総務部長大河原敏行のモフモフ異世界転生日記〜苦労性のおっさんは、世界を渡っても苦労する〜

清水柚木

文字の大きさ
上 下
14 / 33

第14話 ふりがな多くて分からない(4)

しおりを挟む
私は青い髪のお兄ちゃんに全て話した。

神様に間違えて殺されたこと。チーズをつけて転生させると言われたこと。間違えて犬にされたこと。間違えを正すために、この世界に移動させられたこと。そしてそこに紗枝ちゃんもいたこと。

その全てを話してみた。山根君似の神様のおっちょこちょいなところも、6割程度しか話さなかった。あんなでも一応神だ。恥は晒さない方が良いだろう。

「チーズをつけた……ですか?チーズとは動物のミルクを発酵させて作る保存食ですが、何の関係が?」

おお、この世界にもチーズはあるのか!ではなく、たぶんそれじゃない。

「特別な力みたいな事を、私の前世の部下が言ってました」

「チーズではなく、チートですね」
「………………だった気がします」

犬だから赤くならない筈なのに、赤くなる。恥ずかしい!だからカタカタは苦手なんだ!

そもそも日本人はなぜあんなにカタカタが好きなのか。外国語がかっこいいと思っているのが分からない。同じ言語じゃないか!

会社の用語も英語が増えた。ウィンウィン、リスケ、アジェンダ、エビデンス、いっぱい、いっぱい!
しかもすぐ略す。FYI、TYT、OJT、CHO、AP、AR意味が分からない!日本人なら日本語で勝負して欲しいものだ!と心の中でしか言えない小心者だった。それは今も同じだ。せっかく生まれ変わっても記憶があると人は変われないし、変わらない。

「お話を聞く限り、やはり貴方様が大神王フェンリル様の後任ですね」

「狼?」
「大神です。神の化身。この世界を魔の手から守る偉大なお方です」

「………………」
どうやら動物の狼ではなかったらしい。
しかし、大神?犬なのに?

「私は神様になったのですか?」

「神とは違います。神は様々な世界の秩序を守り、世界を生み出す方々の事です。大神様はこの世界を守るために神から遣わされた神の使いです」

大神なんて神より偉そうだけど、違うらしい。なんだかややこしいな。

「はぁ、そう言えばそんなことを言っていた気がします。それで私は何をすれば良いんですか?そしてこの子を帰すことができますか?」

「そうですね――まずはあなたの役割ですが、下層世界を支配する魔王を頂点とした魔族と戦う事です」

「…………戦う……」

なんて物騒なことを言うんだろう。いや、さっき私を狙ってくる魔物たちは倒したけど、それだって死体のグロテスクさにドン引きしているのに!
そもそも魔王って何だろう。魔物の王様だから魔王?あ、そう言えば山根君に借りた漫画に載っていたな。魔王。
人類を襲う恐ろしい魔物の主人だったり、人類に虐げられる魔物の王だったり、話によって役割はバラバラだったけど、強くて角の生えた人が多かった。どうやって寝るんだろうなぁ、服を着るとき角が引っかからないかなぁって思っていた。
いやいや、違う、違う、そんな無駄なことを考えている場合じゃない。
そもそも、なぜ争うのだろう。

「どうして魔王と戦う必要があるのですか?」
「そういうものだからです」

そういうものらしい…………。

「いや!待ってください。それは理屈が通らないですよ?土地をめぐっての侵略戦争とか、宗教間戦争とか、なんか理由があるでしょう?」

「どうでしょうか……理由を考えたことはなかったです。そう言うものだと思っていたので……」

「…………ソウデスカ」
そうだな。山根君似の神様が私を送るところだ。そういうものかもしれない。

「あなたは実に興味深いことを仰いますね……確かに我々と魔物はなぜ争うのでしょうか。魔物は襲ってくるものだと私は思っていました。だがその理由など考えたこともありません」

「私を襲ってきた魔物は、私を食べたいって言ってましたけどね……」
「ああ、あなたの見た目は犬ですからね。美味しそうに見えたのでしょう」
「その言い方ですと、人は食べないと言っているようですが?」
「あなたは会話が通じるものを食せますか?」
「ムリデスネ…………」
うん、たぶん、無理だと思う。今の私は犬だけど、そこは無理だと思う。

しかし不思議な世界だ。なぜ争うのかを考えず争っているとは。私の常識は通じないようだ。こういう世界にふさわしいのは山根君のような常識から少し外れた人間だろう。私のように頭も固く、漫画も読まない、ゲームもしない人間はふさわしくない。

「その子供を還す方法ですが、今現在この世界を守る大神王フェンリル様にお会いするのが一番の近道だと思われます。大神王が前任者から引継ぎをする際に、神が祝福をするために現れると聞いております。その際に神へと依頼すれば良いでしょう」

「ありがとうございます!」
やった、それは朗報だ。
だがそのためには、魔王と戦うという意味の分からない仕事を引き継ぐことになるのか……。紗枝ちゃんの幸せと、私の不幸せ。どちらが良いかと言えば、紗枝ちゃんの幸せに決まっている。

そもそも理由も分からない争いに身を投じる必要があるのだろうか。いや、ない!つまり戦争しなきゃ良いのだ。
君子危うきに近寄らず!危ない事には近づかないに限る!私のモットーはラブ&ピース!平和が一番!

「それで、そのふぇんりるさんはどこにいますか?」

「フェンリル様は世界の中心にある偉大な山グレートマウンテンにいらっしゃいます」

またカタカナ出てきた……。ちょこちょこ出てくるな……。

「ぐれーと、まうんてん??」
「はい、フェンリル様は4か月前に魔王との戦いで傷つき、体を休めていると聞いております。フェンリル様はもう千歳。そろそろ代替わりの時期でしょう」

「ほう……千歳」と言うことは私もそんなに生きるのだろうか。14、5歳で死ぬと思っていたのに。
「わが祖国妖精国アルフヘイムが魔王に封印され100年が経ちました。気力、神力ともに満ちたあなた様が大神様となれば、封印が解けるかも知れません」

またカタカナ出てきた。しかもこれは英語ではない気がする。
しかし祖国が封印?封印は山根君が貸してくれた漫画に描いてあった。つまり封じることだと。

そう言えばこの人なんかを探してるって初めに挨拶してくれたかな?

「あるふふぇるむ?を探してるって言ってませんでしたか?」

「ええ、私の名は100年の時を彷徨うものサタ・アノ・プラネテスですので、使命により光のエルフリョースアールブに属するものであっても妖精国アルフヘルムより出奔しておりました。ですから魔王が妖精国アルフヘルムを封印した際にも封印より免れました。私の名は私を救うためにあり、また故国を救うためにあったのだと思いました」

うん、良く分からなかった!私は犬だけど乾いた笑いで誤魔化す。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...