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最恐ドラゴンが人間世界を満喫する時。(1)

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アストリッド様は威圧が抑えられるまでは、家を持っていなかった。理由は明白だ。何故ならアストリッド様が都市に入ると、誰しもが気絶していからだ。その為、家を買うチャンスも借りるチャンスもなかったそうだ。

『じゃあ、ご飯とか、寝る時とはどうしていたんですか?』と聞いたら、『森で獣を狩って、木の上で寝ていた』と、答えが返ってきた。

『森の獣を威圧で気絶させていたんですか?』と聞いたら、『【隠密】のスキルを持っている』と言われた。

【隠密】のスキルは気配を消せる。つまりスキルを使用して、獣を狩って、森に潜んでいたんだ。お貴族様みたいなのに、そんな生活もできるらしい。

スキルとはこの世界に生きている誰しもが持っているものだ。人間は当然として、魔物である俺でも、なんだったら神様でも持っているものだ。それは職業とは別に得られるもので、普通に生きて生活していれば突然得る事ができる。そしてスキルは使用していけば、レベルが上がる。

アストリッド様は【隠密】のスキルはレベルMAXなので、誰にも気が付かれることはない。
つまり威圧の抑え方を教わるまでは、0か10の人だったわけだ。街に入って人を気絶させるか、誰にも気が付かれないか。どちらにしろ人と話す事ができなかったとは、なんだか気の毒な人だ。

この人は本当にどこから来て、どうやって生きてきたんだろう。とってもとっても気になるけど、深くは聞いていない。興味があると思われると嫌だからではなく、聞いたら怒られそうだからだ。

そんなやっと威圧を抑えられたアストリッド様が買った家は、高層マンションの最上階だ。さすが世界最強賢者。驚くほどお金持ちのアストリッド様はポンっとお金を出して買った。

高層マンションは、景観も良くて、このレイヴォネン王国の王都を一望に見渡す事ができる。中心にある王城よりほんの10cmだけ低い所がミソだ。やはり王城の高さを超えてはいけないらしい。

部屋の間取りは2LDK。広いリビングと大きなキッチン。更に泡が出る癒されるお風呂!部屋は広い部屋がふたつあるので、俺用の部屋もちゃんともらえた。

しかも家具は好きに揃えろと言われてたんまりお金を預かったので、食器を買ったり、家具を買ったりとテレビを買ったりとやりたい放題させてもらった。

だけどダイニングテーブルは俺の物をこの家に移動させた。大きな窓を持つ広いリビングに良く似合う。俺は大満足だ!

そして俺は日中アストリッド様のために食事を作り、洗濯と掃除をしている。これでは恋愛を教えるために来たのではなく、家政婦をするためにきたみたいだ。

それではいけない。いつまで経ってもアストリッド様と離れられないじゃないか!俺、ピンチ!
そう思ったので、慌ててアストリッド様には恋愛小説を読ませて勉強させようとしたけど、拒否された。仕方ないから、今は冒険小説を読ませている。ちょっとだけ恋愛要素を含ませているのが味噌だ。こうやって徐々に恋愛モードに洗脳していきたい。

とは思いつつ俺は今日も、台所で夕飯を作っている。今日の夕飯はローストビーフだ。付け合わせに温野菜サラダを用意した。アストリッド様は野菜が嫌いだけどドレッシングを凝れば食べてくれる。見るのも嫌だと言っていたトマトを食べてくれた時は、嬉しくて泣きそうになった。なんだかんだで人に喜ばれるのは嬉しい。そしてなんだかクセになりそうで少し、いやかなり怖い。この生活も悪くはないかな?とは思い始めたらお終いだ。


「アストリッド様、そろそろ夕飯の時間ですよ?」

台所から声をかけると、リビングのソファで本を読んでいたアストリッド様が、読みながらダイニングテーブルへと移動してくれる。
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