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第三部 第四章 乱麻
3.罪と報い
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園山の母親がN県から駆け付けたが、臨終の席には間に合わなかった。息子と無言の対面を終えた母親は、呆けたようにして来客室のソファに座っていた。
「夫が寝たきりなので、息子の発症を聞いてもなかなか来ることが出来なかったらしい」
部屋のドアの前で、高柳がギルフォードに説明をし、ドアをノックした。
「園山さん、高柳です。入ってよろしいでしょうか?」
「はい……」
部屋の中で弱弱しい声がした。高柳は部屋に入りギルフォードを紹介した。
「彼はこのセンターの顧問でQ大のギルフォード教授です。ギルフォード君、この方は園山看護師のご母堂の園山ツタエさんだ」
「この度は……」
と、ギルフォードが神妙な顔で言った。ツタエは少しよろけるように立ち上がると、力なく微笑みながら一礼して言った。
「息子がお世話になりました」
「園山さん、お気遣いなくどうぞお座りください。長旅でお疲れでしょう」
高柳は母親に気遣いを見せ座らせると、自分もギルフォードとともにその前のソファに腰かけた。
「園山さん。ギルフォード先生は息子さんの最後を看取った者たちの一人ですので、何か訊かれたいことがありましたら……」
「はい、あの……」
園山の母親はおずおずと聞いた。
「息子はかなり苦しんだのでしょうか? 遺体の様子があまりにも……」
ギルフォードは一瞬躊躇したが、意を決して答えた。
「はい」
「ああ……」
ツタエは顔を覆いながら言った。
「すまんねえ、修二。母ちゃんもっと早く来たかったとやけど、父ちゃん放っておけんかったとよ」
嘆く母親を見ながら、ギルフォードは言いにくそうに訊いた。
「あの、込み入ったことをお聞きしていいですか?」
「はあ。……?」
「余計なことかもしれませんが、シュウジさんが気にされていたので……」
「どうぞ」
「シュウジさんがキリスト教から離れておられたということはご存じでしたか?」
「はあ。それで父親が激怒しまして、それが原因で倒れまして、それ以来寝たきりに……」
「そうだったんですか」
「修二もそれ以来敷居が高くなったのか、連絡もよこさずに……。その挙句がこれですから、もう、情けないやら悲しいやら……」
「シュウジさんは、ずっとそれを気にされていたようでした。しかし、シュウジさんは今際のキワで悔い改められました。そして安らかに召されていかれました」
「おお……、主よ、感謝いたします」
ツタエは指を組み、天を見上げるようにして言った。そこにはさっきとは違った安どの表情が伺えた。ギルフォードは一瞬微妙な表情を浮かべたが、すぐに神妙な表情に戻って言った。
「ほかには……?」
「いえ、もう充分です。悔い改め安らかに召されたのなら、もう言うことはありません。きっと共に審判の日を迎えることが出来るでしょう。先生方、本当にありがとうございました」
と、ツタエは笑顔でお辞儀をしたが、その後、息子の死を改めて実感したのか、さめざめと泣き始めた。
その後の説明を高柳に任せ、来客室を出たギルフォードの前には、葛西らが待ち構えていた。
事情聴取はセンターの会議室で行われた。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
葛西がすまなさそうに言った。
「本来は署の方に来ていただくのですが、今回は特殊ですのでここお借りしました。後からセンター長にも来ていただきます」
その葛西の言葉をさえぎるようにして長沼間が言った。
「今回は、ここの全員から個別に事情を聴くことになったからな。すでに山口って女医から聞かせてもらっている」
「まあ、それは仕方ないことでしょうね。スタッフの中にテロリストの協力者がいたんですから……」
ギルフォードが納得して言った。
「ところで、みなさんご一緒で聴取されるんですか?」
「情報は共有せねばならん」
と、長沼間は心持嫌そうにして言った。その横で九木が促すようにして言った。
「と言うことで、さっさとはじめましょう。ギルフォード先生、早速ですが園山修二が告白したという経緯と内容を話してください」
「はい」
ギルフォードは、園山が告白を始めてから息を引き取るまでのことを、出来るだけ正確に説明した。
「それじゃあ、鹿島という看護師も、ひょっとしたら殺されているかもしれないと……」
と、葛西が驚いて言った。その横で、九木が腕組みをして言った。
「あるいは、敵の手に落ちて取り込まれているか、だな。どっちにしても、彼女にとって最悪な状態だ」
「だが、それは今捜査しているだろう」
と、長沼間がせかすように言った。
「問題は、ヤツ……園山修二の吐いた組織の首謀者だ」
「キーワードレベルの情報だがね」
「キーワードレヴェルで申し訳ないですが、それでもようやく聞き出したんです」
九木に言われて、ギルフォードが若干ムッとした表情で言った。
「おっと、失礼。ダイイングメッセージの方が良かったですか」
「意味はあまり変わりませんよ。確かに状況はそうでしたが」
と、ギルフォードが諦めたように言い、肩をすくめた。葛西が軌道修正するようにして言った。
「それはともかく、そのキーワードから話を進めましょう」
葛西からまでキーワードと言われて、ギルフォードは恨めしそうな表情で葛西を見た。葛西は一瞬しまったという表情をしたが、話を続けた。
「園山……さんが死に際に言った言葉でアレク……いえ、ギルフォード教授が聞き取れたのは『タ』『ナ』『ダイ』『イ』『サマ』ということですね。そして、秋山美千代が『あの方』と言ってたのも『イ』『サマ』。『サマ』は多分敬称の『様』でしょうから、2人の言った 『あの方』という人物はテロの主犯格で名前のなかに『イ』という言葉が入った名前で呼ばれていると考えられます。そして、駅で『自爆』した男が残した声明文から、『タ』『ナ』は『タナトス』に間違いないでしょう」
「『ダイ』についてはどう考える?」
と、すかさず九木が葛西に質問した。。
「ダイ……? ダイモス……ダイタロス、え~と、他にギリシャ神話系では……」
葛西が行き詰ったようなので、ギルフォードが付け加えた。
「ダイモンがいますね」
「ダイモン? 妖怪大戦争?」
「なんですか、それは?」
「あ、すみません。昔の日本映画なんで……」
「昔って、ダイモンが出る方の妖怪大戦争が公開された頃は、お前、生まれてなかっただろ? 俺だってまだ赤ん坊だったぞ」
自分より十歳以上若い葛西の口から、思いがけず昔のマイナーな映画の名前が出たので、長沼間が驚いて言った。
「ジュンは昔の特撮マニアなんだそうです」
「ほお、そうなのか」
何故か、長沼間は感心したように頷いた。ギルフォードは話題をもどして言った。
「ダイモンはデーモンの語源となったギリシャ神話の神ですよ。だけど、ギリシャ神の名前を続けて名前にする可能性は少ないと思いますよ」
「そうですよね。タナトス&ダイモンじゃあ漫才コンビみたいになりますし」
「どーゆー持ちネタのコンビだよ!」
「警察官漫才はそのくらいにして、君たちは、大事なことを忘れているようだね」九木がしびれを切らせたように言った。
「さっき葛西君があげた、駅で『自爆』した男の持っていた声明文、あれはなんて書いてあったかね?」
「あ」
葛西がはっとして言った。
「『我は夜の子にして眠りの兄弟 母なる大地に代わり人類を絶滅する』……。大地……ですか」
「多分ね」
「意味深ですね」
と、ギルフォード。
「う~ん、タナトスと大地、タナトスを大地に、タナトスの大地、タナトスから大地へ……、え~っと」
「葛西君、言葉遊びを続けても仕方がないだろう。おそらく、これからは今回のテロ組織あるいはテロリストに関しては『タナトス』、コードネームは『T』とされるだろう。敵の名称は、連中の正体が不明な限りあまりこだわって推理する意味はないよ」
名称にこだわる葛西を九木がたしなめると、続いて長沼間が言った。
「これから新興宗教を中心に、主にタナトスあるいはギリシャ・ローマ神話系の神、あるいは大地に関連する地母神をを祭っていて、教主や指導者を「イ」が付く名前で呼んでいる宗教団体があるかを、しらみつぶしに探すことだな」
「そういえば、先生のところの篠原さんは、その組織の首謀者あるいは重要人物らしき連中の顔を見ているということでしたね。しかも、一度見た人は絶対に忘れないという」
九木が言うと、長沼間もポンと手をたたいて言った。
「そうだ、篠原由利子がいたな。ちょうどいい、彼女に探させよう」
「やめてください。マイナーなところまで含めれば、多分数十万に上る宗教があると思います。ユリコがパンクしてしまいます」
ギルフォードは焦って止めた。
「それに、組織に自分等の宗教にかかわる名称を付けるなんて危険なことをするでしょうか」
ギルフォードの疑問に、今度は九木が答えた。
「だがね、今のところ手がかりはそれしかないんだ。それに、信者を関わらせようとするなら、多少は関連付けた名前にしたほうが効力はあるはずだよ」
「まあ、そういう可能性もありますが」
「なんだ、おまえ、園山から聞き出した本人のくせに、消極的だな」
長沼間が少しあきれたように言った。ギルフォードは腕組をするとため息交じりに答えた。
「何かが腑に落ちないような気がするんです。それが何かはわからないのですが」
「俺なんか、腑に落ちないことだらけだ。それでも、得られた手がかりから事件を解決していくしかないんだ」
長沼間が、いつもと違った真剣な表情で言った。
「連中の計画が始まってしまった今、一刻も早く連中を捕まえてウイルスの正体を突き止めにゃならん。おそらくワクチンも保有しているはずだしな」
「そうですね。すみません、杞憂でした。とにかく、ユリコに関わらせるのは、ある程度絞り込んでからにしてください。ユリコ本人に捜査に協力する意思はありますから」
「まあ仕方ないな」
長沼間が言い、九木も頷いた。
「クシャン」
由利子が短いくしゃみをした。
「う~、誰か噂しているかな? 一瞬悪寒もしたし」
「Bless you! 大丈夫ですか」
「だいじょうぶだいじょうぶ。それにしても、何話してるのかなあ。園山さん、大丈夫かなあ……」
「心配ですわね。でも、何か異常があったら連絡があるはずですから」
「でも、休講かあ……。アレクの講義、楽しみにしてたのにな。ねえ、美月」
由利子に声をかけられて、美月は軽くワンと吠えた。
改めて九木が言った。
「ところでギルフォード先生、ちょっと気になることがあるんですが……」
「はい、なんでしょう?」
「聞いた話では、最初、園山の告白を聞いた時、君は彼に対してかなり腹を立てて部屋を飛び出したようだが、その後山口先生の話を聞いて、園山を説得するほうに考えを変えた。それは何故です?」
「トモさん……ヤマグチ先生の話から、ソノヤマさんがクリスチャンであることを心から捨てていないことが判ったからです」
「どういうことです?」
「彼は、最初僕に懺悔をしたいと言いました。ザンゲと言う言葉はもともと仏教用語で同じ漢字の『サンゲ』から転用された言葉で、日本人も普通に使う言葉ですから、最初はあまり気にしませんでした。しかし、トモさんから彼がクリスチャンだったことを聞いて、彼が死の前に懺悔をしようとしていることから、心の底では彼は信仰を捨てていないと考えました。それで、それを利用して、彼を落とせるのではないかと思ったのです。結果、彼は最後に組織について白状したというわけです」
「え? では、アレクは園山を死の前の恐怖から救おうとしてやったわけではない、ということですか?」
と、葛西が戸惑った表情でギルフォードを見ながら言った。
「そうです。彼は勝手に救われたと思って昇天しただけで、僕は彼が救われようと、絶望とともに息を引き取ろうと、知ったこっちゃないと……いえ、むしろ、救われるべきではないとすら思っていました」
冷たく言い放つギルフォードに、葛西が戸惑いの色を濃くして言った。
「じゃあ、先生は、単に組織の名前を聞き出すための方便に彼の信仰を利用しただけだと……」
葛西の目の中に非難の色を見出しながらも、ギルフォードは冷徹に言った。
「僕は、宗教の名において人を苦しめる連中は許せません。だから、そんな連中がどうなろうと知ったこっちゃありません」
「それは、君の親友がHIV感染で亡くなったからですか?」
と、九木が思ってもない質問をしたので、ギルフォードはこわばった表情をして言った。
「僕のこと、どこまでご存じなんですか?」
「腐っても日本警察ですよ。記録に残っているものなら難なく調べられます」
九木はさらりと言った。
「その上で適任と判断し、日本政府はあなたをこの国にお呼びしたのですから。もっとも、何故かあなたはこんなところにいらっしゃいますが」
「こんなところって、ユリコが聞いたら怒りますよ」
「おっと、失礼しました」
「……確かに、それもあります。HIVのアメリカ上陸が確認された時に早急に手を打っていれば、感染拡大はかなり抑え込めたでしょうから。そしてその結果、エーメ……親友の感染は防げたかもしれない。しかし、当時の政府はゲイに課せられた天罰などと下らない宗教観で決めつけて、対策を怠ったんです。万一、ゲイ特有の病気だったとしても、それを天罰と言って、苦しむ人々を見捨て、危険な病原体を放置すると言うことは、国家としてあってはならないことです」
ギルフォードは、そこで一旦言葉を切ると、一度深呼吸をした。そして、さらに淡々と話を続けた。
「でも、僕が宗教と言うものを忌み嫌うのは、それだけではありません。
僕たちが新型ラッサ熱対策で派遣され、命がけで守ったアフリカのワタカ共和国……。独立してまだ年は浅く、小さくて貧しい国でしたが、平和で希望に満ちた国でした。それなのに、その国は下らない宗教間の諍いに巻き込まれて滅ぼされました。
僕の行ったチサ村も例外ではなく……。共にウイルスと戦った村人たち……は、……そう、新型ラッサ熱で父親を亡くし墓の前で涙をこらえながら、胸を張って医者になると言った幼い少年も、感染し倒れた僕たちを、感染を恐れず懸命に看病してくれた勇敢な少女も、……男も女も、年寄りも子供も……容赦なく……逃げ込んだ教会ごと、生きたまま焼き殺されました。
……僕はそのことを聞いたとき、全身を引き裂かれるような悲しみと苦しみに襲われました。あがめる神様は同じなのに、宗教が違うと言うだけで情け容赦なく人を殺せる。
何故です?
宗教は人を救うためにあるのではなかったのですか?
何故、一所懸命に生きていたチサ村の人々が虐殺されねばならなかったのですか?
彼らは、村周辺が閉鎖され、僕たちの食料が尽きそうになった時、自分等の備蓄を削って分けてくれた、僕たちの活動の趣旨を理解して、恐れながらも他所からの患者も受け入れてくれた……。そんな彼らが、何故……?
下らない。バカバカしい。そんなモノは必要ない……。だからその時以来、僕は宗教ごと神というモノを捨てました」
ギルフォードは話を終えたが、その重い内容に皆言葉を失っていた。ギルフォードは周囲を見回すと、いつもの笑顔に戻って言った。
「さて、九木さん、以上ですが納得していただけましたか?」
「あ、ああ、……嫌なことを思い出させたようですね。申し訳ない」
さすがの九木も色を失っていた。ギルフォードは、さらに穏やかに言った。
「他にご質問がなければ、そろそろ僕を解放してほしいのですが」
「俺はもう十分だ。九木さんは?」
「まあ、十分だと言うしかないですな」
二人の許可を得て、ギルフォードはにっこり笑うと言った。
「では、僕は大学に帰らねばならないので、これで失礼します」
ギルフォードはさっさと立ち上がると、一礼して会議室から出て行った。
「まいったな……」
ギルフォード出て行ったドアの方を見ながら、九木が少し後悔したようにつぶやいた。その後しばらく3人は無言でいたが、ギルフォードの話の途中からずっと黙ったままだった葛西がようやく口を開いた。
「あんな教授を初めて見ました。感情を抑えている分、余計に怖かった……。僕だって多美さんのことを思うと園山さんのしたことは赦せませんが、あそこまで冷ややかにはなれません」
「相変わらず坊やだな、お前さんは」
と、長沼間がニヤリと笑って言った。
「ツンデレなんだよ」
「ツンデレ……ですか? アレク……いえ、教授が?」
「一歩間違えればヤンデレだがな、あいつだってわかってるんだ。宗教もハサミも道具にすぎない、使う人間次第だってな。そして、あいつはまだ人間に対して希望を失っちゃいない。だから、あいつは園山を説得出来た」
「よくわかりませんが……」
「要するに、アレクサンダーが園山を見捨てることが出来なかったってことさ」
「はあ……」
まだ納得できていないのか、葛西は気の入らない返事をして考え込んでしまった。
ギルフォードが会議室から出て通路を歩いていると、山口から声をかけられた。
「アレク先生、どちらへ?」
「おや、トモさん。用が終わったので、大学に帰るところです」
「そうですか……。でも、なんか怖い顔をされていますね」
山口に言われて、ギルフォードが右手で額を抑えながら言った。
「まあ、嫌なことがあった上に、さらに嫌なことを思い出させられましたからね」
「園山さんのこと?」
「まあ、そんなところです」
山口はそれを聞くと、言いにくそうに尋ねた。
「あの……、園山さんがウイルスを撒いた人たちの仲間だったって、本当ですか?」
「はい。いずれ判ることですが……」
と、ギルフォードは正直に答えたが、山口は頭を左右に振ると言った。
「私は隠してほしかったと思っています」
「そういうわけにはいきません。下手に隠すと、後で事実がわかった時、信用されなくなってしまいます」
「そうかもしれませんが、今、スタッフ間に異様な空気が漂い始めています。園山さんの死は二重の意味でスタッフに動揺を与えることになってしまいました」
「二重?」
「恐怖と疑心暗鬼です」
「トモさん、あなたはどうなのですか?」
逆にギルフォードに聞かれ、山口は一瞬戸惑ったがすぐに答えた。
「今の私の気持ちは……。園山さんの死に対しては悲しいと思います。だけど、それ以上に許せない。彼はここのスタッフ全員を裏切っていたんでしょ。彼があの女を逃がしたせいで、紅美さんも歌恋さんも死んでしまったのよ。二人とも幸せになるべき人だったのに、あんな酷い殺され方をして……」
山口はそこまでいうと、声を詰まらせた。
「トモさん……」
「殺されたの、 そうでしょ? 私は絶対に許せない。なのに、アレク先生、どうして彼を赦したの? あいつは後悔して後悔して苦しんで死ぬべきだったのよ!」
「長沼間さんたちにも言いましたが、僕は許していませんよ。許したとしたら、あの人類の罪を一人であがなったとかいうあの人くらいでしょうね」
「詭弁だわ! 現にあいつは安らかに死んでいったって……」
「トモさん!」
ギルフォードは山口の両肩を抑えると、彼女の目をじっと見ながら少し語気を強めて言った。
「いいですか、僕も彼を、絶_対_に_ゆ_る_せ_ま_せ_ん。だけどトモさん、彼が加害者側であるとともに、被害者であることは忘れないでください」
「アレク先生……」
「彼は罪を犯しました。しかし、それは誰かに洗脳されたせいです。あなたが許せないと思うべきはそいつらじゃないですか? 確かに裏切られ感はあるでしょう。でも彼はね、本当は、あなたに罪の告白をしたかったのだと思います。だけど、彼にはどうしても話せなかったんです。たぶん、あなたに軽蔑されるのが怖かったからでしょう」
「先生、あの……」
「今ここで皆が疑心暗鬼に陥るのは危険です。それこそ敵の思うつぼだと思いませんか? トモさん、君は、道を誤った仲間を責めちゃダメです。でないとスタッフの決裂を助長させてしまうでしょう」
「そっ、それは正論だと思います。でも、人の気持ちはそんな合理的には出来ていません」
「彼の罪は消えることはありませんし、彼は後悔と罪を背負ったまま亡くなりました。それは決して安らかな末期ではなかったハズです。それで十分じゃないですか」
「わかりました。わかりましたから、少し離れてくださいませんか?」
山口は真っ赤になりながらようやく言った。ギルフォードは、自分が山口の両肩を掴んだまま顔を間近に寄せていたことに気が付いて、急いで手を放し跳ぶようにして一歩後ずさった。
「ゴ、ゴメンナサイッ」
「もう、アレク先生ってば、その気がないなら気を付けてください。わかっていても勘違いをしてしまいます」
「スミマセン……」
「こちらこそ、お引止めしてすみません。私ももう行かなきゃ。川崎五十鈴さんと瀬高亜由美さんの容体が良くないらしいの」
山口は一礼すると、くるりとギルフォードに背を向けて足早に去ろうとした。しかし、また振り返ると言った。
「アレク先生、私、まだ気持ちの整理はついてないけど、頑張ってみます」
山口はそう言うと、再び足早に去って行った。
河部千夏は、2日ほど前から気分が優れず倦怠感が続いていたが、もともとつわりのひどい彼女はあまり気にしていなかった。しかし、今日は朝から熱っぽく、念のために熱を測ってみると38度近くになっていた。
「やばっ、土日が肌寒かったから……。風邪薬飲んで寝た方がいいかな……。でも、久しぶりにお日様が出ているし、天気予報も今日は降雨確率0%って言ってるから、洗濯やお蒲団干ししたかったんだけどなあ……」
少し無理して洗濯だけでも終わらせようか……。そう思ってソファから立ち上がろうとしたが、ふらついてどうも調子が良くない。
「もう、風アイロンとかジェット乾燥とかいう最新式の洗濯機、買っとけばよかった」
千夏は、先週量販店で夫が買おうと言った洗濯機を思い浮かべて後悔していた。梅雨に入ったし、身重で洗濯も大変だろうと言う夫の気遣いだったが、値段を見て家のローンを考えた千夏は、今のがまだ十分使えるからと言って断ったのだ。
「だって、たかが洗濯機に20万なんてもったいなかったんだもん」
今更後悔しても仕方がない。千夏は冷凍庫から冷却枕を取り出すと、寝室に向かった。
「まったく、たっちゃんってば、こういう時に限って出張で居ないんだから。しかも、海外なんて最悪だよ」
千夏はぶつぶつ言いながらベッドに横になった。着替えたかったがとてもそんな気力はない。既に頭がガンガンしている。しかし、おなかの子供のことを思うとやたらと薬を飲みたくなかったし、しばらく寝ていれば改善されるだろうと楽観的に考えていた。それで、千夏は布団にもぐりこむと目をつぶった。
数時間後、千夏は目を覚ました。少し寝るつもりがすでに夕方になっていた。しかし、頭痛は治まらず熱は上がる一方だった。昨日とは打って変わった暑さのはずが、寒気までしてきた。しかも、体中の関節が痛い。
(やだ、本格的に風邪引いちゃったのかなあ……)
千夏はそう思ったが、どうも様子が違う。腹に何か違和感を感じるのだ。
「まさか……」
千夏は急いで起き上がろうとしたが、激しい頭痛で半身を起こしたのが限界で、すぐに布団に横たわった。恐ろしくなった千夏は、枕元の携帯電話を探って手にすると、実家の母親に電話をかけた。
「お、お母さん、私、私……」
「どうしたとね?」
電話から、尋常ではない娘の声を聞いて異常を察した母親の不安な声がした。
「あのね、熱が出たと。それで……・それでね……」
亜由美の声はすでに半べそをかいていた。
「なんね、しっかりせんね」
「おなかがなんか変なと」
「そりゃあいかん! すぐに救急車呼んでかかりつけの産婦人科に行きなさい。あたしもすぐに行くけん」
「うん。そうする……。お母さん、ちゃんと来てよ」
「わかっとおって。ほんとにもお、巽さんったら、こういう時に限って……」
そこまでで、電話が切れた。千夏はすぐに119番を押して救急車を呼んだ。
千夏は這うようにして、必要なものを一式入れたバッグを手に取り、必死に玄関に向かった。玄関でうずくまっていると、5分ほどしてサイレンの音がして千夏の家の前に止まった。千夏はほっとして一瞬気が遠くなったが、必死に意識を保った。
駆け付けた救急隊員にストレッチャーで救急車に運ばれた千夏は、病状を聞かれ、経過を正直に話した。すると、救急隊員たちは顔を見合わせた。
「すみません、河部さん。急に高熱の出た方に質問しなければならないのですが、気を悪くなさらずにお答えください。今、県下で発生しているサイキウイルスですが、その患者の出た場所に行ったとか、知り合いに患者あるいはその疑いで隔離された人とかいませんか」
「いえ、私にはそんな覚えは……」
「そうですよね。そんなことはそうそうありませんよね」
質問した救急隊員は、笑いながら言った。
「では、搬送希望の病院は……。おや、河部さん? どうされました?」
千夏は、隊員の質問からある事を思い出していた。怖くて封印していたある事件。あれは一週間前……。
F駅でサイキウイルス患者が死亡したというニュースを見ながら夫の帰りを心配していると、元気な顔をして帰って来た。しかし、彼はそのまま洗面所に行くと何かを洗っている。千夏は不審に思ってそばによると、夫はハンカチを洗おうとしている。
「どうしたと? そんなの洗濯機に入れたらよかやん」
千夏は笑いながらハンカチに触ろうとしたが、巽は驚いてそれを阻止しようとした。それで、千夏はつい、むきになってそれを取ろうとしたために、ハンカチの水が周囲に飛び散り、一部が千夏の顔にかかった。
「きゃっ、ちょっと目に入っちゃった」
「バカ! 何するんだよ」
「だって、たっちゃんが……」
「あのね。今日駅で変な男とすれ違った時、メガネに変なものが付いたんでこれで拭いたんだ。だから、気持ち悪いのでさっさと洗って消毒しておこうと思っただけだよ」
「そんなん、捨ててくればよかったやん」
「だって、昔君がくれたハンカチだろ。失くしたら怒るくせに……」
「ごめん。そんな気遣いさせちゃってたっちゃね。でももういいよ。そんな気味の悪いハンカチ捨てよう。私、また買ってあげるから」
千夏は、言いながらビニール袋をとってきてハンカチを入れ、ゴミ箱にすてた。
「これでいいね。はやく着替えて来てよ。ご飯出来てるから」
「ああ、でも手を洗ってからだよ。ほら、君も」
二人は仲良く並んで手を洗うと、そのまま居間に向かった。居間ではテレビが今日のニュースを流していた。
「あ、これこれ。たっちゃん、これ、大丈夫やった?」
「え? 俺、特急にギリギリだったんで急いでたし、特急電車はすぐに出たからこの事件今知った……。じゃあ、あいつが……」
ニュース映像を見る巽の表情は、強張っていた。
「たっちゃん……。その眼鏡も洗った方がいいよ。すぐに服を脱いでお風呂に入って。着てるもの、みんな捨てておくから。ちょうどゴミの日やし」
千夏は夫の方を見て懇願するように言った。
「ま……、まさか……」
千夏は思いだした途端、背筋に寒気が走った。急に様子の変わった千夏に、隊員が呼びかけた。
「河部さん、か・わ・べさん! どうされましたか!」
千夏は震えながら言った。
「いえ……、思い出しました。一週間前、駅でウイルス患者が亡くなった事件の時、夫が駅でその男とすれ違ったって……、その時眼鏡に血が付いたのをハンカチで拭いたって……」
「それは大変だ。搬送先は感染症対策センター。各隊員は直ちに感染防護の確認!」
隊長は、そう命令すると、千夏に向かって言った。
「急いで連れて行きますから、がんばって。きっと助かります!」
しかし、千夏にはそれが気休めだということを確信し、深い闇に飲み込まれるような感覚に陥っていた。
「夫が寝たきりなので、息子の発症を聞いてもなかなか来ることが出来なかったらしい」
部屋のドアの前で、高柳がギルフォードに説明をし、ドアをノックした。
「園山さん、高柳です。入ってよろしいでしょうか?」
「はい……」
部屋の中で弱弱しい声がした。高柳は部屋に入りギルフォードを紹介した。
「彼はこのセンターの顧問でQ大のギルフォード教授です。ギルフォード君、この方は園山看護師のご母堂の園山ツタエさんだ」
「この度は……」
と、ギルフォードが神妙な顔で言った。ツタエは少しよろけるように立ち上がると、力なく微笑みながら一礼して言った。
「息子がお世話になりました」
「園山さん、お気遣いなくどうぞお座りください。長旅でお疲れでしょう」
高柳は母親に気遣いを見せ座らせると、自分もギルフォードとともにその前のソファに腰かけた。
「園山さん。ギルフォード先生は息子さんの最後を看取った者たちの一人ですので、何か訊かれたいことがありましたら……」
「はい、あの……」
園山の母親はおずおずと聞いた。
「息子はかなり苦しんだのでしょうか? 遺体の様子があまりにも……」
ギルフォードは一瞬躊躇したが、意を決して答えた。
「はい」
「ああ……」
ツタエは顔を覆いながら言った。
「すまんねえ、修二。母ちゃんもっと早く来たかったとやけど、父ちゃん放っておけんかったとよ」
嘆く母親を見ながら、ギルフォードは言いにくそうに訊いた。
「あの、込み入ったことをお聞きしていいですか?」
「はあ。……?」
「余計なことかもしれませんが、シュウジさんが気にされていたので……」
「どうぞ」
「シュウジさんがキリスト教から離れておられたということはご存じでしたか?」
「はあ。それで父親が激怒しまして、それが原因で倒れまして、それ以来寝たきりに……」
「そうだったんですか」
「修二もそれ以来敷居が高くなったのか、連絡もよこさずに……。その挙句がこれですから、もう、情けないやら悲しいやら……」
「シュウジさんは、ずっとそれを気にされていたようでした。しかし、シュウジさんは今際のキワで悔い改められました。そして安らかに召されていかれました」
「おお……、主よ、感謝いたします」
ツタエは指を組み、天を見上げるようにして言った。そこにはさっきとは違った安どの表情が伺えた。ギルフォードは一瞬微妙な表情を浮かべたが、すぐに神妙な表情に戻って言った。
「ほかには……?」
「いえ、もう充分です。悔い改め安らかに召されたのなら、もう言うことはありません。きっと共に審判の日を迎えることが出来るでしょう。先生方、本当にありがとうございました」
と、ツタエは笑顔でお辞儀をしたが、その後、息子の死を改めて実感したのか、さめざめと泣き始めた。
その後の説明を高柳に任せ、来客室を出たギルフォードの前には、葛西らが待ち構えていた。
事情聴取はセンターの会議室で行われた。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
葛西がすまなさそうに言った。
「本来は署の方に来ていただくのですが、今回は特殊ですのでここお借りしました。後からセンター長にも来ていただきます」
その葛西の言葉をさえぎるようにして長沼間が言った。
「今回は、ここの全員から個別に事情を聴くことになったからな。すでに山口って女医から聞かせてもらっている」
「まあ、それは仕方ないことでしょうね。スタッフの中にテロリストの協力者がいたんですから……」
ギルフォードが納得して言った。
「ところで、みなさんご一緒で聴取されるんですか?」
「情報は共有せねばならん」
と、長沼間は心持嫌そうにして言った。その横で九木が促すようにして言った。
「と言うことで、さっさとはじめましょう。ギルフォード先生、早速ですが園山修二が告白したという経緯と内容を話してください」
「はい」
ギルフォードは、園山が告白を始めてから息を引き取るまでのことを、出来るだけ正確に説明した。
「それじゃあ、鹿島という看護師も、ひょっとしたら殺されているかもしれないと……」
と、葛西が驚いて言った。その横で、九木が腕組みをして言った。
「あるいは、敵の手に落ちて取り込まれているか、だな。どっちにしても、彼女にとって最悪な状態だ」
「だが、それは今捜査しているだろう」
と、長沼間がせかすように言った。
「問題は、ヤツ……園山修二の吐いた組織の首謀者だ」
「キーワードレベルの情報だがね」
「キーワードレヴェルで申し訳ないですが、それでもようやく聞き出したんです」
九木に言われて、ギルフォードが若干ムッとした表情で言った。
「おっと、失礼。ダイイングメッセージの方が良かったですか」
「意味はあまり変わりませんよ。確かに状況はそうでしたが」
と、ギルフォードが諦めたように言い、肩をすくめた。葛西が軌道修正するようにして言った。
「それはともかく、そのキーワードから話を進めましょう」
葛西からまでキーワードと言われて、ギルフォードは恨めしそうな表情で葛西を見た。葛西は一瞬しまったという表情をしたが、話を続けた。
「園山……さんが死に際に言った言葉でアレク……いえ、ギルフォード教授が聞き取れたのは『タ』『ナ』『ダイ』『イ』『サマ』ということですね。そして、秋山美千代が『あの方』と言ってたのも『イ』『サマ』。『サマ』は多分敬称の『様』でしょうから、2人の言った 『あの方』という人物はテロの主犯格で名前のなかに『イ』という言葉が入った名前で呼ばれていると考えられます。そして、駅で『自爆』した男が残した声明文から、『タ』『ナ』は『タナトス』に間違いないでしょう」
「『ダイ』についてはどう考える?」
と、すかさず九木が葛西に質問した。。
「ダイ……? ダイモス……ダイタロス、え~と、他にギリシャ神話系では……」
葛西が行き詰ったようなので、ギルフォードが付け加えた。
「ダイモンがいますね」
「ダイモン? 妖怪大戦争?」
「なんですか、それは?」
「あ、すみません。昔の日本映画なんで……」
「昔って、ダイモンが出る方の妖怪大戦争が公開された頃は、お前、生まれてなかっただろ? 俺だってまだ赤ん坊だったぞ」
自分より十歳以上若い葛西の口から、思いがけず昔のマイナーな映画の名前が出たので、長沼間が驚いて言った。
「ジュンは昔の特撮マニアなんだそうです」
「ほお、そうなのか」
何故か、長沼間は感心したように頷いた。ギルフォードは話題をもどして言った。
「ダイモンはデーモンの語源となったギリシャ神話の神ですよ。だけど、ギリシャ神の名前を続けて名前にする可能性は少ないと思いますよ」
「そうですよね。タナトス&ダイモンじゃあ漫才コンビみたいになりますし」
「どーゆー持ちネタのコンビだよ!」
「警察官漫才はそのくらいにして、君たちは、大事なことを忘れているようだね」九木がしびれを切らせたように言った。
「さっき葛西君があげた、駅で『自爆』した男の持っていた声明文、あれはなんて書いてあったかね?」
「あ」
葛西がはっとして言った。
「『我は夜の子にして眠りの兄弟 母なる大地に代わり人類を絶滅する』……。大地……ですか」
「多分ね」
「意味深ですね」
と、ギルフォード。
「う~ん、タナトスと大地、タナトスを大地に、タナトスの大地、タナトスから大地へ……、え~っと」
「葛西君、言葉遊びを続けても仕方がないだろう。おそらく、これからは今回のテロ組織あるいはテロリストに関しては『タナトス』、コードネームは『T』とされるだろう。敵の名称は、連中の正体が不明な限りあまりこだわって推理する意味はないよ」
名称にこだわる葛西を九木がたしなめると、続いて長沼間が言った。
「これから新興宗教を中心に、主にタナトスあるいはギリシャ・ローマ神話系の神、あるいは大地に関連する地母神をを祭っていて、教主や指導者を「イ」が付く名前で呼んでいる宗教団体があるかを、しらみつぶしに探すことだな」
「そういえば、先生のところの篠原さんは、その組織の首謀者あるいは重要人物らしき連中の顔を見ているということでしたね。しかも、一度見た人は絶対に忘れないという」
九木が言うと、長沼間もポンと手をたたいて言った。
「そうだ、篠原由利子がいたな。ちょうどいい、彼女に探させよう」
「やめてください。マイナーなところまで含めれば、多分数十万に上る宗教があると思います。ユリコがパンクしてしまいます」
ギルフォードは焦って止めた。
「それに、組織に自分等の宗教にかかわる名称を付けるなんて危険なことをするでしょうか」
ギルフォードの疑問に、今度は九木が答えた。
「だがね、今のところ手がかりはそれしかないんだ。それに、信者を関わらせようとするなら、多少は関連付けた名前にしたほうが効力はあるはずだよ」
「まあ、そういう可能性もありますが」
「なんだ、おまえ、園山から聞き出した本人のくせに、消極的だな」
長沼間が少しあきれたように言った。ギルフォードは腕組をするとため息交じりに答えた。
「何かが腑に落ちないような気がするんです。それが何かはわからないのですが」
「俺なんか、腑に落ちないことだらけだ。それでも、得られた手がかりから事件を解決していくしかないんだ」
長沼間が、いつもと違った真剣な表情で言った。
「連中の計画が始まってしまった今、一刻も早く連中を捕まえてウイルスの正体を突き止めにゃならん。おそらくワクチンも保有しているはずだしな」
「そうですね。すみません、杞憂でした。とにかく、ユリコに関わらせるのは、ある程度絞り込んでからにしてください。ユリコ本人に捜査に協力する意思はありますから」
「まあ仕方ないな」
長沼間が言い、九木も頷いた。
「クシャン」
由利子が短いくしゃみをした。
「う~、誰か噂しているかな? 一瞬悪寒もしたし」
「Bless you! 大丈夫ですか」
「だいじょうぶだいじょうぶ。それにしても、何話してるのかなあ。園山さん、大丈夫かなあ……」
「心配ですわね。でも、何か異常があったら連絡があるはずですから」
「でも、休講かあ……。アレクの講義、楽しみにしてたのにな。ねえ、美月」
由利子に声をかけられて、美月は軽くワンと吠えた。
改めて九木が言った。
「ところでギルフォード先生、ちょっと気になることがあるんですが……」
「はい、なんでしょう?」
「聞いた話では、最初、園山の告白を聞いた時、君は彼に対してかなり腹を立てて部屋を飛び出したようだが、その後山口先生の話を聞いて、園山を説得するほうに考えを変えた。それは何故です?」
「トモさん……ヤマグチ先生の話から、ソノヤマさんがクリスチャンであることを心から捨てていないことが判ったからです」
「どういうことです?」
「彼は、最初僕に懺悔をしたいと言いました。ザンゲと言う言葉はもともと仏教用語で同じ漢字の『サンゲ』から転用された言葉で、日本人も普通に使う言葉ですから、最初はあまり気にしませんでした。しかし、トモさんから彼がクリスチャンだったことを聞いて、彼が死の前に懺悔をしようとしていることから、心の底では彼は信仰を捨てていないと考えました。それで、それを利用して、彼を落とせるのではないかと思ったのです。結果、彼は最後に組織について白状したというわけです」
「え? では、アレクは園山を死の前の恐怖から救おうとしてやったわけではない、ということですか?」
と、葛西が戸惑った表情でギルフォードを見ながら言った。
「そうです。彼は勝手に救われたと思って昇天しただけで、僕は彼が救われようと、絶望とともに息を引き取ろうと、知ったこっちゃないと……いえ、むしろ、救われるべきではないとすら思っていました」
冷たく言い放つギルフォードに、葛西が戸惑いの色を濃くして言った。
「じゃあ、先生は、単に組織の名前を聞き出すための方便に彼の信仰を利用しただけだと……」
葛西の目の中に非難の色を見出しながらも、ギルフォードは冷徹に言った。
「僕は、宗教の名において人を苦しめる連中は許せません。だから、そんな連中がどうなろうと知ったこっちゃありません」
「それは、君の親友がHIV感染で亡くなったからですか?」
と、九木が思ってもない質問をしたので、ギルフォードはこわばった表情をして言った。
「僕のこと、どこまでご存じなんですか?」
「腐っても日本警察ですよ。記録に残っているものなら難なく調べられます」
九木はさらりと言った。
「その上で適任と判断し、日本政府はあなたをこの国にお呼びしたのですから。もっとも、何故かあなたはこんなところにいらっしゃいますが」
「こんなところって、ユリコが聞いたら怒りますよ」
「おっと、失礼しました」
「……確かに、それもあります。HIVのアメリカ上陸が確認された時に早急に手を打っていれば、感染拡大はかなり抑え込めたでしょうから。そしてその結果、エーメ……親友の感染は防げたかもしれない。しかし、当時の政府はゲイに課せられた天罰などと下らない宗教観で決めつけて、対策を怠ったんです。万一、ゲイ特有の病気だったとしても、それを天罰と言って、苦しむ人々を見捨て、危険な病原体を放置すると言うことは、国家としてあってはならないことです」
ギルフォードは、そこで一旦言葉を切ると、一度深呼吸をした。そして、さらに淡々と話を続けた。
「でも、僕が宗教と言うものを忌み嫌うのは、それだけではありません。
僕たちが新型ラッサ熱対策で派遣され、命がけで守ったアフリカのワタカ共和国……。独立してまだ年は浅く、小さくて貧しい国でしたが、平和で希望に満ちた国でした。それなのに、その国は下らない宗教間の諍いに巻き込まれて滅ぼされました。
僕の行ったチサ村も例外ではなく……。共にウイルスと戦った村人たち……は、……そう、新型ラッサ熱で父親を亡くし墓の前で涙をこらえながら、胸を張って医者になると言った幼い少年も、感染し倒れた僕たちを、感染を恐れず懸命に看病してくれた勇敢な少女も、……男も女も、年寄りも子供も……容赦なく……逃げ込んだ教会ごと、生きたまま焼き殺されました。
……僕はそのことを聞いたとき、全身を引き裂かれるような悲しみと苦しみに襲われました。あがめる神様は同じなのに、宗教が違うと言うだけで情け容赦なく人を殺せる。
何故です?
宗教は人を救うためにあるのではなかったのですか?
何故、一所懸命に生きていたチサ村の人々が虐殺されねばならなかったのですか?
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下らない。バカバカしい。そんなモノは必要ない……。だからその時以来、僕は宗教ごと神というモノを捨てました」
ギルフォードは話を終えたが、その重い内容に皆言葉を失っていた。ギルフォードは周囲を見回すと、いつもの笑顔に戻って言った。
「さて、九木さん、以上ですが納得していただけましたか?」
「あ、ああ、……嫌なことを思い出させたようですね。申し訳ない」
さすがの九木も色を失っていた。ギルフォードは、さらに穏やかに言った。
「他にご質問がなければ、そろそろ僕を解放してほしいのですが」
「俺はもう十分だ。九木さんは?」
「まあ、十分だと言うしかないですな」
二人の許可を得て、ギルフォードはにっこり笑うと言った。
「では、僕は大学に帰らねばならないので、これで失礼します」
ギルフォードはさっさと立ち上がると、一礼して会議室から出て行った。
「まいったな……」
ギルフォード出て行ったドアの方を見ながら、九木が少し後悔したようにつぶやいた。その後しばらく3人は無言でいたが、ギルフォードの話の途中からずっと黙ったままだった葛西がようやく口を開いた。
「あんな教授を初めて見ました。感情を抑えている分、余計に怖かった……。僕だって多美さんのことを思うと園山さんのしたことは赦せませんが、あそこまで冷ややかにはなれません」
「相変わらず坊やだな、お前さんは」
と、長沼間がニヤリと笑って言った。
「ツンデレなんだよ」
「ツンデレ……ですか? アレク……いえ、教授が?」
「一歩間違えればヤンデレだがな、あいつだってわかってるんだ。宗教もハサミも道具にすぎない、使う人間次第だってな。そして、あいつはまだ人間に対して希望を失っちゃいない。だから、あいつは園山を説得出来た」
「よくわかりませんが……」
「要するに、アレクサンダーが園山を見捨てることが出来なかったってことさ」
「はあ……」
まだ納得できていないのか、葛西は気の入らない返事をして考え込んでしまった。
ギルフォードが会議室から出て通路を歩いていると、山口から声をかけられた。
「アレク先生、どちらへ?」
「おや、トモさん。用が終わったので、大学に帰るところです」
「そうですか……。でも、なんか怖い顔をされていますね」
山口に言われて、ギルフォードが右手で額を抑えながら言った。
「まあ、嫌なことがあった上に、さらに嫌なことを思い出させられましたからね」
「園山さんのこと?」
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山口はそれを聞くと、言いにくそうに尋ねた。
「あの……、園山さんがウイルスを撒いた人たちの仲間だったって、本当ですか?」
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「二重?」
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「トモさん、あなたはどうなのですか?」
逆にギルフォードに聞かれ、山口は一瞬戸惑ったがすぐに答えた。
「今の私の気持ちは……。園山さんの死に対しては悲しいと思います。だけど、それ以上に許せない。彼はここのスタッフ全員を裏切っていたんでしょ。彼があの女を逃がしたせいで、紅美さんも歌恋さんも死んでしまったのよ。二人とも幸せになるべき人だったのに、あんな酷い殺され方をして……」
山口はそこまでいうと、声を詰まらせた。
「トモさん……」
「殺されたの、 そうでしょ? 私は絶対に許せない。なのに、アレク先生、どうして彼を赦したの? あいつは後悔して後悔して苦しんで死ぬべきだったのよ!」
「長沼間さんたちにも言いましたが、僕は許していませんよ。許したとしたら、あの人類の罪を一人であがなったとかいうあの人くらいでしょうね」
「詭弁だわ! 現にあいつは安らかに死んでいったって……」
「トモさん!」
ギルフォードは山口の両肩を抑えると、彼女の目をじっと見ながら少し語気を強めて言った。
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「アレク先生……」
「彼は罪を犯しました。しかし、それは誰かに洗脳されたせいです。あなたが許せないと思うべきはそいつらじゃないですか? 確かに裏切られ感はあるでしょう。でも彼はね、本当は、あなたに罪の告白をしたかったのだと思います。だけど、彼にはどうしても話せなかったんです。たぶん、あなたに軽蔑されるのが怖かったからでしょう」
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山口は一礼すると、くるりとギルフォードに背を向けて足早に去ろうとした。しかし、また振り返ると言った。
「アレク先生、私、まだ気持ちの整理はついてないけど、頑張ってみます」
山口はそう言うと、再び足早に去って行った。
河部千夏は、2日ほど前から気分が優れず倦怠感が続いていたが、もともとつわりのひどい彼女はあまり気にしていなかった。しかし、今日は朝から熱っぽく、念のために熱を測ってみると38度近くになっていた。
「やばっ、土日が肌寒かったから……。風邪薬飲んで寝た方がいいかな……。でも、久しぶりにお日様が出ているし、天気予報も今日は降雨確率0%って言ってるから、洗濯やお蒲団干ししたかったんだけどなあ……」
少し無理して洗濯だけでも終わらせようか……。そう思ってソファから立ち上がろうとしたが、ふらついてどうも調子が良くない。
「もう、風アイロンとかジェット乾燥とかいう最新式の洗濯機、買っとけばよかった」
千夏は、先週量販店で夫が買おうと言った洗濯機を思い浮かべて後悔していた。梅雨に入ったし、身重で洗濯も大変だろうと言う夫の気遣いだったが、値段を見て家のローンを考えた千夏は、今のがまだ十分使えるからと言って断ったのだ。
「だって、たかが洗濯機に20万なんてもったいなかったんだもん」
今更後悔しても仕方がない。千夏は冷凍庫から冷却枕を取り出すと、寝室に向かった。
「まったく、たっちゃんってば、こういう時に限って出張で居ないんだから。しかも、海外なんて最悪だよ」
千夏はぶつぶつ言いながらベッドに横になった。着替えたかったがとてもそんな気力はない。既に頭がガンガンしている。しかし、おなかの子供のことを思うとやたらと薬を飲みたくなかったし、しばらく寝ていれば改善されるだろうと楽観的に考えていた。それで、千夏は布団にもぐりこむと目をつぶった。
数時間後、千夏は目を覚ました。少し寝るつもりがすでに夕方になっていた。しかし、頭痛は治まらず熱は上がる一方だった。昨日とは打って変わった暑さのはずが、寒気までしてきた。しかも、体中の関節が痛い。
(やだ、本格的に風邪引いちゃったのかなあ……)
千夏はそう思ったが、どうも様子が違う。腹に何か違和感を感じるのだ。
「まさか……」
千夏は急いで起き上がろうとしたが、激しい頭痛で半身を起こしたのが限界で、すぐに布団に横たわった。恐ろしくなった千夏は、枕元の携帯電話を探って手にすると、実家の母親に電話をかけた。
「お、お母さん、私、私……」
「どうしたとね?」
電話から、尋常ではない娘の声を聞いて異常を察した母親の不安な声がした。
「あのね、熱が出たと。それで……・それでね……」
亜由美の声はすでに半べそをかいていた。
「なんね、しっかりせんね」
「おなかがなんか変なと」
「そりゃあいかん! すぐに救急車呼んでかかりつけの産婦人科に行きなさい。あたしもすぐに行くけん」
「うん。そうする……。お母さん、ちゃんと来てよ」
「わかっとおって。ほんとにもお、巽さんったら、こういう時に限って……」
そこまでで、電話が切れた。千夏はすぐに119番を押して救急車を呼んだ。
千夏は這うようにして、必要なものを一式入れたバッグを手に取り、必死に玄関に向かった。玄関でうずくまっていると、5分ほどしてサイレンの音がして千夏の家の前に止まった。千夏はほっとして一瞬気が遠くなったが、必死に意識を保った。
駆け付けた救急隊員にストレッチャーで救急車に運ばれた千夏は、病状を聞かれ、経過を正直に話した。すると、救急隊員たちは顔を見合わせた。
「すみません、河部さん。急に高熱の出た方に質問しなければならないのですが、気を悪くなさらずにお答えください。今、県下で発生しているサイキウイルスですが、その患者の出た場所に行ったとか、知り合いに患者あるいはその疑いで隔離された人とかいませんか」
「いえ、私にはそんな覚えは……」
「そうですよね。そんなことはそうそうありませんよね」
質問した救急隊員は、笑いながら言った。
「では、搬送希望の病院は……。おや、河部さん? どうされました?」
千夏は、隊員の質問からある事を思い出していた。怖くて封印していたある事件。あれは一週間前……。
F駅でサイキウイルス患者が死亡したというニュースを見ながら夫の帰りを心配していると、元気な顔をして帰って来た。しかし、彼はそのまま洗面所に行くと何かを洗っている。千夏は不審に思ってそばによると、夫はハンカチを洗おうとしている。
「どうしたと? そんなの洗濯機に入れたらよかやん」
千夏は笑いながらハンカチに触ろうとしたが、巽は驚いてそれを阻止しようとした。それで、千夏はつい、むきになってそれを取ろうとしたために、ハンカチの水が周囲に飛び散り、一部が千夏の顔にかかった。
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