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第5話 聖女就任祝いの夜会
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スピカ公国の中央部に位置する公国中央都市ミネラウパ。その中央に公国王城はある。
現在の公国王は、グノーム公爵家出身フェラン。グノーム公爵アトスとは兄弟である。
公国王フェランのお膝元、ミネラウパ城、大広間にて聖女就任祝いの夜会は行われている。
月のない夜に、その城は満月の様に明るく輝き、大広間は昼間のように明るく、花の様に着飾った女性が蝶の様に舞い、花粉を求める蜂のように男性は女性を誘う。美しく飾られた装飾と世界各国の料理や酒が、スピカ公国の豊かさを誇っている。
公国王フェランはその出来に満足しながら、大広間を見渡せる上段にある豪華な椅子に座り妻と共に、聖女アーマンディの到着を待っていた。
「この儂を随分と待たせるものだ。ウンディーネ公爵家は聖女を出した事で、自分達がこの国を支配しているとでも思っているのか?」
「実質そうでしょう。この国で一番位が高いのは聖女ですから」
苛立ちを隠せない公国王フェランと違って、したり顔で公国王妃ソフィアは言う。
「いらっしゃいましたよ。本日の主役が。母親に似て、引き裂きたくなる様な美貌だわ」
妻の言葉に恐怖を感じながら、フェランは先にある大扉を見る。
蒼い衣装に身を包んだため息が出るほど端麗なカエンが、ガラス細工の様に美しいアーマンディをエスコートしている。
確かにな、とフェランは心の中で呟いた。
「アーマンディ、あの茶色の服を着ているのがグノーム公爵家の一派だ。近づかないようにしろ」
左側に目線だけ移動し見た先には、忌々しげにこちらを見る者と、アーマンディに秋波を送る者が混ざってる。カエンから見ると、どちらも相手にしたくない。
ただ、当の本人はどこ拭く風の風情で、先にある色とりどりの料理を見ている。
「アーマンディ、聞いているのか?まずは公国王夫妻への挨拶だ。その後はすぐウンディーネ公爵家とシルヴェストル公爵家に合流する。食事は俺が持って来てやる」
「分かってるよ。でもあのローストチキンとか美味しそうじゃない?無くならない?」
「公国王主催のパーティーだ。無くなっても補充されるから安心しろ」
「じゃあ、我慢しようっと。僕、お腹空いちゃったよ」
「ちゃんと猫かぶれ!」
「はーい」
不安は感じるが、カエンはアーマンディの外面の良さだけは信用している。そもそも黙っていれば、美少女だ。今日は長い髪を結い上げてAラインの水色のドレスを着ている。スカートにはレースが重ねられ、色とりどりの宝石が縫い付けれている。当然ない胸を隠すため、ハイネックの上衣にストールを掛けて誤魔化している。
ピンヒールでスッと立つ姿は、背筋も伸びて美しい。女性としては高い方だが、男性としては平均だろう。背の高いカエンとのバランスはとても良い。
「聖女、アーマンディ・ウンディーネ様とウンディーネ公爵家、長子、カエン・ウンディーネが大公国国王フェラン様と、その公妃ソフィア様にご挨拶致します」
カエンは左腕を自身の前に置き、右手でマントを摘み、深く膝を折る。横のアーマンディは軽く頷くだけだ。なぜなら、スピカ公国の絶対権力者は聖女だから。
「聖女の就任おめでとうございます。心よりお祝い申し上げましょう」
「ありがとう。フェラン公国王」
アーマンディはニッコリ笑う。敬語も使ってはいけない。だから正解だ。
「アーマンディ様のために、この夜会を催しましたの。ぜひ楽しんでくださいませ」
「ご苦労様。ソフィア公妃」
どちらの地位が高いか見せる為の茶番だ、とカエンは思う。段上にいても、あなた達の方がアーマンディより下だ、と。それを見せつける事により、政治的優位に立とうとしている。
その証拠に、挨拶はこれだけだ。以降は何を言われようと無視する様に父親から指示されている。アーマンディの手を取り、踵を返す。そのまま、ウンディーネ公爵家とシルヴェストル公爵家の元へ向かう。
少し安堵しながら、横のアーマンディを見る。凜としていた瞳が瞬きをする。つられて前を見ると、身長が高いと言われている自分より高い男達が、二人の前に立ち塞がった。
現在の公国王は、グノーム公爵家出身フェラン。グノーム公爵アトスとは兄弟である。
公国王フェランのお膝元、ミネラウパ城、大広間にて聖女就任祝いの夜会は行われている。
月のない夜に、その城は満月の様に明るく輝き、大広間は昼間のように明るく、花の様に着飾った女性が蝶の様に舞い、花粉を求める蜂のように男性は女性を誘う。美しく飾られた装飾と世界各国の料理や酒が、スピカ公国の豊かさを誇っている。
公国王フェランはその出来に満足しながら、大広間を見渡せる上段にある豪華な椅子に座り妻と共に、聖女アーマンディの到着を待っていた。
「この儂を随分と待たせるものだ。ウンディーネ公爵家は聖女を出した事で、自分達がこの国を支配しているとでも思っているのか?」
「実質そうでしょう。この国で一番位が高いのは聖女ですから」
苛立ちを隠せない公国王フェランと違って、したり顔で公国王妃ソフィアは言う。
「いらっしゃいましたよ。本日の主役が。母親に似て、引き裂きたくなる様な美貌だわ」
妻の言葉に恐怖を感じながら、フェランは先にある大扉を見る。
蒼い衣装に身を包んだため息が出るほど端麗なカエンが、ガラス細工の様に美しいアーマンディをエスコートしている。
確かにな、とフェランは心の中で呟いた。
「アーマンディ、あの茶色の服を着ているのがグノーム公爵家の一派だ。近づかないようにしろ」
左側に目線だけ移動し見た先には、忌々しげにこちらを見る者と、アーマンディに秋波を送る者が混ざってる。カエンから見ると、どちらも相手にしたくない。
ただ、当の本人はどこ拭く風の風情で、先にある色とりどりの料理を見ている。
「アーマンディ、聞いているのか?まずは公国王夫妻への挨拶だ。その後はすぐウンディーネ公爵家とシルヴェストル公爵家に合流する。食事は俺が持って来てやる」
「分かってるよ。でもあのローストチキンとか美味しそうじゃない?無くならない?」
「公国王主催のパーティーだ。無くなっても補充されるから安心しろ」
「じゃあ、我慢しようっと。僕、お腹空いちゃったよ」
「ちゃんと猫かぶれ!」
「はーい」
不安は感じるが、カエンはアーマンディの外面の良さだけは信用している。そもそも黙っていれば、美少女だ。今日は長い髪を結い上げてAラインの水色のドレスを着ている。スカートにはレースが重ねられ、色とりどりの宝石が縫い付けれている。当然ない胸を隠すため、ハイネックの上衣にストールを掛けて誤魔化している。
ピンヒールでスッと立つ姿は、背筋も伸びて美しい。女性としては高い方だが、男性としては平均だろう。背の高いカエンとのバランスはとても良い。
「聖女、アーマンディ・ウンディーネ様とウンディーネ公爵家、長子、カエン・ウンディーネが大公国国王フェラン様と、その公妃ソフィア様にご挨拶致します」
カエンは左腕を自身の前に置き、右手でマントを摘み、深く膝を折る。横のアーマンディは軽く頷くだけだ。なぜなら、スピカ公国の絶対権力者は聖女だから。
「聖女の就任おめでとうございます。心よりお祝い申し上げましょう」
「ありがとう。フェラン公国王」
アーマンディはニッコリ笑う。敬語も使ってはいけない。だから正解だ。
「アーマンディ様のために、この夜会を催しましたの。ぜひ楽しんでくださいませ」
「ご苦労様。ソフィア公妃」
どちらの地位が高いか見せる為の茶番だ、とカエンは思う。段上にいても、あなた達の方がアーマンディより下だ、と。それを見せつける事により、政治的優位に立とうとしている。
その証拠に、挨拶はこれだけだ。以降は何を言われようと無視する様に父親から指示されている。アーマンディの手を取り、踵を返す。そのまま、ウンディーネ公爵家とシルヴェストル公爵家の元へ向かう。
少し安堵しながら、横のアーマンディを見る。凜としていた瞳が瞬きをする。つられて前を見ると、身長が高いと言われている自分より高い男達が、二人の前に立ち塞がった。
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