125 / 138
第三部 第五章 微光
9.デッドライン
しおりを挟む
20XX年6月29日(土)
ギルフォードは紗弥も由利子も連れず、一人感対センターにやってきた。何故か千夏の病状が気になったからだ。
千夏の病室の前に行くと、既に夫の巽が来ていた。
「おはようございます、カワベ・タツミさんですね」
いきなり西洋人に話しかけられ、巽は少し戸惑いながら言った。
「はい。えっとあなたは……、ひょっとしてギルフォード先生ですか」
「はい、そうです。はじめまして」
「妻を力づけてくださったそうで、ありがとうございました」
「奥さんの様子はいかがですか?」
「まだ子宮からの出血が止まらなくて定期的に輸血しているそうですが、今日は朝から容態は安定しているようです。実はさっきまで気分もよさそうで、しばらく話をしていたんですが、疲れたのかまた眠ってしまいました」
「赤視のほうは……?」
「幸い、未だその症状は出ていません。でも、妻の病状は、特に変わっているみたいですが、ひょっとしてウイルス変異の可能性があるのでは?」
「他の患者さんも人によっては病状が違っていましたから、一概には言えないと思いますが……」
変異についてはまだ推測の域を出ていないため、ギルフォードは歯切れの悪い返事をするしかなかった。変異があろうが無かろうが、治療法がない限りはたいして違いはない。しかし、変異のあった場合、いずれ厄介なことになるだろうことの予測はついた。巽はそれがわかってか、不安そうに妻の方を見た。
今日は久々に朝から日が差しているので、すかさず由利子は洗濯にいそしんでいた。この際と思い、夏用の毛布を洗濯機にぶち込み、さて一息してコーヒーでも飲もうかと思った時、電話が鳴った。送信者を見ると黒岩だった。おや、どうしたのかなと思い、電話に出た。
「はい、篠原です」
「黒岩です。あの……」
何となく声が暗いように思えた。なんとなく何か起きたなと直感した由利子はやや慎重に訊いた。
「黒岩さん、ご無沙汰しています。えっと、どうかされたんですか?」
「うん……。あのね、昨日辞表出してきたと」
「えっ?」
「ごめんね。せっかく篠原さんが……。悪いなと思って黙っておこうと思ったやだけど、やっぱりちゃんと伝えた方がいいと思ってさ」
「どうして?」
「この前、篠原さんに古賀課長が亡くなったって電話したやろ? 新種ウイルスの感染かもしれんって。で、篠原さんが知り合いの教授に伝えてくれた……」
「うん。先週の月曜だっけ……。そうそう、駅で感染者が死んだ日でしたね」
「あの翌日ね、保健所の方が来て、社員全員に問診してね、その後課長の家にも立ち入り検査があったらしいけど、結局様子を見るということになって……。でも、どこからか、ウチの会社からS-hfウイルス患者が出たってっていう噂が広がってしまってから……。それでね、何でか私が篠原さんに言ったから保健所が来たって言うことがバレて……」
「え? 私、教授には会社の人から聞いたとしかいってないよ!」
「うん。多分私とあなたが親しかったから立った推測でしかないと思うけど……」
「でも、やっぱり変でしょ。私、元会社には今どこに勤めているかなんて言ってないし」
「この前、週刊誌でサイキウイルス特集しとったやろ。あれ買った人が、写真に篠原さんらしい人が写っているって言って、ちょっとした騒ぎになったっちゃん。多分、そのせいやと思う」
「う~ん、私、テレビなんかでコンプラの目線とか入ってるのを見て、いつも『こんなん、知り合いや身内が見たらわかるやん』とか言ってたけど、やっぱりねえ」
「なん、妙なところに納得しとぉと」
「ああ、すみません。私もあれ読んだけど、ひどい記事でしたねえ」
「ほんとやね。……それで、その推測が的を射ているだけになんか会社に居づらくなって……」
「ええ? そんな馬鹿なこと……」
「私もそう思う。でもね、篠原さんが思っている以上に、あのウイルスについては過剰反応する人が少なからずいるってことよ。営業に影響が出たのは事実なんやし」
「ごめんなさい。私、考えなしだったかも……」
「いいとよ。私もあの時、そのつもりで電話したっちゃけん」
「で、これからどうされるんです?」
「どうしようもなくなって、とうとう長野にいる夫の両親に相談したと。そしたらウイルスのこともあるし、親子でこっちに疎開して来なさいって言ってくれたと。それで、踏ん切りがついて辞表を出すことに決めたっちゃん」
由利子はそれを聞いて、そんなことなら急いだ方がいいと思った。ウイルス禍が深刻になれば、転校先で肩身の狭い思いをするかもしれない。
「それなら早くした方がいいと思います」
「うん。とりあえず、娘の転校手続きをして先に長野に行かそうと思っとるんやけど」
「黒岩さんは?」
「残務が残っとるし、課長が亡くなってから二週間経って、保健所から多分大丈夫だろうと言われたけど、もう少し様子見ようと思うから、少し遅れて行くことになるやろうね」
「そっか。でも、娘さんが不安だと思うから、出来るだけ早く行ってあげてください」
「うん。そうするつもり」
「長野なら、気楽に会えなくなりますね。寂しくなるなあ……」
「こんど、遊びにおいで。長野、いっぱいいいとこあるから」
「うん、そうしますね」
由利子はその後黒岩と少し世間話をして電話を切った。意外と長話をしていたらしく、毛布の洗濯はすでに終わっていた。
感対センターのエントランスの前に、強面の男たちが並んでおり、異様な雰囲気を醸し出していた。
すでにセンターは一般診療を中止し、サイキウイルス対応に特化しており、訪れる者も隔離されている人たちの関係者くらいなのだが、それでも数人が怖ろしそうに、あるいは胡散臭そうにして傍を通って行った。当然、センターのスタッフたちも戦々恐々としていた。
しばらくすると、中から若い女性が後ろに医師や看護師を従えたような形で出てきた。それを認めると、男たちはいっせいに姿勢を正した。女性は竜洞蘭子だった。友人二人が発症したために、森田健二との接触から一週間過ぎていたが念のために今日まで隔離されていたのである。
蘭子はエントランス前でスタッフの方を向き、ざっと面子を確認したが、目に若干落胆の色を見せた。その後、軽くため息をつき姿勢を正して言った。
「お世話になったわね」
彼女はスタッフたちに向かって言った後、高柳の横に立っていた山口の方を向いた。
「あなたには本当にお世話になったわ。父が怒ってるようだけど、この病院には絶対にあり手出ししさせないからから安心して。では、センター長、みなさん、ごきげんよう」
「ああ、二度と戻って来るんじゃないぞ、ですよ」
高柳が飄々として答えた。周囲は固まったが、蘭子は一瞬眉を寄せたあとくすっと笑って言った。
「あのね、刑務所から出ていくんじゃないんだから。まあ、二度と来たくないけどね」
そういうと、彼女は踵を返しドアの外に出た。
「お嬢さん、お帰りなさいませ!!」
男たちはそう言うと一斉に頭を下げた。
「もう、いいから。ほんとにもう、まるで出所したみたいだねえ。行くよッ」
蘭子はバツの悪そうにしながら男たちを引き連れて去って行った。彼女の姿が見えなくなると、スタッフたちは緊張がほぐれて言った。
「はあ、やっと行った~」
「まったく、あのわがまま娘は~」
「高柳先生、よくあの状況であんなこと言えましたね」
「ほんと、そうですよ」
高柳は看護師たちに向かって、ふふっと不敵な笑みを浮かべて持ち場に戻って行った。
「さ、私たちも戻るわよ」
山口はそう言った後、ちらと蘭子去って行った方を見ると、病棟の方に向かった。
山口が持ち場に戻るために廊下を急ぎ足で歩いていると、院内アナウンスがセンター内に響いた。
「山口先生、至急スタッフステーションまでお戻りください。繰り返します……」
「何かあったのかしら?」
山口はつぶやくと、駈け出した。すると前方に看護師が一人走ってくるのが見えた。
「先生っ、居たっ!」
「どうしたの? 何かあったの?」
「はい、河部千夏さんの容体が急変して……」
「え? 今日は朝からわりと安定していたのよ。それに赤視もまだ始まっていないのに?」
「私たちもそう思っていましたが、先ほど急に苦しみ始めて……。今、三原先生や敏江先生も他の患者さんの容体が悪化して手が離せないので急いでください」
「わかった。急ぎましょう」
山口は全力で廊下を駆けて行った。山口が千夏の病室の前に駆けつけると、巽が床に直に座り込んで、何かに祈るように手を合わせて何かブツブツと言っており、病室ではギルフォードが必死で心臓マッサージをしていた。
千夏の容体が安定しているので、ギルフォードはとりあえず大学に戻ることにした。病室には甲斐をはじめ三人のスタッフがいたので、彼らにも戻ることを告げドアの方に向かおうとしたその時、巽が彼を呼び止めた。
「ギルフォード先生、待ってください。千夏の様子が何か変です」
「変?」
ギルフォードは首をかしげながら振り返り病室の様子を見た。すると、さっきまで落ち着いて眠っていた千夏が、かすかに痙攣している。ギルフォードの脳裏に多美山の最後の発作が起きた時の状況がよぎった。
「まさか……」
と、ギルフォードがつぶやいた次の瞬間、千夏が全身を引きつけた。口から血があふれ、ベッドの腰のあたりからも血がにじんで床にしたたり落ちた。ギルフォードが愕然としてつぶやいた。
“放血? 馬鹿な! 早すぎる!!”
その時、千夏に駆け寄ろうとした甲斐が、他の看護師に突き飛ばされた。
「寄らないで! あんた、何する気よ!!」
突き飛ばされた甲斐は、床にそのまま座り込んでしまった。突き飛ばされた衝撃以上に仲間の言動が数倍のショックを与えたのだ。ギルフォードはそれを見た途端、駈け出していた。夢中で防護服を身に着け千夏の病室に入ると、生体モニターの心拍数の線形がすでに平坦になって、血圧計の数字がどんどん下がっていた。巽は、窓にすがりつくようにして千夏の名を何度も叫んでいた。
”くそっ、心肺停止だって? 馬鹿な!!”
ギルフォードは思わず自国語で叫んだ。看護師たちが動揺してざわめいている。
「この子よ! この子がまた何かやったんだわ!」
「そうだよ、さっきまで全然落ち着いてたんだ!」
「違います! 私、何も変なことしていません!!」
甲斐は、蒼白になりながらも必死で否定した。ギルフォードは千夏の傍に駆けつけ、脈拍や呼吸の確認をしていたが、顔を上げるなり怒鳴った。
「そんなことより、今はすることがあるでしょう!! 心肺停止状態ですが、まだ間に合います!」
彼は言うや否や、心臓マッサージを始めた。
山口は、千夏の病室に飛び込んだ。
「ギルフォード先生、すみません。替わります」
「お願いします」
担当医師が帰って来たので、ギルフォードは山口に後を頼んだ。
「除細動器お願い! 千夏さん、聞こえる? がんばって」
山口はそう叫びながら心臓マッサージを始めた。自由になったギルフォードは少し余裕が出て、窓にへばりついている夫の巽の方を見た。このままでは彼の方まで死んでしまうのではないかという程蒼白な顔で、ガタガタと震えている。ギルフォードは内線のマイクを取ると言った。
「誰か、カワベ・タツミさんのケアをお願いします!」
「僕はいいですから、千夏を、千夏を助けて……」
河部は懇願するように言った。その巽の横に高柳の姿が見えた。千夏の容体の変化を聞いて駆けつけてきたのだ。
「河部さん、しっかりしてください。今は、ウチのスタッフにすべてを任せて!」
「は、はい、僕は大丈夫です」
高柳は巽を励ますと、スタッフの方を見て言った。
「どんな状況だ?」
それに対して、ギルフォードが答えた。
「つい、十分くらい前まで静かに眠っておられたのですが、急に発作が起こっていきなり痙攣を始めたと思った矢先に放血が始まりました。僕がかけつけた時にはすでに心停止の状態でしたので、すぐに心臓マッサージを行いました。おそらく心停止直後だと思います」
「それまでの病状は?」
これに対しては、山口が心臓マッサージを続けながら報告した。
「昨日の容体悪化を脱してからずっと落ち着いていて、会話も可能な程度には持ち直していました。赤視も朝の診察時ではまだ起きていませんでした。申し訳ありません。私が油断したばかりに……」
「私もおそらくそう判断しただろう。だが、今それを気に病んでも仕方が無い。とにか蘇生の可能性に賭けるんだ」
「はい!」
山口は力強く答えた。
「先生、除細動器のパッドを……」
と、甲斐が言いかけると、横の看護師が言った。先ほど甲斐を突き飛ばした女性だ。
「あなたは傍に寄らないで。何かあった時に疑われるわよ」
「山本さん、今、そんなことは気にしないでいいから。甲斐さん、パッドをお願い」
「あ……ありがとうございます」
甲斐は、少し声を震わせて言った。
「通電するわ、みんな離れて!」
バン! という音がして、千夏の身体がはねた。しかし、ベッドサイドモニターの波形に変化はない。二分後に二度目を行ったが、やはりフラットなラインは乱れもしなかい。ギルフォードと山口は交代で心臓マッサージを行い、除細動器での蘇生を繰り返した。しかし、十分以上経過しても千夏の生体情報モニターの心電図波形はピクリとも動かなかった。
時間の経つにつれ、スタッフの間に無力感が広がっていった。既に何人もの発症者を看護したにも関わらず一人たりとも救うことが出来ず、疲れ切った彼らがそういった反応をするのは無理からぬことかもしれない。そうして遂に看護師の一人が弱音を口に出した。
「こんなの無駄だよ。この病気を発症したら助からないんだろ……。それならもうこのまま……」
「バカなことを言わないでください!!」
そう怒鳴ったのは、山口やギルフォードでなく甲斐看護師だった。彼女は他の看護師たちが無気力に動く中、一人でてきぱきと山口の指示に従っていた。
「私は自分に負けて亜由美さんを死なせてしまったけど、千夏さんには亜由美さんの時より何倍も生還出来る希望があるわっ。体力だってまだあるし、赤視だってはじまっていない! 私はあきらめない!」
「甲斐さんの言うとおりよ。このままCPRを続けるわ。せめてあと十五分、みんな、力を貸してちょうだい」
山口は心臓マッサージを続けながら言った。
「千夏さん、頑張って! 旦那さんが泣いているわ、お願い、戻って! 戻れッ!!」
それが聞こえたかのように、千夏の心電図波形が一瞬動いた。しかし、それはすぐにフラットに戻った。
「くそっ、ボスミン追加投与!」
「トモさん、代わります。今からは僕に任せて」
と、ギルフォードが言った。
「大丈夫よ!」
「いえ、ムリしないで。それより、トモさんは的確な指示に集中してください」
ギルフォードの後押しするように高柳も言った。
「ギルフォード君の言うとおりにしたまえ。ここで体力を使い切ってはいけない。」
「わかりました」
高柳の一声に、山口はしぶしぶギルフォードと交代した。
感対センタースタッフとギルフォードは、千夏の蘇生を続けた。まだ赤視が起こっていないという事実だけが、彼らの一筋の望みだった。
しかし、時が経つにつれ、彼らの頭の中でじわじわと不安が頭をもたげていった。ひょっとしたら、赤視の症状が出ないタイプなのではないだろうか、いや、そもそも本当に赤視は起こっていなかったのか、いや、あるいはインフルとの感染で起きた劇症化なのではないか……。病室にあきらめの空気が漂い始めてきた時、千夏の心電図に弱いながら波形が現れた。それは数秒でフラットに戻ったが、皆の気持ちに微かな希望を与えた。
「もう一回電気ショックを与えます」
と、山口が言った。
「離れて!」
山口の合図で皆が千夏から離れると、すぐにバンと言う音と共に千夏が跳ねた。しかし、相変わらず変化はない。やはりだめかと思い、ギルフォードが心臓マッサージを再開しようとした時、心電図に波形が現れた。看護師たちが歓声を上げた。お互い肩を叩きあって喜びを分かち合っている。その中には甲斐看護師の姿もあった。
「トモさん!!」
「ええ、ええ!」
ギルフォードと山口の顔にもようやく笑顔が浮かんだ。戻った心電図の波形はかなり力強く感じられた。それと共に血圧が戻りつつあった。窓の向こうで巽が高柳におずおずと尋ねた。
「あの、千夏は……?」
「意識は戻りませんでしたが、何とか蘇生には成功したようです。まだしばらくは予断を許せない状態ではありますが……」
高柳の説明を聞いて、巽はへなへなとその場に座り込んだ。
「はああ……。千夏、千夏、良かったなあ……」
「さあ、河部さん。奥さんに声をかけてあげてください」
と、高柳が巽に促した。巽は高柳に支えられながら立ち上がり、再び病室に向かった。
「あの、何て言ったらいいのか……」
「何でもいいです。話しかけてあげてください。旦那さんの声になら反応するかもしれません」
「はい」
巽は少し緊張した面持ちで、マイクに向かって言った。
「千夏、千夏、僕だ、聞こえるかい?」
呼びかけに返事はなかったが、巽には顔を少し自分に向けたような気がした。
「頑張ったね、千夏。戻ってくれてありがとう……。ごめんな、僕のせいでこんな、こんな……」
それ以上、続かなかった。涙で何も言えなくなったからだ。彼はとうとう声を上げて泣き始めた。その声がマイクを通じて病室にも届いた。
「先生、千夏さんが!」
甲斐が千夏の方を見ながら言った。ギルフォードと山口も千夏の顔を見て驚いた。まだ意識の戻っていない筈の千夏の左目から一筋の透明な涙が流れていた。
「ただの反射かもしれないけど、ひょっとしたら聞こえているのかもしれないわ」
「とりあえずは危機を脱したみたいですね。このまま持ちこたえてくれたら……」
「ええ。千夏さんは私たちの希望ね」
山口はそういうと、巽に向かって告げた。
「千夏さんが、今、涙を流されました。あなたの呼びかけが聞こえたのかも知れません」
「千夏が涙を……」
巽は答えたが、涙腺が崩壊したのか再び語尾が涙に詰まった。ギルフォードが少し悪戯っぽい口調で言った。
「チナツさんが心配します。もう泣いちゃダメですよ」
「は、はいっ。あのっ、先生方看護師さん方、ありがとうございますっ! お礼が遅くなって申し訳ありませんでした!」
巽は生真面目な営業職らしく、ほぼ九十度の角度で礼をしながら言った。彼はその姿勢を、高柳がもういいからと促すまで続けた。
(「第3部 第5章 微光」 終わり)
第三部:終わり
ギルフォードは紗弥も由利子も連れず、一人感対センターにやってきた。何故か千夏の病状が気になったからだ。
千夏の病室の前に行くと、既に夫の巽が来ていた。
「おはようございます、カワベ・タツミさんですね」
いきなり西洋人に話しかけられ、巽は少し戸惑いながら言った。
「はい。えっとあなたは……、ひょっとしてギルフォード先生ですか」
「はい、そうです。はじめまして」
「妻を力づけてくださったそうで、ありがとうございました」
「奥さんの様子はいかがですか?」
「まだ子宮からの出血が止まらなくて定期的に輸血しているそうですが、今日は朝から容態は安定しているようです。実はさっきまで気分もよさそうで、しばらく話をしていたんですが、疲れたのかまた眠ってしまいました」
「赤視のほうは……?」
「幸い、未だその症状は出ていません。でも、妻の病状は、特に変わっているみたいですが、ひょっとしてウイルス変異の可能性があるのでは?」
「他の患者さんも人によっては病状が違っていましたから、一概には言えないと思いますが……」
変異についてはまだ推測の域を出ていないため、ギルフォードは歯切れの悪い返事をするしかなかった。変異があろうが無かろうが、治療法がない限りはたいして違いはない。しかし、変異のあった場合、いずれ厄介なことになるだろうことの予測はついた。巽はそれがわかってか、不安そうに妻の方を見た。
今日は久々に朝から日が差しているので、すかさず由利子は洗濯にいそしんでいた。この際と思い、夏用の毛布を洗濯機にぶち込み、さて一息してコーヒーでも飲もうかと思った時、電話が鳴った。送信者を見ると黒岩だった。おや、どうしたのかなと思い、電話に出た。
「はい、篠原です」
「黒岩です。あの……」
何となく声が暗いように思えた。なんとなく何か起きたなと直感した由利子はやや慎重に訊いた。
「黒岩さん、ご無沙汰しています。えっと、どうかされたんですか?」
「うん……。あのね、昨日辞表出してきたと」
「えっ?」
「ごめんね。せっかく篠原さんが……。悪いなと思って黙っておこうと思ったやだけど、やっぱりちゃんと伝えた方がいいと思ってさ」
「どうして?」
「この前、篠原さんに古賀課長が亡くなったって電話したやろ? 新種ウイルスの感染かもしれんって。で、篠原さんが知り合いの教授に伝えてくれた……」
「うん。先週の月曜だっけ……。そうそう、駅で感染者が死んだ日でしたね」
「あの翌日ね、保健所の方が来て、社員全員に問診してね、その後課長の家にも立ち入り検査があったらしいけど、結局様子を見るということになって……。でも、どこからか、ウチの会社からS-hfウイルス患者が出たってっていう噂が広がってしまってから……。それでね、何でか私が篠原さんに言ったから保健所が来たって言うことがバレて……」
「え? 私、教授には会社の人から聞いたとしかいってないよ!」
「うん。多分私とあなたが親しかったから立った推測でしかないと思うけど……」
「でも、やっぱり変でしょ。私、元会社には今どこに勤めているかなんて言ってないし」
「この前、週刊誌でサイキウイルス特集しとったやろ。あれ買った人が、写真に篠原さんらしい人が写っているって言って、ちょっとした騒ぎになったっちゃん。多分、そのせいやと思う」
「う~ん、私、テレビなんかでコンプラの目線とか入ってるのを見て、いつも『こんなん、知り合いや身内が見たらわかるやん』とか言ってたけど、やっぱりねえ」
「なん、妙なところに納得しとぉと」
「ああ、すみません。私もあれ読んだけど、ひどい記事でしたねえ」
「ほんとやね。……それで、その推測が的を射ているだけになんか会社に居づらくなって……」
「ええ? そんな馬鹿なこと……」
「私もそう思う。でもね、篠原さんが思っている以上に、あのウイルスについては過剰反応する人が少なからずいるってことよ。営業に影響が出たのは事実なんやし」
「ごめんなさい。私、考えなしだったかも……」
「いいとよ。私もあの時、そのつもりで電話したっちゃけん」
「で、これからどうされるんです?」
「どうしようもなくなって、とうとう長野にいる夫の両親に相談したと。そしたらウイルスのこともあるし、親子でこっちに疎開して来なさいって言ってくれたと。それで、踏ん切りがついて辞表を出すことに決めたっちゃん」
由利子はそれを聞いて、そんなことなら急いだ方がいいと思った。ウイルス禍が深刻になれば、転校先で肩身の狭い思いをするかもしれない。
「それなら早くした方がいいと思います」
「うん。とりあえず、娘の転校手続きをして先に長野に行かそうと思っとるんやけど」
「黒岩さんは?」
「残務が残っとるし、課長が亡くなってから二週間経って、保健所から多分大丈夫だろうと言われたけど、もう少し様子見ようと思うから、少し遅れて行くことになるやろうね」
「そっか。でも、娘さんが不安だと思うから、出来るだけ早く行ってあげてください」
「うん。そうするつもり」
「長野なら、気楽に会えなくなりますね。寂しくなるなあ……」
「こんど、遊びにおいで。長野、いっぱいいいとこあるから」
「うん、そうしますね」
由利子はその後黒岩と少し世間話をして電話を切った。意外と長話をしていたらしく、毛布の洗濯はすでに終わっていた。
感対センターのエントランスの前に、強面の男たちが並んでおり、異様な雰囲気を醸し出していた。
すでにセンターは一般診療を中止し、サイキウイルス対応に特化しており、訪れる者も隔離されている人たちの関係者くらいなのだが、それでも数人が怖ろしそうに、あるいは胡散臭そうにして傍を通って行った。当然、センターのスタッフたちも戦々恐々としていた。
しばらくすると、中から若い女性が後ろに医師や看護師を従えたような形で出てきた。それを認めると、男たちはいっせいに姿勢を正した。女性は竜洞蘭子だった。友人二人が発症したために、森田健二との接触から一週間過ぎていたが念のために今日まで隔離されていたのである。
蘭子はエントランス前でスタッフの方を向き、ざっと面子を確認したが、目に若干落胆の色を見せた。その後、軽くため息をつき姿勢を正して言った。
「お世話になったわね」
彼女はスタッフたちに向かって言った後、高柳の横に立っていた山口の方を向いた。
「あなたには本当にお世話になったわ。父が怒ってるようだけど、この病院には絶対にあり手出ししさせないからから安心して。では、センター長、みなさん、ごきげんよう」
「ああ、二度と戻って来るんじゃないぞ、ですよ」
高柳が飄々として答えた。周囲は固まったが、蘭子は一瞬眉を寄せたあとくすっと笑って言った。
「あのね、刑務所から出ていくんじゃないんだから。まあ、二度と来たくないけどね」
そういうと、彼女は踵を返しドアの外に出た。
「お嬢さん、お帰りなさいませ!!」
男たちはそう言うと一斉に頭を下げた。
「もう、いいから。ほんとにもう、まるで出所したみたいだねえ。行くよッ」
蘭子はバツの悪そうにしながら男たちを引き連れて去って行った。彼女の姿が見えなくなると、スタッフたちは緊張がほぐれて言った。
「はあ、やっと行った~」
「まったく、あのわがまま娘は~」
「高柳先生、よくあの状況であんなこと言えましたね」
「ほんと、そうですよ」
高柳は看護師たちに向かって、ふふっと不敵な笑みを浮かべて持ち場に戻って行った。
「さ、私たちも戻るわよ」
山口はそう言った後、ちらと蘭子去って行った方を見ると、病棟の方に向かった。
山口が持ち場に戻るために廊下を急ぎ足で歩いていると、院内アナウンスがセンター内に響いた。
「山口先生、至急スタッフステーションまでお戻りください。繰り返します……」
「何かあったのかしら?」
山口はつぶやくと、駈け出した。すると前方に看護師が一人走ってくるのが見えた。
「先生っ、居たっ!」
「どうしたの? 何かあったの?」
「はい、河部千夏さんの容体が急変して……」
「え? 今日は朝からわりと安定していたのよ。それに赤視もまだ始まっていないのに?」
「私たちもそう思っていましたが、先ほど急に苦しみ始めて……。今、三原先生や敏江先生も他の患者さんの容体が悪化して手が離せないので急いでください」
「わかった。急ぎましょう」
山口は全力で廊下を駆けて行った。山口が千夏の病室の前に駆けつけると、巽が床に直に座り込んで、何かに祈るように手を合わせて何かブツブツと言っており、病室ではギルフォードが必死で心臓マッサージをしていた。
千夏の容体が安定しているので、ギルフォードはとりあえず大学に戻ることにした。病室には甲斐をはじめ三人のスタッフがいたので、彼らにも戻ることを告げドアの方に向かおうとしたその時、巽が彼を呼び止めた。
「ギルフォード先生、待ってください。千夏の様子が何か変です」
「変?」
ギルフォードは首をかしげながら振り返り病室の様子を見た。すると、さっきまで落ち着いて眠っていた千夏が、かすかに痙攣している。ギルフォードの脳裏に多美山の最後の発作が起きた時の状況がよぎった。
「まさか……」
と、ギルフォードがつぶやいた次の瞬間、千夏が全身を引きつけた。口から血があふれ、ベッドの腰のあたりからも血がにじんで床にしたたり落ちた。ギルフォードが愕然としてつぶやいた。
“放血? 馬鹿な! 早すぎる!!”
その時、千夏に駆け寄ろうとした甲斐が、他の看護師に突き飛ばされた。
「寄らないで! あんた、何する気よ!!」
突き飛ばされた甲斐は、床にそのまま座り込んでしまった。突き飛ばされた衝撃以上に仲間の言動が数倍のショックを与えたのだ。ギルフォードはそれを見た途端、駈け出していた。夢中で防護服を身に着け千夏の病室に入ると、生体モニターの心拍数の線形がすでに平坦になって、血圧計の数字がどんどん下がっていた。巽は、窓にすがりつくようにして千夏の名を何度も叫んでいた。
”くそっ、心肺停止だって? 馬鹿な!!”
ギルフォードは思わず自国語で叫んだ。看護師たちが動揺してざわめいている。
「この子よ! この子がまた何かやったんだわ!」
「そうだよ、さっきまで全然落ち着いてたんだ!」
「違います! 私、何も変なことしていません!!」
甲斐は、蒼白になりながらも必死で否定した。ギルフォードは千夏の傍に駆けつけ、脈拍や呼吸の確認をしていたが、顔を上げるなり怒鳴った。
「そんなことより、今はすることがあるでしょう!! 心肺停止状態ですが、まだ間に合います!」
彼は言うや否や、心臓マッサージを始めた。
山口は、千夏の病室に飛び込んだ。
「ギルフォード先生、すみません。替わります」
「お願いします」
担当医師が帰って来たので、ギルフォードは山口に後を頼んだ。
「除細動器お願い! 千夏さん、聞こえる? がんばって」
山口はそう叫びながら心臓マッサージを始めた。自由になったギルフォードは少し余裕が出て、窓にへばりついている夫の巽の方を見た。このままでは彼の方まで死んでしまうのではないかという程蒼白な顔で、ガタガタと震えている。ギルフォードは内線のマイクを取ると言った。
「誰か、カワベ・タツミさんのケアをお願いします!」
「僕はいいですから、千夏を、千夏を助けて……」
河部は懇願するように言った。その巽の横に高柳の姿が見えた。千夏の容体の変化を聞いて駆けつけてきたのだ。
「河部さん、しっかりしてください。今は、ウチのスタッフにすべてを任せて!」
「は、はい、僕は大丈夫です」
高柳は巽を励ますと、スタッフの方を見て言った。
「どんな状況だ?」
それに対して、ギルフォードが答えた。
「つい、十分くらい前まで静かに眠っておられたのですが、急に発作が起こっていきなり痙攣を始めたと思った矢先に放血が始まりました。僕がかけつけた時にはすでに心停止の状態でしたので、すぐに心臓マッサージを行いました。おそらく心停止直後だと思います」
「それまでの病状は?」
これに対しては、山口が心臓マッサージを続けながら報告した。
「昨日の容体悪化を脱してからずっと落ち着いていて、会話も可能な程度には持ち直していました。赤視も朝の診察時ではまだ起きていませんでした。申し訳ありません。私が油断したばかりに……」
「私もおそらくそう判断しただろう。だが、今それを気に病んでも仕方が無い。とにか蘇生の可能性に賭けるんだ」
「はい!」
山口は力強く答えた。
「先生、除細動器のパッドを……」
と、甲斐が言いかけると、横の看護師が言った。先ほど甲斐を突き飛ばした女性だ。
「あなたは傍に寄らないで。何かあった時に疑われるわよ」
「山本さん、今、そんなことは気にしないでいいから。甲斐さん、パッドをお願い」
「あ……ありがとうございます」
甲斐は、少し声を震わせて言った。
「通電するわ、みんな離れて!」
バン! という音がして、千夏の身体がはねた。しかし、ベッドサイドモニターの波形に変化はない。二分後に二度目を行ったが、やはりフラットなラインは乱れもしなかい。ギルフォードと山口は交代で心臓マッサージを行い、除細動器での蘇生を繰り返した。しかし、十分以上経過しても千夏の生体情報モニターの心電図波形はピクリとも動かなかった。
時間の経つにつれ、スタッフの間に無力感が広がっていった。既に何人もの発症者を看護したにも関わらず一人たりとも救うことが出来ず、疲れ切った彼らがそういった反応をするのは無理からぬことかもしれない。そうして遂に看護師の一人が弱音を口に出した。
「こんなの無駄だよ。この病気を発症したら助からないんだろ……。それならもうこのまま……」
「バカなことを言わないでください!!」
そう怒鳴ったのは、山口やギルフォードでなく甲斐看護師だった。彼女は他の看護師たちが無気力に動く中、一人でてきぱきと山口の指示に従っていた。
「私は自分に負けて亜由美さんを死なせてしまったけど、千夏さんには亜由美さんの時より何倍も生還出来る希望があるわっ。体力だってまだあるし、赤視だってはじまっていない! 私はあきらめない!」
「甲斐さんの言うとおりよ。このままCPRを続けるわ。せめてあと十五分、みんな、力を貸してちょうだい」
山口は心臓マッサージを続けながら言った。
「千夏さん、頑張って! 旦那さんが泣いているわ、お願い、戻って! 戻れッ!!」
それが聞こえたかのように、千夏の心電図波形が一瞬動いた。しかし、それはすぐにフラットに戻った。
「くそっ、ボスミン追加投与!」
「トモさん、代わります。今からは僕に任せて」
と、ギルフォードが言った。
「大丈夫よ!」
「いえ、ムリしないで。それより、トモさんは的確な指示に集中してください」
ギルフォードの後押しするように高柳も言った。
「ギルフォード君の言うとおりにしたまえ。ここで体力を使い切ってはいけない。」
「わかりました」
高柳の一声に、山口はしぶしぶギルフォードと交代した。
感対センタースタッフとギルフォードは、千夏の蘇生を続けた。まだ赤視が起こっていないという事実だけが、彼らの一筋の望みだった。
しかし、時が経つにつれ、彼らの頭の中でじわじわと不安が頭をもたげていった。ひょっとしたら、赤視の症状が出ないタイプなのではないだろうか、いや、そもそも本当に赤視は起こっていなかったのか、いや、あるいはインフルとの感染で起きた劇症化なのではないか……。病室にあきらめの空気が漂い始めてきた時、千夏の心電図に弱いながら波形が現れた。それは数秒でフラットに戻ったが、皆の気持ちに微かな希望を与えた。
「もう一回電気ショックを与えます」
と、山口が言った。
「離れて!」
山口の合図で皆が千夏から離れると、すぐにバンと言う音と共に千夏が跳ねた。しかし、相変わらず変化はない。やはりだめかと思い、ギルフォードが心臓マッサージを再開しようとした時、心電図に波形が現れた。看護師たちが歓声を上げた。お互い肩を叩きあって喜びを分かち合っている。その中には甲斐看護師の姿もあった。
「トモさん!!」
「ええ、ええ!」
ギルフォードと山口の顔にもようやく笑顔が浮かんだ。戻った心電図の波形はかなり力強く感じられた。それと共に血圧が戻りつつあった。窓の向こうで巽が高柳におずおずと尋ねた。
「あの、千夏は……?」
「意識は戻りませんでしたが、何とか蘇生には成功したようです。まだしばらくは予断を許せない状態ではありますが……」
高柳の説明を聞いて、巽はへなへなとその場に座り込んだ。
「はああ……。千夏、千夏、良かったなあ……」
「さあ、河部さん。奥さんに声をかけてあげてください」
と、高柳が巽に促した。巽は高柳に支えられながら立ち上がり、再び病室に向かった。
「あの、何て言ったらいいのか……」
「何でもいいです。話しかけてあげてください。旦那さんの声になら反応するかもしれません」
「はい」
巽は少し緊張した面持ちで、マイクに向かって言った。
「千夏、千夏、僕だ、聞こえるかい?」
呼びかけに返事はなかったが、巽には顔を少し自分に向けたような気がした。
「頑張ったね、千夏。戻ってくれてありがとう……。ごめんな、僕のせいでこんな、こんな……」
それ以上、続かなかった。涙で何も言えなくなったからだ。彼はとうとう声を上げて泣き始めた。その声がマイクを通じて病室にも届いた。
「先生、千夏さんが!」
甲斐が千夏の方を見ながら言った。ギルフォードと山口も千夏の顔を見て驚いた。まだ意識の戻っていない筈の千夏の左目から一筋の透明な涙が流れていた。
「ただの反射かもしれないけど、ひょっとしたら聞こえているのかもしれないわ」
「とりあえずは危機を脱したみたいですね。このまま持ちこたえてくれたら……」
「ええ。千夏さんは私たちの希望ね」
山口はそういうと、巽に向かって告げた。
「千夏さんが、今、涙を流されました。あなたの呼びかけが聞こえたのかも知れません」
「千夏が涙を……」
巽は答えたが、涙腺が崩壊したのか再び語尾が涙に詰まった。ギルフォードが少し悪戯っぽい口調で言った。
「チナツさんが心配します。もう泣いちゃダメですよ」
「は、はいっ。あのっ、先生方看護師さん方、ありがとうございますっ! お礼が遅くなって申し訳ありませんでした!」
巽は生真面目な営業職らしく、ほぼ九十度の角度で礼をしながら言った。彼はその姿勢を、高柳がもういいからと促すまで続けた。
(「第3部 第5章 微光」 終わり)
第三部:終わり
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ルーインド東京
SHUNJU
SF
2025年(令和7年)
東京オリンピックの開催から4年。
日本は疫病流行の完全終息を経て、今まで通りの日常へと戻っていった。
巣鴨に住むごく一般的な女子中学生、平井 遥は
ゴールデンウィークに家族みんなで大阪万博へ行く計画を立てていたが、
しかし、その前日に東京でM8.8の大規模な巨大地震が発生した。
首都機能存亡の危機に、彼女達は無事に生きられるのか・・・?
東京で大震災が発生し、首都機能が停止したら
どうなってしまうのかを知っていただくための震災シミュレーション小説。
※本作品は関東地方での巨大地震や首都機能麻痺を想定し、
膨大なリサーチと検証に基づいて制作された小説です。
尚、この物語はフィクションです。
実在の人物、団体、出来事等とは一切関係ありません。
※本作は複数の小説投稿サイトとの同時掲載となりますが、
当サイトの制限により、一部文章やセリフが他サイトと多少異なる場合があります。
©2021 SHUNJUPROJECT



ゾンビのプロ セイヴィングロード
石井アドリー
SF
『丘口知夏』は地獄の三日間を独りで逃げ延びていた。
その道中で百貨店の屋上に住む集団に救われたものの、安息の日々は長く続かなかった。
梯子を昇れる個体が現れたことで、ついに屋上の中へ地獄が流れ込んでいく。
信頼していた人までもがゾンビとなった。大切な屋上が崩壊していく。彼女は何もかも諦めかけていた。
「俺はゾンビのプロだ」
自らをそう名乗った謎の筋肉男『谷口貴樹』はアクション映画の如く盛大にゾンビを殲滅した。
知夏はその姿に惹かれ奮い立った。この手で人を救うたいという願いを胸に、百貨店の屋上から小さな一歩を踏み出す。
その一歩が百貨店を盛大に救い出すことになるとは、彼女はまだ考えてもいなかった。
数を増やし成長までするゾンビの群れに挑み、大都会に取り残された人々を救っていく。
ゾンビのプロとその見習いの二人を軸にしたゾンビパンデミック長編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる