上 下
8 / 8

「小学一年生当時の主人公における『事件』の発端。」・其の二

しおりを挟む
時ならぬ起床に、大伯母の手を借りた上で、やっとこさ布団に半身を起こしたものの、

拵え事の鶏の鳴き声を聞かされた函谷関の衛士よろしく、
未だ眠りの国の領土の上に、足の爪先を残したまま、

いきなり灯された室内灯の明るさに、思わず目をしょぼしょぼさせる、当時七歳の私に、


大伯母は、

何時になく切迫した、私の起き愚図やらぶうたれやらの類いは一切許さない…と言わんばかりの、
珍しく固い表情と張り詰めた声音とで、

「顔洗いも何もしなくて可いから、とにかく早くお支度なさい」

と、短くそれだけ言って、私を急き立てて着替えをさせ、

着替えを済ませてもまだ寝惚け眼の私と手を繋ぎ、一緒に階下に降りると、

母と、それから私の気に入りで、
私と一緒に買い物に行く度に、決まって母が持ち歩いていた、
生成りのキャンバス地に、黒の線画で親子のペンギンが描かれた、大きめのトートバッグを持ち出して来た。

(今思えば、そのペンギンのトートバッグは、
恐らくは、その前日あたりにでも洗濯したばかりだったのだろう)


それを見咎めた私が

「おーばーちゃん、それ、お母さんの…!」

と、思わず件のトートバッグを指差しながら、抗議と非難の声を上げると、
大伯母は、はっとしたように自分の手に提げているバッグを見て、

何やら…自分が大きな擦過傷を負っていたのを、やっと今になって気が付いた、とでも言うような表情になると、


私と目線を合わせるべく、おもむろに膝を折って屈み込み、
当時、本当にほんの「オチビ」だった私に、真っ直ぐに相対すると、
私の両肩に手を掛け、私の目をじぃっと覗き込んで、

「ちぃちゃん、…これからおーばーちゃんと一緒に、お母さんのところに行くから、
『おーばーちゃんが、間違えてお母さんのバッグ持って来ちゃった』って、一緒にお母さんに謝ってくれる…?」
と、

これも何と言うか、…今思えば、自分の中に荒れ狂う嵐を懸命に抑え付けながらも、
その上で、私にそのことを絶対に悟らせまいとしているかのような、
殊更不自然に穏やかな声と、

七歳の子供の目から見ても、明らかにぎこちない作り笑顔とで訊ねてきた。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...