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都市ヴェルディグリ
35 弟子代理の日々5-1
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ネフリティスの指示通り、メルリアは弟子代理として甲斐甲斐しく働いていた。
初日にしたように、ヴェルディグリの様々な店や公共施設、個人宅に荷物を届けたり、アウル運送に手紙を預けたり、指定された植物や花を買いにヴェルディグリ中を回ったり。
そんな雑務をこなしながらも、朝昼晩の食事作りは欠かさない。
ネフリティスが預ける仕事量は的確だった。
真面目に仕事をこなしていれば、きちんと決まった時間に夕食が取れる配分になっている。
そんな生活を三週間ほど続けたメルリアは、すっかりヴェルディグリに慣れていた。
行きつけのパン屋は工房から一番近いルートを見つけたし、生地を買い足したい時に行く店にも迷わず進める。図書館や病院への最短ルートも覚えてしまった。
メルリアが仮に今日からこの街に住む事になっても、住む場所と金さえあれば不自由なく暮らせるだろう。本人にその自覚はないが、そう動けていた。
メルリアは、今日もまた荷物配達の雑用に追われていた。
縦長のずっしりとした包みは、街一番の製薬会社へ。
中央図書館へは、ガラガラと音の鳴る大きな包みを。
落ち着いた雰囲気の小さな花屋には、カサカサと乾いた音の鳴る軽い箱を。
住宅街の民家へも向かい、両手に収まるサイズだがずっしりと重い包みを手渡した。
そんな仕事をこなしていると、ヴェルディグリに夕暮れがやってくる。
石畳の道に橙色の光が差し、濃く暗い建物の影が長く伸びる。夕焼けの色を受け、燃えるように赤い雲が空を覆っていた。
メルリアは包みを抱え、ヴェルディグリの街外れへと向かった。
これで七件目、最後の配達になる。
歩を進めるたび、包みの中身が不安定に揺れる。ゴロゴロと音を立て、重心が定まらない。
宛先は『街の東出入り口・月の家』。
店の名前か民家なのかいまいち判別がつかない中、メルリアは東口に向かった。
それは細い道の先にあった。
家々の中にひっそりと建つその建物は、他の店と比べてつつましやかな外装をしていた。
入り口に看板はあるが、窓は黒色のカーテンでしっかりと閉じられている。この店らしき建物は開いているのだろうか。扉の前に立つと、途端に不安になった。
夜と言うにはまだ浅い時間帯だが、西の空は薄暗い。
空には一番星を通り越し、二番、三番目の星がきらめいていた。
おまけに、家々に囲まれた立地にあるこの場所は、他の道よりも暗く感じる。その明かりが、余計メルリアを心細くさせた。
メルリアはゆっくりとドアノブに手を伸ばす。すると、触ってもいないのにぐるりとそれが回った。
ビクッ、とメルリアの肩が震え、伸ばした手を引っ込める。声は出なかった。
恐る恐る扉の様子をうかがっていると、そのまま内側へ開いた。腕二つ分通せそうな隙間ができると、そこでピタリと止まる。
「開いているわよ、入ってらっしゃい」
扉の奥から聞こえたのは、落ち着いた女の声だった。
「あの、私……」
「分かっているわ、ネフリティスがあなたに仕事を押しつけたんでしょう?」
大きな包みを抱えたまま、メルリアはきょとんとしてしまう。事前に話をつけておいてくれたのだろうか、やたら話が早い。
そんなメルリアを見て、女は今度こそ扉を開けた。部屋の奥から燭台の静かな光が差し、女の腰まで届く長い髪を照らす。その間から、細く長い耳が伸びていた。
エルフの女だった。彼女はメルリアに微笑みかける。
「立ち話もなんだし、ね」
女はパチリと片目を閉じると、家の中に入った。
メルリアは少し躊躇った後、失礼しますと頭を下げて女に続いた。
初日にしたように、ヴェルディグリの様々な店や公共施設、個人宅に荷物を届けたり、アウル運送に手紙を預けたり、指定された植物や花を買いにヴェルディグリ中を回ったり。
そんな雑務をこなしながらも、朝昼晩の食事作りは欠かさない。
ネフリティスが預ける仕事量は的確だった。
真面目に仕事をこなしていれば、きちんと決まった時間に夕食が取れる配分になっている。
そんな生活を三週間ほど続けたメルリアは、すっかりヴェルディグリに慣れていた。
行きつけのパン屋は工房から一番近いルートを見つけたし、生地を買い足したい時に行く店にも迷わず進める。図書館や病院への最短ルートも覚えてしまった。
メルリアが仮に今日からこの街に住む事になっても、住む場所と金さえあれば不自由なく暮らせるだろう。本人にその自覚はないが、そう動けていた。
メルリアは、今日もまた荷物配達の雑用に追われていた。
縦長のずっしりとした包みは、街一番の製薬会社へ。
中央図書館へは、ガラガラと音の鳴る大きな包みを。
落ち着いた雰囲気の小さな花屋には、カサカサと乾いた音の鳴る軽い箱を。
住宅街の民家へも向かい、両手に収まるサイズだがずっしりと重い包みを手渡した。
そんな仕事をこなしていると、ヴェルディグリに夕暮れがやってくる。
石畳の道に橙色の光が差し、濃く暗い建物の影が長く伸びる。夕焼けの色を受け、燃えるように赤い雲が空を覆っていた。
メルリアは包みを抱え、ヴェルディグリの街外れへと向かった。
これで七件目、最後の配達になる。
歩を進めるたび、包みの中身が不安定に揺れる。ゴロゴロと音を立て、重心が定まらない。
宛先は『街の東出入り口・月の家』。
店の名前か民家なのかいまいち判別がつかない中、メルリアは東口に向かった。
それは細い道の先にあった。
家々の中にひっそりと建つその建物は、他の店と比べてつつましやかな外装をしていた。
入り口に看板はあるが、窓は黒色のカーテンでしっかりと閉じられている。この店らしき建物は開いているのだろうか。扉の前に立つと、途端に不安になった。
夜と言うにはまだ浅い時間帯だが、西の空は薄暗い。
空には一番星を通り越し、二番、三番目の星がきらめいていた。
おまけに、家々に囲まれた立地にあるこの場所は、他の道よりも暗く感じる。その明かりが、余計メルリアを心細くさせた。
メルリアはゆっくりとドアノブに手を伸ばす。すると、触ってもいないのにぐるりとそれが回った。
ビクッ、とメルリアの肩が震え、伸ばした手を引っ込める。声は出なかった。
恐る恐る扉の様子をうかがっていると、そのまま内側へ開いた。腕二つ分通せそうな隙間ができると、そこでピタリと止まる。
「開いているわよ、入ってらっしゃい」
扉の奥から聞こえたのは、落ち着いた女の声だった。
「あの、私……」
「分かっているわ、ネフリティスがあなたに仕事を押しつけたんでしょう?」
大きな包みを抱えたまま、メルリアはきょとんとしてしまう。事前に話をつけておいてくれたのだろうか、やたら話が早い。
そんなメルリアを見て、女は今度こそ扉を開けた。部屋の奥から燭台の静かな光が差し、女の腰まで届く長い髪を照らす。その間から、細く長い耳が伸びていた。
エルフの女だった。彼女はメルリアに微笑みかける。
「立ち話もなんだし、ね」
女はパチリと片目を閉じると、家の中に入った。
メルリアは少し躊躇った後、失礼しますと頭を下げて女に続いた。
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