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第33話 聖属性

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 グノーム公爵家の本邸は倒壊し、護領水晶玉は砕け散った。その報告を受け、ルーベンスは兄3人のグノーム公爵領への派遣を決定した。メイリーンへの失恋の腹いせにごねた3人だったが、メイリーンが半眼で「最低」とポツリと呟いた事で、泣きながらグノーム公爵領へ向かった。
 
「兄貴達が行けば、兵を送らずに済むから良かったよ」と、ルーベンスは笑った。

 メイリーンは護国水晶玉を作る為、魔塔へ通う事になった。転移魔法で朝から魔塔へ行き、夜はルーベンスと共に眠る。

 そしてシェリルとアーマンディは、シルヴェストル公爵家に寄り護領水晶玉に力を補充後、ヴルカン公爵家へ戻った。
 
 4人はお互いの情報をすり合わせた。場所はいつものルーベンスの部屋だ。

 先陣を切ったのはシェリルだ。
「グノーム公爵家の御領水晶玉からは、魔物104体と三つ目の巨人が現れた。私が通常使う浄化石は、おおよそ魔物が100匹で限界だ。予備の浄化石は60匹くらい。そして今回初めて使ったとルビーの浄化石が200匹位はいけると言われていた。三つ目の巨人は予備と、ルビーの浄化石を黒く染めた。魔物の数、約260匹分だな。とは言えどその前に、アーマンディ様に浄化して頂いたので、実際はもっと多いはずだ」

 シェリルの言葉を聞き、感心した様にルーベンスが返す。
「グノーム公爵本邸は4階建てだったよな?それよりでかい巨人って事だ。アーマンディ様に浄化されたとは言え、良く倒せたよな。シェリル姉、すごいよ」
「その前にカエンと戦っていたのが良かった。カエンは私の攻撃を氷の柱を使って防いだ。その柱がかっこよかったから、炎の柱を作る練習をしたんだ」
「シェリルは、僕がいなかったら兄様に求婚してたんだよね?どうせ、僕は弱いよ」
「アーマンディ様?まさか嫉妬ですか⁉︎それは嬉しい」
「そこまで!これから報告がいっぱいあるから、イチャイチャするなら部屋でしろ!」

 ルーベンスの一言で席替えが行われた。ルーベンスの横にシェリル。アーマンディの横にメイリーン。

「小兄様の魔法で瘴気の沼は消えたの?」
 メイリーンの質問に、アーマンディは首を振る。
「巨人が出たら瘴気の沼は消えてたよ。僕は巨人に浄化の魔法を打つと同時に、人には治癒の魔法を打ったんだ」

 アーマンディの治癒の魔法により、グノーム公爵家の人間にほぼ死者はいなかった。クーデターでほとんどの人が巨人の出現場所から離れた場所に集められていたのが幸いした。
 助けられなかったのはあの時、水晶玉を割ったアトス元公爵のみ。アトスはミイラ化して発見された。

「瘴気の沼が消えた理由は、その沼の魔物発生数の限界が来たって事だろ?発生数から行くと濃い沼だったのか?シェリル姉」
「そうだな。あの濃さは見た事が無かった。ただメイリーンの話だと、本体の護国水晶玉に近い程、力が強いと言う事になるから、納得だな」

 ルーベンスとシェリルに会話に、アーマンディ兄妹は瞬きをする。

「え?瘴気の沼を知ってるの?」 
「逆にメイリーンは知らないの?あれ?瘴気の沼ってヴルカン公爵領にしか発生しないの?」
 メイリーンの言葉を受け、ルーベンスはシェリルを見る。目が合ったシェリルは首を振る。 

「ルーベンスの言い方だとヴルカン公爵領には発生するの?」
「発生するよ?瘴気の沼はある一定数の魔物を倒したら消えるから、軍隊を編成するんだよ。俺もシェリル姉もいつも参加してたよ?」
「他所は知らないけど、ウンディーネ公爵領にはないわ。聞いた事ないもの」
「アジタート様は従軍された事はないが、その前の聖女様は従軍し瘴気の沼を浄化して下さっていた、と私も祖父母に聞いていたんだ。だからアーマンディ様に浄化を頼んだんです。アーマンディ様は知ってると思ってました」
「僕も知らないよ?シェリルが浄化しろって言ったから、浄化石を浄化する要領で魔法を発動させたんだよ。そもそも浄化石も魔物も同じ魔法陣で消せるし」

「そうなの⁉︎小兄様!」
 メイリーンがアーマンディに食いつき気味に詰め寄る。
「そうだよ?そう言えばメイリーンは聖属性を使える様になった?なんか気配がするけど」
「小兄様、分かるの?そうなの、私、使えるようになったの!シェリル様、浄化石を私に浄化させて下さい」
「ああ、ルーベンスから聞いてる。この3つだ」

 シェリルは浄化石を取り出しテーブルに置く。浄化石は黒く染まっている。アーマンディはそれを確認し、元はルビーだった浄化石を拾い上げた。
「メイリーンの力だと、このルビーは厳しいと思うよ。これは僕がやるよ。後はやってごらん。見ててあげる」
「分かったわ。小兄様、一回見本を見せてくれる?」
「良いよ」との言葉と同時にアーマンディの手が光り、魔法陣が展開する。メイリーンはその魔法陣を凝視し、取り出したメモに書く。
 まもなく黒い浄化石は、血の様に赤い輝きを放つルビーに変わった。

「はい。終わり!綺麗なルビーの髪飾りだね。シェリルの瞳みたいだ」
 シェリルに渡そうとしたルビーは返された。アーマンディが改めてシェリルを見ると、そこには満足そうに笑うシェリルがいた。

「元々、貴方へのプレゼントの予定でした。もらって下さい」
「・・ありがとう、とう」

 アーマンディは照れ臭くて俯く。
 なんだかんだ付き合い始めて、それなりに経つが、プレゼントをもらった事はなかった。シェリルの瞳の色のルビーが嬉しくないわけがない。

「小兄様、つけてあげるわ!」
 メイリーンが、アーマンディの髪をハーフアップにし、髪飾りを差し込む。
「この純度と大きさのルビーに浄化石の効果を組み込んでるって事は、かなり高級品ですよね?貴族の馬車1台分でしょうか」

「そうだな。確かその金額位だったかな?メイリーン嬢は良く知っているな?」
「魔塔の収入源の一つですから。じゃあ、小兄様見てて。こっちの小さいのからやるわ」

 メイリーンは浄化石に手をかざす。魔法陣が生じ、浄化された石が赤く輝く。
「僕のと公式が違うね。そっちの方が効率が良さそう」
「効率が良い分、魔力の消費量が激しいわ。小兄様の方が魔力の消費は抑えられそうだから、次は小兄様の魔法を使うわ」

 メイリーンは続いて、もう一つの浄化石を浄化する。黒い石が赤い宝石に変わる。シェリルはそれを取り上げ、満足気に剣に付ける。

「私には小兄様の魔法の方があってるみたい。実はね、小兄様。魔塔の魔法使いにも、何人か聖属性を使える様になった人がいたの。その人達は、みんなは「灯り」ライトの魔法が使えた人達だったわ。魔塔は私以外は男性よ。意味分かるよね?」

「・・・本当?」

「本当よ。だから私の仮説は合ってたの。聖属性は特別じゃなくて、みんなが持っている物。違いがあるとしたら、得意か不得意か。つまり建国王の女の子供の家系以外でも持ってる人はいっぱいいるのよ。そして、その中で『聖女』は、女神スピカ様の力をお借りして使えるもの。男とか女とか関係ないの。小兄様の言う事が合ってたのよ!」

「そう、なんだ」
「小兄様?どうして泣いてるの?小兄様のアイデンティティを奪っちゃった?」

「逆だよ。メイリーン。僕は、もし僕とシェリルの間の子供が聖属性を持ってなかったらどうしようとか考えてた。だって聖属性を持つ子供がいないと、スピカは滅んじゃうかも知れない。でも、僕以外にもいっぱいいるなら、安心できるじゃない。しがらみが消えると思うと、嬉しくて」
「私もよ。私にも聖属性があったのが嬉しかった。これから小兄様の役に立てると思うと、嬉しいわ」

 二人は抱き合い、お互いを慰め合う。ルーベンスはそんな二人を見守り、横にいるシェリルを見た。
 シェリルは手を目元まで掲げ、睨んでいる。

「シェリル姉?」
 ルーベンスが不思議に思い見ていると、シェリルの手に魔法陣が生じた。

「シェリル姉!それ聖属性⁉︎」
 ルーベンスの声に、アーマンディとメイリーンもシェリルを見る。

「やはり私にも使える様だ。これで浄化石に頼らずにすむな。魔物を狩りたい放題だ」
「私より、強いと思うわ!」
「本当だ。アジタート様と同じくらいかも」
「アジタート様はそんなに聖属性が弱いのですか?」
「強い方ではないけど・・・。それよりもシェリルが強いんだと思う」
「シェリル姉は、魔力量が多いからね。俺は炎の柱を3本作ったら、それで魔力量がゼロになっちゃうよ」
「私程度の力だから、アジタート様は瘴気の沼の浄化にいらっしゃらなかったって事ですね。この程度の力で、中央都市の御領水晶玉は補充できてるんですか?今は、シュルマと言う鍵もないのに。アジタート様にこの事は?」

 シェリルがルーベンスを見る。各公爵家の動向を把握してるのは、ルーベンスだけだ。

「ウンディーネ公爵家とシルヴェストル公爵家は今、冷戦状態なんだよ。世間的にはアーマンディ様が男でも聖女だって認め始めてる。大聖堂だってそうだ。ただ、シルヴェストル公爵家だけが、拒絶してる。だから情報共有できてないんだよ」
 ルーベンスがため息をつく。シルヴェストル公爵家がここまで頑なな理由が分からない。

「アジタート様は昔から、聖女が女性である事にこだわっていらしたから。僕を女性として発表したのもアジタート様と祖父なんだよ。父様は男で聖属性の持ち主って事で発表する気だったらしいんだ」
「カイゼル公爵は、その辺柔軟ですもんね」

「でも大丈夫だよ。アジタート様もいつかは認めて下さると僕は思ってるよ」
「小兄様はアジタート様が好きだもんね」

「うん。子供の頃、良く子守唄を歌ってくれたよ。寝るまでずっと。厳しい所もあるけど、それも全てスピカ公国を守る為なんだ。だからいつかは分かって下さるよ」

「・・そうなると良いね」
 メイリーンはアーマンディに抱きつきながら考える。

 私にアーマンディの妹のくせに聖属性がないと蔑んでた人。兄二人に比べると地味と言い放った人。私はアジタート様が好きじゃない。

 メイリーンはアーマンディを抱きしめながら、守る事を心に決めた。
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