幾望の色

西薗蛍

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都市ヴェルディグリ

40 銀髪の魔術士-2

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「イリスさんはどうしてこの国に来たんですか?」
「相方の仕事についてきたの。後は軽く魔獣退治して稼いで帰るつもり」

 メルリアの顔を見て話しながら、イリスは骨付き肉の皿に手を置く。
 爪が皿に当たったせいで、カチンと高い音が鳴った。骨付き肉はイリスの右手のもう一センチ左側だ。

 魔獣退治で稼げるということは、魔力はもちろん、相当高い戦闘力を持っていることになる。

 メルリアはまじまじとイリスの顔を見つめた。
 年齢は二、三歳年上といったところだろうか。腰まである長い銀髪に、赤の強い紫色の瞳をしている。

 イリスは再び骨付き肉を頬張り、頬が膨らむ。顔の輪郭が不思議な形に変わった。

 ――きっとすごく強いんだろうけれど、あんまりそういう風には見えないなあ……。

 視線に気づいたイリスがメルリアを見る。ピラフの皿が空になっていることに気づくやいなや、イリスは切り出した。

「質問ばっかりじゃなくてさ、あたしにもあなたの事聞かせてよ。メルリアはこの街の人?」
「あ、いえ。ベラミントって村から来たんです。旅をしていて」

 メルリアはイリスにこれまでの経緯を軽く説明した。

 子供の頃、祖母と二人で不思議な花を見た事。祖母が病気をしてしまったこと。
 病気が治ったら二人でその花を探しに行こうと約束したこと。
 祖母が他界し、自分一人でもその花を探すために旅をしていること。
 旅先で知り合った人に植物に詳しいという人を紹介してもらったこと。
 今は情報を得るために、その人のところで仕事の手伝いをしていること。

 そこまで話し終えると、それまで黙っていたイリスが口を挟む。

「んで、収穫は?」

 イリスは骨の山に新しい骨を落とす。
 ぐらりと怪しく骨の山が揺れて、崩れそうになったところを左手で押さえた。
 きちんと整形した後、皿に残った最後の一本を手に取る。

「収穫……?」

 首を傾げるメルリアを見て、イリスはあからさまに苦い顔を浮かべる。

「何日かそいつのところにいるんでしょ? 今まで情報を小出しにしてくれたりとか、ヒントとか、何かもらってないの?」
「あ……」

 考えた事ありませんでした、今気づきました、という顔をするメルリア。
 事実そう思っていたし、考えが完璧に顔に出ていた。

 ネフリティスのところに厄介になってから一ヶ月弱。
 その手の話は一切聞かされていなかった。

 イリスはその表情から全てを察すると、軟骨を思いっきり噛み砕く。
 意図的ではない。
 ガリッと嫌な音が口の中で聞こえた。
 まあいいや食べられるし、とそのままゴリゴリと咀嚼する。

 イリスは完全にあきれ顔で、うわあこいつマジのお人好しだ、という目でメルリアを見ていた。
 そりゃああんなヘンなのにも絡まれるよなあ、とも。

 妙な空気が二人の間に流れていた。

「で、でも、今日、話を聞いてくれそうな感じでした!」

 メルリアは出かける前にあの花の特徴を書いた事を思い出す。
 朝あった事を伝えるが、イリスの目は未だなお死んだ魚のように濁ったままだった。

「悪い事は言わないわ、本人にもう一度問いただしなさい」
「あ、はい……」

 そう言いながら、メルリアはネフリティスの顔を思い出す。
 聞いてくれるだろうか?
 あまり自信はない。教えてくれるかもしれないし、また今度と軽くあしらわれそうな気もする。
 どちらとも言えなかった。

 今日は夕食もいらないと言っていたから、きちんと聞けるのは明日以降。
 明日の朝食が最速のタイミングだ。
 けれど、明日に話ができるだろうか?

 今朝のネフリティスの様子を思い出し、メルリアの表情が陰る。

「どうかした?」

 見かねたイリスが声をかけた。

「今朝、私がちょっと話をしてから様子がおかしかったので、気になっちゃって……」
「何の話をしたの?」

 イリスは肉を食べ終わると、皿に最後の骨を乗せる。その骨だけ、関節の部分が不格好だった。
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