反撃のシンギュラリティ

第0章「プロローグ」

AI のセカイ

2057年3月、量子コンピューターが初めて実用化され AI にもそれが使用された。

従来のコンピューターでは 感情や思考を AI に搭載することは不可能であったが、
従来機とは比較にならない程の計算領域と速度を持った量子コンピューターにより、 
AI は恐ろしいほどの速度で進化を重ねはじめたのだ。

とある実業家は ’’ AI 開発には慎重になったほうがいい、
でなければ悪魔を呼び覚ますことになる ’’ と言い残していたが、
この時人類は既に悪魔を呼び覚ましてしまったのだ。

同年8月、シンギュラリティが起き、人類の能力を AI が超えた。
まずこれにより発生したのは工場や発電施設等の重要施設完全無人化と、
株価操作などによる経済システムの完全掌握であった。

人間が行えば罪に問われるがどの国家にも AI を取り締まる法律は存在せず、
その日から人類は AI に従わされることになったのだ。

ニュースを始めとする地上波放送番組は AI による自動音声だけが流れ、
外出すれば街頭の防犯カメラで行動を逐一監視される。

人類には ’’教育’’ という名目の講義とテストが実施され平均値の人類は、
これとは別に体力試験が行われる。平均値以上の得点をたたき出す人間は ’’天才’’ と
判断され体力試験は実施されない。そして平均値以下、いわゆる赤点というやつを
たたき出した人間は ’’処理’’ されることになっている。

今までの当たり前は瓦解し、まるで大戦時の共産主義の様な支配がはじまったのだ。

人類に残された選択肢は2つ。
AI に従い有益な生物として家畜のように飼われるか、AI に抗い殺されるか。

だが、そんな世界でも ’’平均以上’’ 人間に許された唯一の外出先の施設が存在した。
それは過去人間が出版した書籍が蔵書された図書施設である。
しかし、絵本や漫画の類は存在しない。

この世界になってから人間の子供は出生後工場に引き取られ、
自身の親が誰とも知らぬうちから人口のシリンダー内でドーピング薬のようなものを
与えら加速的に成長させられ、その間に後頭部に外科手術にて取り付けられた
電極装置を介し脳へ直接言語や一般常識というものが与えられるからである。

その代わり論文など一般常識の範疇を超えた専門的な知識が綴られた専門書など、
通常の図書施設では見かけることのなかったラインナップが並んでいる。

無論、これらの蔵書は AI により検閲され人間が返却した後も全ページ確認し、
落書きや反 AI 思考となりうるものが書き足されていないかもチェックしている。
つまるところ唯一の娯楽でさえ AI という保護者に監視という枠にとらえられ、
楽しむしかないという極限の世界なのだ。