35 / 62
第32話 グノーム公爵本邸での戦い
しおりを挟む
グノーム公爵家の護領水晶玉に光はなかった。
(1カ月持つ程の力を注ぎ込んだつもりだったけど足りなかったかな?)
アーマンディはそう考え、更に多くの聖属性の力を注ぎ込む。いつも当たり前の様に使っているこの力が何なのか、考えた事もなかった。ただ、最近はメイリーンから色々聞かれるので、考える様になった。
「アーマンディ様」
「シェリル?なに?」
シェリルの緊張した声に、アーマンディは振り返った。シェリルは剣の柄に手を掛け正面にある扉を睨んでいる。
「様子が変です。邸内が騒がしい」
アーマンディは耳を澄ますが分からない。だが、戦士は五感で危険な気配を感じると言う。シェリルの言葉を信じ、その背中に隠れた。
アーマンディにも怒号が聞こえた。怖くてシェリルの背中の服を掴む。シェリルはそっとその手を握ってくれた。
扉が大袈裟な音を立てて開き、そこから武装した兵が入ってきた。その中心に立つ男に見覚えがある。
「久しぶりだな。アトス元公爵」
シェリルが剣を抜きながら悠然と笑う。アーマンディとの手は繋がれたままだ。
「男女の騎士崩れとニセ聖女が揃っているな。忌々しい奴らめ!貴様達のせいで、儂は公爵の地位を奪われて地下牢だ!殺してやる‼︎」
「自業自得だろう?地下牢にいる貴様がなぜここにいる?脱獄か?」
「知ってるか?最近グノーム公爵領にはかつてない程の魔物が出没している。お陰で邸内は手薄だ。だからその隙に儂の地位を奪い返してやったのだ!」
目に狂気を宿して笑うアトスに、アーマンディは恐怖する。前に会った時にはこんな人ではなかった。彼に何があったのか。右手でシェリルの手を強く握り、もう片方の手で彼女の服の袖を掴む。
「殺してやる!男女の騎士は陵辱してやる!ニセ聖女は生きてきた事を後悔する様に、引き裂いてやる‼︎お前達!やれ!」
アトスの言葉を受け、兵が一斉に動き出す。
シェリルはアーマンディの手を強く握り、その繋いだ手を離した。
「150人で向かって来ても勝てなかった奴らがその程度集まった位でどうすると言うのか」
「儂には神が付いている!スピカなんかより素晴らしい女神が‼︎」
高笑いするアトスを無視し、シェリルが剣を振る。剣から斬撃が飛び、向かってくる兵達を一掃する。
「弱すぎだろう」
ため息混じりに笑い、剣を挙動不審なアトスに向ける。
「残りはお前だけだぞ?つまらないな。肩鳴らしにもならないじゃないか」
だが、アトスは笑う。
「狂ってるのか?」
シェリルが呟いた瞬間、アトスの影が伸びる。地面を蛇の様に走る影にシェリルが剣戟を加える、それを避けて更に伸びる影。シェリルは咄嗟にアーマンディを引き寄せ、アトスに向かって一閃を放つ。倒れるアトス。同時に何かが砕ける音が聞こえた。振り向くと護領水晶玉が砕け散っている。
アーマンディの悲鳴が響き渡る。砕けた水晶が床に散らばった瞬間に、黒い霧が発生する。霧は床に広がり、そこにボコボコと音を立てる黒い沼を作る。
「シェリル、あれは?」
震えるアーマンディを片手で抱きしめながら、シェリルは剣に魔力を込める。剣が炎を纏い、赤く燃え上がる。
「瘴気の沼です。あの沼から魔物が発生します」
「・・・瘴気の沼」
「アーマンディ様、浄化できますか?出てくる魔物は私が倒します」
シェリルの腕の中で、アーマンディは目を見張る。だが不安な顔は一瞬で、次に柔らかく笑った。
「大丈夫、頑張るよ。僕は聖女だから」
シェリルの腕から出てアーマンディは祈りを捧げる。アーマンディの周囲に魔法陣が生じる。
「シェリル、時間を稼いで」
「承知致しました。アーマンディ様」
丁寧にお辞儀をし、シェリルは沼に向き合う。
「そろそろか。人間相手より手応えはありそうだ」
瘴気を放ちつつ徐々に広がる沼から、大きな泡が出る。弾けた泡の中に、黒い塊の生き物が現れる。次々と弾ける泡から、無数の魔物が出現する。狼の様なもの、猿の様なもの、蛇の様なもの、様々な姿を持つ魔物が次々と沼から這い出てくる。
「私の最高討伐数は魔物が100だったな。その記録を超えそうで何よりだ」
シェリルは部屋の壁ぎりぎりに炎の壁を作る。追加で背後のアーマンディの周りにも作り、剣を振るう。
(ここで食い止める、食い止めなければ被害が広がる!)
シェリルは瘴気の沼に向かって、歩み出した。
アーマンディは炎に囲まれながら祈りを捧げる。周囲を取り囲む炎に恐怖はない。愛おしい人の力を感じ、安らげる。
浄化石を何百と清める事は多々ある。だけど、それでは浄化の力が足りない。もっと、もっと強く祈りを込める。
自身が持つ魔力だけでは足りない。女神スピカ様の力をお借りし、更に上乗せする。更に、もっと強く‼︎
◇◇◇
「100‼︎」
蝙蝠の様な魔物を切る。そこで剣に付けていた浄化石に限界が来た。予備の浄化石に切り替える。この浄化石はどれ程持つのか。
次々に出てくる魔物は限界を知らない。それに対してシェリルには限界がある。炎の壁は魔力の消費が激しい。それを部屋一面だ。それだけでも不味いのに、魔物は次々と出てくる。グノーム公爵家の応援はない。恐らく突然のクーデターで、混乱しているのだろう。
首が3つある狼の様な魔物が、咆哮を上げ、突進してくる。正面から受け止め、その首の一つを切り落とす。返す剣で2つ目を切り落し、蹴って後ろに下がったところで3つ目を落とし、体を真っ二つにする。横から飛んで来た猿の様な魔物は、回転してその勢いのまま胴を真っ二つにする。それら飛び越え上から襲って来た竜の様な魔物を避けて、避け様に横に一閃して二つに下ろす。床を這いずりながら寄って来た蛇の様な魔物を踏みつけ、そのまま魔法で焼く。
「きりがないな」
頬に伝わる汗を拭う。
瘴気の沼から出てくる魔物が一瞬動きを止め、そのまま中に戻って行く。シェリルが警戒しつつ見ていると、瘴気の沼から大きな腕が伸びる。天井にも届きそうに伸びた腕は曲がり、勢い良く床に手をつく。床が揺れ、窓ガラスが悲鳴を上げる。
「マジか」
その巨大さについついシェリルは笑ってしまう。なりふり構ってられないと覚悟を決め、部屋に広げた炎の壁をなくす。アーマンディの周囲の壁を残して。
念の為にと持ち歩いていた浄化石を、後ろに高く結んだ髪に付ける。ルビーの浄化石。とっておきの品だ。アーマンディへのプレゼントにしようと思っていた物。
アーマンディの方を振り返る。まだまだ時間はかかりそうだ。
「生きていなければ、意味がないからな」
苦笑混じりに言い、前を見据える。
シェリルより大きな顔が沼から現れる。
3つ目の巨人。文献では見たが、実際いるとは思わなかった。先手必勝だと思い、剣に更に炎を追加する。
下から上に剣を振る。炎の刃が現れて三つ目の巨人の顔に正面から当てる。叫び声が上がると同時に、巨人が姿を現した。その巨体で天井が崩れ、巨人の重みで床が崩れる。
危険を感じ、シェリルは炎の壁を突き破り、祈るアーマンディを抱きしめて走る。壊れる床を走り抜け、窓ガラスを魔力で吹き飛ばし、外に飛び出る。飛び出た先には、待っていたと言わんばかりにギネがいた。そのまま飛び乗り、旋回する。
「ギネ!さすがだ!」
ギネが嬉しそうに鳴く。
「シェリル!グノーム公爵邸が!」
アーマンディが指差す先には、公爵邸より大きな巨人が立っていた。それに巻き込まれ瓦礫の下敷きになった者もいる。慌てて逃げ惑う人もいる。兵達が武器を取り攻撃しているが、まるで効いていない。
ギネに乗って、3つ目の巨人の周囲を飛ぶ。3つあった目が2つ潰れている。
「シェリル!あの巨人に浄化の魔法を打つよ!それで怪我をしている人の治療もできる‼︎」
「分かりました。支えます!」
アーマンディはギネの上に立つ。
突然の事に驚いたけど、魔法は残っている。アーマンディは深呼吸をして、両手を上に挙げる。
空に幾重もの魔法陣が出現する。魔法陣はアーマンディの腕の動きに合わせて大きく広がり、そのまま地上に向かって、光を発動させる。
三つ目の巨人を中心に眩い光が天より落ち、視界を白に染める。光はそのまま円を描きながら広がり、その輝きを地上に焼き付ける。光は、グノーム公爵邸を全て包み込む様に広がり、夕陽が沈み夜が空を包み込む様に、淡く消えた。
「三つ目の巨人が残ってる!」
シェリルが叫ぶ、辛うじてその存在を残した巨人が、シェリル達を見つけ睨んでいる。だがその姿は地面が透けて見えるほど、弱くなっている。
「シェリル、ごめん。倒せなかった」
息も絶え絶えにアーマンディは、シェリルの腕に崩れ落ちる。それを受け止め、シェリルはそっとギネに乗せ、引き手とアーマンディを結ぶ。
「ギネ、頼んだぞ」
ギネが大きな声で鳴き、三つ目の巨人の目の前をすり抜ける。巨人はギネを捕まえようと足を踏み出す。1歩、2歩と歩き中庭に誘導した所で、シェリルがギネから飛び降りる。ギネは優雅に旋回しながら、避難する。
シェリルは魔法陣を次々と展開させながら、再び剣に炎を宿す。
「私は室内戦は得意じゃないんだ」
そう言い放ち空中で剣を振る。巨人を取り囲む様に地面から炎の柱が3本上がり、そのまま中心に立つ巨人を燃やし尽くそうと回転しながら襲う。シェリルは空中で一回転して、巨人の頭に剣を突き立て、剣に纏う炎の出力を上げる。剣から発せられる炎はその巨体を溶かそうと青い炎に変わる。
剣から発せられる青い炎と柱から迫る赤い炎に巻かれ、地面を揺るがす様な地団駄と、天をも破壊する様な悲鳴を上げながら、三つ目の巨人はその存在を徐々に瘴気へと変えていく。そして数分も持たず、消えた。
シェリルは地面に降り立ち、髪に付けたルビーを取る。
「真っ黒か。恐ろしいな」
更に、自身の剣を見る。アーマンディとの『騎士の誓い』で使用した剣。
炎の魔法の付加に耐えれず、刃先は溶け、刃は赤黒い色に変わっている。
「気に入ってたのに・・・」
名残惜しく思い、剣を空に掲げるとギネの姿が見えた。旋回しながら、地面に降り立ち、一声鳴いた。
ギネの上のアーマンディは、やっとで動く体を起こし、嬉しそうに微笑んだ。
「シェリル、良かった。無事だったんだね?」
「ええ、アーマンディ様のお陰です」
シェリルはギネの頭を撫で、引き手で結んだアーマンディを解放する。
「シェリル、ごめん。僕、疲れちゃった」
一言言うのが精一杯だったらしく、そのまま倒れ込む様にシェリルの胸にアーマンディは落ちた。
シェリルはアーマンディを横抱きにしながら、その額に口付けを落とす。
アーマンディは愛する人の腕の中で、深い眠りに付いた
(1カ月持つ程の力を注ぎ込んだつもりだったけど足りなかったかな?)
アーマンディはそう考え、更に多くの聖属性の力を注ぎ込む。いつも当たり前の様に使っているこの力が何なのか、考えた事もなかった。ただ、最近はメイリーンから色々聞かれるので、考える様になった。
「アーマンディ様」
「シェリル?なに?」
シェリルの緊張した声に、アーマンディは振り返った。シェリルは剣の柄に手を掛け正面にある扉を睨んでいる。
「様子が変です。邸内が騒がしい」
アーマンディは耳を澄ますが分からない。だが、戦士は五感で危険な気配を感じると言う。シェリルの言葉を信じ、その背中に隠れた。
アーマンディにも怒号が聞こえた。怖くてシェリルの背中の服を掴む。シェリルはそっとその手を握ってくれた。
扉が大袈裟な音を立てて開き、そこから武装した兵が入ってきた。その中心に立つ男に見覚えがある。
「久しぶりだな。アトス元公爵」
シェリルが剣を抜きながら悠然と笑う。アーマンディとの手は繋がれたままだ。
「男女の騎士崩れとニセ聖女が揃っているな。忌々しい奴らめ!貴様達のせいで、儂は公爵の地位を奪われて地下牢だ!殺してやる‼︎」
「自業自得だろう?地下牢にいる貴様がなぜここにいる?脱獄か?」
「知ってるか?最近グノーム公爵領にはかつてない程の魔物が出没している。お陰で邸内は手薄だ。だからその隙に儂の地位を奪い返してやったのだ!」
目に狂気を宿して笑うアトスに、アーマンディは恐怖する。前に会った時にはこんな人ではなかった。彼に何があったのか。右手でシェリルの手を強く握り、もう片方の手で彼女の服の袖を掴む。
「殺してやる!男女の騎士は陵辱してやる!ニセ聖女は生きてきた事を後悔する様に、引き裂いてやる‼︎お前達!やれ!」
アトスの言葉を受け、兵が一斉に動き出す。
シェリルはアーマンディの手を強く握り、その繋いだ手を離した。
「150人で向かって来ても勝てなかった奴らがその程度集まった位でどうすると言うのか」
「儂には神が付いている!スピカなんかより素晴らしい女神が‼︎」
高笑いするアトスを無視し、シェリルが剣を振る。剣から斬撃が飛び、向かってくる兵達を一掃する。
「弱すぎだろう」
ため息混じりに笑い、剣を挙動不審なアトスに向ける。
「残りはお前だけだぞ?つまらないな。肩鳴らしにもならないじゃないか」
だが、アトスは笑う。
「狂ってるのか?」
シェリルが呟いた瞬間、アトスの影が伸びる。地面を蛇の様に走る影にシェリルが剣戟を加える、それを避けて更に伸びる影。シェリルは咄嗟にアーマンディを引き寄せ、アトスに向かって一閃を放つ。倒れるアトス。同時に何かが砕ける音が聞こえた。振り向くと護領水晶玉が砕け散っている。
アーマンディの悲鳴が響き渡る。砕けた水晶が床に散らばった瞬間に、黒い霧が発生する。霧は床に広がり、そこにボコボコと音を立てる黒い沼を作る。
「シェリル、あれは?」
震えるアーマンディを片手で抱きしめながら、シェリルは剣に魔力を込める。剣が炎を纏い、赤く燃え上がる。
「瘴気の沼です。あの沼から魔物が発生します」
「・・・瘴気の沼」
「アーマンディ様、浄化できますか?出てくる魔物は私が倒します」
シェリルの腕の中で、アーマンディは目を見張る。だが不安な顔は一瞬で、次に柔らかく笑った。
「大丈夫、頑張るよ。僕は聖女だから」
シェリルの腕から出てアーマンディは祈りを捧げる。アーマンディの周囲に魔法陣が生じる。
「シェリル、時間を稼いで」
「承知致しました。アーマンディ様」
丁寧にお辞儀をし、シェリルは沼に向き合う。
「そろそろか。人間相手より手応えはありそうだ」
瘴気を放ちつつ徐々に広がる沼から、大きな泡が出る。弾けた泡の中に、黒い塊の生き物が現れる。次々と弾ける泡から、無数の魔物が出現する。狼の様なもの、猿の様なもの、蛇の様なもの、様々な姿を持つ魔物が次々と沼から這い出てくる。
「私の最高討伐数は魔物が100だったな。その記録を超えそうで何よりだ」
シェリルは部屋の壁ぎりぎりに炎の壁を作る。追加で背後のアーマンディの周りにも作り、剣を振るう。
(ここで食い止める、食い止めなければ被害が広がる!)
シェリルは瘴気の沼に向かって、歩み出した。
アーマンディは炎に囲まれながら祈りを捧げる。周囲を取り囲む炎に恐怖はない。愛おしい人の力を感じ、安らげる。
浄化石を何百と清める事は多々ある。だけど、それでは浄化の力が足りない。もっと、もっと強く祈りを込める。
自身が持つ魔力だけでは足りない。女神スピカ様の力をお借りし、更に上乗せする。更に、もっと強く‼︎
◇◇◇
「100‼︎」
蝙蝠の様な魔物を切る。そこで剣に付けていた浄化石に限界が来た。予備の浄化石に切り替える。この浄化石はどれ程持つのか。
次々に出てくる魔物は限界を知らない。それに対してシェリルには限界がある。炎の壁は魔力の消費が激しい。それを部屋一面だ。それだけでも不味いのに、魔物は次々と出てくる。グノーム公爵家の応援はない。恐らく突然のクーデターで、混乱しているのだろう。
首が3つある狼の様な魔物が、咆哮を上げ、突進してくる。正面から受け止め、その首の一つを切り落とす。返す剣で2つ目を切り落し、蹴って後ろに下がったところで3つ目を落とし、体を真っ二つにする。横から飛んで来た猿の様な魔物は、回転してその勢いのまま胴を真っ二つにする。それら飛び越え上から襲って来た竜の様な魔物を避けて、避け様に横に一閃して二つに下ろす。床を這いずりながら寄って来た蛇の様な魔物を踏みつけ、そのまま魔法で焼く。
「きりがないな」
頬に伝わる汗を拭う。
瘴気の沼から出てくる魔物が一瞬動きを止め、そのまま中に戻って行く。シェリルが警戒しつつ見ていると、瘴気の沼から大きな腕が伸びる。天井にも届きそうに伸びた腕は曲がり、勢い良く床に手をつく。床が揺れ、窓ガラスが悲鳴を上げる。
「マジか」
その巨大さについついシェリルは笑ってしまう。なりふり構ってられないと覚悟を決め、部屋に広げた炎の壁をなくす。アーマンディの周囲の壁を残して。
念の為にと持ち歩いていた浄化石を、後ろに高く結んだ髪に付ける。ルビーの浄化石。とっておきの品だ。アーマンディへのプレゼントにしようと思っていた物。
アーマンディの方を振り返る。まだまだ時間はかかりそうだ。
「生きていなければ、意味がないからな」
苦笑混じりに言い、前を見据える。
シェリルより大きな顔が沼から現れる。
3つ目の巨人。文献では見たが、実際いるとは思わなかった。先手必勝だと思い、剣に更に炎を追加する。
下から上に剣を振る。炎の刃が現れて三つ目の巨人の顔に正面から当てる。叫び声が上がると同時に、巨人が姿を現した。その巨体で天井が崩れ、巨人の重みで床が崩れる。
危険を感じ、シェリルは炎の壁を突き破り、祈るアーマンディを抱きしめて走る。壊れる床を走り抜け、窓ガラスを魔力で吹き飛ばし、外に飛び出る。飛び出た先には、待っていたと言わんばかりにギネがいた。そのまま飛び乗り、旋回する。
「ギネ!さすがだ!」
ギネが嬉しそうに鳴く。
「シェリル!グノーム公爵邸が!」
アーマンディが指差す先には、公爵邸より大きな巨人が立っていた。それに巻き込まれ瓦礫の下敷きになった者もいる。慌てて逃げ惑う人もいる。兵達が武器を取り攻撃しているが、まるで効いていない。
ギネに乗って、3つ目の巨人の周囲を飛ぶ。3つあった目が2つ潰れている。
「シェリル!あの巨人に浄化の魔法を打つよ!それで怪我をしている人の治療もできる‼︎」
「分かりました。支えます!」
アーマンディはギネの上に立つ。
突然の事に驚いたけど、魔法は残っている。アーマンディは深呼吸をして、両手を上に挙げる。
空に幾重もの魔法陣が出現する。魔法陣はアーマンディの腕の動きに合わせて大きく広がり、そのまま地上に向かって、光を発動させる。
三つ目の巨人を中心に眩い光が天より落ち、視界を白に染める。光はそのまま円を描きながら広がり、その輝きを地上に焼き付ける。光は、グノーム公爵邸を全て包み込む様に広がり、夕陽が沈み夜が空を包み込む様に、淡く消えた。
「三つ目の巨人が残ってる!」
シェリルが叫ぶ、辛うじてその存在を残した巨人が、シェリル達を見つけ睨んでいる。だがその姿は地面が透けて見えるほど、弱くなっている。
「シェリル、ごめん。倒せなかった」
息も絶え絶えにアーマンディは、シェリルの腕に崩れ落ちる。それを受け止め、シェリルはそっとギネに乗せ、引き手とアーマンディを結ぶ。
「ギネ、頼んだぞ」
ギネが大きな声で鳴き、三つ目の巨人の目の前をすり抜ける。巨人はギネを捕まえようと足を踏み出す。1歩、2歩と歩き中庭に誘導した所で、シェリルがギネから飛び降りる。ギネは優雅に旋回しながら、避難する。
シェリルは魔法陣を次々と展開させながら、再び剣に炎を宿す。
「私は室内戦は得意じゃないんだ」
そう言い放ち空中で剣を振る。巨人を取り囲む様に地面から炎の柱が3本上がり、そのまま中心に立つ巨人を燃やし尽くそうと回転しながら襲う。シェリルは空中で一回転して、巨人の頭に剣を突き立て、剣に纏う炎の出力を上げる。剣から発せられる炎はその巨体を溶かそうと青い炎に変わる。
剣から発せられる青い炎と柱から迫る赤い炎に巻かれ、地面を揺るがす様な地団駄と、天をも破壊する様な悲鳴を上げながら、三つ目の巨人はその存在を徐々に瘴気へと変えていく。そして数分も持たず、消えた。
シェリルは地面に降り立ち、髪に付けたルビーを取る。
「真っ黒か。恐ろしいな」
更に、自身の剣を見る。アーマンディとの『騎士の誓い』で使用した剣。
炎の魔法の付加に耐えれず、刃先は溶け、刃は赤黒い色に変わっている。
「気に入ってたのに・・・」
名残惜しく思い、剣を空に掲げるとギネの姿が見えた。旋回しながら、地面に降り立ち、一声鳴いた。
ギネの上のアーマンディは、やっとで動く体を起こし、嬉しそうに微笑んだ。
「シェリル、良かった。無事だったんだね?」
「ええ、アーマンディ様のお陰です」
シェリルはギネの頭を撫で、引き手で結んだアーマンディを解放する。
「シェリル、ごめん。僕、疲れちゃった」
一言言うのが精一杯だったらしく、そのまま倒れ込む様にシェリルの胸にアーマンディは落ちた。
シェリルはアーマンディを横抱きにしながら、その額に口付けを落とす。
アーマンディは愛する人の腕の中で、深い眠りに付いた
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる