聖女だけど、男です。 〜肉食系女騎士に愛されて、困ってます〜

清水柚木

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第41話 裸の付き合い

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 お揃いの膝丈の白いワンピースを着て、手を繋ぎ、笑いながら歩いてくる2人に目が眩む。あまりにも可愛らしい光景だ。問題は1人が男だと言う事だ。あの可愛さで男というのはおかしいと、ルーベンスはいつも思っている。

 アーマンディは長い髪をポニーテールにして、紅い薔薇の髪飾りとシェリルがプレゼントしたルビーをつけている。メイリーンは髪が短いから白ベースに赤い薔薇の彫刻が彫られたカチューシャをつけている。お揃いの少し高い白いサンダルを履き、周囲の目も気にせず軽やかに歩く。

 勘弁して欲しい、アーマンディ様。ヴルカン公爵の男達の心を射抜くのは本当に辞めて頂きたい。変な道に引き摺り込まないで頂きたい。ルーベンスはアーマンディを見る男達の表情を見ながら、将来を不安に思った。
 
 その後ろから仏頂面で、兄の様な姉が歩いてくる。服装は黒いYシャツにズボン。横にはアーマンディ様から賜った2本の剣。それだけ。
 シェリル姉にしては頑張ってる。俺は騎士服のまま来ると思ってた。今日は髪を横に結んで前に落としている。髪飾りの薔薇の彫刻がメイリーンとお揃いだと気付く。おそらく、メイリーンに付けられたと推測する。

「ルーベンス、おまたせ!エミも久しぶり」
 メイリーンはルーベンスの飛竜エミの首筋を撫でる。エミは嬉しそうに鳴いた。

「ごめんね。ルーベンス、シェリル姉様があれを着たくない、これを着たくないって大変だったの」
「あんなフリフリのシャツなど着れるか!母上も何を考えているのか!」

 忌々しげにシェリルは毒をはく。その姿を見ながら、メイリーンは困った様に、手を頬に当てた。

「義理母様から頂いたのが全滅しちゃって。シェリル姉様のクローゼットを慌てて漁ったの。騎士服と白いシャツしかなくて困っていたら、奥の方にこの服があってなんとか落ち着いたの」
「・・・そうなんだ」

 ルーベンスはシェリルの服を改めて見る。ファンクラブとの交流会の時に、ルーベンスが贈った服だと気付く。確か、コンセプトは街中デートだったはず。

「シェリル?これって自分で買った?それとも誰かの贈り物?」
 アーマンディがシェリルの服を観察する。確実に疑ってる目だ。

「これはルーベンスがくれた物ですよ。少しはオシャレしろと、誕生日にもらいました。そうだよな?ルーベンス」
「そうですよ、アーマンディ様。俺のお抱えデザイナーが作った物ですよ。俺の服と縫製が一緒じゃないですか?」
「・・・そうみたいだね。良かった!安心した」

 ニッコリ笑ったアーマンディは、シェリルの飛竜、ギネの元に駆け出した。ギネの首に抱きついている。ギネも嬉しそうに鳴いている。

 その光景を微笑ましく思いながら、ルーベンスはシェリルに小声で話しかけた。

「アーマンディ様ってあんなに嫉妬深かった?何かあったの?」
「私が留守の間に、クローゼットにあったラブレターを全部読んだらしいんだ・・・」
「なんで捨ててなかったんだよ!」
「忘れてた。そしてその夜に詰め寄られて、今までのファンクラブ活動も全部バレた」
「怒ってた?」
「嫉妬に狂うアーマンディ様は可愛らしかったぞ?」
「・・・ファンからのプレゼントを燃やしたって聞いたけど?」
「あれはさすがにびっくりした。だが、その嫉妬に狂う姿も狂気めいて美しかった。あんな姿を見れるなら、ある意味良かった」
「そう・・」
「とは言えど、ご機嫌を取るのは大変だった。もう二度と嫌だ。ファンクラブは解散してくれ」
 珍しく必死な形相の姉にルーベンスは、理解を示し、肩を落とす。

「・・俺もそう思ってたところ」
「頼んだぞ。では行くぞ。ルーベンス」

 頷いてシェリルと共に、飛竜に近づく。婚約者達を乗せて、空へと飛び立つ。

 絶好の飛行日和だ。


◇◇◇◇◇◇◇






「・・・アーマンディ様?わざとですね?」
「だって僕は、ルーベンスと一緒にお風呂入りたかったんだもん」
 ルーベンスは深いため息をついた。
 ルーベンスは露天風呂で癒されていた。岩を固めて造られた一風変わった作りの温泉。白濁したお湯は疲労回復に効果があると言う。明るい日差しと、それを照り返す緑の木々。
 仕事から解放され、束の間の休息を楽しんでいた。
 そこにアーマンディが入って来るまでは・・・。



 飛竜に乗って1時間ほど飛行し、目的の別荘に到着した。別荘は質実剛健を誇るヴルカン公爵家の建物にしては、派手な造りだ。朱色をベースにした木造りの建屋には、同じく朱色の木の柱が立ち並び、柱には金色の炎の彫刻が施されている。

 ルーベンス達、4人は別荘に着いて、それぞれの部屋に別れた。部屋分けはいつもと同じアーマンディとシェリル、ルーベンスとメイリーンだ。
 基本、自分の事は自分でするが家訓のヴルカン一族らしく、この別荘にも最低限の人数しかいない。だから、夕飯までは各自別行動として、それぞれが十カ所ある温泉に勝手に入る事になった。そして、ルーベンスが癒されている所に、アーマンディが入ってきた。


(良かった。新しい扉は開かなかった)
 ルーベンスは心の底から安堵した。
 アーマンディが裸で入ってきて、一瞬焦ったが、アーマンディはやはり男だった。長い髪を上に束ねている以外は、胸もないし、モノも立派だった。少し嫉妬するくらいに。白い肌や頸、手足はそのまま女性らしいが、やはり男だと思うと、余裕が出てきた。

「ルーベンスも腹筋割れてるね。腕とかの筋肉もすごいね」
「アーマンディ様が細いんですよ。筋肉とか付ける気なかったんですか?」
「・・・アジタート様がね、女性らしい体型の為に筋肉つけるなって。食事制限もされたよ。とにかく女性らしくなる様にって言われて、歩き方とかの所作も厳しく勉強させられた」
「そうなんですね」
 少し辛そうに語るアーマンディに、ルーベンスは欠ける言葉がなく、ただそれだけを言うのが精一杯だった。それを察したかの様に、アーマンディは笑った。

「でもそんなに嫌じゃなかったよ。だって似合うしね?」
「確かに似合いますね。今日のワンピース姿とか、ヤバかったですよ?」
「それにこの姿だから、シェリルは僕を好きなってくれたんだよね?」
「それは、姉に聞くことですね」
「うん、勇気がなくて聞けないんだ。僕が頼り甲斐がなくて、色々言ってくれてない事も多いし。シェリルは強くて、僕は弱いから」
「姉は確かに強いですけど、アーマンディ様も強いですよ」
「ありがとう」
「とりあえず、夜に二人で話し合って下さい。あとですね・・・」
「なに?」
「この別荘は木造なので、防音効果はイマイチです。俺らは健全な関係を築いてるんで、そこは空気読んで下さい!」
「あ、うん。分かった」

 真っ赤になったアーマンディは、女の子っぽくて嫌だな、とルーベンスは思った。


◇◇◇


「シェリル姉様の髪ってサラサラして大好き」
「ああ、だからいつも私の髪の毛を洗うのか。面倒臭くないのかと思っていたのだが」
「私、人の髪の毛洗うの好きなの。小兄様の髪も良く洗ってたよ。長くて大変だった」
「手のかかる兄だ」
「本当ね」
 
 メイリーンはいつもの様にシェリルを誘って温泉に入った。少し温度の低い大きな木造りの湯船。こんな形のお風呂は初めてだと、メイリーンはご機嫌だ。更に美容に効果があると聞きテンションも上がった。

 二人はいつもの様に背中を互いに洗い合い、仲良くお湯に浸かった。

「シェリル姉様の言葉使いって不思議ね。ヴルカン公爵家の誰もそんな話し方しないよね?」
「あぁ、私は祖母に剣を習ったんだ。祖母の事を尊敬していたから、祖母の話し方を真似た」
「お婆様は剣を使えたの?」
「祖母は傭兵だったんだ」
「傭兵⁉︎貴族出身じゃないの?」
「貴族出身ではないな。母も違うぞ?母は商家の娘だ。ヴルカン公爵家は出身にはこだわらない」
「そっかぁ、『一目惚れ』だから」
 メイリーンは納得する。ヴルカン公爵家特有の恋愛方法『一目惚れ』は、本能で、より優秀な子孫ができる相手を探す。そこに身分は関係ない。むしろ邪魔なのだろう。

「そうだ。だが祖父母は、祖母が祖父に『一目惚れ』したんだ。祖父、つまり先代のヴルカン公爵に『一目惚れ』した祖母は、その場で祖父に戦いを申し込んだ。自分に負けたら、夫になれと言ってな。そして祖父は負けて、祖母の夫になった」
「素敵!」
「そしてその場で、祖父を押し倒したと祖母に聞いた。私の貞操観念はそこから来てたんだな」

 遠い目をするシェリルにメイリーンは同情混じりの、でも呆れた様な表情で返事をする。

「・・・シェリル姉様がそれが普通じゃないって事に気付いてくれて良かった」
「祖母はアジタート様の前の聖女の事を良く話していた。見た目はかわいらしい方だったが、とても強い方だったと」
「確かジェシカ様ね。シルヴェストル公爵家の遠い血筋の方で、23歳の時に15歳のアジタート様に聖女を譲ったって聞いたわ」
「随分と詳しいな」
 メイリーンは更にシェリルに近く。温泉のお湯が揺れ、お湯が洗い場へと溢れる。

「うーん、実はね、これは魔塔に入って聞いたんだけど、魔塔ではアジタート様の聖女の資質を疑ってたみたい」
「あぁ、今なら納得だな。私と同じ位の聖属性の力では役に立たんだろう」
「私もそう思う。そもそもジェシカ様は稀代の力の持ち主と言われてたわ。その方が23歳と言う若さで聖女を退いたのは、アジタート様が公爵家の直系だったからよ」
「分家筋を退けた訳か。馬鹿馬鹿しい事だ」
 貴族の血筋の争いにはウンザリすると、シェリルはため息を漏らす。

「ジェシカ様は聖女を退いたけど、その後は結婚もしないで『聖女の館』で一生を終えたわ。亡くなったのは、兄様が3歳のとき。そして兄様は5歳の時に魔石の浄化を始めたわ」
「メイリーン?なにが言いたいんだ?」

 シェリルはメイリーンを真正面に見据えた。メイリーンはそれを受けて、皮肉を込めた笑みを漏らす。

「その2年間、魔石の浄化数は極端に少なかったと、魔塔のみんなが言ってたわ」
「つまり?」
「つまりアジタート様は、聖女ではないわ。小兄様は女神スピカ様の力を借りて、使える。だから聖女。アジタート様はスピカ様の力は使えないただの聖属性を持った人間よ!」
「・・・それは誰にも言えないな」
「そう、だからこれは私とシェリル姉様の秘密」

 少し憂いを秘めたメイリーンの目を見て、シェリルは少し戯けて見せる。

「秘密が多い姉妹だ」
「だって・・小兄様がこの事に気付いてない訳ないもの。気付いていて黙ってるのか、それとも考えない様にしてるのか、私には分からないわ」
「アーマンディ様が黙っていられるとは思えないが・・・」
「私もそう思うけど・・・でも、もうちょっと秘密で」
「分かった。アーマンディ様に聞きたくなったら言ってくれ。その時は一緒にいる」
 そういうと、シェリルはメイリーンの額にキスをする。メイリーンの目の前には大きな胸。

「シェリル姉様?」
「なんだ?」
「触って良い?」
「い、嫌だ‼︎なぜ、すぐ触りたがる⁉︎」
「女同士だから良いじゃない?」
「やめろ‼︎私はもう部屋に戻る!」

 怒りながら脱衣所に向かうシェリルを見送り、メイリーンは自分の胸を見てため息をついた。
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