140 / 197
魔女の村ミスルトー
81 魔女の村を去る-2
しおりを挟む
二人の姿がはっきりと確認できるほど近づいた時、メルリアは何度か短い瞬きを繰り返した。背の高い方はシャムロックなのだろうが、それだと断言できない。なぜなら、彼は全身を覆い隠すような黒く長い外套を羽織っていたからだ。さらに、目元をすっぽりと隠すフードを身につけているせいで、顔の輪郭が分からない。男はフードに手をかけると、それを首の後ろへと追いやった。その姿を見て安堵する。フードの影から現れたのは、どこか橙色の混じった金髪に深紅の瞳。木漏れ陽に触れる金髪は、光を受けて白く光る。間違いなくシャムロックの姿だった。
「待たせてしまってすまなかったな」
「いえ、大丈夫です」
メルリアは微笑んで返すと、シャムロックの姿をまじまじと見つめた。昼間出歩くには目立ちすぎるであろう真っ黒な外套は、体のラインを隠すようなゆったりとしたものだった。腕や足下周りには金色の装飾が施されている。端から背中側へ続くような模様はとても複雑だ。こちらから見ることができないが、恐らく背中にも何かが描かれているのだろう。
「早ぅ被らんか」
老婆は男に非難の目を向けると、手にした杖を横に振った。すると、外套に施された金の刺繍が淡く光る。外したはずのフードがシャムロックの顔を再び覆い隠した。まるで、それが自らの意志を持っているかのように。
「魔法具……?」
クライヴがつぶやくと、アラキナがにたぁと満面の笑みを浮かべた。お世辞にも綺麗な表情とは言いがたく、あまり見たくはない嫌な笑顔だ。老婆は足早にこちらへ駆け寄ると、顔を上げて再びにんまり笑顔を浮かべる。本能的な恐怖のせいだろう、咄嗟に一歩後退して距離を取った。
「儂渾身の一作じゃぁ……! ヒョッ、ヒョッヒョッ」
普段の重々しい物言いと、喉のどの辺りから出しているか分からない小鳥のような高い声。不気味な笑い声にクライヴの目が点になるなり、老婆はまた満足げに笑う。一通り満足してから、杖を適当に上下左右に振ってリタの隣に立つ。
「アラキナさん、他人を実験台にするのはやめてよね。シャムロックさんがいい人だからってさ」
腕を組みながら、今回ばかりは怒ったぞと言わんばかりに強い口調でリタは責める。しかし、アラキナはやはりどこ吹く風といった様子だった。無駄に達者な口笛が森の木々に反響していく。それは心地のよい穏やかな風となって返ってきた。
その風を肌で感じながら、シャムロックは何も言わずに首を振り、エルフの村に背を向ける。
「日暮れには宿に着きたい。そろそろ行こうか」
「はい!」
「……ああ」
笑顔でうなずくメルリアと、慎重に答えるクライヴ。そんな彼らに応じるように、木製の扉が古びた音を立てた。細かい木の破片を周囲に散らしながら、村の出入り口がゆっくり開いていく。その様はまるで王城を守る鉄扉のごとく重々しい。
シャムロックはエルフ二人に頭を下げると、そのまま外へ歩いて行く。
「それじゃあ、ありがとうございました!」
その様子を見て、メルリアは慌てて二人へ頭を下げた。
「本当に世話になった、ありがとう」
メルリアに続いて、クライヴも感謝を告げる。
空いた距離を埋めるように、二人は早々にシャムロックを追った。
「またね~」
「ヒャ、ヒャ、ヒャッヒャ……」
リタの伸びやかな声と、アラキナの奇妙な笑い声――恐らく別れの挨拶なのだろう、メルリアは手を振る事を返事の代わりにした。
それから魔女の村の扉が閉ざされたのは、三人が「私有地」の看板を通り抜けた後のことである。
「待たせてしまってすまなかったな」
「いえ、大丈夫です」
メルリアは微笑んで返すと、シャムロックの姿をまじまじと見つめた。昼間出歩くには目立ちすぎるであろう真っ黒な外套は、体のラインを隠すようなゆったりとしたものだった。腕や足下周りには金色の装飾が施されている。端から背中側へ続くような模様はとても複雑だ。こちらから見ることができないが、恐らく背中にも何かが描かれているのだろう。
「早ぅ被らんか」
老婆は男に非難の目を向けると、手にした杖を横に振った。すると、外套に施された金の刺繍が淡く光る。外したはずのフードがシャムロックの顔を再び覆い隠した。まるで、それが自らの意志を持っているかのように。
「魔法具……?」
クライヴがつぶやくと、アラキナがにたぁと満面の笑みを浮かべた。お世辞にも綺麗な表情とは言いがたく、あまり見たくはない嫌な笑顔だ。老婆は足早にこちらへ駆け寄ると、顔を上げて再びにんまり笑顔を浮かべる。本能的な恐怖のせいだろう、咄嗟に一歩後退して距離を取った。
「儂渾身の一作じゃぁ……! ヒョッ、ヒョッヒョッ」
普段の重々しい物言いと、喉のどの辺りから出しているか分からない小鳥のような高い声。不気味な笑い声にクライヴの目が点になるなり、老婆はまた満足げに笑う。一通り満足してから、杖を適当に上下左右に振ってリタの隣に立つ。
「アラキナさん、他人を実験台にするのはやめてよね。シャムロックさんがいい人だからってさ」
腕を組みながら、今回ばかりは怒ったぞと言わんばかりに強い口調でリタは責める。しかし、アラキナはやはりどこ吹く風といった様子だった。無駄に達者な口笛が森の木々に反響していく。それは心地のよい穏やかな風となって返ってきた。
その風を肌で感じながら、シャムロックは何も言わずに首を振り、エルフの村に背を向ける。
「日暮れには宿に着きたい。そろそろ行こうか」
「はい!」
「……ああ」
笑顔でうなずくメルリアと、慎重に答えるクライヴ。そんな彼らに応じるように、木製の扉が古びた音を立てた。細かい木の破片を周囲に散らしながら、村の出入り口がゆっくり開いていく。その様はまるで王城を守る鉄扉のごとく重々しい。
シャムロックはエルフ二人に頭を下げると、そのまま外へ歩いて行く。
「それじゃあ、ありがとうございました!」
その様子を見て、メルリアは慌てて二人へ頭を下げた。
「本当に世話になった、ありがとう」
メルリアに続いて、クライヴも感謝を告げる。
空いた距離を埋めるように、二人は早々にシャムロックを追った。
「またね~」
「ヒャ、ヒャ、ヒャッヒャ……」
リタの伸びやかな声と、アラキナの奇妙な笑い声――恐らく別れの挨拶なのだろう、メルリアは手を振る事を返事の代わりにした。
それから魔女の村の扉が閉ざされたのは、三人が「私有地」の看板を通り抜けた後のことである。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
集団召喚⁉︎ ちょっと待て!
春の小径
ファンタジー
楽しく遊んでいたオンラインゲーム(公開四ヶ月目)。
そんなある日発表された【特別クエスト】のお知らせ。
─── え?
ログインしたら異世界に召喚!
ゲームは異世界をモデルにしてたって⁉︎
偶然見つけた参加条件で私は不参加が認められたけど、みんなは洗脳されたように参加を宣言していた。
なんで⁉︎
死ぬかもしれないんだよ?
主人公→〈〉
その他→《》
です
☆他社でも同時公開しています

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

【完結】転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!
梅丸みかん
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。※書籍化に伴い「転生少女は異世界でお店を始めたい」から「転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!」に改題いたしました。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました
みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。
異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる