろうが褒め倒して入部させるってことでしょ」
「そんな棘のある言い方しなくてもいいだろう。別にオレは、いい加減な気持ちで莉愛さんを褒めたんじゃないぜ。気に行ったのはホントなんだから」
「……本当はどこを気に入ったの?」
「破天荒なプレイスタイル。スナイパーに火炎放射器で立ち向かうとか面白すぎるよ」
 それは忘れてよ、と恥ずかしくなって莉愛は顔を覆った。
 初心者丸出しのプレイスタイルを無理に褒められても嬉しくない。
「まあでもオレ達、足りないものを補いあういいコンビになれると思うぜ」
 今からの活動は、莉愛さん参加の記念すべき部活一回目だ。菓子でも買ってパソコン部のメンツと歓迎会をしよう、と恐ろしい提案をする総一郎を莉愛は必死で止めた。
「き、気持ちはありがたいけど……。集団行動本当ムリだから、みんなではちょっと」
 そもそもパソコン部は場所を一部提供してくれているけど、全く別の部だ。突き合わせたら迷惑になってしまうんじゃない?と莉愛。
「あいつら女子に飢えてるから、迷惑とか思わないよ。同席するだけで嬉しがるって」
「それは、吾妻屋くんはそう思うんだろうけど」
「え~。じゃあオレと二人で歓迎パーティーでもする?」
  莉愛さんの部屋で、とあどけない笑みでそう告げた総一郎が良からぬことを企んでいるのに、莉愛はまだ気が付いていない……。






総一郎には二歳年下の妹がいる。それも有名人で、『星越シズカ』という芸名で人気グラビアアイドルとして活躍していた。
 他校の女子高に通っているので生で総一郎の妹『シズカ』を見たことがない莉愛だったが、吾妻屋家の経営する和菓子屋にシズカの等身大パネルがあるという事は町でもネットでも有名なので知っていた。
 どうしてこんな事を書くのかと言うと、今現在莉愛はその吾妻屋家の家業である和菓子屋に連れてこられているからだ。
「莉愛さーん、何食いたい?」
 好きなだけ選んでいいいよ、オレの親父の店だし、と総一郎は学校指定のブレザー姿のまま和菓子屋の店内でこともなげに言う。
 みたらし団子のような艶々した茶色と深い抹茶色の二色で統一された和風な店内の装飾に圧倒されながら、莉愛はふるふると首を振った。
「い、いいよ。なんか悪いし、普通に買わせて」
「だーめ。自分ちの店でくらい威張らせてよ。
それに同級生が来るっていってあるし、マジに親父の奢りだから」
 ミルクティーブラウンの髪をかきあげ、金持ちムーブをする総一郎。
 つり目気味の蜂蜜色の瞳に悪戯っぽい笑みを浮かべ、にししと笑む。
 これ以上意地を張っても逆に失礼になりそうなので、莉愛は大人しく引き下がり目についたフルーツあんみつを指さした。
「オッケー、あんみつね。親父―、フルーツあんみつ二個包んで」
 「おうよ」と店の奥から親父と呼ばれた体格のいい初老の中年男性が出てくる。青い前掛けをつけた白髪の男が総一郎の父、吾妻屋十一郎である。
身長はさほど高くないが、体格がかっちりしていて存在感がある。顔はあまり総一郎に似ていない。母親似なのだろうか。
「うちの息子がいつもお世話に……」としわの刻まれた人の好さそうな顔で挨拶をする十一郎に莉愛も慌てて頭を下げた。
「こ、こちらこそお世話になっています……!」
 老舗の和菓子屋店主に頭を下げられるようなことを莉愛はした覚えがないが、商売をしている人は皆こんな調子なのかもしれないと思い直し、深々とお辞儀する。
 総一郎の家の和菓子屋に寄ってから莉愛宅でゲームの練習兼歓迎会をしようと言い出したのはもちろん彼の方だ。
 そう頻繁に家に来られてもな、と莉愛は渋ったが、「部長命令ね」と有無を言わせぬ笑みに言いくるめられ、先ほど選んだあんみつを持って莉愛の家に行く段取りであった。
「オレの部屋でやってもいいんだけどさー、女の子が家に来ると妹が滅茶苦茶詮索入れてきてうざいんだよな」
「妹って、『星越シズカ』だよね……? 彼女、お兄ちゃんっ子なの?」
「そーそー。オレの事スゲー好きでさぁ、ちょっと引くくらい。
今をときめく人気グラビアアイドルがブラコンってちょっとやばいよな」
 一緒にいて気づいたが、総一郎は教室にいる時の方が口調が穏やかだ。おっとりして、ミステリアスな印象だった頃の総一郎が懐かしい。
 若干口が悪いのが彼の素らしく、店のイメージを損なわない様に大人しくしている様母親から口を酸っぱくして言われているらしい。
 今のような放課後や母親のいない場所では自分らしさが出せてホッとする、と色素の薄い睫毛を瞬かせて総一郎は口を開いた。
「後ろにあるパネルが妹ね。オレと似てるっしょ」
 総一郎が指さした先は、莉愛の立っている会計の近くだ。総一郎とそっくりの美少女が若草色のフリルのついた給仕エプロン姿で微笑んでいる大きなパネルが立っている。
 彼女が『星越シズカ』か。莉愛は興味津々でパネルを見つめた。
 等身大パネルだとしたら一五〇センチ程度だろうか。
 エプロンごしでも目立つ豊満な胸を突き出し、艶っぽい笑みを浮かべている。
 白みがかったミルクブラウンの髪に、総一郎と瓜二つの蜂蜜色の大きな目を長い睫毛が縁どっている。ぷっくりとした涙袋は兄の総一郎とお揃いなので、メイクでなく天然らしい。
 おまけにバラ色の頬にツンと尖った小さな鼻、ぽってりした赤い唇と非の打ちどころのない顔のパーツが揃っている。
 同世代の女子が羨むこと間違いなしの愛らしさをそなえた美貌の持ち主。
 それが総一郎の妹、シズカだった。
 同世代の憧れをこめた眼差しで彼女のパネルを見つめていると、総一郎が「そのパネルと記念撮影OKだぜ」とからかうように言う。
「え、撮っていいのっ?」
「あー……うん。冗談だったんだけど、ほら、一応リアル兄もいるし」
 アイドルのパネルより本人の実の兄がここにいんだけど、と呟いた総一郎の声をかき消すようにスマホのシャッター音がパシャパシャと鳴った。
 莉愛がスマホのカメラで静花のパネルを連写した音である。
「ねぇ、作りもののパネルよりオレの方がよくない? つーか莉愛さん妹のこと好きなの?」
 むっとした様に頬を膨らませた総一郎はシズカのトレードマークの長い巻き髪を短く擦ればそっくりなのだが、やはり本人のパネルには及ばない。
「好きな漫画家さんの読み切り目当てで少年誌を買ったとき、星越シズカのグラビアが載ってて、それから密かに好きなの」
 莉愛が赤面しつつもしょもしょとそう告白すると、総一郎は面白くなさそうな顔をした。
「へー。女子がグラドル好きって珍しいな」
「へ、変な意味で好きなんじゃないから。顔とか仕草とか、年下とは思えないくらい艶っぽくて、それで気になって」
「オレも大体同じ顔だと思うけど?」と総一郎。妹ばっかり褒めないでオレも褒めてよと訴えかけられている気がする。何故張り合うのか、莉愛は疑問だった。
 莉愛があいまいに言葉を濁すと、「もういいや」と総一郎はむくれた顔のまま店の出口に向かっていく。
「お、お邪魔しました!」
 慌てて莉愛も総一郎の後に続き店を出ると、後ろから店主の「ご来店ありがとうございましたぁ!」と野太い声が響いた。


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