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陰謀と苦肉の策

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「え、いや、今はやめておいた方がいいだろう」

京司郎は言い切った。
どうやら、俺の異世界デビューはなさそうです。

「どうしてですの!」
「どうしても何も、いきなりミノルを連れて行ってみろ父上達が混乱するだろう」
「そうですが、私の命の恩人ですわ!」

一歩も引かないマグノーリエさんと京司郎。
マグノーリエさんいつの間にか抱いていたスライムのヴォレを抱きしめている。
ヴォレはその圧で縦長になってしまっているのだが痛くはないようだ、流石スライム。

「あ、あのさ、マグノーリエさん今回はご両親に無事な姿見せに行ってきなよ」
「でも......」
「俺はここに居るわけだし、帰ってきたくなくなったらそれはそれでいいし、ね?」
「ミノルありがとう、いつか招待するからそれまでは待っててくれな!」

いつかのいつかは来ない事を知っている。
俺は愛想笑いしながら頷いておいた。

京司郎が嘘をつかない事も知っている、だからこそ今回の事は夢を持ってはいけない。

「ミノル、招待した際は絶対に来てくださいませ!」

怒りながらも提案に承諾したようでマグノーリエさんは部屋へもどっていった。
京司郎と2人で向かい合って話すのは何年ぶりだろうか。

「すまないな気性の荒い妹で」
「いや、表情豊かな素敵なお嬢さんじゃないか」
「召喚士としては致命的なんだがな」
「わお、またファンタジー」

マグノーリエさんが召喚士。
うすうす気づいてはいたが、スライムのヴォレしか見ていない。

「他にも召喚したりするのか?」
「俺とは逆に魔力が少ないから、ヴォレだけなんだよ」
「肩身狭いだろうな」
「ああ、期待とプレッシャーは凄かったと思う。俺のせいでもあるし」

魔力差で扱いが変わってしまうというのはつらい。
人と比べられる事の辛さは精神を病んでいく。

「それにしても、ミノルがマグノーリエと出会って本当に良かった」
「飛ばす前に本人に警告しとけよな」
「ハハハ、色々あったんだって。そのせいで転移場所にズレが生じて見失ってしまったんだから」
「あー......田んぼのど真ん中の農道につっ立ってたな。それがもっとズレてたら綺麗なドレスが泥まみれだったぜ?」

しかも稲も駄目になっていたかもしれない。
自分ちの田んぼならつゆ知らず人様の田んぼの弁償は出来ん。
それに、マグノーリエさんはコメの上手さを知ってしまったからなおさらだ。

「それはまじでセーフだな。米は大事、日本の心」
「いや、お前日本人ですらなかったけどな?!」
「ハハハ」

笑ってごまかす京司郎は不意にまじめな表情になる。

「ミノルのじいちゃんばあちゃんにも迷惑をかけるのは承知で、今後もマグノーリエを預かってもらいたいと思っている」
「破棄の裏の事情が関係してるのか?」
「......。婚約者の座を奪った女がどうもキナ臭くてな、その濡れ衣をマグノーリエに着せようとしていんだ」
「は?」

マグノーリエさんは、略奪者の虐めを理由に婚約破棄されたと思っている。
だが、蓋を開ければもっと酷い。

「その女は魅了魔法チャームを使っていたようなんだ」
「再びファンタジー」
「ミノルにも俺たちの世界見せてやるからな」

くっ、イケメンのウィンクとは不意にときめくじゃないか、やめろ。

「そのせいで、パーティー会場の誰もがその女の味方だった。マグノーリエは一人その場に佇むしかなかった」
「それに乗じて、本来ならイケメンのハイスぺ皇子が現れる場面に隣国の駄目皇子が名乗り出ようとしていた、と」
「想像しただけで怒りが湧いてきた......」

ゴゴゴゴっと効果音でも付きそうな黒いオーラが俺にも見える。

(いや、見えちゃいけない奴!!怖いから抑えてください!!)

「まぁ、確かに助ける為に飛び出た人間が残念だったとか物語盛り上がらねぇわ」
「その代わりお前が英雄の座についたんだがな」
「え? なんかいったか?」
「いいや」

京司郎はぼそりと何かを呟いたが、聞き取れずにいるとはぐらかされた。

「それで、今から飛ぶのか?」
「ああ、長時間はあちらに居ることも出来ないし両親が珍しく屋敷に居るから顔合わせして荷物纏めたらとんぼ返りだ」
「分かった。帰りもお前こっちくるんだろ?」
「そのつもりだ、一度こちらでマグノーリエの住民票を作らねばならんからな」

異世界人の住民票の作り方ってどうするんだろう?
無国籍扱いになるのだろうか......?
そんな事を思いつつ、2人が戻ってくるなら食卓は賑やかな方がいい。

「なら、今夜はうちの飯食ってけよ」
「......!! ミノルのご飯だと? なぁ、ミノル俺の嫁にな」
「りませんよ、昔からその文句何回聞きゃいいんだよ」
「えー、ならシェフとして屋敷で振る舞ってくれよ」
「お貴族様に俺の庶民料理が振る舞えるかよ」

マグノーリエさんが応接間に降りてくる頃には、俺と京司郎は昔の調子を取り戻していた。

友人の出自は異世界だったが、そんなのは関係ない!
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