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ヴィリディアンの街道1
20 馬車に揺られるふたり-1
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馬車の内装は古い作りだった。
腰をかける部分の板は凹んでいるし、でこぼことした道を歩くとギィギィと不安な音を立てる。申し分程度に椅子に敷いてあるクッションからは、破れて綿がはみ出ていた。それに対して、馬車の車輪と荷台を覆う布は新しい。
男曰く、ヴェルディグリで内部を修理しようとした矢先に、先日の魔獣の襲撃があったという。
休憩していたところを襲われたため、客に被害はなく、馬や馬車自体も無事。男に魔力がないことも幸いし、本当に財布を盗まれただけで済んだのだ。悪運が強い奴めと女はケラケラと笑っていた。
厚い雲が時折太陽を隠し、しかし強風のせいで日が差し、陰り、を何度も繰り返していた。
カラカラと車輪が回り、男の指示に合わせて馬がのんびりと荷台を引く。風に乗って男の口笛が響いた。
かなり不安定な音程のそれを、男は気分がいいといった風に笑顔で吹き続ける。うっとうしいのか心地いいのか、左側の馬がブルルと鳴きながらかぶりを振っていた。
馬車の中では、メルリアとクライヴは向かい合って座っていた。前後の椅子には荷物が載せられていたため、それぞれ一人分程度のスペースしか空いていなかったせいだ。
メルリアは外の景色を眺め、目を輝かせていた。
馬車に乗ったのは人生でこれが初めてだ。まず、自分が歩かなくても勝手に動くということにも驚いたし、地面からやや高い位置にあるだけで、こんなに景色が違って見えるのかという感動もあった。
馬車に吹き抜ける風が、普段と異なり新鮮に感じる。視界も土の薄茶色が占めるのではなく、街道の脇に生える草原や森の木々といった緑ばかりが目に入った。
これで雲一つない青空だったらどれほど心地がよかっただろうか。遠くの雲を見つめ、メルリアは少しもったいないと感じていた。
メルリアが窓の外から視線を逸らすと、こちらを伺っていたクライヴと目が合った。
「クライヴさんは、ヴェルディグリにご用事があるんですか?」
「あぁ、そっちの方の病院にも行っておこうと思って」
「病院?」
メルリアが尋ねると、クライヴは窓の外に視線を向けた。
沈黙の間も、カラカラと車輪が音を立てて回り、馬の蹄が軟らかい土の道を蹴る。その音だけが淡々と響いていた。
「えっと……、シーバの方は、どうでしたか?」
メルリアはクライヴに静かに問いかける。控えめに、怖じ怖じと尋ねる様を見て、クライヴは苦笑した。
「ああ。結局、今回も駄目だったんだけどさ」
シーバでの医師の言葉を思い出しながら、クライヴは暗い表情を浮かべた。突きつけられた言葉は数日前の事なのに、納得できない苦い感情がクライヴの胸の奥を満たした。
彼のその言葉に、メルリアは目を丸くする。感情の降下とともに、メルリアはうつむいた。胸の奥底から湧き上がる痛みに呼応するように、肩がわずかに震え出す。メルリアは今にも泣き出しそうだった。
それを見たクライヴは、慌てて口を開いた。
「あ、いや! 治らない病気とかじゃなくて……、そもそも病気かどうかすら分からないんだ、病名が出なくて! それを探してて……!」
メルリアはその言葉にようやく顔を上げる。彼女の両目は涙で潤んでいた。風が吹いただけでこぼれてしまいそうなほどに。
腰をかける部分の板は凹んでいるし、でこぼことした道を歩くとギィギィと不安な音を立てる。申し分程度に椅子に敷いてあるクッションからは、破れて綿がはみ出ていた。それに対して、馬車の車輪と荷台を覆う布は新しい。
男曰く、ヴェルディグリで内部を修理しようとした矢先に、先日の魔獣の襲撃があったという。
休憩していたところを襲われたため、客に被害はなく、馬や馬車自体も無事。男に魔力がないことも幸いし、本当に財布を盗まれただけで済んだのだ。悪運が強い奴めと女はケラケラと笑っていた。
厚い雲が時折太陽を隠し、しかし強風のせいで日が差し、陰り、を何度も繰り返していた。
カラカラと車輪が回り、男の指示に合わせて馬がのんびりと荷台を引く。風に乗って男の口笛が響いた。
かなり不安定な音程のそれを、男は気分がいいといった風に笑顔で吹き続ける。うっとうしいのか心地いいのか、左側の馬がブルルと鳴きながらかぶりを振っていた。
馬車の中では、メルリアとクライヴは向かい合って座っていた。前後の椅子には荷物が載せられていたため、それぞれ一人分程度のスペースしか空いていなかったせいだ。
メルリアは外の景色を眺め、目を輝かせていた。
馬車に乗ったのは人生でこれが初めてだ。まず、自分が歩かなくても勝手に動くということにも驚いたし、地面からやや高い位置にあるだけで、こんなに景色が違って見えるのかという感動もあった。
馬車に吹き抜ける風が、普段と異なり新鮮に感じる。視界も土の薄茶色が占めるのではなく、街道の脇に生える草原や森の木々といった緑ばかりが目に入った。
これで雲一つない青空だったらどれほど心地がよかっただろうか。遠くの雲を見つめ、メルリアは少しもったいないと感じていた。
メルリアが窓の外から視線を逸らすと、こちらを伺っていたクライヴと目が合った。
「クライヴさんは、ヴェルディグリにご用事があるんですか?」
「あぁ、そっちの方の病院にも行っておこうと思って」
「病院?」
メルリアが尋ねると、クライヴは窓の外に視線を向けた。
沈黙の間も、カラカラと車輪が音を立てて回り、馬の蹄が軟らかい土の道を蹴る。その音だけが淡々と響いていた。
「えっと……、シーバの方は、どうでしたか?」
メルリアはクライヴに静かに問いかける。控えめに、怖じ怖じと尋ねる様を見て、クライヴは苦笑した。
「ああ。結局、今回も駄目だったんだけどさ」
シーバでの医師の言葉を思い出しながら、クライヴは暗い表情を浮かべた。突きつけられた言葉は数日前の事なのに、納得できない苦い感情がクライヴの胸の奥を満たした。
彼のその言葉に、メルリアは目を丸くする。感情の降下とともに、メルリアはうつむいた。胸の奥底から湧き上がる痛みに呼応するように、肩がわずかに震え出す。メルリアは今にも泣き出しそうだった。
それを見たクライヴは、慌てて口を開いた。
「あ、いや! 治らない病気とかじゃなくて……、そもそも病気かどうかすら分からないんだ、病名が出なくて! それを探してて……!」
メルリアはその言葉にようやく顔を上げる。彼女の両目は涙で潤んでいた。風が吹いただけでこぼれてしまいそうなほどに。
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