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最恐ドラゴンの値段が判明する時。
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親切な冒険者に威圧の抑え方を教えてもらい、人並みになったアストリッド様と一緒に、階下へ下る。
冒険者の話だと、換金所は3階だそうだ。
アストリッド様に担がれ、更に階段をゴンゴンという音と共に引き摺られている俺の尻尾。
もうお別れだと思うと、なんだかとても寂しくなる。
アストリッド様の後ろを歩きながら、俺は尻尾に別れを告げた。
それにしても威圧の抑え方も知らないなんて、アストリッド様は今までどうやって生きてきたんだろう。聞きたいけど、聞きたくない。正確に言うと深入りしたくない。人間の世界には興味があるけど恋愛を教えて、一刻も早くアストリッド様とは離れたい。
さっき、この建物を平気で壊した時に改めてそう思った。Sな人とは関わり合いたくありません。俺はノーマルでラブアンドピースを愛するドラゴンだからね。
3階に降りると、広いフロアに人がたくさんいて、奥に受付カウンターが5個あった。どうも順番待ちをしていたようだ。『していた』と言う理由は簡単だ。アストリッド様の威圧のせいで皆が気絶していたからだ。ようやく目が覚めたのか、皆が夢見心地でこちらを見ている。
誰もがこちらに注目している。そうだろう。アストリッド様が俺の尻尾をずるずると引き摺りながら受付へ向かうのだから。もう少し優しく運んで欲しい。本当にSな人は苦手だ。
アストリッド様は受付の前で、尻尾をどすんと落とす。ああ、さようなら、俺の尻尾。500年間俺の後ろにいてくれてありがとう。
「S級冒険者アストリッド・ドリス・エーゲシュトランドだ。最恐ドラゴン・ファフニールを討伐した。これはやつの尻尾だ」
「――ええ⁉︎、、あ、、少々お待ちを――!ぎ、ギルマス――!!」
受付の女性は、慌てて後ろにある扉に入っていく。
そうか、その奥が職員の待合所で、偉い人の部屋なのかな?あ、換金所だし、お金がいっぱいあるのかもしれない。
入れ変わるように出てきた厳つい人が、アストリッド様の顔を見て、へこへことお辞儀をする。
「あ……アストリッド様、まさか本当にファフニールを退治してくださるとは……」
「報奨金は有効だと昨日言っていたな?5億、耳を揃えて払ってもらおう」
ご――――5億⁉︎俺って500000000なの?すごいよ!俺!そんなにいっぱいあると、小説が何冊買えるだろう。1冊千円として、えっと……。
「もちろん、有効です。即金でお支払いします……それでその尻尾は……」
「ああ、私は尻尾はいらないから、オークションで売ってくれ。2割を手数料で払おう」
「ありがとうございます!!」
ギルマス……(ギルドマスターの略かな?)は90度の角度で礼儀正しくお辞儀をする。
俺の尻尾はいくらになるんだろう。ちょっと、いやかなり気になってしまう。
◇◇◇◇
俺とアストリッド様は別室へ通された。支払いの手続きが終わるまで待っていて欲しいと言うことだ。あまり広くない清潔感のある白い壁の部屋のソファは、硬くて座り心地は良くない。
俺の隣に座るアストリッド様は……相変わらずふてぶてしい。緊張してちんまり座っている俺とは正反対だ。この神経の太さは……全く羨ましくない。
しかもテーブルに置かれたコーヒーを飲んだアストリッド様は、「まずい」と言い、それはそれは苦々しい顔をした。それ以降飲んでない。俺も飲んだけど、確かに美味しくなかった。でも、人様がせっかく出してくれた飲み物だ。そこは我慢して飲むのも優しさではないだろうか。やはりSな人は苦手だと改めて認識した。
時計の音が響く中、じっと待っているとノックがして、扉が開かれた。ギルマスだ。
焦茶の髪。バランスの良い体格。一見、人の良さそうな顔をしているが、実は裏がありそうな人だ。俺をじっと見ているのは、俺を見定めているのではなく、アストリッド様と目を合わせるのが嫌なんだろう。気持ちは分かる。さっきの威圧の抑え方を教えてくれた冒険者もアストリッド様と目を合わせていなかった。
「ファフニールの討伐、ありがとうございました。報奨金はアスリッド様の口座にお振込しました」
ギルマスはここで一番偉い人だ。冒険者を束ねる人。そんな人にまで敬語を使わせるアストリッド様が恐ろしい。しかも相手は丁寧に対応しているのに、アストリッド様は待っているのが退屈だったと言わんばかりに、眠そうな顔をしている。
「ファフニールの尾は後日オークションにかけますが、金額がいくらになるか検討も付きません。分かり次第ご連絡いたします」
アストリッド様は頷くだけだ。しかも足を組んだ。なんて、偉そうな態度だ!Sな人はやっぱり苦手だ。
「ところでアストリッド様の今後のご予定は」
うん?俺ばっか見ないで?俺は知らないよ。俺は今のところ死にたくないから、アストリッド様についていくだけだからね?
「当面、ここを拠点にするつもりだ」
「そう……そうですか。最強賢者であるアストリッド様がいらっしゃってくれるなら、この国も安定するでしょう」
んんん?だから俺を見ないで!俺に選択権はないの!
「ところで……彼は?」
あ?その話に繋げたかったのね。俺は……
「これの名前はファニー。私の下僕だ」
「……下僕……」
ギルマスの言葉が宙に浮いた。
冒険者の話だと、換金所は3階だそうだ。
アストリッド様に担がれ、更に階段をゴンゴンという音と共に引き摺られている俺の尻尾。
もうお別れだと思うと、なんだかとても寂しくなる。
アストリッド様の後ろを歩きながら、俺は尻尾に別れを告げた。
それにしても威圧の抑え方も知らないなんて、アストリッド様は今までどうやって生きてきたんだろう。聞きたいけど、聞きたくない。正確に言うと深入りしたくない。人間の世界には興味があるけど恋愛を教えて、一刻も早くアストリッド様とは離れたい。
さっき、この建物を平気で壊した時に改めてそう思った。Sな人とは関わり合いたくありません。俺はノーマルでラブアンドピースを愛するドラゴンだからね。
3階に降りると、広いフロアに人がたくさんいて、奥に受付カウンターが5個あった。どうも順番待ちをしていたようだ。『していた』と言う理由は簡単だ。アストリッド様の威圧のせいで皆が気絶していたからだ。ようやく目が覚めたのか、皆が夢見心地でこちらを見ている。
誰もがこちらに注目している。そうだろう。アストリッド様が俺の尻尾をずるずると引き摺りながら受付へ向かうのだから。もう少し優しく運んで欲しい。本当にSな人は苦手だ。
アストリッド様は受付の前で、尻尾をどすんと落とす。ああ、さようなら、俺の尻尾。500年間俺の後ろにいてくれてありがとう。
「S級冒険者アストリッド・ドリス・エーゲシュトランドだ。最恐ドラゴン・ファフニールを討伐した。これはやつの尻尾だ」
「――ええ⁉︎、、あ、、少々お待ちを――!ぎ、ギルマス――!!」
受付の女性は、慌てて後ろにある扉に入っていく。
そうか、その奥が職員の待合所で、偉い人の部屋なのかな?あ、換金所だし、お金がいっぱいあるのかもしれない。
入れ変わるように出てきた厳つい人が、アストリッド様の顔を見て、へこへことお辞儀をする。
「あ……アストリッド様、まさか本当にファフニールを退治してくださるとは……」
「報奨金は有効だと昨日言っていたな?5億、耳を揃えて払ってもらおう」
ご――――5億⁉︎俺って500000000なの?すごいよ!俺!そんなにいっぱいあると、小説が何冊買えるだろう。1冊千円として、えっと……。
「もちろん、有効です。即金でお支払いします……それでその尻尾は……」
「ああ、私は尻尾はいらないから、オークションで売ってくれ。2割を手数料で払おう」
「ありがとうございます!!」
ギルマス……(ギルドマスターの略かな?)は90度の角度で礼儀正しくお辞儀をする。
俺の尻尾はいくらになるんだろう。ちょっと、いやかなり気になってしまう。
◇◇◇◇
俺とアストリッド様は別室へ通された。支払いの手続きが終わるまで待っていて欲しいと言うことだ。あまり広くない清潔感のある白い壁の部屋のソファは、硬くて座り心地は良くない。
俺の隣に座るアストリッド様は……相変わらずふてぶてしい。緊張してちんまり座っている俺とは正反対だ。この神経の太さは……全く羨ましくない。
しかもテーブルに置かれたコーヒーを飲んだアストリッド様は、「まずい」と言い、それはそれは苦々しい顔をした。それ以降飲んでない。俺も飲んだけど、確かに美味しくなかった。でも、人様がせっかく出してくれた飲み物だ。そこは我慢して飲むのも優しさではないだろうか。やはりSな人は苦手だと改めて認識した。
時計の音が響く中、じっと待っているとノックがして、扉が開かれた。ギルマスだ。
焦茶の髪。バランスの良い体格。一見、人の良さそうな顔をしているが、実は裏がありそうな人だ。俺をじっと見ているのは、俺を見定めているのではなく、アストリッド様と目を合わせるのが嫌なんだろう。気持ちは分かる。さっきの威圧の抑え方を教えてくれた冒険者もアストリッド様と目を合わせていなかった。
「ファフニールの討伐、ありがとうございました。報奨金はアスリッド様の口座にお振込しました」
ギルマスはここで一番偉い人だ。冒険者を束ねる人。そんな人にまで敬語を使わせるアストリッド様が恐ろしい。しかも相手は丁寧に対応しているのに、アストリッド様は待っているのが退屈だったと言わんばかりに、眠そうな顔をしている。
「ファフニールの尾は後日オークションにかけますが、金額がいくらになるか検討も付きません。分かり次第ご連絡いたします」
アストリッド様は頷くだけだ。しかも足を組んだ。なんて、偉そうな態度だ!Sな人はやっぱり苦手だ。
「ところでアストリッド様の今後のご予定は」
うん?俺ばっか見ないで?俺は知らないよ。俺は今のところ死にたくないから、アストリッド様についていくだけだからね?
「当面、ここを拠点にするつもりだ」
「そう……そうですか。最強賢者であるアストリッド様がいらっしゃってくれるなら、この国も安定するでしょう」
んんん?だから俺を見ないで!俺に選択権はないの!
「ところで……彼は?」
あ?その話に繋げたかったのね。俺は……
「これの名前はファニー。私の下僕だ」
「……下僕……」
ギルマスの言葉が宙に浮いた。
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