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第三部 第三章 暗雲
3.フールズ・ラッシュ・アウト
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部屋に戻って横になり、うつらうつらしていた孝治は、ふと窓の前を何かがよぎったのがカーテン越しに見え、驚いて体を起こした。孝治は嫌な予感がして、だるい体に鞭打ち窓にそうっと近寄った。鍵を開け、カーテンをそっとめくって窓を1センチほど開けて外の様子を伺った。するとそこに数名の黄色い防護服をつけた救急隊らしき男たちの姿を認めた。孝治は震える手で窓をそっと閉めると鍵を掛けた。孝治はそのまま窓際に座り込むと、震える手で顔を覆いながら、うめくようにつぶやいた。
「ばばあ、ちくりやがったな」
F空港の搭乗口前では、目立った男女4人がさりげなく人々の注目を引いていた。
「話は尽きにゃーが紗弥も間に合ったことだし、葛西が来れにゃーのは残念だがそろそろ行かにゃーて」
そういいながらジュリアスがショルダーバッグを持って立ち上がろうとした時、彼を呼ぶ声がした。
「ジュリー! 待って!」
見ると、Tシャツ姿のやたらラフな格好の若い男が走ってきている。よく見ると葛西だった。由利子がそれを見て少し顔をしかめた。
「あ、やっと来たよ。しかし、なんちゅ-格好だよ」
「ジュン! よかった、心配しましたよ」
ギルフォードは安心したように言った。
「はあ、間に合った」
葛西は4人のそばまで来ると、座り込んで肩で息をした。
「久々に長距離を全力で走ったよ。まったくもー、何で国際線じゃないんだよ」
「国際線で蘭子を張っとったのか。まあ、おれだって色々都合があるがね」
「僕も、両方に可能性があるなら国内線がいいって思って、目立たないようにこういう格好をしてきたのに」
葛西の『目立たない格好』と言う主張に四人が一斉に「えっ!?」と言った。
前後ろに怪獣のシルエットと番組タイトルの某超人ロゴが赤くプリントされた白いTシャツに、小汚いヴィンテージ物っぽいストレートのジーンズを履いている。さらに、何故か足元はミリタリーブーツで頭には迷彩のバンダナを巻いていた。とどめには怪獣のイラスト付ペーパーバッグを持っている。
「上下と中間に違和感があるけど、ひょっとして、コンセプトは……」
由利子がいぶかしげに聞いた。
「はい。アキバに向かうオタクです」
「そりゃあ、国際線じゃさぞかし目立っただろうねえ」
「ここでも十分目立ってますわ」
由利子に続いて紗弥も少しあきれていった。
「そういえば、九木さんからかなり嫌な顔をされました。でも、入国したてのアメリカ人観光客団体さんから喜ばれて、一緒に写真を撮りましたよ」
「おみゃーさん、すごくえー男なのに、ピントとセンスがちいとばっかずれとるわ。そこがまた可愛いのだが」
「はいはい、わかります」
と、ギルフォードが仕打ちを打った。
「そーかぁ?」
この二人のセンスにもついていけないと思う由利子であった。
「じゃあ、行くからな。諸君、しばしの別れだなも」
ジュリアスがバッグを持ち替えながら言うと、今度は由利子が呼び止めた。
「ジュリー」
「何かね?」
「あの件、了解したから、心置きなく帰国して、とっととこっちに戻って来なよ」
「由利子、ありがとう!」
ジュリアスはそう言うや否や、由利子の背に手を回すと唇に軽くキスをした。いきなりのゲリラキスに由利子は防ぐ余裕がなかった。
「何すんだっ!」
「おっと」
ジュリアスはひっぱたこうとした由利子の手を軽くかわすと、驚いて口をパクパクさせている葛西にすばやく近づいて、さっさと唇を奪ってしまった。
「ジュジュジュジュリーッ! なっ、なっ、ななな……」
葛西は口を押さえてわなわなと震えながら抗議したが言葉にならない。
「由利子との間接キスだがや。まあ、ミツバチが口に止まったと思ってちょーよ」
「何がミツバチか、このキス魔っ!」
由利子は怒って言ったが、この時ジュリアスは引き続き紗弥にキスしようとして、敢え無く羽交い絞めにされていた。それを見た由利子は怒るのも馬鹿らしくなって吹き出した。
「もう、馬鹿なんだから……」
「痛ぇ~~~~~~、紗弥、おれが悪かったがね、離してちょーよ。ギブギブ、死ぬ~」
ジュリアスがジタバタしながら紗弥に懇願している横で由利子が笑い出して、その横で葛西がボーゼンとした様子で固まっている。その光景をギルフォードは複雑な表情で見ていた。ジュリアスは紗弥から開放されて乱れた髪と衣服を整えると、にっと笑って言った。
「葛西、おれが帰ってくるまでに由利子と直接キス出来る様になっとれよ」
「ジュリー! 馬鹿なこと言うんじゃないよっ!」
茫然自失の葛西に代わって由利子が抗議したが、ジュリアスは笑ってそれをかわした。その横でギルフォードが不満げに言った。
「ジュリー、僕へのキスは?」
「おみゃーさんへのキスは、帰ってくるまでお預けだがや。じゃあな、アレックス、今度こそ行くからな」
ジュリアスは名残惜しそうにギルフォードを見て言うと、吹っ切るように翻って行こうとした。ギルフォードはその手を掴むと彼を引き寄せ腰に手を回し抱き寄せた。ジュリアスは驚いて眼を大きく見開いたが、抗うことなくギルフォードのキスを受け入れた。それを目撃した女性たちのきゃあ~という歓声が上がった。
「あ~あ、注目の的やん。空港のど真ん中で何やってんだか……」
由利子があきれながらも流石に気恥ずかしくて、二人から目をそらし葛西の様子を見たが、幸いにもというべきか、彼は男性にキスされたショックで引き続き固まったままあさってのほうを向いていて二人の様子に気づいていないようだった。由利子は肩をすくめると、今度は紗弥のほうを見た。紗弥はというと、この状況にまったく動じず冷静に周囲を警戒している。と、スマートフォンを二人に向けようとした不届き者たちの手から次々と電話がはじきとんだ。彼ら彼女らは何が起こったかわからずにきょろきょろと周囲を見回すと、焦って電話を取りに走った。
(え? ひょっとして指弾? この人、ほんとに何者? それにしても、葛西君の頼りなさときたら……)
由利子は紗弥から再び葛西に目を向けると、ため息をついた。
由利子が照れ隠しにあちこち様子を見ている間に二人はキスを終え、ジュリアスは笑顔で由利子たちを見回して言った。
「すまにゃ~ね。これは想定外だったんだなも。じゃあ、今度こそ行くぞ。じゃ、またな!」
ジュリアスは笑顔でそう言うと、出発口に向かって駆け出した。彼は入り口で立ち止まってもう一度振り返り、投げキスをすると笑顔で大きく手を振ってから出発口に消えて行った。
イケメン外人二人の本格的キスがF空港職員の間で語り継がれ、伝説となったのは、また後のお話。
ジュリアスの姿が出発口に消えた後、ギルフォードは少しの間その方角を見つめていたが、由利子たちのほうへ振り返ると照れくさそうに言った。
「え~っと」
「それは、こっちのセリフだ!」
すかさず由利子が突っ込んだので、紗弥がその場をとりなすように言った
「まあまあ、皆さん。展望台で飛行機が飛び立つのが見られますわよ。みんなで行きませんこと?」
「あ、それいいね」
「じゃあ、行きましょうか」
と、由利子とギルフォードがすぐに同意した。葛西はというと、まだショックから抜け切っていない様子で固まったままだった。由利子は葛西の背をバン!と叩いて言った。
「何いつまでもショックから立ち直れないでいるんだよ! 行くよ」
「え?」
葛西が驚いたような顔をしたので、紗弥が少し戸惑った表情で説明した。
「みんなで展望台に行くことになったのですけど……」
「え? ジュリーは?」
目点で聞き返す葛西より、更に目点になった由利子が答えた
「あきれた。ほんとに意識が飛んじゃってたんだ。あのね、もう行っちゃったよ」
「ええっ、行っちゃった? もう? なんか、さっき彼と会ってからの記憶があまりないのですが……」
「あ~、またこのお子ちゃまは~」
由利子がまた怒りそうになったので、ギルフォードが慌ててフォローした。
「ユリコ、あまりジュンを怒らないで下さい。アレはやっぱりジュリーが悪いです。ユリコだって多少のショックはあったでしょ? ストレートの男性ならなおのことですよ」
「わかった。で、葛西君。そういうことだから、ジュリーの乗った飛行機を送るんで展望台に行くことになったんだ」
「そうですか。なんかまだ経移が把握出来てませんが、行きましょう。持ち場に帰るまでもう少し時間がありますから」
「OK、じゃあ、早く行きましょうか」
一行はエレベーターに向かって歩き出した。
少し歩いたところで、由利子がはっとして葛西のシャツを引っ張った。あまりにもグイッと引っ張ったので襟元がのどに食い込んで、葛西はキュウと妙な声を出した。
「げほっ、何するんですか、由利子さん。ごほごほ」
葛西が涙目で振り返った。由利子は自分の唇を人差し指で抑えながら言った。
「しぃっ。持ち場に帰る必要はなさそうだよ」
そう言いながら、由利子が一箇所に目線を向けた。
「敏江先生、笹川さんが……」
川崎五十鈴の診察をしていた高柳敏江に、甲斐看護師の切迫した声で内線が入った。
「しきりにお母さんを呼んでおられます。熱もすごく高くて苦しそうなんです。先生、早く来てください」
甲斐看護師の声の向こうで女の子の泣き声と看護師たちがなだめすかしている声が聞こえた。一瞬、敏江が動揺の色を見せた。それに気がついて、五十鈴が言った。
「先生、私はいいから早く行ってあげてください」
「川崎さん?」
「私とは少しの間だけ同室やったけど、身内の情の薄い可愛そうな子でした。私のことをお母さんだったらよかったのにって言うてくれました。なんか、他人の子じゃないごと思えてしもうて。先生、あの子に私の分もよくしてやってください」
「わかりました。でも、もう少しで診察は終わりますよ。終わったらすぐに行きますから、ご心配なさらずに」
敏江は平静を取り戻すと落ち着いて言った。
歌恋の病室では、看護師たちがぐずりながら邪魔な点滴の針を外して逃げ出そうとする歌恋を抑えていた。
「甲斐さん、このままでは針刺し事故がおきかねません。私たちが危険ですっ。もう、北山さんのように拘束するしか……」
「そうしましょう! これは、男の私でもきついっ。いったい、どこにこんな力が残っているんだ!」
「そ、そうね。こっちも先生を待つまでもたないかもしれないし……。でも、精神が退行したこの子にそれは……」
甲斐は悩んだ。そんなことをしたらこの子に最悪の苦痛とストレスを与えることになる。見た目は成人女性でも、心は5歳くらいの幼児なのだ。あまりにも不憫ではないか……。
それで甲斐に隙が出来たのか、歌恋は甲斐の手を振り払い右手の点滴の針を引き抜いた。それとともに刺し痕から血が飛び散り、針は歌恋の手の動きに沿って、空に弧を描いて移動し、甲斐の目前に迫った。甲斐は顔を庇おうと反射的に針を掴もうとした。
由利子が目で示した方角には上りエスカレーターがあり、人々が間断なく上ってきていた。由利子は上ってくる人たちの中から地味な若い女性を見ていた。
「蘭子よ」
「ええっ、あれが? だって写真とは別人じゃないですか」
「一見別人だけど、この由利子さんは騙せないよ。いい? 写真の蘭子は派手な厚化粧でアイメイクもすごいでしょ。化粧を地味にして髪を黒く戻してストパーかけたらああなるの。目も普段は縁の黒いコンタクトレンズで黒目を大きく見せてたのね。それだけで印象が大分変わるから」
「ってことは、あれが本来の蘭子ってことですか?」
「そうなるね」
「へえぇ~、詐欺メイクってやつですか」
「この場合、どっちが詐欺メイクだかわからんけどな」
その女は肩まで長さのまっすぐな黒髪で市松人形のように前髪を下ろし、化粧も地味なナチュラルメイクにして更に野暮ったい黒縁眼鏡をかけて、地味なグレーのパンツスーツをまとっている。写真の巻き毛茶髪で重たそうな長いまつげに目の周り真っ黒なアイメイクのド派手な女性とはまったく別人だ。長期旅行のつもりか大きなスーツケースを持っている。
「一見、真面目なOLの出張って感じだけど、あの荷物はないなあ。機内に持ち込むつもりかしら? 定形外だと思うけど……」
「わかりました。由利子さんの目を信じます。すぐに皆を招集しますから、由利子さんはアレクたちと先に行ってて下さい」
「アレクには適当に言うよ。ホントのことを言ったらこっちに残るって言うにきまってるんだから」
由利子はそう言うとさりげないふりをして葛西から離れ、足早にギルフォードの方に向かった。
「気をつけなさい、甲斐さん! 針を掴もうとするなんて、もし手に刺さってしまったらどうするの! 何のための防護服とゴーグルなの!?」
はっとして顔を上げると、敏江が点滴の管を持ち立っていた。五十鈴の部屋から駆けつけてきた敏江が、間一髪で歌恋の手を掴み、点滴の管を取り上げたのだ。
「おかあさん、おかあさん……」
歌恋が嬉しそうに敏江の防護ガウンのすそを握って言った。敏江はかがんで歌恋の顔のそばに自分の顔を近づけると優しく言った。
「お出かけしてて、ごめんなさいね。これからは歌恋ちゃんのそばにいるからね」
「ずっといてくれるの?」
「大事な御用がない限りは、ずっと居るわよ。もしお出かけしても、すぐに帰ってくるからね」
「わあい、かれん、うれしいな」
「だから、もう暴れちゃだめよ。これも邪魔だけど取っちゃだめ。頭の痛いのが治らないのよ」
「うん、わかった」
「じゃあ、もうちょっと寝ようか。お母さんが横に居るから安心でしょ」
「うん。かれん、なんかつかれた……」
歌恋はそう言うと、ふっと目をつぶった。
「歌恋ちゃん?」
「笹川さんっ」
周囲が一瞬ヒヤッとして声をかけた。しかしその後に聞こえた寝息で、スタッフ全員安堵の表情を浮かべた。
葛西が連絡を終えると、横に由利子が立っていたので驚いて飛びのいた。
「ゆ、由利子さん、いつの間に……」
「ちょっとぉ、お化けでも見たように驚かないでよ」
「アレクと一緒に行かなかったんですか?」
「ええ。葛西君がうんこしに行ったんで、私もついでにトイレに行くから先に行っててって言っといたから」
「ちょ、ちょっと、うんことか変なこと言わないで下さいよ」
「声が大きいっ」
周囲の人たちが振り向いたので由利子はちょっと焦った。
「ただでさえ、さっきのことで目立ってんのに……」
「何かありましたっけ?」
「もう、いいよ。で、蘭子は?」
「あ、荷物を預けに行ったようですね」
「さすがにあれは持って入れないよな……。で、これからどうなるの?」
「防護服の救急隊を待ちます。九木さんたち国際線組ももうすぐこちらに来るようです。国内線組は既にここで張ってますから、もし蘭子が不審な行動をとった場合、取り押さえにかかると思います」
「って、そんな普通の格好で? もし蘭子が発症してたら危ないじゃない」
「さっきこれで確認したところ……」
「何それ?」
「携帯サーモグラフィーです。赤外線を探知するので発熱していたらすぐにわかります」
「へえ、すごいじゃん」
「空港のあちこちがサーモグラフィーで監視されていますよ。導入はこの事件以前からですが」
「ああ、サーズや新型インフルエンザとかの」
「はい。で、特に発熱はしていないようだったので、大丈夫とは思いますが……」
「じゃあ、感染してないってこと?」
「いえ、日にちは経ってますが、感染後十日経って発症した川崎さんという男性がいます。今は大丈夫でしょうが予断は許せません。発症者と濃厚接触しているなら隔離は妥当だと思います」
「そうなんだ」
「でもまあ、もし感染していても発症してないなら、こちらの感染のリスクはかなり低いでしょうね。でも、もし危険があっても行かざるを得ないでしょうけど」
危険があっても、と葛西が言ったので、由利子は一瞬動揺した。
「……葛西君……、も?」
「当たり前じゃないですか」
「そうよだね。警察官だもんね」
由利子はそう言いながら、心に不安がよぎったのに気がついた。
(なんとなく多美山さんの奥さんや葛西君のお母さんの気持ちがわかったような気がする……)
「由利子さん、だから僕のそばは危険です。早くアレクのところに行っててください」
「そうはいかないよ。だって、私が発見したんだよ。見届ける義務があるでしょ」
「もう、頑固なんだから。じゃあ、危険を感じたらすぐに退避してくださいよ」
「わかってるって……あら、あそこにいるのはふっ○い君じゃない?」
由利子が新聞を読みながら壁に寄りかかっている男を見て言った。
「いつからいたんだろ?」
「もともとエレベーター前で張ってましたが、こちらに移動したようですね。それから由利子さん、ふ○けい君て言うの、やめてください。あれ以来、富田林さんの顔を見るたびに笑いそうになるのをこらえるのが大変で……」
「それは悪かったね。……ということは、相方の増岡さんもいる?」
「彼は搭乗口のほうを張っていましたから、そろそろ来るんじゃないでしょうか……。あ、蘭子が動き出しましたね。誰か待っているのかな、きょろきょろしてますね」
蘭子は荷物を預けて身軽な足取りで戻ってきたが、周囲を見回すと少し不機嫌な表情で歩き出した。その後、彼女は出発口の前で腕組をしながら立ち止まった。作業員が来て、出発口に移動式柵を並べ始めたのだ。柵にはお断りとして「点検作業のため三十分程通行止めをいたします」と書かれていた。蘭子は作業員の一人を呼び止め文句を言った。しかし、マスクをつけた職員は丁寧に謝りながら慇懃に頭を下げるだけだった。
「ぷっ、あれ、増岡さんじゃん」
「まったく、由利子さんのいるところでは、顔見知りは使えないな」
葛西が困ったようにつぶやいた。
蘭子は不安げな表情で周囲を見回すと、携帯電話を取り出して電話をかけはじめた。
「どこに電話しているのかな?」
「親父か彼氏かそこら辺ですかねえ」
「なんか様子が変だって気付き始めたのかも」
その時、葛西に無線が入った。
「え?」
聞いていた葛西の表情が急に厳しくなった。
「なんて馬鹿なことを……」
「どうしたの?」
由利子が心配そうに聞いた。
「斉藤孝治が、祖母を盾にして祖母宅に立て篭もったそうです」
「うそやろ?」
「残念ながら現実のようですね。祖母宅に潜伏していたようですが、発症に気付いた祖母が保健所に連絡し、救急隊員が駆けつけたところ、隔離を恐れていた斉藤孝治が強硬手段に出たようです」
「なんて考えなしの馬鹿男だよ」
「あ、ちょっと待って、電話だ。九木さんからだ」
そう言うと、葛西は急いで電話に出た。
「はい、葛西です」
「葛西君、無線は聞いただろ?」
「はい」
「私は今から斉藤孝治の立て篭もり現場の方に行く。君はここに残って代わりに指揮をとってくれ」
「え? 私がですか?」
「そうだ」
「そんな、無理です! 僕……いえ、私は巡査部長になったばかりですよ」
「松樹対策本部長の判断だ。君に断る権限はないぞ」
「……了解。では、これが終わり次第、私もそちらに駆けつけます」
「よし、よろしく頼むぞ」
九木はそこまで言うと、さっさと電話を切った。
「まいったな……」
葛西が困ったような顔をして言った。
「ベテランたちを差し置いて僕に指揮をとれって……。こんなの前代未聞の命令です」
「すごいじゃん。大丈夫、君なら出来るよ」
由利子が戸惑う葛西を励ますように言った。
「ジュンもユリコも長いうんこですねえ」
四階の展望台で、ギルフォードが時計を見ながら言った。
「いやですわ、教授。それではお二人がうんこみたいじゃないですか……。あらやだ、わたくしったらうんこだなんて……」
「って、二回も言ってるじゃん」
と、すかさずギルフォードが突っ込んだ。
「何かあったのかもしれませんわ」
気を取り直すように紗弥が言った。
「様子を見にもう一度二階まで行ってまいりましょうか?」
「考えられることは、ユリコがランコを見つけたということです。まあ、せっかく気を遣ってくれたのだから、ここにいましょう。警察の仕事だし、僕らが行ってどうなることでもありませんしね」
と言いながらも、ギルフォードの口が若干尖り気味なのを紗弥が見逃さなかった。しかし、ギルフォードはすぐにクスッと笑って言った。
「そういえば、ランコとうんこって言葉、字面も発音も似てますね」
「教授、そんな身も蓋もない……」
紗弥がため息をついて言った。
葛西は、紙袋からいくつか取り出すと、無地の黒Tシャツを重ね着し、すばやく手袋をはめ、マスクをつけゴーグルを被った。由利子に離れて待つように指示すると、富田林と増岡を含む三人の警察官とともに、蘭子に近づいた。
(あの紙袋には、あんなものが入ってたんだ)
由利子が改めて驚いた。が、周囲を見回してもっと驚いた。いつの間にか由利子以外の一般客が人払いされていた。少し向こうからは、完全防護の救急隊員が駆けつけている。
蘭子は突然現れた奇妙な格好の男たちに驚いて数歩後退った。
「竜洞蘭子さんですね」
葛西が警察手帳を見せながら言った。
「あなたをサイキウイルス感染濃厚者として、保護します」
「人違いです! 私は葛城雅美です」
「だめです。もう、あなたにはごまかすことは出来ません」
「ほら見てよ、身分証明もあるし、パスポートだって……」
蘭子は急いでバッグから一式を取り出した。葛西は受け取ると中身を確認した。確かに名前は葛城雅美で写真も良く似ている。
「ほら、間違いないでしょ? 人違いにもほどがあるわ」
蘭子が勝ち誇ったように言った。
「こんなことしてもし捕まえたりしたら、訴えてやるわよ」
葛西たちは一瞬顔を見合わせた。その時由利子が叫んだ。
「その人は間違いなく竜洞蘭子よ! かく乱されないで!」
「何よ、あのオバサン!」
蘭子はキッとした顔で由利子の方を見た。
「源田君、これらのものからこの葛城雅美という女性が存在するか調べて」
葛西は若い警察官に「葛城雅美」の身分証明等を渡した。
「了解」
と、言うや否や、彼はそれを持って駆け出した。
「さて、『葛城』さん。あなたが『ホンモノ』かどうか、もうすぐ照合されますが、とりあえず保護させてもらいます」
葛西が合図すると、防護服の救急隊が近づいてきた。蘭子はすばやく周囲を見回すと、富田林の方へ駆け出した。比較的小柄な彼を見て手薄と見たのだろう。しかし、富田林は機敏に動いて彼女の逃亡を阻止した。
「竜洞さん、観念しなさい。手荒なマネをすることになりますよ」
富田林は厳しい表情で言った。それはマスクとゴーグルでいつもと雰囲気が違い、迫力があった。しかし、蘭子は今度は葛西の方に向かって突進した。葛西は彼女の腕を掴んで言った。
「仕方ありませんね」
葛西は悲しそうな顔をして後ろに控えていた防護服の警察官たちを呼んだ。
「救急隊の皆さんと協力して、この女性を救急車まで運んでください。出来るだけ手荒なことは避けて……って、無理か……」
あくまで人違いだと抵抗する蘭子は、とうとう拘束されてストレッチャーに載せられた。蘭子は最後まで抵抗して叫んだ。
「パパに頼んで人権侵害で訴えてやる! そこのババアも覚えてろ! 暴力団の怖さを思い知らせてやる!」
「あ~あ、言っちゃった」
と、増岡が肩をすぼめて言った。散々わめきながら、蘭子は救急隊員とともに裏口の方に消えていった。
「ババアって、失礼だな! あんたが私の歳にはメッチャ老け顔になっとるわッ」
由利子が憤慨して言った。しかし、その顔は少し青ざめている。
「由利子さん、心配しないで」
葛西が声を掛けた。
「単なる脅しですよ。それに、僕らがそんなことにはさせません」
「あ、葛西君。任務完了お疲れ様」
由利子が我に返って言った。
「ご協力ありがとうございました」葛西は由利子に向かって敬礼をしながら言った。「おかげで蘭子を保護できました」
「保護というより捕獲だったね」
「あれじゃあ仕方ないでしょう。ほんとに名前負けしてない女性でしたね。これから僕はもうひとつの現場の方に行きます。アレクによろしくお伝えください」
そういうと、葛西は富田林・増岡とともに駆けていこうとしたが、由利子が呼び止めた。
「葛西君!」
「なんですか?」
葛西が立ち止まって振り向いた。
「葛西君……それに富田林さんも増岡さんも、気をつけて。無理しないで……」
心配そうな由利子に葛西は笑顔で言った。
「わかってますって、由利子さん。大丈夫です」
「なんか、ついでのごたりますが、ありがたいです」
富田林も振り返って言うとびしっと敬礼をした。そして二人はまた駆け足で去っていった。増岡はとっくに走り去っていた。
一人残された由利子は、ゆっくりとエレベータに向かった。エレベーターの前に立つと、ポーンという音がして上から下ってきた箱が2階で止まった。
(ああ、動き出したんだ。戒厳令は解除されたんだ)
そう思っていると、ドアが開いた。中には他の客に混じって、遅いので心配してやってきた紗弥が乗っていた。紗弥は周囲を見回してつまらなさそうに言った。
「あら、捕り物はもう終わってますのね」
「なんだ。わかってたんだ」
由利子が少しばつの悪そうな表情で言った。
展望台に行くと、ギルフォードが空を見上げて立っていた。由利子たちが近づくと、振り返って言った。
「もう、飛び立ってますよ。あれです」
ギルフォードが指す方向には、曇天の中旋回しつつ徐々に姿を小さくしていく機影があった。由利子と紗弥はギルフォードと一緒に空を見上げた。由利子は無意識に手を振っていた。
機影が厚い雲の中に消えると、ギルフォードは空を見上げたまましんみりと言った。
「とうとう行ってしまいましたね」
「すぐ帰って来るんでしょ。二週間なんてあっという間だって」
由利子はそう言って慰めたが、その二週間の間にもいろんなことが起こるのだろうなと思い、少し憂鬱になった。
※サブタイトルはストラングラーズの曲からいただきました。
「ばばあ、ちくりやがったな」
F空港の搭乗口前では、目立った男女4人がさりげなく人々の注目を引いていた。
「話は尽きにゃーが紗弥も間に合ったことだし、葛西が来れにゃーのは残念だがそろそろ行かにゃーて」
そういいながらジュリアスがショルダーバッグを持って立ち上がろうとした時、彼を呼ぶ声がした。
「ジュリー! 待って!」
見ると、Tシャツ姿のやたらラフな格好の若い男が走ってきている。よく見ると葛西だった。由利子がそれを見て少し顔をしかめた。
「あ、やっと来たよ。しかし、なんちゅ-格好だよ」
「ジュン! よかった、心配しましたよ」
ギルフォードは安心したように言った。
「はあ、間に合った」
葛西は4人のそばまで来ると、座り込んで肩で息をした。
「久々に長距離を全力で走ったよ。まったくもー、何で国際線じゃないんだよ」
「国際線で蘭子を張っとったのか。まあ、おれだって色々都合があるがね」
「僕も、両方に可能性があるなら国内線がいいって思って、目立たないようにこういう格好をしてきたのに」
葛西の『目立たない格好』と言う主張に四人が一斉に「えっ!?」と言った。
前後ろに怪獣のシルエットと番組タイトルの某超人ロゴが赤くプリントされた白いTシャツに、小汚いヴィンテージ物っぽいストレートのジーンズを履いている。さらに、何故か足元はミリタリーブーツで頭には迷彩のバンダナを巻いていた。とどめには怪獣のイラスト付ペーパーバッグを持っている。
「上下と中間に違和感があるけど、ひょっとして、コンセプトは……」
由利子がいぶかしげに聞いた。
「はい。アキバに向かうオタクです」
「そりゃあ、国際線じゃさぞかし目立っただろうねえ」
「ここでも十分目立ってますわ」
由利子に続いて紗弥も少しあきれていった。
「そういえば、九木さんからかなり嫌な顔をされました。でも、入国したてのアメリカ人観光客団体さんから喜ばれて、一緒に写真を撮りましたよ」
「おみゃーさん、すごくえー男なのに、ピントとセンスがちいとばっかずれとるわ。そこがまた可愛いのだが」
「はいはい、わかります」
と、ギルフォードが仕打ちを打った。
「そーかぁ?」
この二人のセンスにもついていけないと思う由利子であった。
「じゃあ、行くからな。諸君、しばしの別れだなも」
ジュリアスがバッグを持ち替えながら言うと、今度は由利子が呼び止めた。
「ジュリー」
「何かね?」
「あの件、了解したから、心置きなく帰国して、とっととこっちに戻って来なよ」
「由利子、ありがとう!」
ジュリアスはそう言うや否や、由利子の背に手を回すと唇に軽くキスをした。いきなりのゲリラキスに由利子は防ぐ余裕がなかった。
「何すんだっ!」
「おっと」
ジュリアスはひっぱたこうとした由利子の手を軽くかわすと、驚いて口をパクパクさせている葛西にすばやく近づいて、さっさと唇を奪ってしまった。
「ジュジュジュジュリーッ! なっ、なっ、ななな……」
葛西は口を押さえてわなわなと震えながら抗議したが言葉にならない。
「由利子との間接キスだがや。まあ、ミツバチが口に止まったと思ってちょーよ」
「何がミツバチか、このキス魔っ!」
由利子は怒って言ったが、この時ジュリアスは引き続き紗弥にキスしようとして、敢え無く羽交い絞めにされていた。それを見た由利子は怒るのも馬鹿らしくなって吹き出した。
「もう、馬鹿なんだから……」
「痛ぇ~~~~~~、紗弥、おれが悪かったがね、離してちょーよ。ギブギブ、死ぬ~」
ジュリアスがジタバタしながら紗弥に懇願している横で由利子が笑い出して、その横で葛西がボーゼンとした様子で固まっている。その光景をギルフォードは複雑な表情で見ていた。ジュリアスは紗弥から開放されて乱れた髪と衣服を整えると、にっと笑って言った。
「葛西、おれが帰ってくるまでに由利子と直接キス出来る様になっとれよ」
「ジュリー! 馬鹿なこと言うんじゃないよっ!」
茫然自失の葛西に代わって由利子が抗議したが、ジュリアスは笑ってそれをかわした。その横でギルフォードが不満げに言った。
「ジュリー、僕へのキスは?」
「おみゃーさんへのキスは、帰ってくるまでお預けだがや。じゃあな、アレックス、今度こそ行くからな」
ジュリアスは名残惜しそうにギルフォードを見て言うと、吹っ切るように翻って行こうとした。ギルフォードはその手を掴むと彼を引き寄せ腰に手を回し抱き寄せた。ジュリアスは驚いて眼を大きく見開いたが、抗うことなくギルフォードのキスを受け入れた。それを目撃した女性たちのきゃあ~という歓声が上がった。
「あ~あ、注目の的やん。空港のど真ん中で何やってんだか……」
由利子があきれながらも流石に気恥ずかしくて、二人から目をそらし葛西の様子を見たが、幸いにもというべきか、彼は男性にキスされたショックで引き続き固まったままあさってのほうを向いていて二人の様子に気づいていないようだった。由利子は肩をすくめると、今度は紗弥のほうを見た。紗弥はというと、この状況にまったく動じず冷静に周囲を警戒している。と、スマートフォンを二人に向けようとした不届き者たちの手から次々と電話がはじきとんだ。彼ら彼女らは何が起こったかわからずにきょろきょろと周囲を見回すと、焦って電話を取りに走った。
(え? ひょっとして指弾? この人、ほんとに何者? それにしても、葛西君の頼りなさときたら……)
由利子は紗弥から再び葛西に目を向けると、ため息をついた。
由利子が照れ隠しにあちこち様子を見ている間に二人はキスを終え、ジュリアスは笑顔で由利子たちを見回して言った。
「すまにゃ~ね。これは想定外だったんだなも。じゃあ、今度こそ行くぞ。じゃ、またな!」
ジュリアスは笑顔でそう言うと、出発口に向かって駆け出した。彼は入り口で立ち止まってもう一度振り返り、投げキスをすると笑顔で大きく手を振ってから出発口に消えて行った。
イケメン外人二人の本格的キスがF空港職員の間で語り継がれ、伝説となったのは、また後のお話。
ジュリアスの姿が出発口に消えた後、ギルフォードは少しの間その方角を見つめていたが、由利子たちのほうへ振り返ると照れくさそうに言った。
「え~っと」
「それは、こっちのセリフだ!」
すかさず由利子が突っ込んだので、紗弥がその場をとりなすように言った
「まあまあ、皆さん。展望台で飛行機が飛び立つのが見られますわよ。みんなで行きませんこと?」
「あ、それいいね」
「じゃあ、行きましょうか」
と、由利子とギルフォードがすぐに同意した。葛西はというと、まだショックから抜け切っていない様子で固まったままだった。由利子は葛西の背をバン!と叩いて言った。
「何いつまでもショックから立ち直れないでいるんだよ! 行くよ」
「え?」
葛西が驚いたような顔をしたので、紗弥が少し戸惑った表情で説明した。
「みんなで展望台に行くことになったのですけど……」
「え? ジュリーは?」
目点で聞き返す葛西より、更に目点になった由利子が答えた
「あきれた。ほんとに意識が飛んじゃってたんだ。あのね、もう行っちゃったよ」
「ええっ、行っちゃった? もう? なんか、さっき彼と会ってからの記憶があまりないのですが……」
「あ~、またこのお子ちゃまは~」
由利子がまた怒りそうになったので、ギルフォードが慌ててフォローした。
「ユリコ、あまりジュンを怒らないで下さい。アレはやっぱりジュリーが悪いです。ユリコだって多少のショックはあったでしょ? ストレートの男性ならなおのことですよ」
「わかった。で、葛西君。そういうことだから、ジュリーの乗った飛行機を送るんで展望台に行くことになったんだ」
「そうですか。なんかまだ経移が把握出来てませんが、行きましょう。持ち場に帰るまでもう少し時間がありますから」
「OK、じゃあ、早く行きましょうか」
一行はエレベーターに向かって歩き出した。
少し歩いたところで、由利子がはっとして葛西のシャツを引っ張った。あまりにもグイッと引っ張ったので襟元がのどに食い込んで、葛西はキュウと妙な声を出した。
「げほっ、何するんですか、由利子さん。ごほごほ」
葛西が涙目で振り返った。由利子は自分の唇を人差し指で抑えながら言った。
「しぃっ。持ち場に帰る必要はなさそうだよ」
そう言いながら、由利子が一箇所に目線を向けた。
「敏江先生、笹川さんが……」
川崎五十鈴の診察をしていた高柳敏江に、甲斐看護師の切迫した声で内線が入った。
「しきりにお母さんを呼んでおられます。熱もすごく高くて苦しそうなんです。先生、早く来てください」
甲斐看護師の声の向こうで女の子の泣き声と看護師たちがなだめすかしている声が聞こえた。一瞬、敏江が動揺の色を見せた。それに気がついて、五十鈴が言った。
「先生、私はいいから早く行ってあげてください」
「川崎さん?」
「私とは少しの間だけ同室やったけど、身内の情の薄い可愛そうな子でした。私のことをお母さんだったらよかったのにって言うてくれました。なんか、他人の子じゃないごと思えてしもうて。先生、あの子に私の分もよくしてやってください」
「わかりました。でも、もう少しで診察は終わりますよ。終わったらすぐに行きますから、ご心配なさらずに」
敏江は平静を取り戻すと落ち着いて言った。
歌恋の病室では、看護師たちがぐずりながら邪魔な点滴の針を外して逃げ出そうとする歌恋を抑えていた。
「甲斐さん、このままでは針刺し事故がおきかねません。私たちが危険ですっ。もう、北山さんのように拘束するしか……」
「そうしましょう! これは、男の私でもきついっ。いったい、どこにこんな力が残っているんだ!」
「そ、そうね。こっちも先生を待つまでもたないかもしれないし……。でも、精神が退行したこの子にそれは……」
甲斐は悩んだ。そんなことをしたらこの子に最悪の苦痛とストレスを与えることになる。見た目は成人女性でも、心は5歳くらいの幼児なのだ。あまりにも不憫ではないか……。
それで甲斐に隙が出来たのか、歌恋は甲斐の手を振り払い右手の点滴の針を引き抜いた。それとともに刺し痕から血が飛び散り、針は歌恋の手の動きに沿って、空に弧を描いて移動し、甲斐の目前に迫った。甲斐は顔を庇おうと反射的に針を掴もうとした。
由利子が目で示した方角には上りエスカレーターがあり、人々が間断なく上ってきていた。由利子は上ってくる人たちの中から地味な若い女性を見ていた。
「蘭子よ」
「ええっ、あれが? だって写真とは別人じゃないですか」
「一見別人だけど、この由利子さんは騙せないよ。いい? 写真の蘭子は派手な厚化粧でアイメイクもすごいでしょ。化粧を地味にして髪を黒く戻してストパーかけたらああなるの。目も普段は縁の黒いコンタクトレンズで黒目を大きく見せてたのね。それだけで印象が大分変わるから」
「ってことは、あれが本来の蘭子ってことですか?」
「そうなるね」
「へえぇ~、詐欺メイクってやつですか」
「この場合、どっちが詐欺メイクだかわからんけどな」
その女は肩まで長さのまっすぐな黒髪で市松人形のように前髪を下ろし、化粧も地味なナチュラルメイクにして更に野暮ったい黒縁眼鏡をかけて、地味なグレーのパンツスーツをまとっている。写真の巻き毛茶髪で重たそうな長いまつげに目の周り真っ黒なアイメイクのド派手な女性とはまったく別人だ。長期旅行のつもりか大きなスーツケースを持っている。
「一見、真面目なOLの出張って感じだけど、あの荷物はないなあ。機内に持ち込むつもりかしら? 定形外だと思うけど……」
「わかりました。由利子さんの目を信じます。すぐに皆を招集しますから、由利子さんはアレクたちと先に行ってて下さい」
「アレクには適当に言うよ。ホントのことを言ったらこっちに残るって言うにきまってるんだから」
由利子はそう言うとさりげないふりをして葛西から離れ、足早にギルフォードの方に向かった。
「気をつけなさい、甲斐さん! 針を掴もうとするなんて、もし手に刺さってしまったらどうするの! 何のための防護服とゴーグルなの!?」
はっとして顔を上げると、敏江が点滴の管を持ち立っていた。五十鈴の部屋から駆けつけてきた敏江が、間一髪で歌恋の手を掴み、点滴の管を取り上げたのだ。
「おかあさん、おかあさん……」
歌恋が嬉しそうに敏江の防護ガウンのすそを握って言った。敏江はかがんで歌恋の顔のそばに自分の顔を近づけると優しく言った。
「お出かけしてて、ごめんなさいね。これからは歌恋ちゃんのそばにいるからね」
「ずっといてくれるの?」
「大事な御用がない限りは、ずっと居るわよ。もしお出かけしても、すぐに帰ってくるからね」
「わあい、かれん、うれしいな」
「だから、もう暴れちゃだめよ。これも邪魔だけど取っちゃだめ。頭の痛いのが治らないのよ」
「うん、わかった」
「じゃあ、もうちょっと寝ようか。お母さんが横に居るから安心でしょ」
「うん。かれん、なんかつかれた……」
歌恋はそう言うと、ふっと目をつぶった。
「歌恋ちゃん?」
「笹川さんっ」
周囲が一瞬ヒヤッとして声をかけた。しかしその後に聞こえた寝息で、スタッフ全員安堵の表情を浮かべた。
葛西が連絡を終えると、横に由利子が立っていたので驚いて飛びのいた。
「ゆ、由利子さん、いつの間に……」
「ちょっとぉ、お化けでも見たように驚かないでよ」
「アレクと一緒に行かなかったんですか?」
「ええ。葛西君がうんこしに行ったんで、私もついでにトイレに行くから先に行っててって言っといたから」
「ちょ、ちょっと、うんことか変なこと言わないで下さいよ」
「声が大きいっ」
周囲の人たちが振り向いたので由利子はちょっと焦った。
「ただでさえ、さっきのことで目立ってんのに……」
「何かありましたっけ?」
「もう、いいよ。で、蘭子は?」
「あ、荷物を預けに行ったようですね」
「さすがにあれは持って入れないよな……。で、これからどうなるの?」
「防護服の救急隊を待ちます。九木さんたち国際線組ももうすぐこちらに来るようです。国内線組は既にここで張ってますから、もし蘭子が不審な行動をとった場合、取り押さえにかかると思います」
「って、そんな普通の格好で? もし蘭子が発症してたら危ないじゃない」
「さっきこれで確認したところ……」
「何それ?」
「携帯サーモグラフィーです。赤外線を探知するので発熱していたらすぐにわかります」
「へえ、すごいじゃん」
「空港のあちこちがサーモグラフィーで監視されていますよ。導入はこの事件以前からですが」
「ああ、サーズや新型インフルエンザとかの」
「はい。で、特に発熱はしていないようだったので、大丈夫とは思いますが……」
「じゃあ、感染してないってこと?」
「いえ、日にちは経ってますが、感染後十日経って発症した川崎さんという男性がいます。今は大丈夫でしょうが予断は許せません。発症者と濃厚接触しているなら隔離は妥当だと思います」
「そうなんだ」
「でもまあ、もし感染していても発症してないなら、こちらの感染のリスクはかなり低いでしょうね。でも、もし危険があっても行かざるを得ないでしょうけど」
危険があっても、と葛西が言ったので、由利子は一瞬動揺した。
「……葛西君……、も?」
「当たり前じゃないですか」
「そうよだね。警察官だもんね」
由利子はそう言いながら、心に不安がよぎったのに気がついた。
(なんとなく多美山さんの奥さんや葛西君のお母さんの気持ちがわかったような気がする……)
「由利子さん、だから僕のそばは危険です。早くアレクのところに行っててください」
「そうはいかないよ。だって、私が発見したんだよ。見届ける義務があるでしょ」
「もう、頑固なんだから。じゃあ、危険を感じたらすぐに退避してくださいよ」
「わかってるって……あら、あそこにいるのはふっ○い君じゃない?」
由利子が新聞を読みながら壁に寄りかかっている男を見て言った。
「いつからいたんだろ?」
「もともとエレベーター前で張ってましたが、こちらに移動したようですね。それから由利子さん、ふ○けい君て言うの、やめてください。あれ以来、富田林さんの顔を見るたびに笑いそうになるのをこらえるのが大変で……」
「それは悪かったね。……ということは、相方の増岡さんもいる?」
「彼は搭乗口のほうを張っていましたから、そろそろ来るんじゃないでしょうか……。あ、蘭子が動き出しましたね。誰か待っているのかな、きょろきょろしてますね」
蘭子は荷物を預けて身軽な足取りで戻ってきたが、周囲を見回すと少し不機嫌な表情で歩き出した。その後、彼女は出発口の前で腕組をしながら立ち止まった。作業員が来て、出発口に移動式柵を並べ始めたのだ。柵にはお断りとして「点検作業のため三十分程通行止めをいたします」と書かれていた。蘭子は作業員の一人を呼び止め文句を言った。しかし、マスクをつけた職員は丁寧に謝りながら慇懃に頭を下げるだけだった。
「ぷっ、あれ、増岡さんじゃん」
「まったく、由利子さんのいるところでは、顔見知りは使えないな」
葛西が困ったようにつぶやいた。
蘭子は不安げな表情で周囲を見回すと、携帯電話を取り出して電話をかけはじめた。
「どこに電話しているのかな?」
「親父か彼氏かそこら辺ですかねえ」
「なんか様子が変だって気付き始めたのかも」
その時、葛西に無線が入った。
「え?」
聞いていた葛西の表情が急に厳しくなった。
「なんて馬鹿なことを……」
「どうしたの?」
由利子が心配そうに聞いた。
「斉藤孝治が、祖母を盾にして祖母宅に立て篭もったそうです」
「うそやろ?」
「残念ながら現実のようですね。祖母宅に潜伏していたようですが、発症に気付いた祖母が保健所に連絡し、救急隊員が駆けつけたところ、隔離を恐れていた斉藤孝治が強硬手段に出たようです」
「なんて考えなしの馬鹿男だよ」
「あ、ちょっと待って、電話だ。九木さんからだ」
そう言うと、葛西は急いで電話に出た。
「はい、葛西です」
「葛西君、無線は聞いただろ?」
「はい」
「私は今から斉藤孝治の立て篭もり現場の方に行く。君はここに残って代わりに指揮をとってくれ」
「え? 私がですか?」
「そうだ」
「そんな、無理です! 僕……いえ、私は巡査部長になったばかりですよ」
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「よし、よろしく頼むぞ」
九木はそこまで言うと、さっさと電話を切った。
「まいったな……」
葛西が困ったような顔をして言った。
「ベテランたちを差し置いて僕に指揮をとれって……。こんなの前代未聞の命令です」
「すごいじゃん。大丈夫、君なら出来るよ」
由利子が戸惑う葛西を励ますように言った。
「ジュンもユリコも長いうんこですねえ」
四階の展望台で、ギルフォードが時計を見ながら言った。
「いやですわ、教授。それではお二人がうんこみたいじゃないですか……。あらやだ、わたくしったらうんこだなんて……」
「って、二回も言ってるじゃん」
と、すかさずギルフォードが突っ込んだ。
「何かあったのかもしれませんわ」
気を取り直すように紗弥が言った。
「様子を見にもう一度二階まで行ってまいりましょうか?」
「考えられることは、ユリコがランコを見つけたということです。まあ、せっかく気を遣ってくれたのだから、ここにいましょう。警察の仕事だし、僕らが行ってどうなることでもありませんしね」
と言いながらも、ギルフォードの口が若干尖り気味なのを紗弥が見逃さなかった。しかし、ギルフォードはすぐにクスッと笑って言った。
「そういえば、ランコとうんこって言葉、字面も発音も似てますね」
「教授、そんな身も蓋もない……」
紗弥がため息をついて言った。
葛西は、紙袋からいくつか取り出すと、無地の黒Tシャツを重ね着し、すばやく手袋をはめ、マスクをつけゴーグルを被った。由利子に離れて待つように指示すると、富田林と増岡を含む三人の警察官とともに、蘭子に近づいた。
(あの紙袋には、あんなものが入ってたんだ)
由利子が改めて驚いた。が、周囲を見回してもっと驚いた。いつの間にか由利子以外の一般客が人払いされていた。少し向こうからは、完全防護の救急隊員が駆けつけている。
蘭子は突然現れた奇妙な格好の男たちに驚いて数歩後退った。
「竜洞蘭子さんですね」
葛西が警察手帳を見せながら言った。
「あなたをサイキウイルス感染濃厚者として、保護します」
「人違いです! 私は葛城雅美です」
「だめです。もう、あなたにはごまかすことは出来ません」
「ほら見てよ、身分証明もあるし、パスポートだって……」
蘭子は急いでバッグから一式を取り出した。葛西は受け取ると中身を確認した。確かに名前は葛城雅美で写真も良く似ている。
「ほら、間違いないでしょ? 人違いにもほどがあるわ」
蘭子が勝ち誇ったように言った。
「こんなことしてもし捕まえたりしたら、訴えてやるわよ」
葛西たちは一瞬顔を見合わせた。その時由利子が叫んだ。
「その人は間違いなく竜洞蘭子よ! かく乱されないで!」
「何よ、あのオバサン!」
蘭子はキッとした顔で由利子の方を見た。
「源田君、これらのものからこの葛城雅美という女性が存在するか調べて」
葛西は若い警察官に「葛城雅美」の身分証明等を渡した。
「了解」
と、言うや否や、彼はそれを持って駆け出した。
「さて、『葛城』さん。あなたが『ホンモノ』かどうか、もうすぐ照合されますが、とりあえず保護させてもらいます」
葛西が合図すると、防護服の救急隊が近づいてきた。蘭子はすばやく周囲を見回すと、富田林の方へ駆け出した。比較的小柄な彼を見て手薄と見たのだろう。しかし、富田林は機敏に動いて彼女の逃亡を阻止した。
「竜洞さん、観念しなさい。手荒なマネをすることになりますよ」
富田林は厳しい表情で言った。それはマスクとゴーグルでいつもと雰囲気が違い、迫力があった。しかし、蘭子は今度は葛西の方に向かって突進した。葛西は彼女の腕を掴んで言った。
「仕方ありませんね」
葛西は悲しそうな顔をして後ろに控えていた防護服の警察官たちを呼んだ。
「救急隊の皆さんと協力して、この女性を救急車まで運んでください。出来るだけ手荒なことは避けて……って、無理か……」
あくまで人違いだと抵抗する蘭子は、とうとう拘束されてストレッチャーに載せられた。蘭子は最後まで抵抗して叫んだ。
「パパに頼んで人権侵害で訴えてやる! そこのババアも覚えてろ! 暴力団の怖さを思い知らせてやる!」
「あ~あ、言っちゃった」
と、増岡が肩をすぼめて言った。散々わめきながら、蘭子は救急隊員とともに裏口の方に消えていった。
「ババアって、失礼だな! あんたが私の歳にはメッチャ老け顔になっとるわッ」
由利子が憤慨して言った。しかし、その顔は少し青ざめている。
「由利子さん、心配しないで」
葛西が声を掛けた。
「単なる脅しですよ。それに、僕らがそんなことにはさせません」
「あ、葛西君。任務完了お疲れ様」
由利子が我に返って言った。
「ご協力ありがとうございました」葛西は由利子に向かって敬礼をしながら言った。「おかげで蘭子を保護できました」
「保護というより捕獲だったね」
「あれじゃあ仕方ないでしょう。ほんとに名前負けしてない女性でしたね。これから僕はもうひとつの現場の方に行きます。アレクによろしくお伝えください」
そういうと、葛西は富田林・増岡とともに駆けていこうとしたが、由利子が呼び止めた。
「葛西君!」
「なんですか?」
葛西が立ち止まって振り向いた。
「葛西君……それに富田林さんも増岡さんも、気をつけて。無理しないで……」
心配そうな由利子に葛西は笑顔で言った。
「わかってますって、由利子さん。大丈夫です」
「なんか、ついでのごたりますが、ありがたいです」
富田林も振り返って言うとびしっと敬礼をした。そして二人はまた駆け足で去っていった。増岡はとっくに走り去っていた。
一人残された由利子は、ゆっくりとエレベータに向かった。エレベーターの前に立つと、ポーンという音がして上から下ってきた箱が2階で止まった。
(ああ、動き出したんだ。戒厳令は解除されたんだ)
そう思っていると、ドアが開いた。中には他の客に混じって、遅いので心配してやってきた紗弥が乗っていた。紗弥は周囲を見回してつまらなさそうに言った。
「あら、捕り物はもう終わってますのね」
「なんだ。わかってたんだ」
由利子が少しばつの悪そうな表情で言った。
展望台に行くと、ギルフォードが空を見上げて立っていた。由利子たちが近づくと、振り返って言った。
「もう、飛び立ってますよ。あれです」
ギルフォードが指す方向には、曇天の中旋回しつつ徐々に姿を小さくしていく機影があった。由利子と紗弥はギルフォードと一緒に空を見上げた。由利子は無意識に手を振っていた。
機影が厚い雲の中に消えると、ギルフォードは空を見上げたまましんみりと言った。
「とうとう行ってしまいましたね」
「すぐ帰って来るんでしょ。二週間なんてあっという間だって」
由利子はそう言って慰めたが、その二週間の間にもいろんなことが起こるのだろうなと思い、少し憂鬱になった。
※サブタイトルはストラングラーズの曲からいただきました。
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