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第30話 メイリーンの決意(1)
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シュルマの提案をルーベンスに話すと許可がでないと思ったシェリルは、メイリーンに直接連絡を取った。メイリーンは魔塔から転移魔法を使い、ヴルカン公爵本邸にやって来た。いつでも来れる様に魔方陣を設置していたらしい。
そうして、再びルーベンスの部屋に4人は揃った。ルーベンスとメイリーンとシェリル。そして、気絶したアーマンディの4人だ。
「シェリル姉。なんでアーマンディ様は気絶してんの?」
「気絶するまでヤってみた。アーマンディ様は思ったよりタフだったぞ!」
満面の笑みのシェリルとは反対に、赤くなる二人。どうしてやろうとルーベンスが口を開きかけた瞬間、アーマンディの目が開いた。と同時に姿が変わる。白い髪、黒い目、男か女か一見して分からない程の美しい姿に目が奪われる。
「君は、何を考えているんだ⁉︎他にやり方があった筈だ!あんなに乱暴な事をしてアーマンディが可哀想だと思わないのか!それでも恋人か!」
起きてすぐに小姑の様にシェリルに説教をするシュルマに、ルーベンスとメイリーンは動揺する。が説教されている、シェリルはどこ吹く風だ。
「中にいたなら分かってるだろう。意外に嫌ってないはずだ。思ったより順応力があって私は嬉しい」
「それが女性の言葉か⁉︎君は何を考えてるんだ。私はアーマンディの将来が心配だ。アーマンディは私達の過去を見て、泣く度に君の名を呼びながら助けを求めていた。その相手があんな無体な事をするとは!私は君をアーマンディの相手として認めない!」
「認めてもらえなくても結構だ。それより、アーマンディ様を泣かした貴様には後でお仕置きが必要だな」
「ま、、待って待って。状況が見えない」
二人の間にルーベンスが手で割って入り、一旦二人をソファの端と端に分けた。その間に割り込み、座ってシュルマをじっと見つめる。
「シュルマ様ですよね?絵姿と同じですし。アーマンディ様に取り憑いているのは分かっています。こんな風に姉と仲良くしているのは聞いていませんでしたが」
ルーベンスがちらっと後ろを見ると、心外だと言わんばかりに憤るシェリルがいる。無視を決め込み再度向き合う。
「事情を説明してください」
シュルマは頷き、昨夜の話をもう一度話した。
◇◇◇
「では、アーマンディ様以外に取り憑き、あなたの過去を見せると言う事ですね。その相手がメイリーン。私は反対です。婚約者を危険な目に合わせるつもりはない!」
睨むルーベンスを正面から受け取り、シュルマは柔らかく笑った。
「姉とは違って、良い男だ。やはりメイリーンの方が良いだろう。君ならメイリーンを支えられるはずだ。魔力についても、君からメイリーンに分けてあげれば良い」
君ならできるよ、と優しく囁くシュルマに敵意は感じられない。ルーベンスはメイリーンを見る。少し不安そうな顔だ。他人を自分の中に迎え入れるのは勇気がいる事だろうと思うと、やはりこの提案は却下しようと心に決めた。
「メイリーン、護国水晶玉のシステムは私が作ったんだ。君が私を受け入れてくれれば、ダイレクトに教える事ができるが?」
「え⁉︎」
シュルマの提案を受けて、メイリーンの声のトーンが上がる。
ルーベンスは恋人の目が輝き出す瞬間をみた。そう言えば護国水晶玉の原理が全く分からないとぼやいていた事を、ルーベンスは思い出す。魔塔のメンバーにも声をかけて、珍しく一丸となってやっているが、皆目検討もつかないと。嫌な予感がする。
「君は聖属性を含む5属性の研究をしているんだろう?口頭で説明しても理解は難しいが、私が乗り移る事で、感覚で教える事ができる。どうかな?」
更に追加されるシュルマの言葉にメイリーンは段々前のめりになる。
ルーベンスは彼女の横に移ろうと席を立つ。5属性の研究にもあと一歩何かが足りないと言っていた。アーマンディにも協力してもらっているが、全く分からないと言っていた。止めなければと気が急く。
「しかも失われた秘術も教えるよ」
「ぜひお願いします!」
目をキッラキラに輝かせて、手を挙げるメイリーンがそこにはいた。恐怖よりも探究心。未知なる知識に心が躍る。そんな恋人にルーベンスは、なす術もなく肩を落とす。
「メイリーン⁉︎良いのかよ?他人を受け入れて、しかも他人の過去も見るんだよ⁉︎アーマンディ様の話を聞いてたでしょう?シュルマの過去は・・・」
ルーベンスはそこで口を噤む。横に当人がいる。シュルマの父は家族に暴力を振るっていた。メイリーンがその辛い過去を受け止められるわけがない。恋人が苦しむ姿は見たくない。
「ルーベンスが支えてくれるなら大丈夫だよ。私はルーベンスを信じてる。ルーベンスも私を信じて?」
「メイリーン」
「見ろ。あれが正しい恋人の姿だ。君は弟達から学ぶ必要がある」
「お子様の恋愛なんて見本になる訳がない。貴様は知ってるはずだろう。性行為が一番魔力の補充には良いんだ。お陰でアーマンディ様の魔力量は十分なはずだ。だからルーベンスも・・・
シェリルの口はシュルマの手で塞がれる。視線を交わし、頷き合うシュルマとルーベンス。赤くなった顔を手で隠すメイリーン。
シュルマが軽く咳払いをして、場の雰囲気を切り替える。
「メイリーン。心の準備ができたら始めよう」
「時間が経つと嫌になっちゃうかも知れないので、今やります」
「その思い切りの良さは、私の妹譲りだね。君は彼女に良く似ているよ」
「シュルマ様の弟妹はザヴィヤヴァ様とヴィンデミア様の子供で間違いないんですよね?」
「そうだよ。私達親子はこことは違う世界から、スピカ様に導かれて来たんだ。そのせいで、弟妹達はその属性が偏る形で産まれた。両親や私と髪色や目の色が違ったのはそのせいだ。父は最後まで信じなかったけどね」
顔に憐憫の表情を浮かべ、シュルマは立ち上がった。メイリーンに両手を差し伸べる。差し伸べられた両手をメイリーンが取ると、シュルマはメイリーンの額と自身の額を合わせた。
『聖女の儀』でアジタートとアーマンディがしたポーズだと、間近で見るルーベンスは思う。
シュルマが仄かに光り、その光がメイリーンに移る。シュルマの姿がアーマンディに変わったと同時に、二人は崩れ落ちた。咄嗟に二人を支えたルーベンスがメイリーンを覗き込む。メイリーンの顔だ。
「無事に移った様だな」
シェリルがアーマンディを受け取りながら、その顔を覗き込み口付けを落とす。
「シェリル姉、ケイノリサ公爵から指示が来た。グノーム公爵邸とシルヴェストル公爵邸の護領水晶玉に力の補給に行ってくれってさ。シュルマがアーマンディ様から離れたから行けるだろ?」
「分かった。お前は大丈夫なのか?正直気分は良くないぞ。自分の愛する人に誰かが入ってるのは」
「気分は最悪だよ。でもメイリーンが信じろって言ったから信じる。シェリル姉もあまりアーマンディ様にヤりすぎるなよ?嫌われるぞ?」
イラつきを抑えられず、シェリルに放った一言に、姉は余裕の笑みを見せる。
「姉からお前に忠告だ。ウンディーネ公爵家の人間を舐めるなよ?彼等はタフだ」
「何の話だよ⁉︎」
「アーマンディ様は嫌だの無理だの言いながら、少ししたらケロっとして私に抱きついてくる」
「惚気かよ」
「私はこの間、カエンに負けた。しかもヤツは余裕があったぞ?アーマンディ様がいなければ、私は間違いなくカエンに結婚を申し込んでいた」
「シェリル姉に勝てるやつがいたってのか?嘘だろ?あのカエン様が?」
「戦闘公爵だなんだ言われても、我々は井の中の蛙かも知れないぞ?そして、メイリーンだが」
「メイリーンは二人と違う。かわいい女の子だ」
「かわいい女の子は、15歳で家を出て、魔塔なんぞで働かない。お前も気付いてるはずだ」
「・・・」
「沈黙すると言う事は分かっていると言う事だ。守っているつもりが守られている、なんて事にならない様にな」
シェリルはルーベンスの頭をがしがし勢いよく撫でそしてルーベンスの額にキスを落とす。
「では、明日からまた旅に出る。後は頼む」
そう言ってアーマンディを横抱きにして、部屋を出て行った。
残されたルーベンスは目を閉じ、右腕に抱きしめた彼女を守る決意をする為に、自身の頬を叩く。
負けないために。
そうして、再びルーベンスの部屋に4人は揃った。ルーベンスとメイリーンとシェリル。そして、気絶したアーマンディの4人だ。
「シェリル姉。なんでアーマンディ様は気絶してんの?」
「気絶するまでヤってみた。アーマンディ様は思ったよりタフだったぞ!」
満面の笑みのシェリルとは反対に、赤くなる二人。どうしてやろうとルーベンスが口を開きかけた瞬間、アーマンディの目が開いた。と同時に姿が変わる。白い髪、黒い目、男か女か一見して分からない程の美しい姿に目が奪われる。
「君は、何を考えているんだ⁉︎他にやり方があった筈だ!あんなに乱暴な事をしてアーマンディが可哀想だと思わないのか!それでも恋人か!」
起きてすぐに小姑の様にシェリルに説教をするシュルマに、ルーベンスとメイリーンは動揺する。が説教されている、シェリルはどこ吹く風だ。
「中にいたなら分かってるだろう。意外に嫌ってないはずだ。思ったより順応力があって私は嬉しい」
「それが女性の言葉か⁉︎君は何を考えてるんだ。私はアーマンディの将来が心配だ。アーマンディは私達の過去を見て、泣く度に君の名を呼びながら助けを求めていた。その相手があんな無体な事をするとは!私は君をアーマンディの相手として認めない!」
「認めてもらえなくても結構だ。それより、アーマンディ様を泣かした貴様には後でお仕置きが必要だな」
「ま、、待って待って。状況が見えない」
二人の間にルーベンスが手で割って入り、一旦二人をソファの端と端に分けた。その間に割り込み、座ってシュルマをじっと見つめる。
「シュルマ様ですよね?絵姿と同じですし。アーマンディ様に取り憑いているのは分かっています。こんな風に姉と仲良くしているのは聞いていませんでしたが」
ルーベンスがちらっと後ろを見ると、心外だと言わんばかりに憤るシェリルがいる。無視を決め込み再度向き合う。
「事情を説明してください」
シュルマは頷き、昨夜の話をもう一度話した。
◇◇◇
「では、アーマンディ様以外に取り憑き、あなたの過去を見せると言う事ですね。その相手がメイリーン。私は反対です。婚約者を危険な目に合わせるつもりはない!」
睨むルーベンスを正面から受け取り、シュルマは柔らかく笑った。
「姉とは違って、良い男だ。やはりメイリーンの方が良いだろう。君ならメイリーンを支えられるはずだ。魔力についても、君からメイリーンに分けてあげれば良い」
君ならできるよ、と優しく囁くシュルマに敵意は感じられない。ルーベンスはメイリーンを見る。少し不安そうな顔だ。他人を自分の中に迎え入れるのは勇気がいる事だろうと思うと、やはりこの提案は却下しようと心に決めた。
「メイリーン、護国水晶玉のシステムは私が作ったんだ。君が私を受け入れてくれれば、ダイレクトに教える事ができるが?」
「え⁉︎」
シュルマの提案を受けて、メイリーンの声のトーンが上がる。
ルーベンスは恋人の目が輝き出す瞬間をみた。そう言えば護国水晶玉の原理が全く分からないとぼやいていた事を、ルーベンスは思い出す。魔塔のメンバーにも声をかけて、珍しく一丸となってやっているが、皆目検討もつかないと。嫌な予感がする。
「君は聖属性を含む5属性の研究をしているんだろう?口頭で説明しても理解は難しいが、私が乗り移る事で、感覚で教える事ができる。どうかな?」
更に追加されるシュルマの言葉にメイリーンは段々前のめりになる。
ルーベンスは彼女の横に移ろうと席を立つ。5属性の研究にもあと一歩何かが足りないと言っていた。アーマンディにも協力してもらっているが、全く分からないと言っていた。止めなければと気が急く。
「しかも失われた秘術も教えるよ」
「ぜひお願いします!」
目をキッラキラに輝かせて、手を挙げるメイリーンがそこにはいた。恐怖よりも探究心。未知なる知識に心が躍る。そんな恋人にルーベンスは、なす術もなく肩を落とす。
「メイリーン⁉︎良いのかよ?他人を受け入れて、しかも他人の過去も見るんだよ⁉︎アーマンディ様の話を聞いてたでしょう?シュルマの過去は・・・」
ルーベンスはそこで口を噤む。横に当人がいる。シュルマの父は家族に暴力を振るっていた。メイリーンがその辛い過去を受け止められるわけがない。恋人が苦しむ姿は見たくない。
「ルーベンスが支えてくれるなら大丈夫だよ。私はルーベンスを信じてる。ルーベンスも私を信じて?」
「メイリーン」
「見ろ。あれが正しい恋人の姿だ。君は弟達から学ぶ必要がある」
「お子様の恋愛なんて見本になる訳がない。貴様は知ってるはずだろう。性行為が一番魔力の補充には良いんだ。お陰でアーマンディ様の魔力量は十分なはずだ。だからルーベンスも・・・
シェリルの口はシュルマの手で塞がれる。視線を交わし、頷き合うシュルマとルーベンス。赤くなった顔を手で隠すメイリーン。
シュルマが軽く咳払いをして、場の雰囲気を切り替える。
「メイリーン。心の準備ができたら始めよう」
「時間が経つと嫌になっちゃうかも知れないので、今やります」
「その思い切りの良さは、私の妹譲りだね。君は彼女に良く似ているよ」
「シュルマ様の弟妹はザヴィヤヴァ様とヴィンデミア様の子供で間違いないんですよね?」
「そうだよ。私達親子はこことは違う世界から、スピカ様に導かれて来たんだ。そのせいで、弟妹達はその属性が偏る形で産まれた。両親や私と髪色や目の色が違ったのはそのせいだ。父は最後まで信じなかったけどね」
顔に憐憫の表情を浮かべ、シュルマは立ち上がった。メイリーンに両手を差し伸べる。差し伸べられた両手をメイリーンが取ると、シュルマはメイリーンの額と自身の額を合わせた。
『聖女の儀』でアジタートとアーマンディがしたポーズだと、間近で見るルーベンスは思う。
シュルマが仄かに光り、その光がメイリーンに移る。シュルマの姿がアーマンディに変わったと同時に、二人は崩れ落ちた。咄嗟に二人を支えたルーベンスがメイリーンを覗き込む。メイリーンの顔だ。
「無事に移った様だな」
シェリルがアーマンディを受け取りながら、その顔を覗き込み口付けを落とす。
「シェリル姉、ケイノリサ公爵から指示が来た。グノーム公爵邸とシルヴェストル公爵邸の護領水晶玉に力の補給に行ってくれってさ。シュルマがアーマンディ様から離れたから行けるだろ?」
「分かった。お前は大丈夫なのか?正直気分は良くないぞ。自分の愛する人に誰かが入ってるのは」
「気分は最悪だよ。でもメイリーンが信じろって言ったから信じる。シェリル姉もあまりアーマンディ様にヤりすぎるなよ?嫌われるぞ?」
イラつきを抑えられず、シェリルに放った一言に、姉は余裕の笑みを見せる。
「姉からお前に忠告だ。ウンディーネ公爵家の人間を舐めるなよ?彼等はタフだ」
「何の話だよ⁉︎」
「アーマンディ様は嫌だの無理だの言いながら、少ししたらケロっとして私に抱きついてくる」
「惚気かよ」
「私はこの間、カエンに負けた。しかもヤツは余裕があったぞ?アーマンディ様がいなければ、私は間違いなくカエンに結婚を申し込んでいた」
「シェリル姉に勝てるやつがいたってのか?嘘だろ?あのカエン様が?」
「戦闘公爵だなんだ言われても、我々は井の中の蛙かも知れないぞ?そして、メイリーンだが」
「メイリーンは二人と違う。かわいい女の子だ」
「かわいい女の子は、15歳で家を出て、魔塔なんぞで働かない。お前も気付いてるはずだ」
「・・・」
「沈黙すると言う事は分かっていると言う事だ。守っているつもりが守られている、なんて事にならない様にな」
シェリルはルーベンスの頭をがしがし勢いよく撫でそしてルーベンスの額にキスを落とす。
「では、明日からまた旅に出る。後は頼む」
そう言ってアーマンディを横抱きにして、部屋を出て行った。
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負けないために。
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