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第24話 旅立ち(2)

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 中央都市ミネラウパにおいて、ケイノリサ公爵はフェラン公王とアトス公爵が結託し、アーマンディを貶めようとしたと公式発表し、その責任所在を追求している。世論はケイノリサ公爵に傾き、アトス公爵とその息子トゥールは退任し、新たな公爵を立てる予定だ。

 スピカ公国を守る護国水晶玉を持ち去ったフェランは、公王城内の自室でミイラの状態で発見された。護国水晶玉は見つからなかった。

 その為、アーマンディはスピカ公国を回る事になった。移動に一番早くて安全という事で、今回はヴルカン公爵家の飛竜に乗っての旅となった。

 シェリルの飛竜は赤茶色で金色の眼をしている。名前は『ギネ』。ギネに乗れば、各地に散らばる公爵本邸間を丸一日で行けるらしい。アーマンディは初めて乗る飛竜に、ワクワクしながら乗った。

 スピカ公国の南に位置するヴルカン公爵領から反時計回りに、シルヴェストル公爵領、北のウンディーネ公爵領、西のグノーム公爵領、最後に中央都市ミネラウパまで回るのがが今回の旅の工程だ。

 アーマンディは本当はグノーム公爵領に一番に行きたかったのだが、安全確認が出来てから行く様に指示が来た。


「ギネは早いね!もう山を一つ越えたよ」
「アーマンディ様、私が作った結界からでないで下さい。かなり上空を飛んでいるので寒いですよ」
「分かったよ、シェリル。でも初めて乗るから、楽しくって」
「そうですか。それは良かったです」

 今回の旅は契約を結んでの旅だ。現在、飛竜のギネの操縦をシェリルがし、アーマンディはシェリルの前に座っている。腰周りを手で抑えられているけど、これは護衛の為の範囲内で問題なし。これが変な動きを始めて15分を超えるとNG。密着されても、気にしなくて良い旅は最高だ!


「アーマンディ様、今日の調子はいかがですか?」
「また、夢を見たよ。ここ最近ずっと見てる」

 今日の夢では、泣いている黒い髪の男の子を白い髪の男の子が慰めていた。
 昨日の夢では、白い髪の男の子が、白い髪の女の人を慰めていた。白い女の人の頬は腫れていた。

 
 メイリーンが推測してくれた。白い男の人は建国王ザヴィヤヴァ、女の人は建国王の妻ヴィンデミア、白い子供はシュルマではないかと。見せてもらった絵姿は、確かに王と王妃で、子供はシュルマの面影があった。そして僕が鏡で見たのはシュルマだった。どうしてこんな夢を見始めたのか分からない。

 そして妙に体が重い。ルーベンスは更に魔力が弱くなっていると言う。今もシェリルに寄りかかってないと、辛い。

「アーマンディ様、お疲れの様なので、眠って頂いて大丈夫ですよ?私が支えてますので」
「良いの?」
「ええ、私も頼ってください」
「ありがとう」

 お礼を言ってアーマンディは眠りについた。シェリルはギネのスピードを上げた。


◇◇◇◇◇◇



 一方その頃、ルーベンスとメイリーンはヴルカン公爵領の北の地域に向かっていた。新しく農地を開拓する事業だったが、思ったより上手くいかず遅延していた。原因は水不足。近くの川から水源を確保する予定だったが、初期の検査の段階より、水量が少なかった。検査官が単位を間違って連絡してきたらしい。そこでメイリーンの開発した少ない水でも育つ稲の出番となったわけだ。

「エミって早いのね。私が乗った飛竜の中で一番早いわ」
 メイリーンはルーベンスの飛竜「エミ」に乗っての移動だ。ルーベンスに背中を預け、自身は結界を張っている。

「メイリーンの結界ってすげーな!気圧の変化も感じない」
「コツがあるのよ。何種類もの防護結界をまとめて一つにするの。そうしたら薄くて機能性のある結界ができるんだ」

 エミに乗る時、メイリーンは結界を張る事を、ルーベンスに申し出た。男の人によっては、女が出しゃばるなと言うところだ。でもルーベンスはそんな事を言わない。今も褒めてくれる。メイリーンは嬉しくて、クスクス笑う。

「楽しそうだね?2人きりで嬉しかったりする?」
「うん、嬉しいよ。だって父様も母様も認めてくれた公認の仲よ。私達!」
 
 ルーベンスは正式にメイリーンとの婚約をカイゼルに打診した。カイゼルからあっさりと認められて、拍子抜けしたが嬉しかった。

「小兄様も早く婚約手続きすれば良いのに」
「やり方知らないって事はないよね?」

「知ってるはずよ?大兄様と一緒に教育受けたはずだもの。逆にシェリル様は知ってるの?」
「知らないよ。シェリル姉は、勉強の時間に魔物退治に行ってたから。そもそも、ヴルカン公爵家で勉強してたの俺だけだし。契約書を書けるのも俺だけ」

「イリオス公爵様は?」
「ギリギリ書ける感じ」

 その言葉でメイリーンは口を開けて笑う。公爵令嬢としてはあり得ない行為。でもそんなメイリーンだから好きだと、ルーベンスは思う。

 ルーベンスがメイリーンの腰に回した腕の力を強めると、彼女は更に背中を預けてくれる。こんな時は13歳と言う年齢に歯噛みする。

「そう言えば、5属性の研究は進んでるの?」
「うーん、もう一本足りない感じ。ねぇ、ルーベンスは聖属性ってなんだと思う?」
「何って、5属性の一つとしか」

「生活魔法って言われる魔法があるじゃない?例えば、暗闇で灯りが欲しい時にルーベンスは何をする?」
「俺は火属性が強いから、火で灯りを作るかな」

「一般的よね?でも、洞窟で採掘する人達は、危険だからって、火の魔法は使わないわ。その時に使うのは、ライトって言う光を発する魔法。ちなみに私も火属性は苦手だから、ライトの魔法を使うわ。ではライトの属性は?」
「え?なんだろう。考えた事なかった」

「私はそれが聖属性なんじゃないかって思ったの。小兄様の魔法はいつも光を発するわ。ただ、光るだけじゃ魔物は倒せないわ。浄化もできない。何かがあると思うのよ」

「アーマンディ様の力の分析はしてみたの?」
「今まではアジタート様とかが『不謹慎だ』って言って出来なかったの。でもヴルカン公爵家に戻ったら、やってみようかな?」
「良いね。やってみなよ」
「不謹慎だって怒らないの?」
「怒らないよ。優秀な妻を持てて幸せだよ」

 そう言って、メイリーンの後ろ頭に優しくキスを落とす。メイリーンは振り返り、ニッコリ笑った。

「私も理解があって優秀な夫を持てて幸せよ」
 キスをした所で、北の領地が見えた。エミの高度を落とし、二人は仲良く笑った。
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