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最恐ドラゴンがパーティーに出席する時(2)
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馬車降り場から、お城の大きな扉を潜り、それから廊下を抜けて、一階の大広間へと向かう。今日のパーティー会場だ。
傾国の美女の佇まいで、俺にエスコートされていたアストリッド様は、煌びやかなパーティー会場の入り口から会場を見てニヤッと笑い、俺の顔をグイッと掴んで、自分に向けさせた。
おや?あまり怒ってなさそうだ。
「ファニー、お前にやられたことは頭に来ている。何より私の魔力まで封印できる力があることを隠していたことも、な」
「あ、それはやったらできたって言うか……。でも、でも、それもこれもアストリッド様の恋愛のためで……」
「そうだな、ここに来るまでの間、かなりの男に注目を浴びていた。今までの私にはなかったことだ。そう言う意味では、まぁ許そう」
なんだろう、俺の頭の中で警鐘がなっている。なんだか危険が迫っているような、そんな感じ。
「この呪縛は確か男と5人踊らなければいけないんだったな?それはお前も含まれるのか?」
随分とご機嫌な感じの表情だけど……それでもなんだか怖い気がする。
「俺は含まれません。俺は人間じゃないし……」
「そうか、それは残念だ。ファーストダンスはお前と踊りたかったのに」
……怖い、怖いけど、頑張って聞いてみよう。
「あの……俺は殺されちゃいますか?寿命はここで終わり?」
アストリッド様はニコリと笑う。こんな表情もできたんだ。この表情であれば男を落とせるかもしれない。
「なんてことを言うんだ。まだ殺さない。まだ――な?」
まだ……まだなら良いかな?そうだよね。だって俺はまだアストリッド様の恋愛を成就させてないもんね。
「もしや貴女がアストリッド様ですかな?これはこれは美しい」
ホッと安心しているとレイヴォネン国王が廊下を歩いてやってきた。多分この人が国王だと思う。これ見よがしに王冠被っているし、豪華な王冠の下の毛は少し、いやかなり寂しいけど。
そんなアストリッド様を褒め称える王の周囲にはこれ見よがしに、若くて見目良い男が立っている。
「招待頂き感謝する。アストリッド・ドリス・エーゲシュトランドだ」
俺の顔から手を離し、アストリッド様はふわりとドレスを摘み、お辞儀をする。
おお、やっぱり貴族の出なんだ。驚くほど綺麗だ。そして上げた顔には、呪術によって作られた美しい笑み。
その表情に若い男性だけではなく、王様までも頬を染める。
アストリッド様の挨拶を受けて、王が後ろの男性たちを紹介する。息子の第二王子、甥だ、従兄弟の子供だと。
そしてアストリッド様にファーストダンスを申し込んだのは第二王子だった。王に似ず中々イケメンだ。ヒールを履いたアストリッド様より少し高い。身長差も良い感じ。
あれれ?なんだか良い感じ?めちゃくちゃ怒っていたのにどうしたんだろう。
そう思いながら、第二王子とアストリッド様がパーティー会場に入っていくのを見送っていると、何か不吉なものが会場の中央にあるのを見つけた。
そう言えばアストリッド様は会場を見てからご機嫌になった。その原因が今、分かった気がする。
後ろから声をかけてくる王様の声はあえて無視して、一歩、一歩とパーティー会場に入っていく。
中心にある、ソレに向かって。
周囲の人間の声は聞きたくないけど、聞こえてくる。
「これは見事だな」
「本当に素晴らしですわ。これを見ることができるなんて」
「ある意味これのお披露目パーティーだな」
「オークションで6億で落札したらしいわよ」
「今月中は王城で公開して、来月からは一般公開するつもりらしい」
「そこでお金を取るんでしょう?さすが我が国の王は商売上手よね」
「経済効果で元が取れるんじゃない?」
色々話す人々の声。その中のひとつが耳に残る。
「6億……」
ポツリと呟く。
俺を退治したアストリッド様が得た報奨金は5億。それよりも1億高い。
「あ、触ってはダメですよ」
展示されたソレを取り囲み守っているのは、素敵な洋服を着た騎士達だ。そのひとりに止められる。
ついこの間まで、俺のものだったのに。俺の後ろに誇らしげに付いていたのに。俺の体を支えてくれていたのに!
ホロリと落ちた涙を止める術はない。止められない。
だって目の前にあるのは、俺の尻尾だ。俺の尻尾が、アストリッド様に切り落とされて、引き摺られて、更にオークションに懸けられた尻尾が、見事な剥製になっている!
幸いなのは自慢の灼熱色がそのまま残っているところだろうか。だけど、だけど、まさか剥製になるなんて‼︎
「あの方……泣いているわ」
「大丈夫かしら?」
麗しいご婦人方が俺の様子を見て、会話をしている。
気の毒そうな視線を送ってくれる姿はありがたい。その中に嬉しそうに弾む声が聞こえた。どうやら一曲目が終わったらしい。
「彼は私のげ……従者だ。ファフニール退治を手伝ってくれました。その時の苦労を思い出しているのだろう」
「まあ、そうなんですね。さぞや大変だったのでしょうね」
ああ、アストリッド様、あなたはそんな真っ当な会話もできたのですね。と言うか、絶対に俺の反応を見てを楽しんでいるでしょう!
なんてひどい仕返しだ!この鬼!冒険者ギルドの払った手数料は20%。残りの4億8千万の半分を俺に分けてよ!
嘆く俺を無視してアストリッド様は踊り続けた。ノルマをこなすために。
傾国の美女の佇まいで、俺にエスコートされていたアストリッド様は、煌びやかなパーティー会場の入り口から会場を見てニヤッと笑い、俺の顔をグイッと掴んで、自分に向けさせた。
おや?あまり怒ってなさそうだ。
「ファニー、お前にやられたことは頭に来ている。何より私の魔力まで封印できる力があることを隠していたことも、な」
「あ、それはやったらできたって言うか……。でも、でも、それもこれもアストリッド様の恋愛のためで……」
「そうだな、ここに来るまでの間、かなりの男に注目を浴びていた。今までの私にはなかったことだ。そう言う意味では、まぁ許そう」
なんだろう、俺の頭の中で警鐘がなっている。なんだか危険が迫っているような、そんな感じ。
「この呪縛は確か男と5人踊らなければいけないんだったな?それはお前も含まれるのか?」
随分とご機嫌な感じの表情だけど……それでもなんだか怖い気がする。
「俺は含まれません。俺は人間じゃないし……」
「そうか、それは残念だ。ファーストダンスはお前と踊りたかったのに」
……怖い、怖いけど、頑張って聞いてみよう。
「あの……俺は殺されちゃいますか?寿命はここで終わり?」
アストリッド様はニコリと笑う。こんな表情もできたんだ。この表情であれば男を落とせるかもしれない。
「なんてことを言うんだ。まだ殺さない。まだ――な?」
まだ……まだなら良いかな?そうだよね。だって俺はまだアストリッド様の恋愛を成就させてないもんね。
「もしや貴女がアストリッド様ですかな?これはこれは美しい」
ホッと安心しているとレイヴォネン国王が廊下を歩いてやってきた。多分この人が国王だと思う。これ見よがしに王冠被っているし、豪華な王冠の下の毛は少し、いやかなり寂しいけど。
そんなアストリッド様を褒め称える王の周囲にはこれ見よがしに、若くて見目良い男が立っている。
「招待頂き感謝する。アストリッド・ドリス・エーゲシュトランドだ」
俺の顔から手を離し、アストリッド様はふわりとドレスを摘み、お辞儀をする。
おお、やっぱり貴族の出なんだ。驚くほど綺麗だ。そして上げた顔には、呪術によって作られた美しい笑み。
その表情に若い男性だけではなく、王様までも頬を染める。
アストリッド様の挨拶を受けて、王が後ろの男性たちを紹介する。息子の第二王子、甥だ、従兄弟の子供だと。
そしてアストリッド様にファーストダンスを申し込んだのは第二王子だった。王に似ず中々イケメンだ。ヒールを履いたアストリッド様より少し高い。身長差も良い感じ。
あれれ?なんだか良い感じ?めちゃくちゃ怒っていたのにどうしたんだろう。
そう思いながら、第二王子とアストリッド様がパーティー会場に入っていくのを見送っていると、何か不吉なものが会場の中央にあるのを見つけた。
そう言えばアストリッド様は会場を見てからご機嫌になった。その原因が今、分かった気がする。
後ろから声をかけてくる王様の声はあえて無視して、一歩、一歩とパーティー会場に入っていく。
中心にある、ソレに向かって。
周囲の人間の声は聞きたくないけど、聞こえてくる。
「これは見事だな」
「本当に素晴らしですわ。これを見ることができるなんて」
「ある意味これのお披露目パーティーだな」
「オークションで6億で落札したらしいわよ」
「今月中は王城で公開して、来月からは一般公開するつもりらしい」
「そこでお金を取るんでしょう?さすが我が国の王は商売上手よね」
「経済効果で元が取れるんじゃない?」
色々話す人々の声。その中のひとつが耳に残る。
「6億……」
ポツリと呟く。
俺を退治したアストリッド様が得た報奨金は5億。それよりも1億高い。
「あ、触ってはダメですよ」
展示されたソレを取り囲み守っているのは、素敵な洋服を着た騎士達だ。そのひとりに止められる。
ついこの間まで、俺のものだったのに。俺の後ろに誇らしげに付いていたのに。俺の体を支えてくれていたのに!
ホロリと落ちた涙を止める術はない。止められない。
だって目の前にあるのは、俺の尻尾だ。俺の尻尾が、アストリッド様に切り落とされて、引き摺られて、更にオークションに懸けられた尻尾が、見事な剥製になっている!
幸いなのは自慢の灼熱色がそのまま残っているところだろうか。だけど、だけど、まさか剥製になるなんて‼︎
「あの方……泣いているわ」
「大丈夫かしら?」
麗しいご婦人方が俺の様子を見て、会話をしている。
気の毒そうな視線を送ってくれる姿はありがたい。その中に嬉しそうに弾む声が聞こえた。どうやら一曲目が終わったらしい。
「彼は私のげ……従者だ。ファフニール退治を手伝ってくれました。その時の苦労を思い出しているのだろう」
「まあ、そうなんですね。さぞや大変だったのでしょうね」
ああ、アストリッド様、あなたはそんな真っ当な会話もできたのですね。と言うか、絶対に俺の反応を見てを楽しんでいるでしょう!
なんてひどい仕返しだ!この鬼!冒険者ギルドの払った手数料は20%。残りの4億8千万の半分を俺に分けてよ!
嘆く俺を無視してアストリッド様は踊り続けた。ノルマをこなすために。
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