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最恐ドラゴンが修行をする時。(1)
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家に帰るとソファで泣いているアストリッド様がいた。まだ泣いているんだ……傍迷惑な人だけど、純粋な人なんだろう。
「アストリッド様、気絶させた人は起こしました。周囲に被害もありませんでしたよ」
ちょこんと横に座って、ここはそっと頭を撫でることにした。すると、顔がゆっくりと上がった。なんだか獰猛な猛獣を手懐けた気分だ。
「…………すまない。動揺した」
ポロポロ溢れる涙を両手でグイッと拭ってあげると、アストリッド様がふわりと微笑んだ。
Sだったり、ツンデレだったり、乱暴だったり、色々な属性を持つアストリッド様だけど、こんな女性らしい柔らかい部分もあるんだろう。
一緒に暮らしてみると実際の人間の感情の複雑さが分かる。これは小説では分からないことだ。
「大丈夫ですよ。それよりアストリッド様、レオン様の事ですが、どうも今回と同じ様な事がどの店でも頻繁に起きている様ですね。聞き込みをしてみたんですが、皆言うんですよ。悪い子じゃないだけど、なぜかある一定の種類の男達に絡まれると」
「その様だな。私が尾行している時もそうだった。どうも粗暴な男達の癇に触るらしい」
「呪われてるんじゃないかと思うんですが、どう思いますか?」
「……呪いは専門外なんだが…」
「……専門外……」
俺が首を傾げると、アストリッド様も俺の真似をする。
「アストリッド様って、職業は賢者ですよね?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
この世界の人間は5歳で教会にて職業を選択する。それは知っている。教会で祈ると、適正な職業を神様が教えてくれるらしい。これは弱い人間に神様が与える特典だ。
例えば戦士、例えば、魔法使い、例えば調理師、例えば建築士。それに沿ってレベルを上げていき、上級職等を目指しながら精進していく。
その中で【賢者】はレア職だ。魔法のスペシャリスト。あらゆる魔法が使えるという……。
「じゃあ、なんで呪いが解けないんですか⁉︎賢者って言えば、全ての魔法を使える上級者でしょうが‼︎違いますか⁉︎」
アストリッド様はびっくりして、目をまたたく。
「呪いを解くのは、神官の秘技。それを行うには信仰心が必要だ。だが私のステータスでは、信仰心は0だ。だから無理だ」
「マジですか⁉︎俺でも500近くあるのに?」
信仰心は神への祈りが必須だ。人だけではなく、魔物ですら、なんだったら虫さんだって神様に感謝している世界で信仰心がないなんて……。どれだけ属性増やせば良いんだろう。
「500?半分近いじゃないか。お前は最恐ドラゴンではなかったのか?街も破壊したと聞いたぞ?」
「あ、それは若気の至りで、ちょっと悪ぶって街を一つ潰しちゃったんですが…。今、考えるとお恥ずかしい限りで……。でもその時に恋愛小説に出会いまして!それからはむやみやたらに街や人を破壊しない様に努めてます」
「ではなぜ最恐ドラゴンなどと言われているのだ⁉︎」
「その街に住んでいた勇者を、グーパンで倒したからだと思いますよ。それから色んな人が俺を討伐に来る様になりましたし……。俺も一応殺さない様に心掛けてるんですが、人間って弱いから、すぐ倒しちゃうんですよね。まぁ、正当防衛だし仕方ないですよね。そんな俺もアストリッド様には完敗でしたけど」
俺はハハハと乾いた笑いを送り出す。若気の至りとは恥ずかしい。今では立派な黒歴史だ。
「ファニーの信仰心500は間違いなんだな?」
「はい。ここ最近、お祈りしてたら一気に上がりました!」
そう、小説の神様に感謝の祈りを捧げていたら一気に増えた。信仰心の最高値は999だ。元々神様にいっぱいお願いを聞いてもらっていた俺だけど、これからはもっとお願いを聞いてもらえるかもしれない。
「ではお前が呪いを解け」
「へ?」
「呪いの解き方は知識としては知っている。使えないだけだ。教えてやるから、おぼえろ」
アストリッド様が何か言い出した……と思ったら首根っこを掴まれ、更に転移させられた。
◇◇◇
「ここはどこですか⁉︎」
深い苔むした森の中。精霊の息吹すら感じそうなこの場所には、鏡の様な池がある。清らかな水は透き通り、魚の姿だけではなく、その水底までも映し出す。
なんて清浄な場所なんだ!心が洗われるようだ……なんて言ってる場合じゃない!
「ファニー、心を空にしろ……」
そんな清浄な場所に、さっきまで俺に慰められていたとは思えない鬼のような形相をしたアストリッド様がいる。しかもなんか意味わからないことを言い出した。
「アストリッド様……、いきなりこんな所に連れて来て、呪いを解く方法とか言われても、俺は良く分からないです」
「ああ、そうだな。説明が足りなかったな。神官の最終奥義が呪いを解く事だ。つまりお前が神官になれば良い」
「俺、魔物なんですけど?」
「だから?魔物だから職業が持てないわけではないだろう。誰も試した事がないだけだ」
「でも……
「でもでも、うるさいんだが?」
鬼がいる……俺はごくりと生唾を飲んで、ただ、頷くことにした。
関わるんじゃなかった……そう思いながら。
「アストリッド様、気絶させた人は起こしました。周囲に被害もありませんでしたよ」
ちょこんと横に座って、ここはそっと頭を撫でることにした。すると、顔がゆっくりと上がった。なんだか獰猛な猛獣を手懐けた気分だ。
「…………すまない。動揺した」
ポロポロ溢れる涙を両手でグイッと拭ってあげると、アストリッド様がふわりと微笑んだ。
Sだったり、ツンデレだったり、乱暴だったり、色々な属性を持つアストリッド様だけど、こんな女性らしい柔らかい部分もあるんだろう。
一緒に暮らしてみると実際の人間の感情の複雑さが分かる。これは小説では分からないことだ。
「大丈夫ですよ。それよりアストリッド様、レオン様の事ですが、どうも今回と同じ様な事がどの店でも頻繁に起きている様ですね。聞き込みをしてみたんですが、皆言うんですよ。悪い子じゃないだけど、なぜかある一定の種類の男達に絡まれると」
「その様だな。私が尾行している時もそうだった。どうも粗暴な男達の癇に触るらしい」
「呪われてるんじゃないかと思うんですが、どう思いますか?」
「……呪いは専門外なんだが…」
「……専門外……」
俺が首を傾げると、アストリッド様も俺の真似をする。
「アストリッド様って、職業は賢者ですよね?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
この世界の人間は5歳で教会にて職業を選択する。それは知っている。教会で祈ると、適正な職業を神様が教えてくれるらしい。これは弱い人間に神様が与える特典だ。
例えば戦士、例えば、魔法使い、例えば調理師、例えば建築士。それに沿ってレベルを上げていき、上級職等を目指しながら精進していく。
その中で【賢者】はレア職だ。魔法のスペシャリスト。あらゆる魔法が使えるという……。
「じゃあ、なんで呪いが解けないんですか⁉︎賢者って言えば、全ての魔法を使える上級者でしょうが‼︎違いますか⁉︎」
アストリッド様はびっくりして、目をまたたく。
「呪いを解くのは、神官の秘技。それを行うには信仰心が必要だ。だが私のステータスでは、信仰心は0だ。だから無理だ」
「マジですか⁉︎俺でも500近くあるのに?」
信仰心は神への祈りが必須だ。人だけではなく、魔物ですら、なんだったら虫さんだって神様に感謝している世界で信仰心がないなんて……。どれだけ属性増やせば良いんだろう。
「500?半分近いじゃないか。お前は最恐ドラゴンではなかったのか?街も破壊したと聞いたぞ?」
「あ、それは若気の至りで、ちょっと悪ぶって街を一つ潰しちゃったんですが…。今、考えるとお恥ずかしい限りで……。でもその時に恋愛小説に出会いまして!それからはむやみやたらに街や人を破壊しない様に努めてます」
「ではなぜ最恐ドラゴンなどと言われているのだ⁉︎」
「その街に住んでいた勇者を、グーパンで倒したからだと思いますよ。それから色んな人が俺を討伐に来る様になりましたし……。俺も一応殺さない様に心掛けてるんですが、人間って弱いから、すぐ倒しちゃうんですよね。まぁ、正当防衛だし仕方ないですよね。そんな俺もアストリッド様には完敗でしたけど」
俺はハハハと乾いた笑いを送り出す。若気の至りとは恥ずかしい。今では立派な黒歴史だ。
「ファニーの信仰心500は間違いなんだな?」
「はい。ここ最近、お祈りしてたら一気に上がりました!」
そう、小説の神様に感謝の祈りを捧げていたら一気に増えた。信仰心の最高値は999だ。元々神様にいっぱいお願いを聞いてもらっていた俺だけど、これからはもっとお願いを聞いてもらえるかもしれない。
「ではお前が呪いを解け」
「へ?」
「呪いの解き方は知識としては知っている。使えないだけだ。教えてやるから、おぼえろ」
アストリッド様が何か言い出した……と思ったら首根っこを掴まれ、更に転移させられた。
◇◇◇
「ここはどこですか⁉︎」
深い苔むした森の中。精霊の息吹すら感じそうなこの場所には、鏡の様な池がある。清らかな水は透き通り、魚の姿だけではなく、その水底までも映し出す。
なんて清浄な場所なんだ!心が洗われるようだ……なんて言ってる場合じゃない!
「ファニー、心を空にしろ……」
そんな清浄な場所に、さっきまで俺に慰められていたとは思えない鬼のような形相をしたアストリッド様がいる。しかもなんか意味わからないことを言い出した。
「アストリッド様……、いきなりこんな所に連れて来て、呪いを解く方法とか言われても、俺は良く分からないです」
「ああ、そうだな。説明が足りなかったな。神官の最終奥義が呪いを解く事だ。つまりお前が神官になれば良い」
「俺、魔物なんですけど?」
「だから?魔物だから職業が持てないわけではないだろう。誰も試した事がないだけだ」
「でも……
「でもでも、うるさいんだが?」
鬼がいる……俺はごくりと生唾を飲んで、ただ、頷くことにした。
関わるんじゃなかった……そう思いながら。
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