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第27話 空気を読んで欲しい
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名付けを――しようとしたら、犬の女性がキッと洞穴の入り口を睨んだ。
犬耳イケメンは――あッ!牙を剝いた!なんかかっこいい!
イケメンは得だな。
観察する私は呑気だ。
ふたりは入り口に誰かの気配がしたから睨んでいるんだよね?でもその誰かが、私には分かる。
「サエちゃん、本当にここなんですか?」
「うん、ここだよ。茶太郎~。サエが来たよ。怒ってないから一緒に帰ろう」
怒ってない!間抜けにもさらわれた私を怒ってない!
もう尻尾をブンブン降っちゃうよ。尻尾はヘリコプターのように回るよ。
私はおじさんだけど、でも紗枝ちゃんの飼い犬でもあるんだから!
「紗枝ちゃん!ぷらねさん‼︎」
喜びのあまり走り出すと、犬のお姉さんも雰囲気で察したのか止めなかった。
空気が読めるって大事だよね。
山根君は空気が読めなかった。
皆が突っ込みたいけど、突っ込めずにいたワカメのようなカツラをつけた品証課長に、『そのウィッグないっすわ~。もっと良いの紹介しますよ。俺、良い店知ってます。買ってきますよ。紫とか似合うんじゃないっすか?』言って周囲を凍り付かせた。
居た堪れなくなった私は、昨日の夕方は鯖の塩焼きで、なんて意味不明なネタをあげ、ぐるぐる回る視界に、頭がくらくらしたものだ。
ドツボにハマるとはあの時のことを言うんじゃないだろうか。
大混乱していた私は、最終的に美味しい寿司屋の話をし、いつのまにか寿司を奢ることになり、更に社長と専務にあの誤魔化し方はひどいとダメだしされた。
結果、私が払ったお金は5万円。
品証の課長だけでなく、なぜか山根君と、若手ふたりがいたのは、いまだに謎だ。
ああ、また過去のことを思い出してしまった。
私は大河原敏行の人生が道半ばで閉ざされたことが悔しいのだろうか。でも今の茶太郎としての人生(犬生?)だって嫌いじゃない。
人は環境に慣れるものだと聞いたことがある。理解が及ばない異世界生活だが、いつか当たり前になることがあるのだろうか。今のところ想像もできないけれど。
「茶太郎!」
「紗枝ちゃん!」
日本にいた際の私は、紗枝ちゃんの腕に飛び込み、ペロペロとほっぺを舐めたものだが、今の私は照れくさい。
だから駆け寄って、尻尾をぶんぶんと振っていると、紗枝ちゃんが頭をヨシヨシと撫でてくれる。
わんこによっては、頭を撫でられるのは恐怖だ。でも私は平気。紗枝ちゃんとは信頼関係が築けているから問題なし!
「チャタロー様、申し訳なく!」
膝をガクッと落とし、ぷらねさんは心底安堵したような表情を見せる。
申し訳ないことは何もない。すべては間抜けにも攫われた私のせい。しかも悪者のアジトですやすやと寝てしまったのだ。全ての責任は私にある。
「100年の時を彷徨うもの様……」
「お前たちは――!チャタロー様!人狼族なんかと慣れ合ってはいけません!」
「わぁ、綺麗な人狼族の女の人だぁ」
ぷらねさんがるぅ・がるぅ族の人たちを憎々し気に睨んだが、紗枝ちゃんは気にせず目をキラキラさせている。
どうでも良くないけど、紗枝ちゃん、るぅ・がるぅ族の人たちをカタカナで言えてる。
「サエちゃんも、彼らなんかと慣れ合ってはいけません。彼らは罪人です!許されざる一族なんです」
「プラネさん、ちょっと待ってください。許されない人がいないとは言いません。世の中には人の道理に反する人もいるんですから!でも一族単位で許されないなんてあり得ません。全は個に理不尽を押し付けます。全の罪が個に及ぶのなら、社会の秩序はなくなるじゃないですか!」
「しかし――彼らの一族はフェンリル様がテイムされた際に、一緒に世界を蹂躙したのです!それは個の罪ではいないですか!」
「それは何十年前の話ですか!このふたりが生まれる前じゃないですか⁉︎」
「…………300年前の話だよ――なのに、俺らはいまだに責め続けられる」
ああ、イケメン犬耳の子の表情は辛そうだ。先祖が犯した罪のため、未だに迫害されているなんて実におかしなことだ。しかも、まさかぷらねさんまでこんな考えだとは!
だが人は世論に流される生き物だ。ましてや皆が迫害しているのだ。そこで疑問を持つのは難しいことだ。
ここは頑張って説得せねば――と意気込んでいると、呑気な声が洞窟に響いた。
「うわぁぁ、いけわん犬耳さんだぁ。かっこいい。ええぇ、どうしよう。さえ選べないよ」
うん、4歳児に空気を読むのは難しいことだね。ごめんね。紗枝ちゃん。
ところで選ぶってなに?
「どうしよう、茶太郎はどちらが紗枝のだんな様に良いと思う?」
「ええ⁉︎紗枝ちゃん、それはダメでしょ!紗枝ちゃんはまだ4歳だよ?」
「茶太郎は遅れているなぁ。紗枝の心友の陽菜は彼氏がひとりと、だんな様がふたりいるんだよ?」
「ええええ―――⁉︎」
なんてこと!今の日本はどうなっているんだ!
いや。待てよ。4歳児の本気を信じてはいけない。しかも今はそんな話をしている時ではない。
えっと、なんだっけ?
ああ、おじさんは仕事以外でのハプニングに弱いんだから、やめて欲しい。
犬耳イケメンは――あッ!牙を剝いた!なんかかっこいい!
イケメンは得だな。
観察する私は呑気だ。
ふたりは入り口に誰かの気配がしたから睨んでいるんだよね?でもその誰かが、私には分かる。
「サエちゃん、本当にここなんですか?」
「うん、ここだよ。茶太郎~。サエが来たよ。怒ってないから一緒に帰ろう」
怒ってない!間抜けにもさらわれた私を怒ってない!
もう尻尾をブンブン降っちゃうよ。尻尾はヘリコプターのように回るよ。
私はおじさんだけど、でも紗枝ちゃんの飼い犬でもあるんだから!
「紗枝ちゃん!ぷらねさん‼︎」
喜びのあまり走り出すと、犬のお姉さんも雰囲気で察したのか止めなかった。
空気が読めるって大事だよね。
山根君は空気が読めなかった。
皆が突っ込みたいけど、突っ込めずにいたワカメのようなカツラをつけた品証課長に、『そのウィッグないっすわ~。もっと良いの紹介しますよ。俺、良い店知ってます。買ってきますよ。紫とか似合うんじゃないっすか?』言って周囲を凍り付かせた。
居た堪れなくなった私は、昨日の夕方は鯖の塩焼きで、なんて意味不明なネタをあげ、ぐるぐる回る視界に、頭がくらくらしたものだ。
ドツボにハマるとはあの時のことを言うんじゃないだろうか。
大混乱していた私は、最終的に美味しい寿司屋の話をし、いつのまにか寿司を奢ることになり、更に社長と専務にあの誤魔化し方はひどいとダメだしされた。
結果、私が払ったお金は5万円。
品証の課長だけでなく、なぜか山根君と、若手ふたりがいたのは、いまだに謎だ。
ああ、また過去のことを思い出してしまった。
私は大河原敏行の人生が道半ばで閉ざされたことが悔しいのだろうか。でも今の茶太郎としての人生(犬生?)だって嫌いじゃない。
人は環境に慣れるものだと聞いたことがある。理解が及ばない異世界生活だが、いつか当たり前になることがあるのだろうか。今のところ想像もできないけれど。
「茶太郎!」
「紗枝ちゃん!」
日本にいた際の私は、紗枝ちゃんの腕に飛び込み、ペロペロとほっぺを舐めたものだが、今の私は照れくさい。
だから駆け寄って、尻尾をぶんぶんと振っていると、紗枝ちゃんが頭をヨシヨシと撫でてくれる。
わんこによっては、頭を撫でられるのは恐怖だ。でも私は平気。紗枝ちゃんとは信頼関係が築けているから問題なし!
「チャタロー様、申し訳なく!」
膝をガクッと落とし、ぷらねさんは心底安堵したような表情を見せる。
申し訳ないことは何もない。すべては間抜けにも攫われた私のせい。しかも悪者のアジトですやすやと寝てしまったのだ。全ての責任は私にある。
「100年の時を彷徨うもの様……」
「お前たちは――!チャタロー様!人狼族なんかと慣れ合ってはいけません!」
「わぁ、綺麗な人狼族の女の人だぁ」
ぷらねさんがるぅ・がるぅ族の人たちを憎々し気に睨んだが、紗枝ちゃんは気にせず目をキラキラさせている。
どうでも良くないけど、紗枝ちゃん、るぅ・がるぅ族の人たちをカタカナで言えてる。
「サエちゃんも、彼らなんかと慣れ合ってはいけません。彼らは罪人です!許されざる一族なんです」
「プラネさん、ちょっと待ってください。許されない人がいないとは言いません。世の中には人の道理に反する人もいるんですから!でも一族単位で許されないなんてあり得ません。全は個に理不尽を押し付けます。全の罪が個に及ぶのなら、社会の秩序はなくなるじゃないですか!」
「しかし――彼らの一族はフェンリル様がテイムされた際に、一緒に世界を蹂躙したのです!それは個の罪ではいないですか!」
「それは何十年前の話ですか!このふたりが生まれる前じゃないですか⁉︎」
「…………300年前の話だよ――なのに、俺らはいまだに責め続けられる」
ああ、イケメン犬耳の子の表情は辛そうだ。先祖が犯した罪のため、未だに迫害されているなんて実におかしなことだ。しかも、まさかぷらねさんまでこんな考えだとは!
だが人は世論に流される生き物だ。ましてや皆が迫害しているのだ。そこで疑問を持つのは難しいことだ。
ここは頑張って説得せねば――と意気込んでいると、呑気な声が洞窟に響いた。
「うわぁぁ、いけわん犬耳さんだぁ。かっこいい。ええぇ、どうしよう。さえ選べないよ」
うん、4歳児に空気を読むのは難しいことだね。ごめんね。紗枝ちゃん。
ところで選ぶってなに?
「どうしよう、茶太郎はどちらが紗枝のだんな様に良いと思う?」
「ええ⁉︎紗枝ちゃん、それはダメでしょ!紗枝ちゃんはまだ4歳だよ?」
「茶太郎は遅れているなぁ。紗枝の心友の陽菜は彼氏がひとりと、だんな様がふたりいるんだよ?」
「ええええ―――⁉︎」
なんてこと!今の日本はどうなっているんだ!
いや。待てよ。4歳児の本気を信じてはいけない。しかも今はそんな話をしている時ではない。
えっと、なんだっけ?
ああ、おじさんは仕事以外でのハプニングに弱いんだから、やめて欲しい。
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