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第31話 メイリーンの決意(2)

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 シェリルとアーマンディは飛竜ギネに乗りグノーム公爵領に旅立った。それを見送るルーベンスの顔色は、悪い。

 シュルマがメイリーンに取り憑いている間、メイリーンの魔力は徐々に減っている。その為、ルーベンスはメイリーンの魔力の補充をしている。今思い起こすと、アーマンディに魔力を補充していたシェリルは常に気怠だった。実際やってみると、中々疲れる事が分かる。シェリルから趣味と実益を兼ねる良い方法だと教わったやり方もあるが、さすがに早すぎる様に感じる。

 魔力は体力と一緒で自然に回復させるしかない。つまり健康的な食事と睡眠が必要だ。だが、仕事がありすぎて睡眠不足だ。最近は、自領だけではなく、他領でも魔物の発生が多くなって来た。特に隣のグノーム公爵領では多く発生している。応援を送っているが芳しくない。そろそろ兄の誰かを送ろうかと思っているが、メイリーンの件で恨まれていて言う事を聞いてくれない。

 両頬を叩き、喝を入れる。そろそろメイリーンに魔力を補充する時間だ。
「癒されに行こう」と呟いた。


◇◇◇



「ルーベンス!見てみて!」
 笑顔で楽しげに笑うメイリーンにルーベンスは近付く。メイリーンは現在、ルーベンスの隣の部屋にいる。アーマンディがシェリルと同じ部屋になった段階で、客間には置いておけないと移した。兄3人は、まだメイリーンを狙ってる。油断できない。

「え?メイリーンが浄化してるの?」
「そうよ!できたの!聖属性の魔法よ」
 メイリーンは黒く染まった宝石に光を当てる。それが浄化され美しい宝石に変わる。

 この世界の魔物は倒すと瘴気を発する。その瘴気は浄化石と言われる加工された宝石に吸い込まれる。魔物と戦う人間はその浄化石を身につけて戦う。なぜなら浄化石がないとその瘴気は更に瘴気を呼び、魔物の発生を促すから。

 黒く染まった浄化石は、聖属性を持つ者、聖女によって浄化され、再使用が可能になる。つまり今までは聖女しかできなかった事を、メイリーンがしている事になる。

「シュルマに教わったの?」
「そうよ!なんて言うか聖属性って理屈じゃないのよ。感覚的な物だから伝えるのは難しいわ。ただ、私ができたって事は他にもできる人がいるはずよ。そうすれば小兄様一人に頼る必要はないわ」

「さすがメイリーンだね」
「ルーベンス?顔色悪いよ?なんだか機嫌も良くないよね?」
「さすが!気付いてくれるんだ」

 メイリーンはルーベンスを抱きしめる。同じ身長が少し頼りなく感じ、ルーベンスは抱き返す事ができない。

「ルーベンスが魔力をくれるのは嬉しいよ。でも大丈夫だよ。今日はちょっと休もうよ」
「嫌だ。メイリーンがフェランみたいに死んだら嫌なんだ」
「死なないよ。まだまだ大丈夫。ルーベンスは仕事に追われて、あまり寝てないよね?一回ゆっくり休んで?魔力が回復しないよ」

「メイリーンが一緒に寝てくれるなら寝る」
「ルーベンス?」
「ごめん。嘘」
 真っ赤になった自分に気付き、ルーベンスは俯く。

「疲れてるんだと思う。ごめん。こんな事を言うつもりはなかったのに」
「このベッドで良い?ルーベンスが枕が変わると眠れないなら、ルーベンスのベッドに行くよ?」
「え?」
「疲れてるなら一緒に寝よう!お昼寝だね。たまには息抜きも必要だよ」
 メイリーンはルーベンスの両手を引っ張る。

 ルーベンスはおかしくなって笑う。無邪気な振りしてメイリーンは頑張ってる。ルーベンスの為に。その証拠に俯いた顔は真っ赤だ。
 メイリーンの引っ張る勢いに任せて起き上がり、そのまま額にキスをする。上目遣いでこっちを見るメイリーンは半分涙目だ。

「このベッドで良いよ。シェリル姉みたいに襲わないでね」
「こっちの台詞なんだから」
 
 そうして俺は久しぶりにゆっくり眠った。隣で眠るメイリーンの苦しげな表情に気付かないほど。



◇◇◇



 銀の髪の女の子が首を絞められている。そこに白い髪の女の人、ヴィンデミアがやってきて、ザヴィヤヴァを突き飛ばす。
 女の子は息をしている。

 『間に合ったのね』とメイリーンは呟いた。

 ザヴィヤヴァはヴィンデミアを殴る。そこに黒い髪の男の子が現れる。母を庇った黒髪の男の子が父に殴られ、蹴られている。ヴィンデミアが男の子に覆いかぶさる。暴力は続く。銀の髪の女の子の意識が戻り、泣く。ザヴィヤヴァの標的が女の子に移る。髪を掴まみ宙吊りにし、殴ろうとしたザヴィヤヴァを駆けつけたシュルマが止める。

 ヴィンデミアが泣きながら魔法を放つ。ザヴィヤヴァの下に魔法陣が現れる。魔法陣の中心が黒い沼の様に変化し、ザヴィヤヴァは沼に沈んでいく。だがザヴィヤヴァはそこから出ようともがく。
 シュルマが追い討ちを掛けるようにザヴィヤヴァに攻撃する。強力な魔法に焼かれザヴィヤヴァは意識を失い、そのまま地面に引き込まれる。

『今の魔法陣は闇属性?』
 メイリーンは呟く。
『光が転じれば闇となる。母は女神スピカ様の力を借り、使う事ができた。だが、その力で父を攻撃した時に、光属性の力は闇属性に転じた』
 いつの間にか横にいるシュルマに、メイリーンは驚く事なく前を向く。おそらくこれが終盤だ。見逃さない様にしなければいけない。

 ヴィンデミアが嘆いている。ヴィンデミアを中心に再び魔法陣が発動する。そして、ヴィンデミアも黒い煙によって、地中に引き摺り込まれる。まるで夫の後を追う様に。

 そこに残るのは1つになった黒い沼。沼から瘴気が発生し、次々と魔物が産まれる。そして沼はスピカ国中に増えて行く。
 大きくなった弟妹は、魔物を退治する為に四方へ散らばる。

 シュルマはスピカの中心地に残り、魔物を生み出す沼を無くす方法を考える。そして、魔物を生み出す沼を利用した水晶玉を使うシステムが出来上がる。

『闇が転じれば光になる?』
 メイリーンの一言にシュルマが頷いた。
『つまり、魔物を生み出す沼の力を利用して、スピカを守るシステムを作り上げたのね。発動条件は光属性の魔法。少しでもその力を注げば闇が光に転じる』

『その通りだ。そして私はその鍵。闇を光に転じさせる為の』
『ヴルカン公爵家に伝わる秘術、契約の魔法が使われてるのね?光属性を注ぐ限り、貴方は鍵であり続ける』

『フェランが土属性の魔法を注いだ為、契約が解除された。狂気に憑かれた父がフェランの魔力を吸い取ったが、復活には足りずアーマンディに取り憑いた』
『小兄様に⁉︎』
『安心しろ、今は私が体内に封印している。父がシェリルを襲おうとした時、彼女から反撃された。その時になんとか主導権をもぎ取った』

『つまり今は私の中ね?』
『護国水晶玉が修復できれば、ルーベンスの手によって再契約できる。そうすれば私は鍵となり元通りだ』
『貴方一人を犠牲にするシステムに救いはないわ』
『一番上の妹と同じ事を言うんだな』

『今は小兄様が地方にある護領水晶玉に力を注いで、地方のシステムは稼働しているわ。まだ貴方は鍵なの?』

『もう私は鍵ではない。ただ、護領水晶玉に光属性の力を注げば、闇が光に転じるシステムは生きている。アーマンディの魔力量であれば、その力を注ぐ事によってその下にある端末は起動する。だが、魔力量が足りないと、起動しない。最悪は水晶玉が魔物を産み出す沼に変わる』
『つまり、沼を無くすか、聖属性の使い手を増やすかどちらかと言う訳ね。分かったわ。希望が見えた!』

『・・・驚いたな。君は随分と前向きなんだね。妹と違う』
『別人だもの。当たり前よ。私はルーベンスと結婚して、子供を作る予定よ。子供達が育つ未来に不安は残したくないの。そして私には問題を解決できる能力を持つ仲間がいるわ』
『そうか、では全て君に託そう』
 その言葉と共にシュルマの手の上に魔法陣が生じる。更にその上に、次々と魔法陣が増えていく。

『護国水晶玉のシステムの魔法ね。やっぱり魔法を組み合わせてるのね。得意分野よ。任せて』
『私はこれから、君の中で休眠状態になる。そうする事で君の魔力の消費は、軽減するはずだ。君の合図で起きるから、その時に出した答えを教えてくれ』
『分かったわ。お休みなさい』
 
 その言葉には答えずにシュルマは、メイリーンの額にキスを落とした。




 目を開けると心配そうに覗き込むルーベンスと目があった。

「メイリーン、泣いてるよ?」
 
 そう言ってルーベンスは、涙を拭ってくれる。その優しい手の上に自分の手を乗せ、頬に当て目を閉じる。
 好きな人の体温はメイリーンを安心させた。

「ルーベンス、キスして」
 微笑むメイリーンにルーベンスは優しくキスをする。
「どうしたの?珍しいよね」
「もう、夢は終わったの。辛かったけど、ルーベンスがいたから頑張れた。ルーベンスとの未来の為に頑張ったの」
 シュルマの過去に思いを馳せ、メイリーンはまた一筋の涙を溢した。

「そうか、頑張ってくれてありがとう。これからは俺にも手伝わせて」
 ルーベンスはメイリーンの涙を唇で受け止めた。メイリーンはルーベンスの首に腕を回し、2人は更に深い口付けを交わした。
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