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貿易と海の街シーバ
14 灯台祭、四日目-3
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「――なので、灯台祭が終わったらヴェルディグリに向かうつもりです」
メルリアは事情を話し終え、ふぅ、と一つ息を吐く。
クライヴは終始黙ってメルリアの話を聞いていた。よほどの事がなければ話の途中に口を挟まないのが彼の主義だ。自分の中でメルリアの話を消化しつつ相づちを打っていたいたクライヴは、呟くように言う。
「……大変だな、それは」
その約束を叶えることは、とても難しいのではないか――。そう考えたクライヴは、思わず口にしていた。
しかしメルリアはその言葉に首を振って否定した。そして、笑ってみせる。
「大変だなんて思ってないです。それに、生きているうちに見つけたくて」
クライヴは言いかけた言葉を飲み込む。自分より年下であろう子がここまでの気持ちを持てる事は強いことだ、と思う。けれど、その言葉を素直に受け取るにはどこか違和感があった。何かが違うような気がするが、どれがどう違うのかは分からない。その違和感にクライヴがどう声をかけるべきか迷っていると、彼の鼻孔を匂いが刺激する。
「甘い……?」
クライヴの言葉にメルリアは周囲を見回す。彼女の鼻腔を刺激するのは海の潮の匂い。塩味に近いそれに、甘さは一切感じ取れなかった。そんな中、綿菓子を口にはしゃいでいる女の子の姿を見つける。あれは確か水飴でできていたはず――。その事を伝えようと振り返った時、クライヴは痛みに耐えるような苦痛の表情を浮かべていた。メルリアの顔からサッと血の気が引いていく。
「だ、大丈夫ですか!?」
よろけたクライヴの体を、とっさにメルリアが支える。クライヴの頬を脂汗が伝った。
「まだ、何とか……悪い、借りてる宿、戻るから」
「私、宿まで」
「一人で大丈夫だから」
割り込むよう声を重ね、クライヴは吐き捨てるように言う。その声は震えていた。彼の体を支えていたメルリアの手を力なく振り解き、街の方へ向かってよろよろと歩きはじめる。足取りがおぼつかず危なげだ。
メルリアは突き放すような声に追いかけることができず、ただ立ち尽くし、クライヴの後ろ姿を見送った。突然倒れてしまわないかどうかヒヤヒヤしたが、次第に足取りが落ち着き、普段通り歩きはじめる。
メルリアはクライヴの進んだ道を、不安そうに見送ることしかできなかった。
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クライヴは終始黙ってメルリアの話を聞いていた。よほどの事がなければ話の途中に口を挟まないのが彼の主義だ。自分の中でメルリアの話を消化しつつ相づちを打っていたいたクライヴは、呟くように言う。
「……大変だな、それは」
その約束を叶えることは、とても難しいのではないか――。そう考えたクライヴは、思わず口にしていた。
しかしメルリアはその言葉に首を振って否定した。そして、笑ってみせる。
「大変だなんて思ってないです。それに、生きているうちに見つけたくて」
クライヴは言いかけた言葉を飲み込む。自分より年下であろう子がここまでの気持ちを持てる事は強いことだ、と思う。けれど、その言葉を素直に受け取るにはどこか違和感があった。何かが違うような気がするが、どれがどう違うのかは分からない。その違和感にクライヴがどう声をかけるべきか迷っていると、彼の鼻孔を匂いが刺激する。
「甘い……?」
クライヴの言葉にメルリアは周囲を見回す。彼女の鼻腔を刺激するのは海の潮の匂い。塩味に近いそれに、甘さは一切感じ取れなかった。そんな中、綿菓子を口にはしゃいでいる女の子の姿を見つける。あれは確か水飴でできていたはず――。その事を伝えようと振り返った時、クライヴは痛みに耐えるような苦痛の表情を浮かべていた。メルリアの顔からサッと血の気が引いていく。
「だ、大丈夫ですか!?」
よろけたクライヴの体を、とっさにメルリアが支える。クライヴの頬を脂汗が伝った。
「まだ、何とか……悪い、借りてる宿、戻るから」
「私、宿まで」
「一人で大丈夫だから」
割り込むよう声を重ね、クライヴは吐き捨てるように言う。その声は震えていた。彼の体を支えていたメルリアの手を力なく振り解き、街の方へ向かってよろよろと歩きはじめる。足取りがおぼつかず危なげだ。
メルリアは突き放すような声に追いかけることができず、ただ立ち尽くし、クライヴの後ろ姿を見送った。突然倒れてしまわないかどうかヒヤヒヤしたが、次第に足取りが落ち着き、普段通り歩きはじめる。
メルリアはクライヴの進んだ道を、不安そうに見送ることしかできなかった。
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