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最恐ドラゴンが修行をする時。(2)

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大変だった。もう二度と嫌だと思った。
 
いきなり見知らぬ地に連れて行かれ、神官としてレベルを上げろとアストリッド様に言われたが、そんなの簡単にできるわけがない。だから俺は最終的に駄々をこねた。

俺は魔物ですよ?こんなでも最恐ドラゴン!人類の敵‼︎なのに神官っておかしくないですか!と言ったが聞いてもらえなかった。

神の声を聞け!心を空っぽにしろ!隣人を愛せ!愛で世界を満たせ!悟りを開け!等々と意味の分からない事を散々言われ、食事を抜かれ、座禅をさせられ、池に落とされた。

そんな意味が分からない修行の結果、俺は悟りを開いた。逆らってもムダだと、世の中は強者アストリッド様が勝つんだと悟りを開いた。そんな風に諦めたら、神官の魔法の数々が使える様になった。
 
ある意味アストリッド様の思惑通りになったのは悔しいけど、これでレオン様の呪いが解ける様になったのは嬉しいと思った。

そして俺のステータス画面に何故か職業が追加された。『神官LV99』
魔物なのに職業、しかも神官の職を得てしまった。『上級職、大神官に進みますか?』と画面に出ている。とりあえず保留にしておこう。

そしてスキルも追加されている。
『聖なる力LV54』

魔物なのに、こんな力を持ってしまった。どうしたら良いのか……。
更に新しい称号が追加された。称号とは、生きている内に何かを得た場合にもらえるもの。例えば俺だと『最恐ドラゴン』がその一つだ。そこに『悟りを得た者』が追加された。

俺は何になったんだろう……。




◇◇◇◇◇◇◇



そして修行を終えた俺はアストリッド様とレオン様の家に来た。
アストリッド様はレオン様に褒められた民族衣装を着て、髪型もハーフアップでご機嫌だ。
だが、レオン様を見たらアストリッド様はまたフリーズした。そして俺もフリーズした。

顔が赤く染まるアストリッド様。
顔が真っ青になる俺。

レオン様を見れなくて視線が泳ぐアストリッド様。
レオン様の背後のうごく呪いが巨大すぎて、そこから視線が外せない俺。

レオン様に会えた喜びで目がウルウルするアストリッド様。
レオン様の呪いの恐怖で泣きそうになる俺。

レオン様に洋服を褒めて欲しくて、挙動不審なアストリッド様。
レオン様の呪いに威嚇されて、腰が抜けそうな俺!

って言うか!こわ!怖すぎる。レオン様の呪い。レオン様の背後全体を覆う様に、なんかうごめいてる!生き物の様な、違う様な良く分からない黒光りしている者達が、煙を吐きながら怨嗟の声を上げている。周囲に漂う煙は瘴気。しかも目も口もいっぱいあるから、更に気持ち悪い。

こんなに呪いって怖いの⁉︎聞いてないよ。そもそもなんでこんなに呪われてるの⁉︎何をしたらこんなに呪われるの‼︎と言うか、この町にも神官いるのに、なんで皆、気付かなかったの⁉︎

声も出せない俺達に、レオン様は戸惑いながら笑う。すると、呪いがしゃべった。

(笑うな……。私以外に微笑むな……。貴方は私だけのもの。私のものにならないなら、死ね。そうすれば永遠に私のもの。愛してる、あいしてる、アイシテル、愛してる、あいしてる、アイシテル、愛してる、あいしてる、アイシテル、あいしてる、アイシテル、愛してる、あいしてる、アイシテル、愛してる、あいしてる、アイシテル)

地雷女だ~!!怖いよ~。なんでモブ顔なのに、地雷女に呪われてるの⁉︎アストリッド様と言い、変な女に好かれちゃう体質なの⁉︎

「あの、僕に何か用ですか?アストリッド様と従者のファニーさん?」
レオン様が俺を見ると、呪いも俺を見る。しかもすさまじい悪臭をさせながら、俺に近付いてくる。近寄るな、見るな、帰れと脅される。怖い…………。

そしてやっぱり世の中は理不尽だと思う。
レオン様がアストリッド様を見ても、呪いはアストリッド様は脅さない。むしろ目が合うのを避けている。いっぱい目があるのに、全部の目が避けている。こんな気持ち悪い呪いでも、アストリッド様は怖いんだ。

だが勇気を出そう!俺はこの人の呪いを解くために、修行をしたんだ!そう決心したので、頑張って話しかけた!呪いに睨まれながら。

「あの、レオン様、あの、ヒャっ‼︎わわ!の、のの呪われてます、よ?」
いやぁぁぁぁ!!なんか、呪いが俺の顔になんか吐いた!俺の顔になんかぐちゃぐちゃしたものがついた~‼︎汚い~!臭い~!
あ!でも浄化された!さすが俺!さすが神官LV99!

「呪われてる?僕が、ですか?」
俺はコクコクと何度も頷く。レオン様は不思議そうな顔をしている。そうだろう。誰だって自分が呪われているとは思わないはずだ。あれだけエンカウント率高く絡まれていて、気付かないのも大概だが。

「そうだったんですか……。教えて頂きありがとうございます。でも呪いを解けるのは高レベルの神官じゃないと無理ですよね?費用もかかると聞いています。恥ずかしい話、現在の僕は無職でして……。ここも出て行く予定でして……」
段々と声が尻すぼみになるレオン様。いつも笑顔で真っ直ぐ人の目を見ていた人が、自信なさげに、視線を下に向けている。

「俺が呪いを祓います。お金はいらないですよ。以前頂いたゼリーのお礼です」
「そんな!それでは割に合わないですよ!」
「ふ、二人分だから!問題ない!そ、それに、私は、っ……」
アストリッド様が真っ赤な顔で頑張って会話に入ってきた!お陰で呪いがサッと避けた!さすが、アストリッド様!頑張って、アストリッド様!ここで勢いに任せて告白するのもアリです!俺的にはアリの展開です!

「……私は金持ちだから、問題ない!金はいらない‼︎」

あー!!告白できずに、ついつい余計な事を言っちゃう展開きたー!それはそれでアリですよ。アストリッド様!さすが天然のツンデレ体質!素直になれない系女子ですね!このもどかしさも俺的にはアリです!
本当に本当に小説の神様ありがとうございます!萌え死にしそうな時間をありがとうございます‼︎
 
あ!俺の信仰心が増えた!10上がった!

「あ、ありがとうございます」
そしてレオン様は嬉しそうな、でも申し訳なさそうな複雑そうな顔。

ああ、そしてレオン様、あなたは自分がアストリッド様に惚れられてるとは、微塵も思っていない、鈍感系男子なんですね。
これは中々先が進まないやつですね。良いですよ。俺はその手のモヤモヤする恋愛小説も大好きです。この先の展開が楽しみです。

よし!やる気が出てきた!呪いを解くぞ!
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