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最恐ドラゴンが、最強賢者に出会う時。(3)
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飛んで逃げようとしたから、その足を掴んで地面に叩き落とす。大きな音を立てて地面が陥没したので、これ幸いと腹に槍を刺す。すると情けない悲鳴と共に、ファフニールが槍を自分でズボッと抜いた。噴き出る血は赤い。だが、そんなことはお構いなしに、ファフニールは再び上空へ逃げようとする。
さっきは足だったので今度はその尻尾を掴む。ブンブンと円を描くように振り回し、奴の住処であろう洞穴にぶち当てる。洞穴は壊れなかったが、ファフニールは「むぎゅ!」と情けない声を出して目を回したので、今度はその胸に槍をブッ刺した。やはり血が飛び散る。ファフニールの言葉は「いーたーい――!!」だ。そしてファフニールはまたもや、その短い手を使い、ずぶりと槍を引き抜いた。そして逃げようと私に背を向ける。
今度はその背を走って、頭の角を掴み、バランスをとりながら肩に乗る。パニック状態なファフニールはアワアワとその短い手で私を引き摺り下ろそうとしているが、残念ながら短すぎるその手は届かない。どうなっているのかと思いながら、脳天に槍を刺す。ピューっと勢いよく飛び出る血を不快に思い、槍を刺したまま飛び降り地面に足をつけて、やつを見る。
「痛いよー!頭に槍が刺さったよー!こんな髪飾りはいらないよー!まだ見ぬ彼女に笑われちゃうよ~‼︎」
「…………っお前……死なないのか?」
最恐ドラゴンの名は伊達じゃないらしい。周囲はファフニールの血で真っ赤に染まっている。奴の体は私の刺し傷だらけだ。体にぽっかりあいた穴から、ありえない位の血がどくどくと流れているのだから当然と言えば当然だ。そして今刺した脳天の槍から、ピューピューと噴水のように間抜けな血が飛び散っている。なのに、なぜ元気なのだろう。本人(竜)の嘆きと、体の重傷具合のギャップが激しくて、なんだかクラクラしてきた。
「死んじゃうに決まってるでしょ!こんなに血が出てるし、頭には槍が刺さったまんまだし!抜いてよ――こんな姿、恥ずかしいよ――!」
「は……はっはは……」
「笑ってないでなんとかしてよ!」
ファフニールはプリプリと怒っているが笑うしかないではないか。目の前のドラゴンの頭に刺さる槍は確実に奴の首元まで深く刺さっている。その証拠に奴が口を開くたびに、私の槍が見える。
それで口を開けて叫んでいるのだ。これを笑わずして、どうすれば良いのか!
しかも奴が作った魔法無効空間はまだ有効だ。お陰で魔法は使えない。空を飛ぶことすらできない。
そんな緊迫した戦いの状況で、こんな喜劇は予想だにしていなかった。
しかしこのままで良いわけがない。これでも【最強賢者】の名を有する私だ!
後ろに高く結んだ髪には沢山の櫛が刺さっている。櫛は全て私の武器だ。魔法で小さくしている。これだけは魔法無効空間でも作動できるような魔法で作られている。
スッと抜いて、大きくしたのは大剣だ。私の得意とする武器のひとつ。例え槍で刺して死ななくても、剣で首を両断すれば死ぬだろう!いや、本当に死んでくれ!頼むから!
◇◇◇
「いや――――――――!!」
青い空に俺の悲鳴が響きわたる。
なんてことだ!俺をブッ刺しまくった女性が今度は大剣を出した。しかもあの恐ろしい目!絶対俺の首を切るつもりだ!決意を込めて――俺の首を見ている!こーわーいー!!
なんなの?この女の人!優しさがない、そりゃSの人だから優しさはないだろうけど、あ!これってSの人なりの愛情表現⁉︎こんな痛い愛は俺はいらない!こんなチクチクブッ刺してじわじわ殺すなら、いっそって――、、
「いやー死にたくない!!」
俺は勢いよく――走る。さっき飛んだら尻尾とか足とか掴まれた。だったら走るしかない。
逃げろ!俺!俺の家は強力な魔法を使って壊れない仕様になっている。だって俺の家にはお宝がいっぱい。壊れないように、燃やされないように、水浸しにならないように、あらゆる魔物や人間や神々の叡智を詰め込んだ魔法がかかっている。だから殺される前に逃げるのだ!
三十六計逃げるに如かず!生きてるもの勝ちな世の中だ!
びっターン!
大きな音と共に俺の体が地面に倒れる。なんで?と後ろを見るとニヤリと笑うSの人と目が合った。
また、尻尾を掴まれた!そして掴まれた勢いで転んでしまった!顔から勢いよく転んでしまったから鼻血まで出てしまった。しかも……自慢の白い歯も地面に転がっている。
「わーん、歯が折れた!虫歯一本ない自慢の歯だったのに!俺の白い歯が!」
ひどい、なんてひどいSの人なんだ!これだから変態さんは嫌いだ!
「往生際が悪いな。これが最恐ドラゴン・ファフニールか。確かに恐ろしい」
「恐ろしいのはあなただよ!俺の体を踏まないで!ほら!あなたが踏むから血がまた溢れちゃったでしょう⁉︎ああ、なんで上に上がってくるの⁉︎俺の体は絨毯でもないし、カーペットでもないよ!って同じ物!同じ!俺の語彙力返してー!!」
「五月蝿い!」
女の人の言葉に「ひゅっ」っと息を呑む。首に大剣の冷たい刃の感触がした。
さっきは足だったので今度はその尻尾を掴む。ブンブンと円を描くように振り回し、奴の住処であろう洞穴にぶち当てる。洞穴は壊れなかったが、ファフニールは「むぎゅ!」と情けない声を出して目を回したので、今度はその胸に槍をブッ刺した。やはり血が飛び散る。ファフニールの言葉は「いーたーい――!!」だ。そしてファフニールはまたもや、その短い手を使い、ずぶりと槍を引き抜いた。そして逃げようと私に背を向ける。
今度はその背を走って、頭の角を掴み、バランスをとりながら肩に乗る。パニック状態なファフニールはアワアワとその短い手で私を引き摺り下ろそうとしているが、残念ながら短すぎるその手は届かない。どうなっているのかと思いながら、脳天に槍を刺す。ピューっと勢いよく飛び出る血を不快に思い、槍を刺したまま飛び降り地面に足をつけて、やつを見る。
「痛いよー!頭に槍が刺さったよー!こんな髪飾りはいらないよー!まだ見ぬ彼女に笑われちゃうよ~‼︎」
「…………っお前……死なないのか?」
最恐ドラゴンの名は伊達じゃないらしい。周囲はファフニールの血で真っ赤に染まっている。奴の体は私の刺し傷だらけだ。体にぽっかりあいた穴から、ありえない位の血がどくどくと流れているのだから当然と言えば当然だ。そして今刺した脳天の槍から、ピューピューと噴水のように間抜けな血が飛び散っている。なのに、なぜ元気なのだろう。本人(竜)の嘆きと、体の重傷具合のギャップが激しくて、なんだかクラクラしてきた。
「死んじゃうに決まってるでしょ!こんなに血が出てるし、頭には槍が刺さったまんまだし!抜いてよ――こんな姿、恥ずかしいよ――!」
「は……はっはは……」
「笑ってないでなんとかしてよ!」
ファフニールはプリプリと怒っているが笑うしかないではないか。目の前のドラゴンの頭に刺さる槍は確実に奴の首元まで深く刺さっている。その証拠に奴が口を開くたびに、私の槍が見える。
それで口を開けて叫んでいるのだ。これを笑わずして、どうすれば良いのか!
しかも奴が作った魔法無効空間はまだ有効だ。お陰で魔法は使えない。空を飛ぶことすらできない。
そんな緊迫した戦いの状況で、こんな喜劇は予想だにしていなかった。
しかしこのままで良いわけがない。これでも【最強賢者】の名を有する私だ!
後ろに高く結んだ髪には沢山の櫛が刺さっている。櫛は全て私の武器だ。魔法で小さくしている。これだけは魔法無効空間でも作動できるような魔法で作られている。
スッと抜いて、大きくしたのは大剣だ。私の得意とする武器のひとつ。例え槍で刺して死ななくても、剣で首を両断すれば死ぬだろう!いや、本当に死んでくれ!頼むから!
◇◇◇
「いや――――――――!!」
青い空に俺の悲鳴が響きわたる。
なんてことだ!俺をブッ刺しまくった女性が今度は大剣を出した。しかもあの恐ろしい目!絶対俺の首を切るつもりだ!決意を込めて――俺の首を見ている!こーわーいー!!
なんなの?この女の人!優しさがない、そりゃSの人だから優しさはないだろうけど、あ!これってSの人なりの愛情表現⁉︎こんな痛い愛は俺はいらない!こんなチクチクブッ刺してじわじわ殺すなら、いっそって――、、
「いやー死にたくない!!」
俺は勢いよく――走る。さっき飛んだら尻尾とか足とか掴まれた。だったら走るしかない。
逃げろ!俺!俺の家は強力な魔法を使って壊れない仕様になっている。だって俺の家にはお宝がいっぱい。壊れないように、燃やされないように、水浸しにならないように、あらゆる魔物や人間や神々の叡智を詰め込んだ魔法がかかっている。だから殺される前に逃げるのだ!
三十六計逃げるに如かず!生きてるもの勝ちな世の中だ!
びっターン!
大きな音と共に俺の体が地面に倒れる。なんで?と後ろを見るとニヤリと笑うSの人と目が合った。
また、尻尾を掴まれた!そして掴まれた勢いで転んでしまった!顔から勢いよく転んでしまったから鼻血まで出てしまった。しかも……自慢の白い歯も地面に転がっている。
「わーん、歯が折れた!虫歯一本ない自慢の歯だったのに!俺の白い歯が!」
ひどい、なんてひどいSの人なんだ!これだから変態さんは嫌いだ!
「往生際が悪いな。これが最恐ドラゴン・ファフニールか。確かに恐ろしい」
「恐ろしいのはあなただよ!俺の体を踏まないで!ほら!あなたが踏むから血がまた溢れちゃったでしょう⁉︎ああ、なんで上に上がってくるの⁉︎俺の体は絨毯でもないし、カーペットでもないよ!って同じ物!同じ!俺の語彙力返してー!!」
「五月蝿い!」
女の人の言葉に「ひゅっ」っと息を呑む。首に大剣の冷たい刃の感触がした。
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