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第47話 瘴気の沼出現

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「そろそろ出発のお時間です。ルーベンス様は馬上へ」

 公国王の侍従に促され、馬に乗りルーベンスはため息をついた。

 そもそも公国王就任式典の一環であるミネラウパ中央都市の行進は兄のレオニダスに任せる予定だった。それが瘴気の沼の発生で来れなくなり、更にシェリルも消えた。お陰でアーマンディとメイリーンには護衛がいない。正直不安で仕方がない。

「ではルーベンス様お願い致します」
 
 侍従の合図で自軍20名とウンディーネ公爵家より借りた30名、併せて50名を指揮し、ミネラウパ中央都市の南大門より行進する。

 剣を振り上げ、合図を送ろうとした際に、最後尾の騎士の後ろに何かが見えた。

「全騎士抜刀‼︎魔力を展開しろ!後ろに瘴気の沼だ‼︎」
 言葉と同時に魔法を発動する。
 瘴気の沼より次々と現れる魔物に炎の矢を当てる。更に追加で、人を飲み込む程のサイズの火の玉を瘴気の沼にぶち込む。

「体制を整えろ!全員、瘴気の沼を中心に展開‼︎出てくる魔物を仕留めろ!ここを守り抜け‼︎」
  
 ヴルカン公爵家の騎士達は素早く展開するが、ウンディーネ公爵家の騎士の動きが悪く、お互いを邪魔し、ぎこちない。

 それに舌打ちしながら、公王城へと危険を知らせる火の玉を空へ上げる。

「お前!門を急いで閉めろ!決して開けるな!」
 公国王の侍従に命令すると、侍従は心得た様に走り出した。

 寄せ集めの騎士だ!仕方ない。どこまでやれるか!ルーベンスは唇を噛み締めた。


◇◇◇◇◇◇


 ルーベンスの上げた火の玉を確認し、カイゼルは剣を振り上げた。

「ウンディーネ公爵騎士団は西のグノーム公爵に加勢に行け!騎士団長!采配は任せた‼︎」

 カイゼルの合図に騎士達は馬に乗り一斉に駆け出す。カイゼルは王都へ火の玉を打ち上げる。

「カイゼル様!まさかお一人で⁉︎無茶です」
 中央都市の侍従が叫ぶが、その声を受けカイゼルは柔らかく微笑んだ。

「邪魔だ。巻き込まれたくなければ、門を閉め出てくるな」
 
 微笑みとは裏腹な鋭い視線と言葉に、侍従は息を呑み、門へと駆け出した。

「まだまだ若い者に遅れは取らない」
 カイゼルは冷笑な表情を浮かべ、剣を瘴気の沼へと向けた。


◇◇◇◇◇◇


 火の玉が2つ上がったのを確認し、シルヴェストル公爵家のモデストメリーも火の玉を打ち上げた。

「第一騎士団は私の後ろに展開。防御陣を張れ。第二騎士団は補助魔法。第三騎士団は私と共に攻撃だ。怪我した者は下がり、第一騎士団と交代しろ!」

 東の門は閉めさせた。問題は行進のために連れて来た騎士団の実践経験が少ないこと・・。モデストメリーは内心ため息をつく。経験豊富な騎士達は公国城に置いて来た。不測な事態に備えて。
 しかしまさかこんな展開になるとは。
 思わず笑いたくなるが、問題ないと首を振る。

 瘴気の沼より魔物が出て来た所で魔法を展開し、次々と風で刻む。偶然風から逃れた魔物を騎士達が倒していく。

「経験させれば良いだけだ」
 
 馬上から矢を番える。勢い良く放たれた矢が魔物を次々と倒して行く。

「私もたまには戦わないとね」


◇◇◇◇◇◇


 火の玉が3つ上がったのを確認し、応援が来ない事にグノーム公爵家のルベール公爵は絶望した。
 しかし慌てて責務を思い出し、王都に向けて火の玉を上げる。

 突然現れた瘴気の沼に混乱したグノーム公爵騎士団を立て直す事はできなかった。そもそもほとんどが血縁関係者で実践経験も少ない。次々現れる魔物に皆がやられて行く中、騎士団の何名かが門に逃げ、門を内から閉ざした。それは良い。ミネラウパ中央都市に魔物を入れることはあり得ない。

 だが次々と溢れでる魔物。倒れて行く身内。ルベール公爵は折れそうな心を立て直しながら、次々と魔法を発動して行く。
 鋭い石の刃を打ち込み魔物を倒す。
 大地を操り、出てきた魔物をプレスする。
 
 だが、魔物の数は減らず、増えていく一方だ。もうダメかと思った瞬間、馬の足音が聞こえた。

「ウンディーネ公爵騎士団、グノーム公爵家に加勢致します」
 その声と同時に水の槍が魔物を次々倒していく。
 ルベール公爵を庇う様に前に立ち、騎士団は瘴気の沼に向かい、次々と魔物に立ち向かう。

「・・助かったのか」
 ルベール公爵は安堵の声を漏らす。

「大丈夫ですか?」
 先陣を切って来た騎士がルベール公爵に手を差し伸べる。随分と小柄な騎士だ。

「私が出る!補助をしろ!」

 声と同時に騎士達は後ろへ下がる。
 背に差した槍を抜き、小柄な騎士は一人で瘴気の沼へ向かう。同時に四方から大きな風の刃が発生し、魔物の群れ次々と切り裂く。その間に槍を捌き次々と魔物を串刺しにする。

「一人で戦っているのか?」
 ルベール公爵の言葉に、騎士の一人が答える。
「彼女は一人で大丈夫です。我らが隊長ですので。取り逃がした魔物は我々が倒します。お任せください」

 その言葉に安堵の笑みを漏らし、ルベール公爵は戦う彼女を見守った。



◇◇◇◇◇◇


「緊急事態を知らせる火の玉が4つ。しかも東西南北のそれぞれの門よ!」
 テラスから外を望みながら叫ぶメイリーンの言葉に、アーマンディは頷く。何か異常自体である事は確かだ。

「アーマンディ様!こちらの扉を開けて下さい!」
 扉を叩く音とケイノリサの声が聞こえ、メイリーンは内からかけた結界を解いた。
 と同時にケイノリサが公国王護衛騎士団を引き連れ入ってきた。

「メイリーン。転移魔法で魔塔かカエンの元へ行けるか?」
「やってみるわ!」
 ケイノリサの言葉を受け、メイリーンは魔法を発動させる。が、何かに弾かれる様に魔法陣が消える。
「え?発動しない。魔法が阻害されているわ!」

「やはり。アーマンディ、メイリーン。私から離れるな」
「あの火の玉は何⁉︎」
 メイリーンの声に、ケイノリサは顔を向けず答えた。

「瘴気の沼が発生した。今は各公爵が食い止めている」
「ルーベンス!お父様‼︎」
 叫ぶメイリーンの肩を掴み、アーマンディは前に出た。

「魔物が相手なら僕が行くよ。瘴気の沼を消すから案内して」
「危険だ!」
「僕は聖女だ。スピカを守る使命がある。案内して」

「瘴気の沼に行きたいなら行けば良いわ。アーマンディ」
 
 扉から聞こえた声に一斉に目を向ける。
 膝まで伸びた金の髪。鮮やかな黄緑の瞳。年齢の割には若く見える姿。
 
「アジタート様?」
 アーマンディの声と同時に、足下に瘴気の沼が発生する。アーマンディは吸い込まれる様に、身体が沼へと沈んでいく。

「小兄様⁉︎」
 メイリーンが手を伸ばすが、その手は届かない。メイリーンは反対に上へと浮く。

「アーマンディは今は邪魔。でも貴女は必要ね。メイリーン」
 冷笑な表情でアジタートはメイリーンを見る。その表情にメイリーンはゾッとする。
 
「アジタート様‼︎どう言うつもりですか!」
 ケイノリサの叫びをアジタートは冷酷な笑みで返す。
「私を責める暇があるなら、魔物でも倒したらどうなの?ケイノリサ」

 ケイノリサが振り返ると、そこには大量の魔物の群れがいた。
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