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追加エピローグ「もうひとつの旅の終わり」
101 全てを知った朝に
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夜明け前のほの暗い空に雲は一つたりとも存在しない。
風が吹くと、曖昧に開かれたカーテンがふんわりと揺れる。それは湿気と共に、木々のざわめきをそっと運んできた。
早起きの小鳥が一羽、優しくさえずりながら羽ばたいていく。庭に集まっていたコウモリは皆、自身のすみかへと姿を消していた。
夜半の屋敷に朝が訪れようとしている。
瞼の裏が随分と明るい。夜が明けるのだろうとクライヴは眉をひそめた。体は夜明けに抗うようにベッドに横たわったままだ。
落ち着かぬほど手触りのよいシーツに、身体をしっかり受け止めるベッド。首や頭を包む枕は信じられないほど柔らかく、そのどれもが彼に適していなかった。羽毛に包まれるようなむずがゆさを感じながら、ゆっくりと目を開く。視界は抵抗なく天井を捉えた。そのままそこをただぼんやり見つめる。
――夢じゃないよな。
右を下に身体を横たえると、棚の上にはジャグがあった。ちょうどグラス一杯分の水が入っている。空になったグラスの底に深紅の色が沈んでいた。何度か瞬きを繰り返すが、目の前に見えるそれが消えることはなく、ただただそこに在った。
あの日のことも、昨晩のことも、決して夢ではない。
こんなところで旅が終わるなんて。
ただ一人、ため息をついた。真実に至った安堵と困惑。長年探し求めていた答えが突然手に入った現実。これからは渇きに悩まされずに生きていける。喜ぶべき事なのだろう、やっと普通の人間に――。そこまで考えた途端、思考に封をする。自分は月夜鬼と人間の血が混ざった「半夜」という存在だと思い出したからだ。
右手を目の前にかざす。少し太い指の関節、夏の日差しに焼けた濃い色。手の甲に浮き出る血管に、指の背からわずかに顔を出す爪。そのまま指を開いたり閉じたりと繰り返す。
手の輪郭をぼんやりと見つめながら、あの日の記憶をたどった。
風が吹くと、曖昧に開かれたカーテンがふんわりと揺れる。それは湿気と共に、木々のざわめきをそっと運んできた。
早起きの小鳥が一羽、優しくさえずりながら羽ばたいていく。庭に集まっていたコウモリは皆、自身のすみかへと姿を消していた。
夜半の屋敷に朝が訪れようとしている。
瞼の裏が随分と明るい。夜が明けるのだろうとクライヴは眉をひそめた。体は夜明けに抗うようにベッドに横たわったままだ。
落ち着かぬほど手触りのよいシーツに、身体をしっかり受け止めるベッド。首や頭を包む枕は信じられないほど柔らかく、そのどれもが彼に適していなかった。羽毛に包まれるようなむずがゆさを感じながら、ゆっくりと目を開く。視界は抵抗なく天井を捉えた。そのままそこをただぼんやり見つめる。
――夢じゃないよな。
右を下に身体を横たえると、棚の上にはジャグがあった。ちょうどグラス一杯分の水が入っている。空になったグラスの底に深紅の色が沈んでいた。何度か瞬きを繰り返すが、目の前に見えるそれが消えることはなく、ただただそこに在った。
あの日のことも、昨晩のことも、決して夢ではない。
こんなところで旅が終わるなんて。
ただ一人、ため息をついた。真実に至った安堵と困惑。長年探し求めていた答えが突然手に入った現実。これからは渇きに悩まされずに生きていける。喜ぶべき事なのだろう、やっと普通の人間に――。そこまで考えた途端、思考に封をする。自分は月夜鬼と人間の血が混ざった「半夜」という存在だと思い出したからだ。
右手を目の前にかざす。少し太い指の関節、夏の日差しに焼けた濃い色。手の甲に浮き出る血管に、指の背からわずかに顔を出す爪。そのまま指を開いたり閉じたりと繰り返す。
手の輪郭をぼんやりと見つめながら、あの日の記憶をたどった。
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