ギルフォード教授シリーズ巨大生物編

黒木 燐

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第1章 SHP

第2話 渚にて

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 もともと葛西たちは他の巨大生物事件を追っていた。
 
 ある科学者が、巨大吸血植物『チスイヅタ(Vampire Ivy:通称ヴァイVaI』の種子を研究中に何者かに襲われ、種子を奪われてしまった。それと時をほぼ同じくして、東京都内のどこかに種子を埋めるという脅迫文が、ネットの掲示板に書き込まれた。すぐさま警察はIPアドレスにより犯人を特定、スピード逮捕されたが、犯人の男は犯行を否定した。後に彼はPC乗っ取りの被害者とわかり解放され、結局真犯人もその目的も種子の行方も判らずじまいだったが、ひと月ほど経った頃、突然に大阪城の内堀、そしてその翌日には福岡県の大濠公園の池で次々と種子が発芽。しかし、犯人らしき男の予告状により発見が早かったために、自衛隊により駆除され、幸いにも人の犠牲を出すこともなく、城壁など周辺の破壊程度の被害に終わった。しかし、犯人に良いようにあしらわれた警察は面子をつぶされた形となった。
 葛西たちは対策室『Gスクエア』に編入されたのだが、犯人の足取りどころか手がかりもほとんど見つけるこが出来ず、巨大生物絡みあるいはその可能性のある事件を片っ端から洗う羽目になったのだ。
 そして、今回の連続遭難事件である。
 
 葛西は、乗り心地の悪い助手席に座ってお冠だった。乗った車は富田林個人が所有するもので、けっこう年季が入っており、しかも富田林の運転は乱暴この上ない。
 前を行くワンボックス軽自動車には、ギルフォードや紗弥と共に由利子が乗っていた。葛西は出来たら同じ車に乗りたいと思った。しかし、ギルフォードの車は軽自動車なので、定員は4人である。富田林を入れると面子は5人。こいつさえいなければ前の車に便乗できたのにと、恨めしそうな目で富田林をチラ見した。それを察してか、富田林が言った。
「どうした、葛西。俺とのドライブが気に食わんとか?」
「別に、富田林さんとのドライブはいつものことですから。でも、何で公用車を使わなかったんですか」
「ばかやろう。今のところ、これは物見遊山に過ぎん。そんなものに税金使った公用車なんぞ使えるか」
「はいはい。真面目なんだから」
 見かけに寄らず、と内心付け加えて言った。
 
 一行は糸島のF海水浴場から少し外れたあたりの海岸にやってきた。
「わあ、きれい」
 と、由利子が海の方を見て言った。ギルフォードも車から降りるなり相槌を打った。
「ホントに。海水浴シーズンじゃないのが残念デスネ」
「二人とも、物見遊山に来たわけじゃありませんぞ。ここが一番新しい事故現場なんですから」
 のんびりと海を見て言う二人を見て、富田林が水を差したので、ギルフォードはやや口を尖らせ気味に言った。
「キレイさに感動するくらい、い~じゃん」
「まあまあ、富田林さんってば、教授たちには無理を言ってきてもらっているんですから……」
 と、葛西が言い終わらないうちに、遠くの方から男の大声がした。
「ヘ~イ、そこの外人さんたち! そのプレイス、ベリーデンジャーね。ユアカー、エンストする、ゴー・モアファープレイス、ユーアンダースタン?」
 一行が声の方向を見ると、初老ではあるが大柄でがっしりとした体格の男が両手を頭の上で降りながら叫んでいた。紗弥が苦笑しながら言った。
「ルー・O柴かと思いましたわ。おそらく教授を見て、わたくしたちを外国人観光客と思ったようですわね」
「おかげ様で、ここが問題の場所ってのが確実なのがわかったね」
 と、由利子が紗弥に耳打ちしながら言った。一方富田林と葛西は、刑事らしくすかさずその男の方に向かって駈け出していた。男の近くまで行くと、まず葛西が相手が警戒しないように邪気のない笑顔で言った。
「御忠告ありがとうございます。大丈夫ですよ。僕たちは日本人ですし、あの外国人も日本語がわかります」
「私たちは警察の者でして……」
 富田林は手帳を見せながら言った。
「ちょっとお話をお聞きしたいのですが…」 
「何ぼでも話ばしてやるけん、早く車を遠くに停めて来ない」
「しかし……」
「早くせれっ!」
「わかりました。とりあえず移動しましょう」
 男にせっつかれて、一行は車の移動を優先することにした。
 
 ギルフォードたちが、とりあえず車に向かおうとしたその時、小学2・3年生くらいの少女が走ってきて、彼らの脇を通り抜け、海岸近くの藪に向かって怒鳴った。
「ルンルン!! 何また悪さしてるんだ?!」
 それと共に、藪から大きなカラスが嘴になにか光ったものをくわえ、バサバサと羽音を響かせて飛び立って行った。それと共に周囲にゴミが散乱した。富田林が目を丸くして言った。
「うわ、太かカラスやな! ゴミをあさっとたんか」
「ブトかな?」
 と、由利子が妙に冷静に言った。葛西が聞きなれない言葉に戸惑って言った。
「ブト?」
「あ、ハシブトカラスのことだよ。嘴が太いんでそんな名前がついたんだ。藪に捨てられたごみの中に、奴らの好きな光物があったんだね」
 そういう会話をしている中、子供好きのギルフォードが少女に近づきながら尋ねた。
「ルンルンって、花の子……じゃなくて、今のカラスの名前ですか? 君が飼っているのですか?」
 しかし、少女は不機嫌そうな表情でギルフォードたちを一瞥すると、踵を返して走り去ってしまった。
「ああ、怖がられてしまいましたね」
 ギルフォードが肩をすくめて言った。
「あら、教授ってばあっさりとフラれてしまいましたわね」
「珍しいね~。いつも子供と動物にだけには好かれるのに」
「子供と動物にだけとは何ですか。これでも結構男女ともに……」
「はいはい、イケメンイケメン」
 不満げに言うギルフォードを由利子が適当にいなしていると、一行の近くまで来ていた件の男が言った。
「あの子は金子美里みさとっていう、このあたりに住んでいる叔母さんと二人暮らしの子ですよ。まあ、色々事情のある子ばってんが……」
 男は途中で語尾を濁して話題を変えた。
「さあ、先生と刑事さん方、早くここを離れなっさい。あの道を行きゃあ5分ほどで100円パークがあるけん」
 男はそういうと来た道を戻って行った。
 しかし、車に戻ったギルフォードは、燃料計を見て驚いた。
「な、なんですか、これはっ」
「何? 何?」
「どうなさいましたの?」
 と、後部座席からコンビネーションメータの方を見た由利子と紗弥も一瞬言葉を失った。来る時に満タンにしたはずのガソリンが、半分以上減っている。
「えっ?……」
「そうだ、ジュンたちの車は!?」
 そう言いながら、ギルフォードは振り返って葛西たちの車の様子を見た。車内から他車の車内を見たのでよくわからないが、彼らも混乱しているようだった。
「電話してみましょう」
 と、ギルフォードは携帯電話を取り出したが、かけようとしてまた愕然とした。なんと、電話の充電まで切れかかっていたのだ。いくらスマートフォンが電気を食うとはいえ、これは異常だった。
「電池まで!? 最近買い替えたばかりなんですよ、コレ! 何が起こっているのですか!?」
「あ、私のは完全になくなっとお!!」
「走って行った方が早いですわ」
 と言いながら、紗弥はすでに車外に駈け出していた。それを追うようにギルフォードが車から飛び出し、続いて出ようとしている由利子に言った。
「ユリコは車で待機していてください」
「わかった!」
 由利子は答え、そのまま後部座席に戻った。車外を見ると、葛西たちが走ってくるのが見えた。
「ジュン! 車の燃料がいきなり半分以下に激減してしまいました!!」
「こっちはゼロに近いです! 何が起こっているんでしょうか?」
「同じだ! 昔のSHP災害の時と!」
 と、皆が戸惑う中、富田林が叫んだ。
「とりあえず、急いでここを離れましょう! ジュンたち、ガソリンはもちそうですか?」
「はい、まだ十数キロ程度なら走れると思います」
「OK, じゃあ、急ぎましょう」
 4人はそれぞれの車に戻り、急いでその場所を離れた。

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【登場巨大生物】
巨大吸血植物チスイヅタ(Vampire Ivy:通称ヴァイ)
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